44 エピローグ
石で組み上げられた岸壁が続いている間を、舟はゆっくりと進む。水路が湖へ注ぎ込む当たりの岸壁には、数人の男たちがいて、のんびりと湖に釣り糸を垂らしているのが見えた。ユズが大きく手を振ると、小さく手を振り返してくれる釣り人もいた。
ゆっくりと岸に船を寄せられ、一人ずつ降りて行くと、陸上に足がついたことに安心したタルトが大きく息をついた。
夕日に照らされた石畳、道の脇を走る細い水路。東側には旧市街へとつながる道。
タルトと親方が、ロランに初めて出会った場所であった。
「ねえ、本当にいいの?」
「きっかけだし、気になってた。でも、時間気にしてたから」
「他でもないタルトちゃんがそう言ってるんだし、ね? 気にしない気にしない!」
「そう言うこった。完全に暗くなる前に探しちまおうぜ」
さて、と水路を覗き込むものの、ある程度の深さがあるのが分かるので、底までは見えない。水路に入る他ないのだろうか、と考えたところで採るべき選択肢は一つしかないとグレンは気付く。
「水深が深いところは私が行きましょうか」
「あ、グレンさん、上着持つよ」
音を立てずにゆっくりと水の中へとその身を沈めるグレンを見守りつつ、一行はゆっくりと辺りを見渡した。水辺が苦手なタルトは、親方と手をつなぎながら道端を往復し、グレンが心配なユズは身を乗り出しつつも水路を覗き込む。ロランはユズが落ちないように必死で掴みとめていた。
水中をゆっくりと移動するグレンは、小魚が多くいることに気付く。刺激しないようにゆっくりと動くも、ぱっと散ってしまう。ゆらゆらと、何か小さな塊が揺れ動いているのが見える。釣り人が多くいたことから、あれがきっと釣り糸なのだろう。
ゆるやかな流れの中、ぐるりと見渡しても指輪らしきものは見つからない。底には浅く泥が積もっているも、さらさらと流れている様子を見ればその中に隠れていることはなさそうだ。
いくら探しても指輪は見つかりそうもない、と判断して、グレンは水上へと顔を出した。
「あ、グレンさんあった!?」
「……いいえ、この辺りにはなさそうです」
「そ、そんなあ……」
がっくりと項垂れたロランだったが、ふと、対岸の男が手を振っていることに気付いた。顔を挙げて目を合わせると、口元に手を当てて、男がなにやら叫んでくる。
「おーい、おまえたちなにしてるんだー?」
「指輪が探してるのー! おっちゃん釣ってないー?」
「釣ってねぇぞー。というか、それならたぶん探しても見つからねぇぞ? カラスナマズに食われたんだろうからなー」
「カラスナマズ?」
聞き覚えのない言葉にユズとロランは顔を見合わせて、とりあえず判断できるまともな大人たちを連れて話を聞きに行こうと、グレンや親方を伴って男の元へと移動するのであった。
釣り糸を垂らした男は、突然大人数で推し掛けたことを気にするでもなく、気楽に応えた。
「この辺りの水路に住み着いている大型のナマズだよ。虹玉虫っつー虹色の殻をもつ虫が大好物で、光物はなんでも食っちまうんだ。案外、腹の中から出てくるかもなー」
「光物反応、だからカラス。でも、ナマズ?」
「おっちゃん今日は釣ってないの?」
「俺の狙いは別だしな。それにエサが違うから釣ってねぇよ」
「……虹玉虫で、釣れるって言ってたな?」
「おう。なんだ、釣る気か?」
親方が考え込むように呟くと、釣り人の男は心持ち嬉しそうに反応した。
「それなら俺んち近くだから人数分の竿貸してやるよ。釣り人増えるのは大歓迎だしな」
「えっ、いいの!?」
「もちろんだ! ま、エサは自分で探してこい。湖岸の石の下なんかにいるからな」
「いやったー! 時間までナマズ釣りだー!」
「や、ったー?」
喜ぶところはそこ? とロランは不思議そうに首を傾げたが、釣り人に丁寧に教えてもらったユズはホクホク顔で喜んだ。
