第2話 自称:神様
俺は心拍数が上がったままの心臓を鎮めようと電車の中で深呼吸していた。サビ残した上に休日出社だったので23時の電車内はほぼ空。一両に1人乗っているかも怪しいくらいだ。
降りるべき駅がもうすぐだということをどこか機械的にも聞こえるアナウンスに言われ、降りるために定期入れを鞄から出す。
終点の駅で降りて改札を出ると、いつの間にか小雨が降っていたことに気付いた。といってもこれは十分予測がついた。今朝の情報番組でみた天気図、梅雨入りは今日か明日だと言われていたし、それは俺の予想とも重なる。……そもそも折り畳み傘はいつでも鞄のそこにあるのでゲリラ豪雨でもある程度対応できる。
「この俺に抜かりはないわ!!」と俺は深夜帯の住宅地に配慮した大きさで高笑いとともに家路を歩く。
最近できたばっかりのような見た目を保ちながらも実際は築20年弱という年齢詐称系アパートの201に俺の家はあった。ワンルームの風呂、クーラー、小さい冷蔵庫つきの部屋で、家賃は都市部にあるまじき2万円。見つけられたのはかなり幸運だったと思う。
明日は幸い休日。俺はベッドに倒れこんだまま、眠りについた。
「だーははははははははは!!」
バカでかい音量の高笑いのせいで俺は痙攣したみたいな動きで目を覚ました。眼前に広がるのは一面の闇。声の主は俺の真横で不敵な笑みを浮かべていて、目が合った瞬間俺は「なんだこいつ気持ちわるっ」という言葉が脳みそ引き出しから飛び出てしまった。
そいつはTシャツに白いジャケット、下はデニムパンツに裸足という簡素な服装だった。周り一面インクでベタ塗りしたみたいな真っ黒な場所で、そいつは本当に浮いて見えた。
「誰なんですかあなた!いきなり耳元で笑って起こさないでくださいよ!」
眉間にしわを寄せて抗議したのだが、そいつは態度をまったくと言っていいほど変えない。
何処かこちらを見下しているようなその態度に、俺は苛立ちを隠せそうになかった。
「私か?私は……神だ!」
清々しいほどのしたり顔。俺はここまで顔面右ストレートを放ちたいと思った顔を初めて見た。
「はははぁ……まだわかってないようだな。この状況を」
『当たり前だろ!こんなのわかる方がおかしいわ!!』と俺は心の中で毒づいてみる。
「だから世界の創造神である私が直々に教えてやる!感謝しろ!ふぅわぁーはは!あーはははははは!」
神様とやらはまた高笑いを始めるので、俺は呆れるしかなかった。」