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最弱の魔王が最強の勇者を倒すまで  作者: NEO
着いたらそこは魔王城
13/23

命危ぶまれる脅威

本編で説明できそうもないので、登場する3つの武器について簡単な説明を。


炎刃両手剣(フランベルジュ−ツヴァイヘンダー)は、名のとおり、刃が炎のように波打ったニ、三メートルの両手剣です。


二丁戦斧(ツイン−ハルバード)は見たまんまですけど、でっかい斧と槍が合わさったハルバードを二丁持ってるってことです。


連星棘鉄球(スコーピオン−テイル)は、フレイル型のモーニングスターみたいなもので、特徴としては鉄球が小さい代わりに複数個ついているというものです。格好いいですね。


失礼しました。

 和樹に詰め寄られ、冒険者は何も返すことができない。精々、鋭い視線をぶつけるくらいだ。


 頑張って反論を絞り出そうと頭をひねる。しかしまあ、バカなのだからそんなもの思いつくはずもなく。


「死は痛い。死は怖い。それはおかしいことじゃない。恥じることでもない。早く自分の未熟さを認めて去れ」

「でも俺が負けるわけが……魔王だって殺したじゃないか……」


 冒険者はぶつぶつと呟き続けている。

 和樹は、『これは利用できる』と閃く。魔王を殺したことが自信になっているならば……()()()()()()()()()()()()()()()()()


「今、魔王を倒したと抜かしたか?」

「……あ”あ”ん? 言ったけどなんだよ。もしかして……お前、魔王に勝てなかったりするんだな……? そういうことか?」


 和樹の台詞を聞くと、冒険者は徐々に目を輝かせる。希望を挫折させるべく、和樹は口を開く。


「はっ。何を偉そうにしているんだ? 魔王なんて言っても、貴様が倒したのはグルジオスに首都を置く魔王国ラージの王なのだろう。他にも魔王と呼ばれる者がいることを知らぬとは無知なことだ。それに、俺は一度やつにあったことがあるが……俺の足元にも及ばぬよ、誇張でなくな。『魔王』の中ではほぼ最弱であったぞ」


 よくもまあこうポンポン嘘が出てくるなあ。

 和樹はもとの世界でよく悪役が使う台詞を思い出しながら言った。『やつは四天王の中では最弱ッ!』みたいな。


 相手も転生者でその台詞を聞いたことはあるが、焦り、そんなことは思い浮かばない。


「な、なにをっ……魔王がそんなにいる訳がない!」

「おいおい、己の無知すら無視するのか。呆れを通り越して哀れですらあるな。本当に馬鹿だなあ。世界の情勢も知らずに魔王を倒しただのなんだのと、見苦しいにも程がある」

「馬鹿にすん……」「それにあの国は滅びていない。国一つ傾けられないでなにをのたまう。はあ、貴様などと戦っても実りはなさそうだ。貴様みたいな塵の相手をしてやる暇なんてないんだ。

 失せろ」


 和樹は威圧なんて発さずに、むしろ意図的に隠して相対する。


 効果は抜群だ。冒険者は、威圧が全くないことに、逆に警戒を抱いたようだ。


 和樹の読みは見事にあたったことになる。

 それは即ち、転生者であり、もとの世界の創作物に接したことがあるのだから、()()()()()()()()()()()()は強者であると、先入観を持つのではないか、という推理である。

 その推理は的中。相手の心にもう自信はない。しぼみ、怯えに変わる。





 

 冒険者が落ち込んで帰ろうとしたとき、その真横に真っ黒の球が出現し、霧散した。欠片となった闇が、雨のように降ってくる。いや、雪のように。そよ風にもあおられて、ゆらゆらと右に左に揺れ動く。


 闇の真ん中には、二人の人間がいた。

 もとの世界の基準で言えば、中学生くらいの少女と、大学生くらいの女性である。


 少女はその幼い容姿とは反対に、真紅と漆黒を主軸に据えた妖艶なドレスを着て、手には『魔法のステッキ』を携えている。ドレスは上質な布で出来ているようで、表面が滑らかだ。魔法のステッキの大きさは二十センチ程度で可愛らしいものだが、それからは異様な雰囲気が漏れ出ている。何か巨大な力を持っているような、何か恐ろしいもののような。そんな曖昧とした感覚を想起させられる。


