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инкорпорация 編入

『ここが明日からアリフィヤちゃんの通う小学校だよ』



 結婚式から数日経った今日、僕はお義父さんと一緒に明日から通うことになる小学校の下見に来ていた。



 今は六月。入学式から既に二ヶ月過ぎているので編入という形で入学することになる。


 お義父さんは言葉とか文化の違いとかに慣れさせるために、一年遅らせて僕を入学させたかったみたいだけど、それは嫌だと必死に説得したことで今年からの編入になった。


 僕が一年遅れを拒んだ理由は言わずもがな。入学式と同時にこの学校の生徒となった響と同じ学年になるためだ。

 違う学年だと付きっきりで世話してもらえないからね。そりゃ、もう全力で説得したさ。どう説得したかは恥ずかしくて言えないが、おかげでお義父さんやお母さんにブラコンという大変不名誉なレッテルを貼られることになったとだけ言っておこう……。


 


 ちなみに僕は未だに日本語は何も理解できていない。……という設定なので、響と同じクラスに編入させてもらえることになっている。


 これも理由は単純で、ロシア語しか話せない僕とコミュニケーションをとれる人が滅多にいないからだ。

 英語や中国語みたいにメジャーじゃないから当たり前と言えば当たり前なんだけど。


 もしかしたら先生達の中には多少話せる人もいるかもしれないが、流石に小学生は話せないと確信している。

 そんな中で唯一、響だけは学生で僕とコミュニケーションを交わせる存在だから、一緒のクラスになるのは妥当な対応だと言える。


 全て計画通りに事が運んでいた。







『あ、アリフィヤちゃん。見てごらん、響がいたよ』

『え』


 不意に名前を呼ばれ、慌ててお義父さんを見ると、お義父さんが校舎に向かって指を差していた。

 言葉通り、指の先。二階の窓際に響の姿が見えた。


 どうやら今は授業中らしい。響は見られてるとは露知らずに退屈そうに頬杖を着きながら教科書を開いていた。


 前の席の男の子も同じような仕草をしていたが、何故か響の仕草だけはとても絵になっていて…………

 


 …………

 ……はっ!? 思わず見とれてしまっていた。なんたる不覚……! ……にしてもこの僕が見とれるなんて……これがイケメン補正……なのか。


 イケメンとはなんて理不尽な存在なんだろう。これを野放しにして良いわけがない。


 わざわざ同学年になるためブラコンのレッテルまで背負ったんだ。覚悟しておけよ……お兄ちゃん。


 絶対にリア充にさせない。させてたまるか。そう強く誓った。







『とりあえず一周したけど、まだ続けるかい?』


 学校の外側をグルッと一周回ったところでお義父さんが訊ねてきた。

 続けると言っても、今日は学校にアポを取っていないので、敷地内に入ることは出来ない。もう一周回るだけだ。


 ……なら別に良いかな。何周も回るほど学校は面白い場所でもないし一回で充分だ。


『いえ、もういいです』

『そっか。じゃあ帰ろっか』

『はい。今日は付き合ってくれてありがとうございました、お義父さん』

『気にしないでいいよ。娘のために何かしてあげるのは父親として当然の役目だからね。それより、アリフィヤちゃん。困ったことがあったらすぐに響を頼るんだよ?』


 ……え、今なんて言いました? 頼っていいって……。親公認ですか!!!


 大義名分を手に入れた僕はお義父さんのこの言葉に大きく頷く。


『はい! 言われなくてもそのつもりです! 響には存分に頼らせてもらいます』

『え? あ、……うん。分かってるならいいんだ』


 お義父さんからの許可は出た。思う存分頼りまくってやる。


 ふふふふふ、明日からが楽しみだ。

 僕はこれからの学校生活に想いを募らせ、微笑んだ。






「……アリフィヤちゃんは響に構ってほしくてしかたないんだな。健気な子だな、僕はアリフィヤちゃんの恋を応援するよ」

『……』


 ところで……とんでもない誤解を受けてる気がするんですけど。

 あの、お義父さん。せめてロシア語で呟いてください。否定できないでしょうが……。


 日本語を話すことができないフリも中々大変だと身を持って実感した。

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