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Первая школа 初登校

『うーん、やっぱり可愛い!』

『あ、ありがとうママ。じゃあこの服で決定で……』

『ダメよ、アリフィーユシュカ。まだ全ての服着れてないじゃない。今度はこれを着てみて?』

『でも、時間が……』

『着てみてくれる?』

『はい……』



 迎えた転入当日の朝。

 僕はお母さんの着せ替え人形となっていた。


 今日から通うことになる小学校には制服がなく、服装は自由。

 そのため、お母さんは僕に一番似合っている服を着せたいらしく、かれこれ一時間こうして着替えを強いられていた。


 転生してからの七年で女性モノの服を着ることへの抵抗は大分薄れているが、流石に一時間も着替えていると頭が痛くなってくる。


 女性って服選びにここまで拘るものなのか……。別にシャツとズボンで良いのに……。

 まぁ、それを言うと説教食らう羽目になりそうだから絶対に口には出さないけど。


 溜め息を吐きつつ、お母さんに差し出された白色のワンピースをのそのそと着ていると、ドンドンとノックの音が響いた。

 

『アリフィヤちゃん。そろそろ家出ないと遅刻しちゃうよ?』


 お義父さんの声だ。

 時計を見れば確かにいつも響が家を出るギリギリの時刻になっていた。

 同じく時計を見たお母さんが目を丸くして口に手を当てる。


『うそ、もうこんな時間?』

『ママ、悪いけど行ってくるね。響も待ってるだろうし……』

『そうね。本当はもっと色々な服も試したかったところだけど……』


 お母さんがジッと僕を見つめてくる。

 やがて小さく頷いて、そっと頭を撫でてきた。


『うん、その服も凄い似合っているから大丈夫よ。行ってらっしゃい!』

『行ってきます!』


 お母さんに促されて部屋を出る。


 ところで、もしここで合格判定出なかったらどうなっていたんだろうか。遅刻するしない関わらず着替え直しとか? ……まさかとは思うけど、一抹の不安が拭いきれない。ホント御眼鏡にかなってよかった。


 そんなことを考えながら、やや急ぎ足で玄関に向かう。

 玄関には既に靴を履いた状態で響が待っていた。


『ごめん、待たせちゃった?』

『いや、おれもさっききたところだ。じゃあ、いこうか?』

『うん』


 ……また会ったな相棒。お前をもう一度使うことになるなんて別れたときは微塵も思わなかったよ。今世では僕は男から女に、君も黒から赤に変化してるけど、またよろしく頼むよ。


 僕は玄関に置いてあった新品の赤いランドセルを背負うと響の後を追って家の外に飛び出した。





 朝の通学路は人が少ない。

 とはいえ、僕たちと同じ方向から登校する小学生も当然いるわけで、学校に近づくにつれて人が増え賑わってきた。


 そんな中、やはり髪色が違う僕は目立つようで。

 僕とすれ違うたびに、生徒達が振り返ってジーと見つめてくる。


「なにあの子可愛い……」

「お人形さんみたい」

「響くんとどういう関係なのかな」


 そこで当然のように名前が挙がってるあたり、響の学校での知名度の高さがよく分かる。


 僕なんて同じクラスの人にも名前を覚えられてなかったのに……。これだからイケメンは……。


『たしかアリフィヤってしょくいんしつによばれてたよな?』

『そうだけど』

『なにおこってるんだ、アリフィヤ?』

『怒ってない』

『……そうか? まぁいいけど。ばしょわかるか?』

『分からない』

『だとおもったよ。あのかいだんをあがってすぐのばしょだよ』


 そう言った響の指差す方向には二階まで続く階段があり、職員玄関と書かれた紙が貼ってあった。

 どうやら僕はあそこに行けばいいらしい。


『じゃあ、おれはさきにきょうしつにいってるからな?』

『うん、またあとで』


 響と別れると、すぐに職員玄関へと向かった。

 階段を一歩一歩慎重に登り、インターホンを鳴らす。

 少し待つと、職員だろう。眼鏡をかけた女性が現れた。


「はーい。お、あなたがアリフィヤちゃんね。話は聞いてるわ。さっ、こっちにおいで」

『何言ってるのか分かりません』

「あー、そうだった。そうだった。アリフィヤちゃんは日本語分かんないんだっけ。ごめんね。ってこれも伝わってないか……。ちょっと待ってね」


 女性はポケットから携帯を取り出すと、携帯に向かって先程いった言葉をもう一度繰り返した。

 すると、携帯からロシア語が流れた。


『あなたがアリフィヤ? 話は聞いてる。こっちに来て』


 ……なるほど、翻訳アプリか。

 翻訳アプリと言えば、ちんぷんかんぷんな言葉に変えるイメージしかなかったけど、結構正確に伝わるものだな。


 感心しつつ頷くと、僕は女性の言葉に従った。







「はーい。皆さん、注目。今日からこのクラスに新しい友達がやって来ますよ!」


 教室の中から先程の眼鏡の女性―――先生の声が響く。

 その声は廊下で待機していた僕の耳にも余裕で届くほど大きい。


「えー!誰々?」

「どんな人だろ……」


 言葉を受けて、ざわめき出す教室。

 

「はーい、みんな静かにしてね! では紹介します。ロシアから来ました、転入生のアリフィヤちゃんです」


 同時に事前に打ち合わせた通り大きな拍手の音が二回鳴ったので、僕は教室の扉を開けた。


 沸き上がる歓声。まさか外国人が新しい仲間と思わなかったのか、驚きの声も混じっている。


 本当はここで自己紹介でも出来ればよかったのだが、日本語を使えない以上無理なので、軽く一礼する。

 

「皆さん、アリフィヤちゃんは最近までロシアに住んでいたので日本語が出来ないけど、仲良くしてあげてください。じゃあアリフィヤちゃんは響くんの後ろの席……っとそうだ翻訳翻訳……」


 と先生が携帯を取り出そうとした時だった。


 響がゆっくりと立ち上がり、ロシア語を発した。


『アリフィヤはおれのうしろだ』と。


 多分本人としては先生に助け船を出したつもりなんだろうけど。家庭環境をまだ説明してない状態でそんなことを言えばどうなることか……。


「え、響くんロシア語話せるの?」

「すごーい……」

「二人はどういう関係なの?」

「好きなの?」

「好きなんだー!」


 静寂が一瞬訪れ、喧騒が巻き起こった。


 どうやら最近の小学生は男女が仲良しだとすぐに恋人関係に持っていく習性があるらしく……。

 先生が家族だと説明し、事態が落ち着くまで、白々しく『なに? どういう意味ですか?』と演技するのは本当にキツかった……。



こうして僕の小学校生活は始まりを迎えた。


絶対に逃がさないからなお兄ちゃん。まずは六年。頼りまくってあげよう。


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