17話 心境と追究
カキーン!
「おー!入ったぞ!」「すげーな。なんだあの飛距離」「今の別に甘い球じゃなかったよな?」
すごい飛距離の一発が飛び出て、1軍のメンバーのほとんどが唖然としていた。グラウンドも別に狭いわけではない、見た感じ120mは超えているな…話を聞いたところによると去年も1年生で3番レギュラーだったらしい。来年のドラフト1位候補らしい…なんか羨ましい。
「お〜い柳くん、そろそろウォーミングアップしたほうがいいんじゃない?」
「おう!そうだな!んじゃまずは、軽くな」
俺は柳 純也。東峰高校1年野球部所属、ポジションはピッチャー。中学の最後の俺の夏、サヨナラ押し出しフォアボールでゲームセット…俺のせいで終わってしまった。そんな俺が入学したのは野球の名門校『東峰高校』甲子園常連校だが未だに優勝した形跡がないことでも有名である。その中でも下の下だった俺は、今のままではいけないと思い日々努力してきた。野球も…勉強も?その結果、俺の父さんであるメジャーリーガーの柳 勝也に決め球である『ライジングライズ』を継承することになった。球速も上がり、球のキレも良くなった俺は見事1年生で1軍入りすることができた。
そしてその初日、まさかの試合が行われ2試合目の先発を任されたのだった。
パン!
「ずいぶんキレが良くなってきたね!勉強中も投げ込みぐらいはしていたのかな?」
「半分冷やかしだよな?それ。んま確かに、変わったかもな」
「それは期待できるね」
そうこうしているうちに1試合目が9回に突入した。そこからはある程度全力で投げることにした。自分でも今日は調子がいいと思うほど肩が軽い。
「んじゃ、そろそろ投げてみるか…」
20球程度投げた後に、あの球を投げてみることにした。
「ラスト1球いくぞー!」
「よし!こい!」
俺は大きく振りかぶって大輝が構えるところに決め球を投げ込んだ。
シュッ!
(速い‼︎)
バン!
そのとき2人は驚いた。速さとかではなく、大輝が取り逃がし背後の壁にぶつかったことに。
「…」
「…」
それを見たときに大輝は希望と不安を持った。
この球なら強者にも通用するという希望
この球を取れるのかという不安
を
1試合目が終わり2試合目が行われる10分前になった。
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「大輝~!」
「どっ、どうした?」
僕は少し反応に遅れた。僕がボーっとするのは珍しいことである。自分で言えるくらい。キャッチャーとしてそれはしてはいけないことだ。もちろん試合中では絶対にしてはいけない。このままでは、試合に悪影響が出てしまう可能性がある。
(本当に...僕が出ていいのかな...)
こんなに不安になったのは初めてだ。
いつもはこんなにならないのに...どんなチームが相手でもこんなに緊張しないのに...ただの紅白戦なのに...どうしてだろう。
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『勝つことだけがすべてじゃない』
そう思っている自分がいる。そのはずなのに、何故か勝ちにこだわってしまう自分がいる。冷静にならなきゃいけないとき、目の前の打者に集中しなきゃいけないとき、ただ勝ちたい一心で投げてしまう。そんな自分に俺はこの先が思いやられる。