 女性の方は、魅力的に整った美形であり、すらりとした完璧とも言えるプロポーションをほこっている。特段必要なところのみ覆ったのだ、というように、鎧をまばらに装着している。それ以外の場所で彼女の綺麗な肌を拝むことができるかといえばそうではなく、鎖帷子(くさりかたびら)を付けることによって最低限の防御力を保証中だ。彼女は直径一メートル程度の円形盾(ラウンドシールド)を右手に、名匠のものだろう沈丁花(ジンチョウゲ)のあしらわれた五十センチ程度の剣を左手に持っている。また、それと同様のものを左の腰に提げている。いざというときのものだろう。




「なぁにをしておる。こんな奴らに、苦戦しておるのか?」


 と、少女がやけに時代がかった口調で話しかける。

 その言葉に、冒険者も冷静さを取り戻してしまった。少女は和樹の口撃(こうげき)を無に帰したのである。

 

「ああ、そうだよな。俺がこの程度の敵に苦戦するなんざあっちゃいけねえ」


 冒険者が勢い込んで力を発動させようとすると、今度は女性の言葉が冒険者の背中を押した。


「加勢致しましょうか、ご主人様」

「じゃあ頼もうか。目標(ターゲット)は『こいつら』、目的(ミッション)は『殺戮』だ。わかったな」

「承知いたしました、行動に移ります」

「久しぶりの戦いじゃの。本気で行かせてもらおう」


 女性は盾を捨て、抜いた二本目の剣を右手に構えた。……あれはいざというときのものなどではない。彼女は双剣使いであったのだ。

 彼女は駆けに駆け、地を這う蛇のように静かに俊敏に襲いかかる。


 少女はステッキを頭上に掲げ、目を(つぶ)った。無言のまま、一、二秒経つとステッキのあたりに直径三メートル程度の円陣が生まれでた。雑多な幾何学模様と、みみずのうねったような記号が印されている。魔法陣だ。

 それからは矢の形をした炎が、美しく燃焼しながら『目標』、つまり和樹らに向かって照準を合わせた。僅かな硬直の後に、空気をびゅうっと切り飛んできた。



「全員、迎撃体勢をとってください!」


 ダニィルが大声でそう伝えると


 GRUAAAAAA!!!


 と白竜エイヴィが吠えた。これは、獲物を威嚇して体の自由を一時的に奪う、竜種に備わっている『技』だ。



 刹那の間。



 女性の脚が止まる。少女の詠唱が止まる。


 ほんの一瞬のことではあったが、手練の護衛たちにとっては十分すぎる時間だった。

 

 迎撃能力の高い大剣(たいけん)使い(炎刃(フランベルジュ−)両手剣(ツヴァイヘンダー)使いの仮呼称)が和樹の前に躍り出て守る構えを見せる。その目は駆けてくる女性をしっかりと見定めている。


 鉄球使い(もちろんこれは連星棘鉄球(スコーピオン-テイル)使いの仮呼称だ)は空に浮く少女めがけて走る。飛翔する炎の矢を鉄球を振り回すことで相殺し、その勢いを緩めることなく突っ込んでいく。


 目を離した隙に戦斧使いは冒険者の目の前に居座っていた。二メートルはあるのではないかという高身長に、岩のような体躯を誇る彼から見下されると、冒険者の小ささが際立つ。

 戦斧使いの影に隠れた表情は、野生の動物がすぐにでも逃げようとしているかのような本能が感じられた。




 咆哮の効果が切れる。

 相手方の時が動き出した。


 が。


 冒険者らの決死の行動は無意味に終わる。



 女性のが目にも止まらぬ連撃を打ち込めども、大剣使いは欠伸をしそうな眠気の灯った顔で、平然と受けている。一撃、ニ撃、三撃、……。カン、カンと小気味のいい金属音が鳴る。


