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山本西凪は、普通に可愛い女性だった。

ただ、ちょっと口が悪くて、ツンデレなだけだ。

そこそこモテていたが、本人がショタコンなので、西凪を好きそうな男性は西凪に告白出来ずに、去って行くのが常だった。

小さい頃は、迷子にならないようにと南海が手を繋げば力いっぱい振り解き、一緒に遊ぼうと誘っても一人で何かやっているような子だった。

親には「一生反抗期」とか「お母さんのお腹の中に大事なモノを落としてきた」とか言われていた。

でも、南海が死んだ時号泣していたのを、南海は知っている。

南海にとっては可愛い妹だ。







「…………それが、聖女だなんて」


ミナリアは目を開けて、悲しんでいいのか再会を喜ぶべきか迷った。


「あ、お姉ちゃん気がついた?」


西凪の声に上半身を起こすと、ミナリアは小部屋のベッドに寝かされていたらしい事がわかった。

すぐ側に西凪とヴィンセントと騎士の男性が居た。


「良かったー。お姉ちゃん、ほんと神経細いよね」

「あのね、西凪ちゃん。わたしは普通だと思うの」


ヴィンセントがやや困った様に微笑む。


「大変申し訳ないのですが、ミナリア嬢と聖女殿は、姉妹だったという事でよろしいでしょうか?」

「前世でね」


西凪がヴィンセントを胡散臭げに見る。


「あたしは、なんだか神様みたいな人に、この国を助けてくれって言われて、気がついたらこの姿で神殿に居たのよ。だから、生まれ変わりじゃなくて、異世界トリップに近い気がする」


