08 宝探し
「あ、そう言えば自己紹介が未だだったね。アタシはユズ。で、こっちがグレンさん」
「キルヒア神官のグレンと申します。巡礼中のプリーストですが、多少の力にはなれるかと」
「陰険エルフだけどいひゃいいひゃい! グレンひゃんいひゃいー!」
「お馬鹿な言動が目立つ小娘ですが、フェンサーとしての腕は確かです。多少のことは目を瞑って頂けますと……!」
「グレンひゃーんっ!」
少女……ユズの頬を遠慮なく引っ張るエルフの神官、グレン。出会った時もこんな漫才じみたやり取りをしていたな、なんてことを思いながら、親方は落ち着くまで見守っていた。
突拍子もない言動に目が行きがちだが、ユズはその容姿も少し変わっているように見える。首元で綺麗に切りそろえられた艶やかな黒髪。興味深そうにあちこちに視線が行く瞳は茶色掛かった黒。小柄な体躯は茶色のローブに隠されているが、華奢な腕がバタバタとせわしなく動いている。その肌の色は白ではなく、象牙色のように黄色掛かっていて、グレンの傍にいるとソレが余計に際立って見える。
グレン自身は、よく見れば美丈夫であるのに、ユズに振り回されて漂う疲労の色が濃く、疲れたエルフとしての印象の方が強くなっている。
ふう、と大きくため息をついたグレンが一息つくのを待ってから、親方は口を開いた。
「俺は、見ての通り斧使いのドワーフだ。親方って呼ばれている。で、こっちの嬢ちゃんがタルト」
「真語魔法と、操霊魔法、ちょっとだけ使える」
「おお! すごーい、ドワーフだって! ていうか、何タルトちゃん魔女っ子なの? 魔女っ子タルトなの? 変身とかしちゃうの?」
「お黙りなさい」
「いった! 女の子の頭叩くなんて! グレンさん最低ですよ最低!」
タルトのさも嫌そうな顔に、グレンは即座にユズの頭を叩いて黙らせた……つもりだった。が、ユズの言葉は止まることなく続いている。簡単には終わりそうもない不毛な言葉のやり取りに、何度目かわからないため息をグレンは飲み込んだ。
目を白黒させていたロランに、親方はまあ気にするなと軽く言葉を掛けてから、小さく咳払いをした。不思議とユズの言葉がピタリと止まり、親方の言葉を待っている。
「そんじゃ、その”やらなくちゃならないこと”を教えてもらえるか?」
「あ、う、うん」
ぽかんとやりとりを見守っていたロランは、戸惑ったように言葉を探していた。その様子を見て、タルトはこてんと首を傾げる。
「指輪探し、じゃないの?」
「えぇと、指輪探しと言うか、今日は宝探しをしようと思ってるんだ」
「宝探し?」
「そいつはロマンだねぇ」
「分かる、めっちゃ浪漫だわ」
指輪はいいの? としきりに首を傾げるタルトとは対照的に、親方とユズは宝探しと言う響きにロマンを感じているらしい。頬を緩めて頷いている。
「本当は、ボク一人でも大丈夫だって言ったんだけど、シムニスさんがどうしてもっていうから。まあ、頼りにさせてもらうね」
「その、宝探し、と言うのは一体どのようなものなのでしょうか? この街の外まで範囲が広がりますか?」
「ううん、この街の中。……三百年前に滅んだイズマル王国に関係のある宝物で、この街のどこかに隠されているはずなんだ」
「ほう?」
「でもなんでロラン君が三百年前の宝物を? もしかして、ストーカーたちはソレと関係があったり?」
「まあ、ちょっと、ね」
ぼやかすロランに、ユズはふむふむ、と勝手に頭の中でストーリーを組み立てて納得したらしい。それ以上深くは聞かなかった。
突っ込まれなかったことにほっと息をついたロランは、言葉を選ぶようにしてゆっくりと口を開く。
「その宝物は、今日の二十一時までしか手に入らないんだ」
「それはまた限定的だな」
「それは、その。宝物の隠し場所の扉が、その時間までしか空いてないから、かな。だ、だから! とにかく、今日までにどうしても探し出さなければいけないんだ」
「あやふや情報」
「ま、そんなもんって言ったらそんなもんだけどさ」
断片的な情報から驚くべき結果を導き出す。それが宝探しの浪漫ってもんだろう、と親方が力強く言い切ると、だよねぇとユズも大きく頷いていた。
案外似た者同士なのかもしれませんね、とグレンは己の心を落ち着かせるために、ただ黙って見守っていることにした。
「で、坊主。宝物があるって確証は?」
「ある。それは間違いない」
「ほう? そう言える根拠は?」
「宝物が隠されている場所は、はっきりと分からないけれど、でも。ここに隠し場所への手がかりが書かれた紙があるんだ。これを解読すれば、きっとたどり着ける」
ロランは折りたたまれた紙片を静かに取り出した。強く握りしめていたのか、少しよれてはいるが、真新しい紙である。
三人の視線が紙に向かう中、タルトは古典と首を傾げたまま、ロランに問う。
「昨日の指輪は、いいの?」
しきりに指輪を気にするタルトに、ロランは少し気まずそうにしながら実は、と口を開いた。
「昨日落とした指輪は、宝物の隠し場所に入るためのものだったものだったらしいんだ。ただ、指輪がなくても、少し危険だけど入ることはできるみたいだから。まあ、きっと、なんとかなるよ」
「大切なものじゃ、ないの?」
「嬢ちゃん、そう言ってやるな。きっと優先順位が違うんだ。指輪には時間制限はないが、宝は時間制限がある。だから優先するのはどっちか分かるだろう?」
「そうそう、今日までのリミットなら、焦る気持ちも分からなくもないもんねー。アタシも宿題の提出期限近いのが重なるとめっちゃ優先順位付けたもん」
軽く流す親方とユズに釈然としないものを感じるのか、少し頬を膨らませるタルト。その様子を静かに眺めていたグレンは、そっと言葉を滑らせた。
「タルトさんが気になるのでしたら、宝探しをしながら、並行して指輪も探せばいいのでは?」
「あ、そうよね! そうすれば一石二鳥的な? さっすがグレンさん、あったまいい!」
その発言は頭の悪さを露呈させていますよ、としれっと流したグレン。だが、タルトは静かに投げかけられた言葉にそれもそうか、と黙って小さく頷いた。
いい傾向かもしれない。
そんなことを思いながらも、我が道を行く親方はロランに一番気になっていたことを尋ねた。
「んで、宝ってのは、どんなもんなんだ? 山分け可能か?」
「現金化可能? 一攫千金狙える?」
「いや、それはちょっと……。唯一だし、他の人には、あげたくない」
「ええと? 一個だけってこと? それならヒントを持ってるロラン君のものになるのも、仕方がないのかもしれないけど……」
「ま、そういうことなら、今回は報酬の五百ガメルを確実に手に入れられたらいいさ」
親方とユズの勢いに気圧されながらも答えるロラン。その様子と言葉に、タルトは小さく首を傾げた。
(言い方が、何か、引っかかるけど)
どことなくスッキリしないものを感じながらも、親方の言う通りにお金の方が今は大事である。もやもやとしたものを胸の内に抱えながらも、タルトはきゅっと口をつぐんだ。




