閑話 同級生の独白 Монолог одноклассника
私が小学校に入学して三ヶ月。
ようやく学校生活に慣れてきた頃、私たちのクラスに一人の女の子がやって来ました。
目を引き寄せる艶のある長い銀髪に雪のように白い肌。海を連想させる青い瞳に幼いながらにして整った愛らしい顔立ち。
その女の子は、初めて目にしたときはおとぎ話の世界から妖精が出てきたと本気で勘違いしてしまったほどに可愛い女の子でした。
そんな女の子の名前は神崎アリフィヤ。
学年で一番カッコよく人気者だった神崎響くんの妹だったのです。彼女はすぐにクラスだけでなく学校全体で話題になりました。
アリフィヤちゃんと友達になりたい。色々なお話をしたい。
私以外にもそう思った人は沢山いたことでしょう
けれど、それは簡単な話じゃありませんでした。
アリフィヤちゃんは日本語が話せませんでした。
アリフィヤちゃんの話す言語を理解し、言葉に変えられるのは響くんしかいなくて。
そのため、アリフィヤちゃんには常に響くんが翻訳係として一緒について回っていました。
響くんを挟むことで会話することは可能でしたが、響くんの時間を奪っている、と考えると申し訳なさが湧いてきて、流石に無駄話することは出来ませんでした。
ですから、あくまで明日女子が必要な持ち物など、重要なことを伝えるくらいの必要不可欠な会話しか話せませんでした。
本当はもっと色々な事を話したかったのに。
……早く日本語を使えるようになってほしいなぁ。
なんて考えていたのが低学年の頃。
高学年に上がると少しずつ違和感を感じることが多くなり疑問へと変わっていきました。
何で……アリフィヤちゃんは日本語を話せないフリをしているんだろう。と。
アリフィヤちゃん本人は無反応を貫いているつもりでしょうが、響くんの話題を出すとニヤニヤと頬が緩むし、からかうようなことを言っていると機嫌が悪くなる節がありました。
もしかして……
頭の中である可能性が過りました。
その可能性に至ったのは私だけではなかったのでしょう。
誰かが言いました。
アリフィヤちゃんは……響くんに構って欲しくて仕方なくて理解できないフリをしているんじゃ…………
瞬間、心が浄化されて澄んだ透明になるような感覚を覚えました。
皆も私と同じような感覚を体験したようで、中には胸の辺りの服を握りしめている人までいました。
……この感情は一体?
初めての経験に、疑問を浮かべていると、一人のクラスメイトが立ち上がりました。
それはいつも本を読んでいるために、あまり会話に参加してこない――二葉椿ちゃんでした。
色々な本を読んできた椿ちゃんは物知りだったのでしょう。
すぐにこの感情の名前を教えてくれました。
どうやらこの感情は『尊い』というものらしいです。
聞いたことがない感情でしたが、悪い感情ではなさそうです。
むしろ、いつまでも浸かっていたいような感情でした。
ですから私たちはある決まり事を作りました。
アリフィヤちゃんと響くんの二人の時間を極力邪魔しないこと。
邪魔しそうな人がいたら、二人に気づかれないように私たちでそれを阻止すること。
だから今日も私たちは眼を光らせます。
二人の尊い光景を守るために。
今日もまた尊い光景を目に焼き付けるために。




