Начинает プロローグ
『Доброе утрo』
そんなよく分からない言語と共に、シャーとカーテンが開き、差し込んだ眩しい朝日の光で僕の意識は覚醒した。
ここはどこなんだろう…?
目蓋を上げた先に広がっていたのは見たことがない空間。
記憶が不自然に途絶えていてここに至ったまでの経緯をまるで思い出せないが、少なくとも病院ではない。
生まれつき心臓が弱かった僕は突然倒れて病院に救急搬送された経験が過去に何度かある。そのため今回も病院に運ばれたのではないか、と一瞬思ったが即座に否定する。
衛生上、病院の壁や天井は白くなっているのが基本だが、ここの天井はそのような装飾がされておらず、木目がはっきり見えている。
となれば誰かの家なのだろう。大方、心優しい誰かが、倒れた僕を心配してくれて家まで運んでくれたんだろうけど…一つだけ突っ込ませてもらってもいいかな?
何でオルゴールメリーが回ってるんだよ!? 高校生を寝かせるベッドにこれはないでしょ!!
「…あ……」
叫ぶ勢いで突っ込んだのにそんな呻き声のような音しか出なかった。
喉が潰れてるのか?
慌てて起き上がろうとしたが、体が動かない。
渾身の力を込めても指先がピクピクと動くばかりである。
これ結構ヤバイんじゃないか?
声も出せないし、体も動かせない。確実に救急搬送案件だ。
民家のベッドで寝転がってる場合じゃない。今すぐにでも病院に搬送してもらわないとホント不味い。だけど、その事を伝える手段がない。
きっと僕をベッドに寝かせてくれた誰かはそこまで深刻にとらえていない。ある程度寝れば元気になるとでも思っているのだろう。 だけど、このままじゃ十中八九僕は死ぬ。
見知らぬ僕にベッドを貸してくれるほど優しい人だ。自分のせいで僕が死んだとなったら、ショックで倒れてしまうかもしれない……。自分を追い込んでしまうかもしれない。
それだけは嫌だ。
くっ、こんなことなら手話覚えておけば……って体動かせないんだった。
抗うすべもなく途方に暮れていると、突然ひょいと体が宙に浮いた。
考え事をしていて気づかなかったが、目の前には綺麗な銀の髪の女性がいて僕を持ち上げていた。目の虹彩は青、浅い海を連想させるオリオンブルーで、ツンとした鼻はまるで妖精のようで、心の底から美しいと思えるような人だった。
って、よく僕のことを持ち上げられるな……。いくら僕がヒョロガリチビの三称号を持っているからと言っても四十キロはあった……はすだ。女性にそう易々と持ち上げられると流石に凹む。
『Что с твой случилось? 』
銀髪の女性がよく分からない言語を口にして首を傾げる。
首を傾けたいのはこっちなんだけど。それ何語ですかね……
いくら記憶がないと言っても、一日前の事とかは曖昧だが覚えている。少なくとも海外には出てないことは断言できる。
ってことは、この人は在日外国人……ってこともないだろうし、観光客なのかな……?
だとしたら悪いことしたな。楽しい旅行が僕のせいでトラウマ旅行に変わってしまうだろう。……あぁ、ごめんなさい。
って……ん? 僕持ったままどこに行く…………
「っ―――っ!!?」
僕は驚愕した。体が動いていたらすぐさま頬をつねっていたことだろう。それもそのはず。
視界の先の大きな鏡には、銀髪の女性と女性に持ち上げられる赤ん坊の姿が映っていたのだから。
これは……夢なのだろうか……。そうに決まっている。それ以外はありえない……。
不意に耐え難い眠気が襲ってくる。意識が朦朧として、瞼が石のように重く下がっていく。
これは夢だ。夢ならば、寝て目覚めたとき、病院の天井を拝めることができる……はずだ。
でも、もし……拝めなかったら、今と変わらなかったら……夢じゃなかったとしたら…………
銀髪の女性。見知らぬ言語。
この要素で気づかないほど僕は馬鹿じゃない。僕はきっと……異世界に転生したのだろう。