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お久しぶりです。


インフルからの期末業務、からの人事異動。

春って色々と大変です。

訓練場から、騎士がいなくなった。


「………………」

「…………帰る?」

「そうね」


ミナリアは肩を落として首を振った。

帰ろうかと振り返ると、赤色の騎士服を着た人達が入って来た。


「ん?あれ?」

「あの人達はレオナルド様と別の隊の人達よ」


ミナリアが西凪に説明すると、西凪は頷いた。


「なるほどー。第二隊が黒で、あれは?」

「赤は第一隊だ」


西凪の質問にレオナルドが答える。


「へーえ。第一っていうのは、優秀だってこと?」

「えっと、身分?」

「…………はっ」


ミナリアがやや目を反らして言うと、西凪は鼻で笑った。


第一隊の騎士達は、ミナリア達には目もくれず、模擬剣を持って訓練を始めた。

第一隊も揃って顔が良い男性ばかりだ。


「帰ろうか」


西凪が興味を無くしたのか、騎士達に背を向けた。

その時。

ズズンと、地響きがした。

揺れる地面に、ミナリアはよろける。

すかさず西凪がミナリアを支えた。


「地震?」

「え?!地震なんて、わたしが生まれてから一度もないわよ?」

「え?じゃあ、これ、何?」


地響きは続いている。

レオナルドは第一隊の隊長らしき男性の方へ走って行く。

レオナルドと赤茶色の髪の男性が、周りの騎士達に指示を出す。


「………ミナリア嬢」

「ひゃう?!」


突然声を掛けられて、ミナリアは変な声を出してしまった。

振り返ると、ヴィンセントが立っていた。


「宰相補佐官様」

「補佐官、あんた、これなんだかわかる?」

「今、調べさせてます」


ヴィンセントは眉を寄せて言う。

そのヴィンセントに青年が走って近づいて来た。


「補佐官殿!大変です!」

「なんですか?」

「ま、魔物が!」

「魔物?」


そこに、ひときわ大きな音を立てて、訓練場の外壁が崩れた。

その崩れた壁の外に、黒く大きな牛の様な生き物がいた。

それは、真っ赤な目をギョロリとさせて、訓練場の中を見回す。

突き出た鼻からは、黒い息が出ている。

大きさは、二階建て一軒分くらいあった。

ミナリアは驚きで体が固まってしまった。


「…………補佐官、お姉ちゃんをお願い」

「はい」


西凪がミナリアをヴィンセントに預ける。

ヴィンセントはそっとミナリアを抱き支えた。


「あたしが行く」

「っ!?西凪ちゃん!?」

「大丈夫」


慌てて止めようとしたミナリアに、西凪は笑った。

そして、ヴィンセントに鋭い視線を投げる。


「お姉ちゃんに傷をつけたら、わかってるでしょうね?」

「ええ。ちゃんとお守りします」


魔物は壁を壊して訓練場に入り込んで来ていた。

赤い騎士服を見て、鼻息が荒くなる。


「…………牛?」

「牛だったら食べるのにねぇ」


魔物が足踏みすると、壁が崩れてくるし、土埃がたつ。

ミナリアは降ってくる壁石に、頭を庇ったが、何故か当たらなかった。

見上げると、透明な壁に石が当たって落ちていく。


「え?」

「魔法で氷の壁を作りました」


ヴィンセントがにっこり微笑む。

ミナリアは状況を忘れて頬を染める。


「レオナルド!お姉ちゃんと補佐官をよろしく!」

「サナ?!」


西凪は揺れる地面を気にせずに、魔物に向かって走り出した。

魔物は赤い騎士服を追い掛けている。

その魔物の足下に、西凪は走り込んで、後ろ右脚に回し蹴りを入れた。

バランスを崩した魔物が、ズズンと音を立てて尻を着く。

そのまま西凪は飛び上がり、魔物の右側頭部に膝蹴りを入れた。

