第4話 全力と限界
烏丸さんから言われた一言にその場の全員が一度に反発した。
「無理だよー」「1時間なんてずっと投げてられるかよ!」「肩壊す気か‼︎」「それだよ!だから甲子園優勝なんてできないんだよ!」
すると、烏丸さんが顔を変えて怒鳴った。
「黙れ!今反論した奴およびやる気のない奴は今すぐ校舎に戻れ!そんな弱気な奴はいらん!」
その一言で場は沈黙に包まれた。
「そこまでいう必要はねぇだろ...」
誰かがボソッと呟いた。すると、1人がそいつのユニフォームを掴み真顔で言った。
「そりゃそうさ、やる気のない奴に大事なマウンドは譲れねぇよな?だから帰れって言われてんだよ!」ドン‼︎
投げ飛ばされた奴はゆっくり立ち上がって更衣室に戻っていった。その後も、ぞろぞろと30人程度がその後をついていった。
「ふっ、その程度の奴らばっかりじゃねーかよー!なさけね〜な〜!」
「煽りもそこまでにしろ卓也!お前は相手のことを考えてから言葉を発せないのか?」
「うっせ〜な凛、本当のことしか俺は言ってねーぜ?」
俺は、あの2人を見て思い出した。悪口の目立つ奴は白川 卓也、左投げ左打ちの剛腕投手だ。ストレートはMAX140kmで緩急がすごいSFF(スプリット フィンガー ファストボール)が決め球の言わばドクターKだ。対して注意をしている奴は新井 凛、右投げ左打ちの変則投手だ。持ち球は、ストレート、ツーシーム、スローカーブ、ナックル、シンカー、シュートの6球種を投げる言わば変幻自在の投手だ。この2人は中学時代同じ学校で一時期話題になった2人だった。
「へー。あいつらと同じチームで争えるのかー。...ますますやる気になってきたぜ!」
「ふん!今年は腰抜けばかりだな!...んで?残ったのは?......なんだたったの5人か。」
俺はほかの4人を見渡した。内2人は卓也と凛だ。後の2人は見たことがない。
「よし!では〜全員ブルペンに入れ!」
『はい‼︎』
「これから1時間投げ続けてもらう。球種に制限はないから、なんでも好きに投げろ。ただし全て全力で投げること。これが唯一の条件だ!」
「え?全て全力で投げるんですか?」
「当たり前だろ。じゃなきゃやる意味がない。ほらほら、喋ってないでさっさとつきなさい。」
そう言われ、5人全員でブルペンに入った。
「それでは今から1時間!よーい...始め!」
『バン!バン!バン!』
一斉に始まった。始めは、全員が余裕な顔で投げ続けていた。しかし、開始20分であることに気づいた。
(ん⁉︎足が...足が辛い。)
なんと、疲れが腕や肩ではなく、足にきていたのだ。だんだんと内4人の顔が険しくなってきた。しかしそのなかで1人だけ涼しい顔をして投げている奴がいた。見知らぬ顔だった。その後も5人は着々と投げていった。
〜40分後〜
もう腕もをあげるので精一杯だった。
「もう限界...」ドスっ!
倒れたのは凛だった。顔は真っ赤になっていて、見る限りでは熱中症のようだった。
「よくやったな、おい!だれか担架を!」
(凛...可哀想に...)
そう思う中1人冷静に黙々と投げている奴がいた。
(あいつ、どんな体力してんだよ)
俺は声をかけることにした。
「おい、お前なんでそんな涼しそうな顔で投げら..れる...んだ....よ....。」
声を発した途端、体の力が抜けていくような感じで、俺はブルペンで倒れてしまった。