第7話 怪物と提案
「中継ぎ専門...かー」
俺はボソボソ呟きながら家に帰った。
「ただいま〜」
「純也!あんた今日倒れたんだって?大丈夫かい?」
「母さん、大丈夫だって心配しすぎなんだよ。」
呆れながらも言った。
「母さん、俺に中継ぎってでき-」
「おう!久しぶりだな純也!」
俺の前に突然現れた長身の男は軽々しく挨拶をしてきた。誰かと思い、顔を見てみると誰かすぐに分かった。
「じ、じいちゃん!なんで家に?」
「近くで仕事があってな。今日はここに泊まりに来たんだよ。」
「そうなんだ」
俺のじいちゃん柳 誠司は元プロ野球選手の現解説者をやっている。今日はたまたま近くで仕事があったので泊まりに来たらしい。
ちなみにじいちゃんは、現役時代5年連続最多勝で10年間連続最多奪三振、2回の沢村賞をとっている、まさにレジェンドだ。1番ピークだった時でプロ2年目にして26勝0敗だったそうだ。MAX152kmのストレートに落差の大きいフォークで三振を量産していく言わば緩急重視の剛腕左腕だった。しかし、プロ12年目で肩を怪我し塁間もまともに投げられなくなったじいちゃんは、野手に転向をした。翌年から持ち前の野球センスを武器に3年連続ホームラン王、打点王、首位打者など数々の記録を打ち立ててきたまさに怪物だ。
「ん?なんだ純也、いつもと雰囲気が違うぞ?なんか悩み事でもあるのか?」
「ん〜まぁじいちゃんになら話していいかもな...」
これはチャンスなのではと思ってじいちゃんに中継ぎの話をした。
「ふむふむ、なるほどな。勝也をめざしてエースになりたかったが、監督に中継ぎ専門になれと...しかもキャッチャーまで固定とはなー」
「どうしたらいいかな?」
「いいか純也?野球はピッチャーだけが大事なわけじゃない。各守備がいてこその野球だ。だから俺はエースにこだわる必要な無いと思う。実際に高校までは投手だったけどプロでは外野をやっているなどの選手は沢山いる。だから、別にエースじゃなくてもそれが全てではないと俺は思う。」
「...」
「純也?」
「じいちゃんは何もわかってないよ。俺は父さんみたいなかっこいいエースになりたいんだ!!みんなから期待されて日本だけじゃなくメジャーとかでも活躍できる凄いピッチャーに俺はなりたいんだ!だから俺は中継ぎなんかじゃなく頭から最後まで投げ続けられるエース投手になりたいんだよ!!」
「純也...」
「だから俺が自分の夢に向かっていくためには中継ぎなんてやってられないんだよ。」
「そうか、分かった。純也の好きにするといいさ。俺からは何も言うことはない。自分のやりたいようにやればいいと思う。」
「なんだよそれ...孫の悩みを聞いて放っておくのかよ!」
「放っておく訳じゃない。ただ、自分がどれだけ高い目標を掲げているか気づいて欲しいと思ったから。」
「俺に程遠い目標だってことは十分承知してるよ。だけど俺は目指す!絶対に父さんを超えるピッチャーになる!」
「...まぁ精々頑張りな。」
「言われなくたって頑張るさ!」
「俺は明日朝早くここを出る。お前と話せるのはこれで当分ないだろうな。だから、一つだけ俺からアドバイスというか教えてやるよ。」
「アドバイス?」
「エースはエースでも中継ぎのエースって言うのもあるんだぜ?」
「!?...中継ぎの...エース...」
「まっ、それぐらいだな。んじゃ俺は寝るよ。おやすみ〜」
「...」
俺は、じいちゃんから言われた『中継ぎのエース』ということについて考えながら寝ることにした。