真っ赤な目が西凪を認識した途端に、魔物の躰が傾き、ドスン!と地面に横に倒れた。


「えぇぇ?!」


ミナリアは思わず叫び声をあげた。


すかさず西凪は魔物に手を当てると、魔物が白く氷っていく。

完全に魔物が氷漬けになり、一瞬辺りが静かになった。

そして、わっ!と歓声があがる。

喧騒の中、西凪は歩いてミナリア達の近くへ戻って来た。

ミナリアが西凪に走り寄ろうとして、氷の壁に顔面をぶつけると、西凪とヴィンセントが慌てた。


「お姉ちゃん?!」

「ミナリア嬢!」


ヴィンセントが氷の壁を消し、西凪が走ってミナリアを抱きしめ、顔を覗き込む。


「いったぁ」

「ちょっ、お姉ちゃん大丈夫?」

「平気。ちょっと鼻ぶつけただけ」


ミナリアは自分の鼻を指でさする。

西凪はキッとヴィンセントを睨む。

しかし、何やらぐっと堪えた。


「まあ、今回は不問にするわ。お姉ちゃんが粗忽(そこつ)なのは昔からだし」

「西凪ちゃん、ひどい」

「サナ!無茶はするなとあれほど………!」


レオナルドが珍しく西凪に声を荒らげる。

西凪は顔をしかめてレオナルドを見る。


「あたしのことはいいから、あのうるさい騎士達をどうにかしろ」

「…………くっ」


レオナルドは騒いでいる騎士達を振り向くと、そちらに向かって歩いて行った。

ミナリアも西凪の体を見回して、怪我が無いか確かめた。

そして、どこも怪我が無いとわかり、ホッと胸を撫で下ろす。

西凪はヴィンセントに目をやる。


「補佐官。これは、異常事態と思っていいの?」

「………あっ!」

「ええ、そうですね」


ミナリアは目を丸くして、ヴィンセントは眉を寄せて頷いた。


「魔物の大量発生の、前兆かもしれません」

「そう。…………あの魔物が何処から来たのか、調べている?」

「はい、もちろん」

「じゃあ、後で聞かせて。お姉ちゃん、部屋に帰るよ」

「あ、うん」


西凪はミナリアの手を取り、歩き出す。

それに、ヴィンセントがついて来た。

ミナリアは状況についていけず、西凪とヴィンセントを交互に見る。

ヴィンセントはミナリアの視線に気づくと、にっこり微笑んだ。

ミナリアは、またもや頬を染めて、視線を反らした。

西凪はヴィンセントを睨み、足を速める。


「ついて来るなよ、補佐官」

「部屋までお送りしますよ」

「いらねぇよ」

「西凪ちゃん、言葉遣い」

「わたしは気にしませんよ、ミナリア嬢」

「あたしは誰がなんと言おうと、言葉遣いを変えるつもりはないけど。それより、なんであそこに来た?」


西凪の問いに、ヴィンセントはやや目を細めた。


「…………正直に答えた方が、聖女殿の不安は無くなりますか?」

「…………あたしの考えがわかるって言うなら、ね。でも、その場合は、あんたを変態と認識するけど」

「ミナリア嬢が心配だったので」

「へ?!」


ヴィンセントの言葉に、ミナリアは変な声を出してしまう。

西凪は足を止めずに、ヴィンセントを横目で見て、鼻で笑った。


「あらあら。意外と余裕が無いのね」

「余裕などありませんよ。なにせ、相手にされてませんので」

「遠回しな言い方は通じないわよ。まあ、直接的に言ったら、逃げられるかもしれないけど」

「なるほど。加減が難しいですね」

「当たり前でしょ。その後に、あたしが控えてるから」

「それは手強いですね」


ミナリアは二人のやり取りが理解出来ずに、首を傾げた。


「ええ?いつの間に仲良くなったの?」

(ちげ)ーよ」

「違います」


二人に否定されて、ミナリアはますます首を傾げた。


「ま、あれよね。あんた、お貴族様だから、身分とか世間体とか体裁とかごちゃごちゃ考えてるんでしょうけど、そんなのクソくらえと思う。そんな事考える時点で、本気じゃないのよ」


