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最弱の魔王が最強の勇者を倒すまで  作者: NEO
着いたらそこは魔王城
11/23

新魔王、黒岩和樹の仕事

 半壊した城から城下町を見下ろす。大勢の民衆が詰めかけている。普通の人間のような者がいれば、角や翼を生やしている者もある。


 皆一様に、期待を抱いて集まった。実際は、期待半分、疑念半分といったところだろう。


 城には新魔王となった和樹が緊張たっぷりで突っ立っている。冷や汗を流し、顔は強張(こわば)り、手足が震える。


「みなさん。こんにちは、はじめまして。新たなる魔王として就任しました。黒岩和樹といいます。異世界からやってきましたが、魔王の適性があるということで、魔王を務めることとなりました。

 まず魔王に就任した現在の目標は、三つあります。

 一つは昨日襲撃した冒険者パーティを討伐すること。

 もう一つは、未だその影は見えないけれど、勇者パーティも倒さねばなりません。

 最後に、これはとても重要です、人間国側に拉致された三人の非戦闘員を救出、または交渉によって取り返すこと。

 これらは必ず達成せられるべきことです。我々が互いに力を合わせることが大切です。どうか、ご協力お願いします。

 また、国内の産業を発展させ、友好都市との交流も盛り上げていきたいと思います。

 これで挨拶とさせていただきます。不安もあるかもしれませんが、ご安心ください」


 俺は、職業適性を二つ持っていますから。

 彼はそう継ぎ足し、所信表明を終えた。


 その台詞に、それまで不安に傾いていた民衆の感情は上方に向かった。驚きと希望からざわついた。


 彼は演説など今までの人生でしたことが無かったのであるから、もちろんこの所信表明で全ての民の人心掌握は不可能であり、実際不可能だったが、初めてなのだと考えればかなりまともな話となっただろう。だいぶ短いものではあったが。


 彼は頑張った。彼は頑張ったのである。

 どうして努力のあとに何かを求めようか。いや、求めない。


『式典は以上となります』


 和樹の話の前に幹部二人くらいのお話があったのだが、和樹からの短くまとめてくれとの希望で眠くならない式となった。市民からの感謝が僅かばかり発生する。これは良いことだと思う。



 和樹は城の中へ戻った。


「和樹様お疲れ様です。次の業務と致しましょうか」

 にっこり微笑む。

 和樹の背筋がゾワッと寒くなる。あれー、幽霊でもいるんですかねえ。

 

 和樹にはその笑みが悪魔のモノにすら見えたのである。


「は、はい……」


 彼は抵抗する気力も失くしてしまい、従順な奴隷のように付き従った。(部下に)


「次は何をするんですか?」

「隣国の統率者との会談です。友好関係を続けましょう、というくらいのものなので安心してください」


 和樹が会談の準備って何がいるかなー、と考えていると、エイヴィが現れた。


「やあ、和樹殿、良い話であったな。民として応援し寄り添ってゆこうと思わされる話だった」

「ああ、エイヴィさん、ありがとうございます。緊張してうまく喋れなかったんですけどね」

「いやいやそんなもの微塵も感じさせない堂々としたものだったぞ」

「ははは」


 和樹は照れて頭を掻いている。

 頑張りを認められるのは嬉しい。


「ところで、なぜエイヴィさんがここに?」

「うむ。それはだな、今日の会談でボディガードを務めさせて頂くからだ」


 横からダニィルが説明を入れる。


「わたしが魔王の秘書兼ボディガードと専属魔術師であるということは言いましたね。彼女も同じような立ち位置にいるのです」

「ははあ。して、如何様な立場に?」

「ふふ。わたしは魔王の雑用係にして、ボディガードにして、専属の戦士なのだ。まあ、昨日は偶然にも別の国で仕事が入っていてな、前魔王様の助けにはなれなかったがな……悔しいものだ」

「すみません。悲しいことを思い出させてしまって」

「いや、いいのだ。いまは悲しむときではない」

 彼女が意味深なことを言う。


「他にも護衛が三人いますけどね」


   ◇  ◇


 大きめの豪奢な馬車。

 その前には、三人の屈強な男と、背の高い痩せた男と、華奢な意思の強そうな少女がいる。

 それと貧弱な身体だが優しい表情の少年がいた。

 

「出発です! 行きますよー」


 背の高い痩せた男こと魔術師ダニィルは、白に黄緑のラインが入ったローブを着て、手綱を握っている。その先には【竜】が繋がれていた。



 ニ頭だ。そんなに大きいものではない。幅、尻尾を除いた長さ、高さ、いずれも馬二匹分程度の大きさだ。小型の竜といったところであろう。


 体を覆う鱗は深緑に艶めく。鱗の隙間からは黄金の眼差しが覗いている。敵意こそ無いものの、目を合わせれば、露骨に威圧感を覚えるだろう。

 しかし黄金の眼からは確かな知性を感じ取ることができる。彼らはものを考える頭がある。


 翼は飛ぶために付いていない。体の大きさに対して明らかに小さい。体長は数メートルあるのに翼は1.5mくらいしかないのだ。


 脚は力強く、胴体の色より更に深い緑だった。巨大で無骨な鉤爪が生え、竜が生態系の頂点に位置することを再認識させられる。


 GRRRRRRRRRR…………


 竜は唸った。恐ろしい低音で、不満を漏らすように。



「さあ、皆乗ってくださーい。ほら、和樹様も」

「……あ。は、はーい」


 貧弱な身体だが優しい表情の少年こと、新魔王となった和樹は自然界の絶対的強者に竦んだが、ダニィルの呼び掛けで正気を取り戻したようだ。


 馬車(この場合は竜車というべきか?)に乗り込むと、中は意外と広い。三人の屈強な男こと熟練のボディガードと、華奢な意思の強そうな少女こと戦士兼ボディガードのエイヴィ、それに和樹が入っても余裕が残ったほどだ。


