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недоразумение 勘違い

『……』


 自室に戻った僕は鍵を閉めると、ヘロヘロと床に座り込んだ。

 同時に貼り付けていた笑顔が取れ、意図せず隠していた感情が口から溢れ出てしまう。


『嘘……でしょ……』


 壊れたラジオのように頭に何度も流れ続けるのは先程の響との会話。突然の拒絶だった。


『……僕から距離を取る……ってどういうつもりだよ響……』


 呟いてみたものの、本当は理由は分かっていた。


 リビングに入ったときに偶然聞こえてきた決意の言葉。

 使っていたのが日本語だったので、その場は分からないフリをしたが、確かに響はこう言っていた。


「告白するために……アリフィヤから距離を取る」と。


 ……これだけ情報があって察することができないほど僕は鈍感ではない。


 響はきっと……誰かに惚れたんだ。いつまでも日本語を覚えられない僕に愛想を尽かして。


 別に不自然なことではない。響は今年から中学生。思春期に突入する。

 誰かに恋をしてもおかしくない年頃だ。


 大方、惚れた相手の気を引くのに忙しいから僕を相手にしてられないといったところか。

 要するに僕は恋路の邪魔になったから切り捨てられたのだ……


『うぅ…………一体誰に惚れたんだ……』


 僕は本気で焦りを感じていた。


 だって超イケメンな響だよ? 物腰も柔らかくて誰にでも愛想良く、外見にも性格にも一切負を感じない響だよ? 女子の人気投票で他の男子に一票も与えず票を独占してナンバーワンに輝いた響だよ?

 そんな響がアタックして落ちない女子なんているのだろうか。いや多分いない。少なくても僕達と同じ小学校だった女子は絶対に落ちる。それだけは自信を持って断言できる。



 ……くそっ、このままじゃリア充街道まっしぐらじゃないか……


 誰かと響が付き合う、そう考えた途端ズキンと心が痛んだ。


 慣れない痛みに一瞬疑問を抱くがすぐに納得する。


 ……そりゃそうか。そうなったら僕のこの六年間の頑張りが全て水の泡だもんな。日本語を話せないフリまでして付きっきりで世話してもらった意味がなくなるわけだし、心が痛むのも当然か。





 ………ダメだ…。


 どうにかして妨害する術はないかと思考を巡らせるが、良い考えがまるで浮かばない。

 日本語で会話されたら、日本語が分からない僕には邪魔することができない。六年間家でも日本語を話せないキャラで通してきたのに今更本当は話せましたとバラすわけにもいかないし。


 ……響の忠告通り少しずつ話せるようにしていけばよかった。


 後悔しても後の祭り。

 時間は無慈悲に過ぎていく。

 気がつけば時計は三と四の間を指していて、皆とっくに就寝したのか、自分の呼吸音と時計が立てる無機質な音以外の音は聞こえなくなっていた。



 ……流石に眠くなってきたし、夜更かしは肌に悪い。


『……こうなればあの手を使うしかない……か……』


 数時間における長考の末、せかされるようにして僕は決意を固めた。




 その方法は謂わば諸刃の剣。

 それゆえ、出来ればこの方法だけは取りたくなかった。

 響が誰かに恋したことが分かったのが数年前だったらきっと僕はこの方法は使わなかっただろう。


 だけど六年の年月は重すぎた。ここまで来たら今更もう後には引けない。なりふり構ってはいられなかった。


 故に、覚悟を決める。




 ……何がなんでも離れないから……絶対に離れないからな。


 ここまで来れば男の意地だ。元男として、お前を絶対にリア充にはさせない。




 これまでよりも更に距離を近づけていく、覚悟を。家族としてや保護対象として……ではなく、一人の女として響を執着させる、その覚悟を決めた。


 幸い僕の容姿はかなり優れている。母ゆずりの顔はもちろん、体つきも出るところは出てるし引っ込むべきところは引っ込んでいる理想の形をしている。それこそ同年代には敵はいないと思えるほどに。

 それに元男の僕には男心が手に取るように分かる。


 この二つの武器を活かせば、いかに相手がいたとしても響を落とすことはできるはずだ。




 見てろよ響。絶対に振り向かせてやる。僕と距離を取ろうとしたことを後悔させてやる。




【響を僕に恋させ、他の女が目に入らないほどに夢中にさせる】



どうせ親からもブラコンだと思われてるんだ。だったらこの際全力でブラコンを演じてやる。

 それが僕の考えた作戦だった。



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