Свадьба 結婚式
お母さんと神崎さんの結婚式はそれから三ヶ月後に行われた。
お互い再婚と言うこともあり遠慮したのか、小さな式場で身内だけでひっそりと開いた。
これで神崎さんとお母さんは……いや、もう神崎さんじゃなくてお義父さんって言った方がいいのか。
とにかく二人はこの日、正式な夫婦となった。
『おめでとうママ! とっても綺麗だよ』
『ありがとうアリフィーユシュカ』
主賓挨拶、乾杯、ウエディングケーキの入刀が終わり、迎えた歓談と食事の時間。
綺麗な白いドレスに身を包んだお母さんは本当に綺麗だ。ホント、こんな綺麗な人と結婚できるお義父さんが憎たらしい。
今世が女でよかったかもしれない。男だったら嫉妬で発狂してそうだった。
幸せにしろよコノヤロー。
お母さんのすぐ隣で、デレデレと鼻を伸ばしていたお義父さんに肘打ちする。
『ちゃんとママを幸せにしてくださいね、お義父さん。不幸にしたら許さないですよ?』
『あぁ、任せといてよ。前にも言ったけど幸せにして見せるよ。約束する』
うん。まぁ、今さら疑ってないけどね。毎日上達してくロシア語を聞いていればどのくらい思ってるかなんてすぐ分かるし。
『うん、ありがとう』
『……それはそうとして、アリフィヤちゃん話があるんだけど』
何故かお義父さんの表情が急に引き締まる。
一体何の話をするつもりなのだろうか……。弟か妹の話しされたら笑えない自信しかないぞ。
冷や汗が流れる。
『はい……なんでしょうか?』
『あの、その……ぼくのことは……そのお義父さんじゃなくて……パ……パパって―――』
『――――おーい、アリフィヤ! ちょっと来てくれ』
お義父さんの声はとても小さく、響の声の所為で何を言ってるのか全く聞き取れなかった。
『ごめん、響。ちょっと待ってて。……ごめんなさい。お義父さん、聞き取れなかったからもう一回言ってくれますか?』
『―――っ――ッ。いや、いいんだ。気にしないでくれ』
『? よく分かりませんが、何もないなら響の所に行ってきますね』
さて、響はどこに……居た! 知らないおじさんとおばさんに囲まれながら僕を手招きしていた。
ここには身内の人しか呼んでないってお義父さんは言ってたから多分、お義父さんの親戚なんだろうな。
そんなことを考えながら響の所に駆け出す最中、視界の端にガックリ項垂れるお義父さんと宥めるお母さんの姿が見えた。
……いやホントにどうしたんだよ……。
「―――ふふふ、そうね」
「君と話せてよかったよ。ありがとうアリフィヤちゃん」
『きみとはなせてよかった。ありがとうアリフィヤ』
『いえ、こちらこそお話できて光栄です。おじさまおばさま』
「こちらこそお話できて光栄です。おじさん、おばさん」
去っていくおじさんとおばさんに小さく頭を下げる。
話してみて分かったことだが、おじさんとおばさんはお義父さんの兄弟だった。
まぁ、話したと言っても直接話をしたわけではないが。
おじさん達はロシア語を話せない。それに僕は日本語を話せない設定だったので、会話は全てロシア語と日本語の両方を話せる響を通してたのだ。
『……なぁ、アリフィヤ』
『何?』
『わるいとおもわないのか? 』
『……少し思う。ありがとう響』
『おまえな……はぁ……ゆっくりでもいいからにほんごをおぼえてくれよ』
あれから三ヶ月経ったとはいえ、響のロシア語はまだ拙い。結構な負担だったはずだ。
響には悪いことをしたと思う。だが、まだ日本語を話せることをバラすわけにはいかない。話せることを知られてしまえば、響が僕に執着する理由がなくなる。そうなったら終わり。響の容姿ならすぐにリア充になってしまうだろう。
せめて前世僕が死んだ年齢まではこの茶番に付き合ってもらうからな。
だから僕は響の頼みに確約せず、代わりにこう宣った。
『努力はするけど……』
『けど?』
『お兄ちゃんがいるから別に覚えなくても大丈夫でしょ?』
『…………ッ!』
これからもよろしく頼むよお兄ちゃん。
精一杯僕の世話を焼いてリア充になるチャンスを削っていってくれ。
それから結婚式は順調に進行して、幕を閉じた。
それに伴い、僕の名は神崎アリフィヤとなった。