わたしは……
「過ぎてみると、結構あっという間だったな」
二十日までの四日間預かってくれという指令も、もうすぐ終わる。
あとはホタルを朝一番の電車に乗せればいいだけだ。
俺たちは、待合室で電車が来るのを待っていた。
その間少しは思い出話に話を咲かせようとも思ったのだが、瞬く間に過ぎて行ってしまった日々をうまく言葉にすることもできず、結局ただ漠然としたことしか言えない。
「楽しかったか?」
「うん」
ただ、ホタルの頷きを聞くと何となく救われた。
「で、結局どうしてお前の母ちゃんががお前にホタルって名前つけたのか、わかったのか?」
「ぜんぜん」
「そうか、まぁ、そういうもんだよな」
そう笑ってやる。
「忘れ物ないか?」
「ない」
「終点の三次まで、一人で行けるか?」
「バカにしてる」
「はは、悪い。そうだな、ホタルは一人で行けるな」
冗談のつもりで言ってみたが意外にバカにされることは嫌がるらしい。すまんすまんと謝りながら、ホタルの抱えているカバンに、最初にもらった封筒を詰め込んだ。
「おじさんからのお小遣いだ。無駄遣いすんなよ」
「また、きてもいい?」
「あぁ、またこい。今度は百万とか用意してこなくていいから」
「ん」そう小さく頷いた。
「今度は、ブラックコーヒー飲めるようになる」
「楽しみだな」
そんな感じで談笑していると、ピンポンパンポンと駅内アナウンスが響く。
それを聞いたホタルは席を立った。
まるで台風のような四日間が、これでようやく終わる。
ただ、その前に……。
「なぁ、ホタル。お前の母ちゃんの名前、聞いてもいいか?」
「……それは、言っちゃだめって、言われた」
……そっか。
「それは仕方ないな。……母ちゃんは元気か?」
「元気だよ」
「そっか。それならまぁ、よかった。帰っても、元気でやれよ」
ホタルの頭をなでる。
「ばいばい」
そして俺に小さく手を振ったあと、ホタルはたったったっと、改札の向こうに駆けていった。ホタルが改札を通ると、間もなくして電車が到着した。
蛍は何度も立ち止まりながら、それでも振り返らないまま、電車に乗ってこの田舎を後にした。
人生というのは不思議なもので、人間として生きて行こうとすれば絶対に一人で生きていくことはできない。どれだけ一人になりたいと願っても必ずどこかでしがらみにひっかかって抜け出せなくなる。
だというのに、誰かとつながりたいと願っても、必ずつながれるわけじゃない。
結局人は、どっちつかずの半端ものにしか、なることはできないのかもしれない。
だからきっと、誰かの温もりというものが、時に恋しくなって仕方なくなることもある。
そういう時、以前の俺ならどうしただろうか。仕事でもして忙しさの中に身を投じて忘れる努力をしていたような気がする。
しかし最近は、ホタルの残していった墓を見るようになった。
『たかはしのぶおのはか』
石碑に当たる部分には、あいつが帰る直前に掘った俺の名前がある。
たまに誰かの温もりが恋しくなった時、俺はその石碑の裏を見る。そこに掘られた文字を見ると、ホタルの声が、再び聞こえるような気がするからだ。
『わたしはここにいるよ』




