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撫でられる感触



 しばらく風呂の入り口で待ってみる。もしもホタルが風呂に入ろうとして何かあっても、すぐ対処できるようにだ。しかし風呂にお湯をためてるわけでもない。溺れるようなことはないだろう。あとはちゃんとホタルが自分でシャワーからお湯を出して、ちゃんと自分で体を洗えるかどうかだ。

 一応シャンプーもリンスも用意はあるが、間違えて使っていたりしないだろうか。……いやまあ、シャンプーとリンスぐらいだったら、間違えても問題なさそうだけど。そういえば、シャンプーとリンスってどう違うんだ?

 あとは出るときに、しっかり体をふいてくることや水を止めてくることを忘れてないか確かめる。……というか、さっき着替えの有無は聞いたが、タオルの有無は聞いていなかったな。ちゃんと用意してあるのか?いやもう七才だったら、そこら辺の管理ぐらいはできるか?いや俺が七歳の時、そんな器用なことをしてた自身なんかねえな。全部母ちゃんにやってもらっていた気がする。まぁ何かあってもいいようにタオルぐらいは用意しておくか。

 やべえな。この時間で部屋を片付けるつもりでいたのに、この場から動くことができねえ。

 何だろう。今まで子供なんか持ったことなかったから、すごいそわそわする。親っていつもこんな気持ちと対峙してんのか?すごいな、素直に感心するぜ。

 そして母ちゃんごめん。俺今までどんだけ母ちゃんに心配かけてきていたか、その片鱗をようやく知ったよ。そういやぁ、もう数か月も母ちゃんとも連絡とってねえな……。

 というか他人の子供預かって親の苦労に気づくとか、悲しすぎんな。


 などと風呂の入り口で立ち尽くしていると、風呂のドアが閉まる音が聞こえた。そしてその数秒後にはシャワーの音が聞こえる。

 一応シャワーの水を出すところまではうまくできたようだ。

 あとはそれがちゃんとお湯になっているかどうかである。

 しかし風呂場の方を覗くと黙々とした湯気の陰がゆらゆらとみることができるので、それも大丈夫そうだ。シャワーのお湯の温度は、モニターで設定してある温度以上になることはない。その温度も少しぬるめの三十八度。これなら問題ないだろう。

 まだ少々そわそわする部分もあるが、俺は急ぎ部屋に戻ってホタルが寝れる分ぐらいのスペースだけは確保しようと片付け始める。あ、あとアダルティなやつとかも全部隠さねえとやべえ。そう言えばブルーデイデッキにAV入れっぱなしにしてなかったっけ?やべえ、やべえ。さすがにやべえ!うぉおおおおお!かたせせええええええ!!




 俺がホタルに見られたらまずいものを大体隠し終え、一休みしていると、風呂のドアが開く音が聞こえた。どうやらタイミングよく風呂から上がってきたらしい。すぐさま風呂場の入り口まで近寄る。


「……」


 シャワーの音は聞こえない。どうやらちゃんとシャワーの水は止めてあるようだ。軽く洗剤の匂いもする。どうやらちゃんと体も洗ったらしい。どうやらちゃんと一人で風呂に入れたようだ。

 などと感心していると、脱衣所からホタルが出てきた。ちゃんと服も着ている。どう見ても寝間着ではなく、先ほどまでと同じかなり質素なTシャツと短パンだがしっかりと着替えもできたようだ。

 ガシガシと頭を撫でてやる。


「おぉ、ちゃんと一人で入れたんだな」


 さすが一人旅をしようというだけあって、そこら辺のことはちゃんと一人でできるようだ。

 そう褒めてやると、ホタルも割かしまんざらでもないような顔をする。やっぱり根は誉めてもらいたがりの子供のようだ。


「洗濯機、動かしていい?」


 ひとしきり撫でてやると、ホタルはまた小さく口を動かした。


「おっ、洗濯機の動かし方もわかるのか?」


 少しわざとらしかったかもしれないが、大げさに驚いて見せる。実際に驚いたのは事実だ。俺が洗濯機の動かし方を知ったのなんか、一人暮らしを始めてからだ。

 だというのに、ホタルは俺が頷いてやると、脱いだ着替えを洗濯機の中に放り込んで、洗剤を入れて動かして見せる。いやはや恐れ入った。

 もう一度頭を撫でてやる。


「髪の毛、濡れている間に撫でたら、寝癖ひどくなる」


 ホタルもホタルでまんざらでもないような顔をしながらも、こうやって頭を撫でられて褒められるのも慣れてないのか、それとも少し子供っぽく恥ずかしいと思っているのか、そんな風に返してきた。


「大丈夫だ。髪の毛短ければ、そうそう寝ぐせにはならん」


「そういうもの?」


「そういうもんだ」


「なら、もう少し撫でていい」


いっちょ前に鼻を鳴らしやがる。


「こいつー」などと俺も言いながらわしゃわしゃと頭を撫でた。

 何だろう、子どもっていいなと思った瞬間だった。





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