 双剣による連続攻撃は、一本の両手剣に、完膚なき敗北を喫した。


 女性は諦めた様子で、バックステップの後に冒険者のもとに走り去った。


 

 

 少女は次から次へと魔力障壁を作り出している。その硬度は、鍛えられた魔金属(ミスリル)を軽く超える。されど、連星棘鉄球(スコーピオン−テイル)の重みには敵わず、呆気なく散ってしまう。きれいに割れた障壁は、透明な硝子のようにキラキラと舞った。


 魔法使いという後衛が鉄球使いに対抗できるわけがなかったのだ。当然、結果は惨敗。少女はステッキを持つ腕に傷を負った。

 倒れるようにして崩れた。





 さて、肝心の冒険者はというと。



 身体の自由を取り戻すやいなや、戦斧使いから距離をとった。


 しかし、戦斧使いは強者である。そんな動きは認めない。


 距離をとって間もなく、戦斧使いは己の間合いまで迫り、手にした一本の戦斧(ハルバード)を振るった。

 冒険者は咄嗟に腕を交差させ、守ろうとした。


 戦斧がその腕を砕き、抉れた傷から血と肉が噴き出した。ぼたぼたと垂れて、冒険者はその痛々しい醜態を晒した。


 損壊した腕が肩との繋がりを失い、ぽと、と落ちた。



 直後。

 腕が生えた。体液があふれるでもなく、光があふれるでもなく。


 ただそれが事実なのだと言うように。自然に。不自然に?

 瞬きするような短時間で生え、怪我などしていない風貌へと豹変した。


 笑みを浮かべた。凶悪でも何でもない、単に嬉しさを表す笑みを。

 口を歪める。目を見開いた。


 高らかに放たれる言葉。


「スキル【永久牢獄(ネバーエンディング)】発動」


 彼の背後からモヤっとした黒い霧が広がった。それは次第に手の形になって、和樹たちの周りを囲い始めた。

 

 冒険者が和樹を睨んで言う。


「調子乗んじゃあねえ。これで勝ちだとでも思ったか? さっきの嘘に騙され動揺したとでも? けっ。くそくらえ。闇に包まれて死ね」


 毒々しい怨嗟を含んだ台詞を聞いている間も、和樹は考え続けていた。ここから逃げる法を。


 ぶっちゃけ、和樹の話した戯言は、一瞬、騙された気になってくれればいい、という程度の意味しか持ち合わせていない。


 故に相手が、仲間の言葉で正気に戻ったことにはどうでもいいとしか思っていない。だが、冒険者を怒らせた先に禁忌にしか思えない邪悪な【スキル】の発動があったのは想定外だ。


 詳細は何も分からないが、その禍々しい見た目からは、死を匂わせる空気しか存在していない。




 結果から述べると……。

 彼が気を回す必要はこれっぽっちもなかった。


 彼は完全に失念していたのだろう。ダニィルという辣腕の魔術師のことを。

 思考の外にあったダニィルの行動は、すべて、和樹や護衛を共に無事な状態で保つためのもの。


 彼が世界に描写されぬ間も、彼は()()しているのである。


 実際そのときにしていたのは、必然、何かしらの詠唱ということになるわけだが。

 彼は、使える中で至上に高度な対抗魔術(カウンターマジック)と、瞬間移動の法を使用するべく呪文を唱えていた。


「【時界の揺らぎ】それに【瞬転(ワープ)】。皆さん、行きますよ!」


 

 闇霧が晴れ、どころか冒険者に襲いかかった。それだけではない。数倍の量に増えている。

 冒険者は対応に追われた。


 少女と女性にもできることは無かった。



 


 叫んだダニィルを中心として、まばゆい光が発せられ、瞬時に収縮した。


 当たり前だが、その次の瞬間には、冒険者含む三人しかいない。


 和樹たちは逃げ切った。

個人的には魔術と魔法の言葉の違いとかは重視していないのでお気をつけ下さい。


補足。

【永久牢獄】の発動条件。

ある程度以上のダメージを喰らうこと。

多大な魔力を消費すること。

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