   ◇  ◇


 馬車の前方の窓に、ダニィルの顔が見える。こちらを覗き込んでいる。


「皆さん! 止まります! どこかに掴まって下さい!」

 叫ぶようにしてそう言って――ひどく焦った口調だ――手綱を握り直し、急停止させた。


「は、はいぃ!」


 和樹は辛うじて窓枠を掴む。


 竜が急停止したことによって馬車が振り回される。放り出されそうなショックだ。


 一瞬意識を失うが、はっと意識を取り戻す。


 馬車内には既に人がいない。和樹が慌て外に掛け出ると、全員戦闘態勢を取っていた。



 屈強な男たちは筋骨隆々としていて、その筋肉を見せびらかすようなガードの少ない服装だ。例えるなら、古代ローマのコロッセオで戦っていた剣闘士というのが的を射ている。


 彼らはどこからともなく武器を出現させ、構えている。

 それぞれ、二丁戦斧(ツイン−ハルバード)炎刃(フランベルジュ−)両手剣(ツヴァイヘンダー)連星棘鉄球(スコーピオン−テイル)を手にし、空を見上げているのである。



 ダニィルは身の丈の二倍以上ある巨大な杖を取り出した。杖はパーツそれぞれが独立して浮いている。浮島のようだ。


 漆黒の棒に金の文様が刻まれている。文字のようでもあり、絵のようでもある。その先には頭くらいの大きさの球が浮かぶ。オレンジ色と赤色に光り輝く。小さな太陽と言っただろうと全く以て過言ではない。


 小さな太陽を中心として、黄金色の雫が取り囲んでいる。尖った方を中心に向けて。

 杖は膨大なエネルギーを帯びている。それを熱に変えれば、ここら一体は焼け野原になるであろう。



 エイヴィは……あれ、いない? 何故かいない。どこかと見回すもそれらしき影は見当たらぬ。さてさて、どういうことかな?

 と、戸惑っていると。

 大きな影が大地を覆う。

 恐る恐る振り向くと、見覚えのない巨大な【白竜】が鎮座していた。二十メートルもある、恐ろしい威容だ。

 

 【白竜】が、世界を歪める大音響で咆哮する。


 GRAAAAAAAAAAAAA!!!!


 ()()は空気を震わせた。肌で感じる。覇者の雄叫び。勝利を予感した、勝利を確信した喜びの叫びだ。そして……弱者を喰らう愉悦の現れでもある。


 戦慄が走る。身体が動かないどころじゃない。びりびりと、びりびりびりびりと。体中を。稲妻が駆け巡る。

 目を見開く。閉じられない、瞬きできない。空気は金属塊みたいで、天がそのまま落ちてきたような重みがのしかかってきた。


 これはなんだと和樹は自問する。こんなもの知らない。


 なんとか首だけを動かし、他の仲間を見ると、誰も驚いていなかった。重みにはしっかりと反応を見せているが、その存在そのものには、誰一人として気にしていない。むしろ慮っているようにすら感じる。


 その状況に、和樹は一つの答えを導き出した。

 答えをじっくりと吟味し、反芻する。


「もしかして……いや待て待て待て待て。そんなことがあってたまるか」


「エイヴィが竜に変身する竜人だなんて、そんなわけない」


 うんうん。そんなに常識外れなことが起こる可能性はゼロに違いない。神にだって誓えるさ。


「そうだよな。そう。だっておかしいもんな、竜人だなん……」

『すまん、和樹殿。驚かせてしまって申し訳ない。これはわたしのもう一つの姿だ』

「やっぱりそうですよね!?」


 そういうことは前もって伝えておいてくれないと、なんてぶつぶつ愚痴っている。そうやって文句ばかり言っているからモテないんだよ。過ぎたことは洪水で押し流すくらいの気概は見せられなきゃモテるわけ無いだろ。


「なんかイラッとしたな。猛烈にムカついてきぞ」

『いきなりどうしたんだ? 和樹殿』

「いやなんでもない。てか喋れるのか、竜なのに。まあ竜が喋る物語とか沢山あるし、当然なのか」

『おっと和樹殿、無駄話はここまでだ。やつが来るぞ』


 喋るというよりは、念話という感じである。頭の中に声が響くイメージだ。


「やつ? それって……」


 和樹が言えたのはそこまでだった。


 QWEEEEEEE!!!


 遥か上空から耳を(つんざ)く不快な鳴き声が発される。脳髄を揺らす。

 咄嗟にその方向へ眼を遣る。


 まず目に入ってきたのは……鷲か? いやライオン?


 どちらでもない。あれは、グリフィンだ。

 グリフィンだが、もとの世界の伝承と比べると大きさがおかしい。白竜エイヴィの大きさにこそ敵わないが、五メートルはある。


 顔部分に怒りに染まった表情の鷲が。毛は真っ白で、嘴は黄金色に輝く。

 胴部は毛並みよく光沢がある。キャラメルのような淡い茶色である。

 特筆すべきはその翼。両の羽を合わせれば全長二十メートルで、白竜エイヴィの体躯に匹敵するほどだ。(ただし白竜エイヴィの翼はもっと大きい)


 グリフィンは急降下してくる。翼を畳み、高速で突っ込んでくる。


 

 戦闘(バトル)開始(スタート)

次回はアクション回です。

執筆(バトル)開始スタート

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