西凪がミナリアに説明してくれた。


「わたしは、十歳の時に前世を思い出したの。わたしの場合は、転生ね。今の名前はミナリアよ」

「ミナリアかー。呼び難いからお姉ちゃんでいいか」

「西凪ちゃんは、聖女、なの?」


ミナリアが恐々訊くと、西凪はあっさり頷いた。


「そう呼ばれてる」

「で、こちら、どなた?」


ミナリアが騎士の男性を示すと、西凪は首を傾げた。


「レオナルド。騎士で護衛、のはず」

「西凪ちゃん。そんな知り合いじゃないみたいな言い方して」

「お姉ちゃんこそ、この人確か宰相補佐官だよね?なんでこんな人と知り合いなの?」


西凪はヴィンセントを睨む様に見る。


「今日はデビュタントだったのよ。わたしも参加してて、補佐官様とはついさっき知り合ったばかりよ」

「お姉ちゃん、十五歳?!尾崎ね!」

「…………西凪ちゃん。この世界にバイクは無いから」

「それにこの宰相補佐官はお姉ちゃんの好みのまんまの男だよね!」

「そっ………!」

「ほう」

「………………」


西凪の爆弾発言に、ミナリアは真っ赤になり、ヴィンセントはにっこり笑った。

レオナルドはずっと西凪しか見ていない。

そろそろミナリアはレオナルドは西凪が好きなんだと気づきはじめたが、笑顔の美形を直視出来ずに、話題を変えた。


「あの、父には知らせて頂けたのでしょうか?」

「ええ。ザウアーラント侯爵には、ちゃんとお知らせしましたよ」


なんと父に説明しようかとミナリアが考えていた時、部屋の扉が勢いよく開けられた。


「ミナリア!!」


オスヴァルトが飛び付く様にミナリアの側に走って来て、ミナリアの手を取る。


「ああ、ミナリア。倒れたと聞いてわたしの胸は張り裂けそうだったよ。無事で良かった!」


オスヴァルトのミュージカル張りの言葉に、西凪が吹き出した。


「え、この人お姉ちゃんのお父さん?それにしても娘に対して言う台詞じゃないでしょう。この世界の人って、大袈裟ね」

「誰だね?君は」


オスヴァルトが目を細めて西凪を見る。

西凪ははんっと鼻で笑った。


「そう言えば、お姉ちゃんをどうにかしようとしてたあの下衆野郎はどうしたの?」

「な?!」

「………彼は、騎士団に引き渡しましたよ」


ヴィンセントが眉を寄せて答える。


「甘いわねー。ああいう下衆野郎は、あそこをちょん切って二度とそんな気が起きない様に躾ないと」

「西凪ちゃん、女の子がそういう事言ったら駄目」

「大丈夫ですよ。彼はこの後、生きている事を後悔する予定ですので」


にこやかにヴィンセントが言うと、西凪はにっこり笑った。


「あら、話のわかる人みたいね、宰相補佐官は」

「あの方は毎年頭痛の種だったのですよ。デビュタントのまだ男性のあしらい方がわからない女性に無体を働いていたので」

「そう。屑はどこでも社会の害悪ね」

「西凪ちゃん、怖い」


ミナリアはにこやかに話す西凪とヴィンセントにどん引く。


「話のわかる宰相補佐官に、お願いがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「あたし、お姉ちゃんにこの世界の事を色々教えてもらいたいわ。ほら、あたしこの世界に来てまだ三日で、よくわからない事が多いし」

「そうですね。聖女殿には教育係をつける予定でしたし、ミナリア嬢なら申し分ないですね」

「は?えぇ?!」

「やった!いい人ね、宰相補佐官は」

「サナ、こいつは腹黒だ」

「レオナルドは黙ってて」


やっと喋ったと思ったら、レオナルドは西凪にぴしゃりと言われて、また黙ってしまった。


「で?えっと、侯爵様?お姉ちゃん、ミナリア様をあたしの教育係としてお城に招きたいんですけど、いいですよね?」

「は!?この方が、聖女様?!」

「ああ、ザウアーラント侯爵。まだ公表はしていないので、この事は内密にお願いします」


オスヴァルトが驚愕に目を見開くと、ヴィンセントがいい笑顔で釘を刺した。


「え、ええ!もちろん!ミナリア、良かったな、光栄な事だぞ!」

「…………そうですね、お父様」


ミナリアは最早遠い目で返事をした。








それから、ミナリアは王城に部屋を用意されて、毎日西凪に色々と教える事となった。

部屋は、西凪のたっての願いで、西凪の部屋の隣の部屋を使う事になった。

聖女に用意された部屋と造りが同じというだけあって、ミナリアが宛がわれた部屋は広くて豪華だった。


(流石お城。部屋が無駄に広い)


城に越して来た日に、ヴィンセントがやって来て城の中を案内してくれた。

それは宰相補佐官の仕事ではないとミナリアが断ろうとすると、悲しげな顔をされたので、ミナリアは折れた。


(美形の悲しげな顔は兵器だわ!)


「侍女をつけますので、なんでも申し付けてください」

「あ、いえ、侍女はいらないです」

「…………聖女殿も、そう言ってましたね。しかし、女性の支度は手が掛かるかと」

「面倒なドレスを着なければ、自分でなんでも出来ますよ」


ヴィンセントが不思議そうな顔をするので、ミナリアは苦笑して説明をした。


「前の世界では、自分の事は自分でなんでもやってましたよ。それが当たり前でしたし。身分制度もなかったので、国民全員が同じような生活をしてました」

「皆が平等、という事ですか」

「ええ。まあ、全てが平等だった訳ではないですが、概ね一定水準の生活環境でした」

「それは………夢の様な国ですね」


ミナリアはそうだろうか?と首を傾げる。


「国や文化が違えば、思想も違うでしょうから、あの国が完璧とは思えないですね。色々と問題を抱えてましたし」


廊下を幾つか曲がった所で、ミナリアはハタと気付いた。


(ここ、何処?)


そこに、レオナルドを連れた西凪が現れて、ミナリアは思わず西凪に抱きついた。


「おおう?!お姉ちゃん、どうしたの?」

「西凪ちゃん、道が、わからない」

「……………宰相補佐官。お姉ちゃんは方向音痴なので、あんまり連れ回さないでもらえます?」


西凪が目を細めてヴィンセントを睨む。


「方向オンチ、とはなんでしょう?」


ヴィンセントとレオナルドが首を傾げる。


「え?!この世界の人って、方向音痴いないの?!」

「わたしは方向音痴よ!」


ミナリアはつい叫んでしまう。


「あー、方向音痴ってのは、道に迷い易い人を指して言う言葉ね。目的地に行くのに、右に進むところを左に進んだり、店から出たら、どっちから来たのか判らなくなっちゃう人」