その後、釣り人から竿を四本借り(ロランとタルトで兼用である)、湖岸まで移動した一行は、石がごろごろと転がっている浅瀬まで降りて行った。もちろん、タルトは親方に背負われながらという徹底ぶりである。
「まず、虫取り」
「そだね! 虹玉虫? だっけ? 石の裏にいるんだよね? そぉれっ!」
「おいおい、もっと慎重に」
「ほいっ! 一匹ゲットー!」
「マヂでか」
それでいいのか、虹玉虫。
親方は天を仰いで、思わずそう呟いた。そう呟いてしまうくらいに、ユズの荒業でも次々と捕まえられていた。
「とりあえず、これくらいでいいのでは?」
「ひのふの……ええと、八匹かな?」
「てことは、一人二回くらいはできるね!」
豪快なユズは三匹、慎重なグレンが五匹としたところで虹玉虫を捕まえる手を止めた。
即席虫かごとして代用した厚手の布袋の口をしっかり握りしめたロランが、どこか期待した表情で親方を見上げる。その表情を苦笑しながら見返して、親方はそれぞれの竿先に虹玉虫を付けてやった。
「ふっ、ふっ、ふっー! 野伏技能で鍛えられたこの器用さに、カラスナマズなんか、このユズちゃんが速攻で釣ってくれるわー!」
「そう言って調子に乗ると……いえ、いいですもう」
「あっ、逃げた……」
「あーあ、ユズ姉さんが大声出すから」
「えっ、ご、ごめん。お、大人しくしてマース」
ユズが騒いだのが原因だったのかは分からないが、タルトとロランが一回失敗したのを除けば、カラスナマズは順調に釣れた。虹玉虫が好物と周知されるだけあり、面白いように食いついてきたのだった。
全部で七匹釣れたカラスナマズを前に、それぞれが剥ぎ取りナイフを手に真剣な表情で、そのぷりんとした腹を見つめた。
「無事にあればいいんだがな」
「ん」
「指輪こい、指輪こい!」
「では、あることを願って」
すっと、腹先に刃先をいれる。タルトに任せたロランはハラハラとした様子で見守っていた。
かちり、と何か硬いものが当たった音がどこからか聞こえる。
「……ない」
「うう、二匹ともスカ」
項垂れるタルトとユズの言葉に反応することなく、親方とグレンはゆっくりと刃先を滑らせた。すでに捌かれた一匹目には目もくれず、でろりと流れた水と一緒にそれが流れ出てこないか、真剣な目つきで見つめている。
「親方さん、グレンさん……」
解体用ナイフを置き、そっと腹をめくる。震える指先を入れ、ソレに触れた。ゆっくりと引き出す。
誰かがごくりと喉を鳴らした音が、やけに大きく聞こえた気がした。
「……耳飾り、でした」
「お、親方さんの方は……!」
「銀色の指輪」
「ロラン、これ!?」
「……ううん。あれは、緑色の宝石がついてたから」
摘まんで見せられたそれに、緑色の宝石はついてはいない。
落胆の色を隠せずに、それでいて悔しさをにじませた視線で見られた親方は、苦笑を漏らした。
「親方、意地悪よくない」
「……なんで嬢ちゃんにはバレるんだろうなぁ」
「タルトちゃん、それどういうこと……?」
「親方」
「こいつだろ、坊ちゃんの指輪」
「!」
銀色の指輪をつまんでいた掌を開けば、そこには小さな緑色の宝石が嵌め込まれた指輪があった。
ユズとロランはこれ以上にないほど大きく目を見開いて、弾けるように破顔した。
「そう、そうだよ! この指輪だ! よかった……よかったぁ見つかって……!」
「ロラン良かったね! 本当の本当に、よかったねぇ……!」
「ユズ、泣いてる?」
「泣いてる! 感動ものに弱いのアタシ!」
親方から指輪を受け取ると、胸元に抱きしめて俯くロランの肩をぽんぽんと叩きながら、ユズは号泣していた。からかうようなタルトの声にも素直に頷いてしまうほど、ユズは涙をこぼしていた。
