09 ヒント1
ロランが取り出した小さな紙片は、手のひらくらいの大きさの四角い紙で、割と新しい。中央には、交易共通でヒントが書かれている。
【大きな長靴 踵が破けて ジャブジャブびしょ濡れ】
ロランが読み上げると、タルトはあからさまに嫌そうに顔をしかめた。
「水濡れ、嫌……」
嫌いなものに関しては顔にはっきりと出る子だな、とグレンは苦笑した。常日頃振り回されるユズは親方と一緒だと、不思議とまだまともに思えるのだから、多少は気を落ち着かせられる。そんな余裕の表れもあり、一番姿が幼いタルトの様子をなんとなく見ることができた。
同じエルフの血を感じるからかもしれない。外見で判断するに、成人前だろうか? それくらいに華奢で小さなタルトを、同族としてどこか放っておけない気持ちにさせられる。
「これが、ヒント? あ、よくある推理ものの真似して、この紙濡らしてみる?」
「まあ待てって。それで意味なかったらどうする」
良く見せてもらってもいいか? と親方がロランから紙片を受け取ると、光に透かせたりひっくり返したりして、他に何かないか探している。ユズが身を乗り出すようにして見つめているが、うむむ、と唸るだけで何かが見つけられた様子もない。
隣に座っていたタルトも、なんとなくその紙を見つめていると、不意に視線を鋭くした。
「……これ、本当に本物?」
「ほ、本当だって」
「誰から、貰ったの?」
「ある人からもらったんだ」
「ある人? って、誰?」
「その人が誰だかは、言えないけど。でも! 信頼できる人だから!」
「騙されてるんじゃ?」
「ううん、それは大丈夫。大丈夫だから、これを解いた先に、宝があるのは、間違いないから」
「どうだか」
タルトの急な冷たい反応と、やや頬を赤らめて言葉を返すロランの様子に、おや? と親方は首を傾げた。
ユズもグレンも、僅かに目を見張ってタルトを見つめている。
「どうした嬢ちゃん」
「だって、この紙新しい。黄ばんでない、真っ白な紙。ちょっとよれてるけど、使われて? 開けられてから、そんなに日は経ってない」
タルトの言葉に四人は思わず息をのんだ。
いち早く立ち直った親方が紙片へと視線を戻すと、言われてみれば確かに、と思う部分はある。
リッタに頼んで依頼票を持ってきてもらう。古いものから順に紙を当てていくと、なるほど。最近使用されたものと同じくらいに紙片は白い。
「あと、字。綺麗なお手本みたいな字。だけど、流れるような字体。慣れてる人が書いた字。でも、丸くなってる部分があるから、たぶん、女の人が書いた字」
ここ、と示されたジャブジャブと言う言葉。やや丸みを帯びているその言葉に、そうかもしれないと頷きかけた親方は、ふと嫌な予感がした。
「なあ嬢ちゃん」
「何?」
「どうしてそんなことが分かるんだ?」
「早足とお母さんに教わった。お父さんが女遊びをしている証拠になるから、覚えておくと便利」
「あいつら嬢ちゃんになんてことを教えてやがる!」
早足、お前だけは許さない。悪乗りして教えたのが目に見えてわかるからこそ、絶対に許さない。
ぐしゃりと潰し掛けた紙片を慌ててロランに付き返した親方は、今はいない元仲間とまた出会えたら絶対殴ると心に誓った。
「いやはや、怖いねぇタルトちゃんの推理。……で、正答率の方はどんな感じ?」
大きく息をつく親方に、少し怯えた様子のロラン。そんな様子を気にもせず、ユズはお道化た様子で尋ねると、女の子からもらったのは当たってる、とぽつりと漏らした。
「ふむふむ? ほほーう?」
「ユズ、貴女悪い顔していますよ」
「だって、ねえ。むふふふふ」
含み笑いをして気持ち悪いですよ、と辛辣なグレンの言葉も何のその。ユズはにやにや笑いながら口元に手を当てて、生暖かい目でロランを見つめた。
無駄骨、無駄足、嫌。とさも嫌そうに顔をしかめるタルトに、まあまあと口を挟む。
「仕方ないわよぅ。気になる相手から、ってことならまあねぇ。罠でも掛かってあげるのが男の子だってものよねぇ。んふふふ」
「ななななな! 何を言ってるんだって」
「はいはーい、いたいけな少年をからかうのはそこまで。出発前にお姉さんがいいものあげるから、そこまでにしてあげて」
「なんで?」
「あは。からかってるのは主にアタシだけど。で、いいものって?」
リッタは苦笑しながら、青い水晶の欠片のペンダントをユズに手渡した。
「これは?」
「それは、この〈水晶の欠片亭〉の冒険者である証」
タルトがハッとしたように己のペンダントを握ると、それと同じものよ、とリッタは笑った。
「本当は、何度か依頼を無事にやりとげた冒険者にしか渡さないんだけど。でも、今回の依頼には必要そうだから渡しておくわ」
タルトちゃんは持っているから、親方と兼用にしてね。と、いそいそと首からかけるユズを手伝いながらそう告げた。
「もし、所持金がないときにお金が必要になったら、これを見せて〈水晶の欠片亭〉のツケにしてもらうといいわ」
「えっ、いいの?」
「構わないわ。後で報酬から天引きするだけだから」
「デ、デスヨネー!」
「しかし、何故、急にこのようなものを?」
グレンの恐縮しながらの質問に、リッタは苦笑しながら地図を取り出して広げて見せた。ほら見て、と水路が細かく書かれた地図を指さす。
「カナリスの街には水路が縦横に走っているから、水路を〈水鳥〉…ゴンドラに乗って移動する方が、歩いて移動するよりもずっと早くに目的地に着けるの」
「ああ、だからですか」
「今回みたいな時間制限があるのには、うってつけってことだな」
「そういうこと。でもって、貴方たちのお財布事情的に、必要でしょう?」
ぱちん、とウインクをしたリッタに、財布の中身が寂しいことになっている各々は僅かに顔を伏せた。
「頭、あがらない」
「女将様々だわー」
「本当に、お恥ずかしい限りです」
「リッタ、いい女になったなぁ」
親方の言葉には、今更気付いたの? と茶化して返すと、リッタは満面の笑みで手を打った。
「そういうことだから、無事に達成してちょうだいね!」
各々が返事を返すと、ロランが慌てたように立ち上がって、ぺこりと大きく頭を下げた。
「それじゃ、あの。今日一日、よろしくおねがいします!」
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますね」
「宝探し、見つかるといいね」
「馬鹿だなぁ、嬢ちゃん。そこは見つけるぞ、だろ」
「ふふっ、そうだよ! ぜったい見つけるぞー!」
おー! と元気よく拳を掲げるユズに、遅れて拳を上げるロラン。呆れた様子で見つめるタルトとグレンに、苦笑する親方。
はてさて、このパーティはどのように依頼を達成できるのか。
帰ってきたらしっかりと話を聞かなくちゃ、とリッタは笑顔で彼らの背中を見送った。
GM:って、ことで君たちはこれから出発するわけだけど。
これから探索パートになる。ここまでが導入だよ、ビックリの長さだよ
親方:実際はもっと長くなるんだろうがなー
ユズ:しかも、ここからが本番、っていうねー
GM:ここからの誘導も難しいんだけどねぇ。謎解き、リアルに頭使うし
ま、とりあえず、今日はここまで。
おつかれさまでした!次回お楽しみに!