「そんな事、あるのでしょうか?」

「えーとね、普通の人には分からない感覚らしいのよ。どうしてそっち行くの?!って人が方向音痴」

「はあ」

「迷子になり易いから、城の中の地図を貰うか、部屋から出る時は誰かに道案内してもらうかしてあげて」

「そうですか。城内の地図は渡せないので、誰か案内人を付けましょう」


にこやかにヴィンセントに言われて、ミナリアは眉を下げてお願いした。


「とりあえず、部屋に戻ろうか、お姉ちゃん」


西凪がミナリアの手を繋ぎ、歩き出す。

ヴィンセントとレオナルドが何故か微妙な顔でついて来た。








ミナリアの部屋に着いて、何故か四人で部屋に入った。

部屋に置いてある茶器で、ミナリアが紅茶を淹れて四人に配る。

ソファセットがあったので、四人はそこに座り、静かにお茶を飲んだ。

しかし、ヴィンセントがにこやかに話題を振ってくる。


「そういえば、ミナリア嬢の好みがわたしだというのは本当でしょうか?」


ミナリアはお茶を吹き出しそうになって、慌ててカップを口から離す。

西凪はチラリとミナリアを見て、首を傾げた。


「好みは好みでしょうけど、二次元の、という事ですが」

「ニジゲン?」

「ああ。えーと、物語の中の登場人物として、かな?現実としての好みは、あたしも知りません」

「はあ、なるほど」

「西凪ちゃん。他人のプライバシーを喋っちゃ駄目」


ミナリアは西凪を軽く睨む。


「えぇ?好みぐらい、いいじゃない。お姉ちゃんは眼鏡インテリヤンデレ萌えだったのよ。宰相補佐官はそれにぴったり当てはまるのよねぇ。声も、お姉ちゃんが大好きだった声優さんにそっくりだし」

「………確かに、声が似てる、かも」


ミナリアは真剣に前世で大好きだった二次元キャラを思い出していた。


「そういう西凪ちゃんは、ツンデレショタ萌えだったわね」

「そうよ。十八歳以上には興味ありません」


西凪がきっぱり言うと、レオナルドが動揺していた。

ミナリアはレオナルドが可哀想になって、西凪の情報をつけ足した。


「でも、現実に好きになる人は、無口で天然な人だったわね?」

「…………そうだった?」


西凪は少し頬を赤く染めて、そっぽを向く。

レオナルドはじっと西凪を見ていた。


(レオナルド、西凪ちゃんを口説くのは余所でやってね!)


ミナリアが視線を逸らした先で、ヴィンセントが微笑んでいたので、目が泳いでしまう。


「そういえばお姉ちゃん、勉強は苦手だったけど、今は?」


西凪がふと思い出して言う。


「う………今も、苦手よ、文学以外」

「えぇ?貴族って、色々面倒な勉強があるんじゃないの?」

「西凪ちゃん。わたしは、この世界でも落ちこぼれなのよ」


ミナリアが苦笑いすると、西凪は眉を寄せた。


「落ちこぼれって、貴族だったら、でしょ?そんなもの棄てればいいのよ。貴族って選民意識があるから嫌いだわ」

「貴族に生まれたから、仕方ないのよ」


肩を落とすミナリアを見て、西凪は少し考える。


「…………お姉ちゃん。薄い本、作らない?」

「は?」

「この世界ってさ、娯楽が少ないよね。いっそのこと、あたし達で作っちゃおうよ!」


西凪の言葉に、ミナリアは目から鱗が落ちる様だった。


「まずは手始めに、この二人で」

「却下!!」

「何故?!」

「ある程度遠い関係の人だったら、まだ想像出来るけど、近しい人は無理よ!」

「チッ。じゃあ、騎士団でも覗いてみるか」

「西凪ちゃん、女の子が舌打ちしたら駄目よ」


レオナルドがここぞとばかりに、西凪の手を取る。


「サナ。騎士団を見学するのか?」


西凪は思い切り手を振り解き、しかしにっこり笑った。


「そう。お姉ちゃんと見に行くから」

「わかった。申請しておこう」


レオナルドは気にせずに、もう一度西凪の手を取るが、また振り解かれていた。


読んで頂きありがとうございました。

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