ミナリアは西凪の横顔を見つめた。


「ええ?!西凪ちゃんが、恋愛を語ってる?!」

「…………お姉ちゃん。あたし、一応初恋もとっくに過ぎてますが、なにか」

「ええ?!いつ?!誰?!」


西凪は軽く溜め息を吐いて、少し歩調を緩めた。


「あの魔物、目的があったと思う?」

「……………いきなり話題を変えますか。そうですね、目的、はなかったかと。基本的に魔物はあまり知性が無いので」


ヴィンセントの説明に、西凪は眉を寄せる。


「その割には、赤い物に反応してたね。あれって、知性はあるでしょ。知性が無いってのは、もっと無差別に襲ってくるわよ」

「ゾンビみたいに?」


ミナリアの言葉に、西凪は頷く。


「ゾンビは知性が無いって設定で、熱や動くものに反応して生物を襲う。あれは、色を識別してた。知性がある証拠」

「ゾンビなるものがわかりませんが、聖女殿のおっしゃる事は一理ありますね。しかし、そうなると、目的がわかりません」

「そこを調べるのが、あんた達の仕事でしょ」


話しているうちに、部屋の前まで着いた。

ミナリアはとりあえずヴィンセントに頭を下げる。


「補佐官様、お送り頂きありがとうございました」

「…………いえ」

「ぷふぅ。だから、ダメだって言ってるのに」


苦笑いするヴィンセントに、西凪は横を向いて笑う。

ミナリアは西凪を見て、眉を上げた。


「西凪ちゃん。お世話になっている人に、その態度は失礼よ」

「…………はーい」


姉に怒られて、西凪は大人しく頭を下げた。


「ごめんなさい」

「いえ、わたしもつい対抗心が出てしまいました」


苦笑するヴィンセントに、ミナリアは首を傾げた。


「対抗心?誰に対してですか?」

「え?!まだわかんないの?!」


西凪が目を丸くした後、何故かヴィンセントに謝る。


「ごめん、お姉ちゃんが鈍過ぎて」

「…………聖女殿のおっしゃる通り、はっきりと言葉にした方が良かったですね」

「そうみたい。もう、いいわ。告白するのは許容してあげる」


西凪は疲れた様に言うと、ミナリアを置いて部屋に入ってしまった。


「え?西凪ちゃん?」


(どういうこと?わたしには、何がなんなのか、わからないんだけど)


「ミナリア嬢」

「はい?」


西凪が消えた扉を見ていたら、ヴィンセントに呼ばれて、ミナリアは振り向いた。

真剣な表情のヴィンセントを見てしまい、ミナリアは息をのむ。


(え?何か、怒られる?)


ミナリアはあまりに真面目な顔のヴィンセントに、一歩後ずさる。

そのミナリアの左手を取り、ヴィンセントが腰を落とし床に片膝をついた。


「え?」

「ミナリア嬢。ずっとお慕いしてます。わたしと婚約して頂けますか?」

「は?………え?えぇ?!」


ミナリアは真っ赤になって、慌てた。


(何故?!どうしてこうなった?!)


訳がわからず、混乱して、ついにミナリアは泣き出した。


「ミナリア嬢?!」

「………っふ、うぅ………」


異変に気づいた西凪が扉を開けて、泣いているミナリアを見て、ヴィンセントを睨み付けた。


「アウト!!」

「え?」

「あっ、西凪ちゃん、その………」


ヴィンセントが驚いて固まっている間に、西凪はミナリアを部屋の中に押し込み、ヴィンセントの目の前で扉を思い切り閉めた。


読んで頂き、ありがとうございました。

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