そんな二人の様子が気まずいのか、親方はそっと視線を外している。
「それで、銀の指輪はどちらから仕込みを?」
「いや、なんてことねぇよ。ただ単に二つも飲み込む大食い釣り上げてただけだ」
「それで瞬時にあれを思いついて実行するとは、貴方も大概……」
「それ以上言うなって。良心が痛い」
グレンが親方をやりこんだことを、満足そうに眺めたタルトは小さく息をついた。
これで、これで全部。気がかりなことも含めて全部おしまいだ。全部、解決した。スッキリした。
そう、これで本当に……。
「本当に、本当にありがとうございます!」
「……うん、これで一件落着! だね!」
親方が釣り竿を回収して釣り人のところへと返却に行く。ユズが釣り人へ結果報告すると、釣り人は笑みを浮かべながら肩を叩いて喜びを分かち合ってくれた。
グレンが懐中時計を開くと、時刻は午後六時を示している。赤く染まっていた空が、ゆるやかに濃紺のベールをかぶり始めていた。
「依頼達成だね!」
「そうだな、途中からどうなることかと思ったが」
「おや、シムニスさんのお迎えが来るまでまだ達成したわけではないでしょうに」
「濃い、一日だった……」
軽やかではないが、それでも満足そうなしっかりとした足取りで<水晶の欠片亭>へと向かう一行。
タルトの瞳は半分閉じており、親方の背中で歩みによる揺れに夢の世界へと旅立ちかけていた。
そんなタルトの様子を微笑ましく眺めながら一行は<水晶の欠片亭>へと到着する。扉を開けると、リッタの元気の良い出迎えの声が飛んでくる。
「みんなお疲れ様! 依頼の……結果は聞くまでもないようね。さ、こっちで冒険譚を聞かせて頂戴。エールの一杯くらいは奢るわ」
「さすがリッタだ。気が利くな」
「わーい、仕事終わりのエールは格別なんだって聞くよね!」
「ユズとロランさんにはジュースで」
「ふふ、もちろんよ」
「そんな、グレンさん殺生な!」
「あのね、リッタさん。あちこちで色んなことがあったんだけど、一番すごかったのは……」
騒がしいやり取りをバックコーラスに、はしゃいだロランが今日の冒険譚を語りだす声が聞こえる。
おとうさん、おかあさん、早足。
親方と一緒に、依頼を達成したよ。
色んな謎を解いて、ちゃんと護衛も果たして。
この<水晶の欠片亭>で待っているから、早く迎えに来てね。
その時に、この話をするのを、とても楽しみにしているから。
そっと微笑み、タルトは静かに瞼を閉じた。
G M:シムニスさんは20時にならないと来ないから、
<水晶の欠片亭>で、ぐだぐだとたわいのない会話をして、リッタに冒険談を語って、
ロランを冷やかして待っている君たち。
迎えに来たシムニスに、大成功の結果をその雰囲気だけでも伝えた君たちは、
今回の報酬に色を付けて渡される。
ツケもきっちり精算されるからね。
そして、ロラン少年の満足そうな笑顔を見送り、君たちの宝探しは、これでおしまいだ
おつかれさまでした!!
ユ ズ:おつかれえええええいいい!!
親 方:おつかれさんだったな、いや、今回は助かったぜ
グレン:こちらこそ、ありがとうございます
タルト:ん、疲れた
ぐう
G M:待って、今リザルト出すねー!
基本経験点3500にぞろ目ボーナス
1560Gからツケ分引いて……1510G?
あっ
ヒント解決ボーナスがある+400点
おい、4000点以上になるじゃねぇか
親 方:わはははw大量大量w
ユ ズ:もちょっと贅沢しても良かったねーww
と言ったところで、なかなか時間が合わなくて次回セッションが途中のままなのです。
一応続いてはいますが、ここでいったん完結マークを押させて頂きます。
ルーフェリアセッションが増える……いや、もうこの際贅沢言わないのでSW2.0セッションとリプレイが増えることを切に、切に祈りつつ!




