41 名探偵タルト
敵対していた三人が倒れると、ユズもほっとしたようにへなへなと地面に座り込んだ。苦笑しながらも警戒を解かないグレンが、労わるようにしてユズの頭をぽんぽんと叩く。
満更でもなさそうにはにかむ様子を横目に見ながら、タルトは遠慮なく親方の頬を引っ張った。
「いい加減、起きる」
「……ほい、なにはってる」
「親方、変な顔」
「誰が変顔させてると……まあ、いい。終わってたか」
「ん」
頭を振って意識の覚醒を促した親方は、ユズらの方向を見て戦いが終わったことを察したようで、深く深く息をついた。グレンの真似をしてタルトも頭を小さく叩くと、親方の肩が小さく揺れてありがとな、と呟いたのが聞こえた。
ぐっと一つ伸びをして起き上がれば、捕縛された状態の拳闘士二人と、ローブを被ったままの魔術師が横たわっている。
ロランを背後に隠すようにしながら、親方はそっと魔術師のフードをまくり、顔を確認する。見覚えのない、中年の男だった。
「見覚えは?」
「ない」
「坊ちゃんもか?」
「見たことはない、けど……」
「知らないおっさん。そっちから見ても、親方は見知らぬおっさん」
「おいこら、おっさん言うのやめろって言ってるだろ。本当に、心まで一気に老ける気がするじゃねえか」
続けようと思った言葉は、タルトの茶化した言葉に被せられる。ぱか、と口を開いた状態のままで器用に困った顔を作ったロランに気付いてか、ユズとグレンがゆっくりと近付いて来た。
それとなく会話内容を聞いていたのだろうグレンが、哀愁漂う親方の背中をぽんぽんと叩くと、ユズが小さく噴き出していた。
「え、ええと、で、なんだっけ?」
「ユズ」
「不可抗力だし! 誤魔化されてくださいよグレンさん!」
いさめるような視線を向けられ、ユズはロランを盾に慌てて隠れた。
グレンとユズのやりとりなど気にも留めず、タルトはマイペースに親方の前に進み出てずいと両手を伸ばす。
「親方、疲れた。おんぶ」
「体力残り少ない俺にそれ言うのか」
「戦いの間、ずっと寝てた。まだいける」
「はー、まあ、そう言われちまえばそうなんだがな。……よっこいせ、と」
これだから、甘やかしていると言われるんだろうなあと呟きながらも親方は素直にタルトをおぶさった。背負われてご機嫌な様子のタルトに、グレンはユズに向けるような呆れの苦笑を浮かべていた。
自由な人たちだな、と戸惑うロランだったが、少し悩むような仕草をしてから背後へと視線を向ける。
「ユズ姉さん」
「ん? どしたの?」
「……あの魔術師の人、起こしてもいいかな?」
「えっ」
ロランの言葉に驚いたのはユズだけではなかった。親方もグレンも、我関せずを貫いていたタルトでさえも、驚いた顔をしてロランを見つめている。
「なんで? なんで起こす必要があるの? アタシたち割と満身創痍で、もう一戦は勘弁してほしい感じなんだけど」
ユズが戸惑ったように代表で尋ねると、ロランがおずおずと口を開く。
「この人は、たぶん、アンヌのお父さんだから」
「アンヌ?」
自信がなさそうな答えだったが、どこか確信を持った言い方。それでも、ユズにはその名に覚えがないようで、助けを求めるように三人へと視線を向けた。
思案するような表情のグレンが思い当たるよりも前に、タルトがはっきりとした口調で言い切る。
「彼女の、名前」
「えーとぉ? 彼女って、ロランの恋人? だっけ? ツンデレの彼女の名前なんて、いつの間に聞いたの?」
「シーン神殿で、言ってた」
「……よく、覚えていましたね」
「弱みになると思ったら、絶対忘れない。それ、大事って言ってた」
「早足の野郎だな……!」
背中でどや顔をしているであろうタルトの言葉に、親方は誰がそれをタルトに教えたのか容易に想像できて、あの野郎、と奥歯を噛みしめて怒りを飲み込んだ。悪い教育ばかりしやがって、と今すぐは倒したい思いで一杯である。
「え? でも、微妙な感じに知り合いじゃん? それなのに、なんで襲ってきたの?」
わけわかんない、と疑問符を浮かべながらのユズの言葉には、ロランが答える前よりもグレンが思い当たる節があったようで、はっと顔を魔術師へと向ける。
「そう言えば、この方、確か試練と言っていたような……」
「試練のラスボスがお父さんって、え? えっ?」
「……ってぇと、つまり?」
混乱を極めたユズの様子に、親方は早々に答えをロランに求めた。
ロランは覚悟を決めた顔で一行を見上げ、真相を語ろうと口を開きかけたその時だった。
「アンヌは、たぶん、お姫様」
「は?」
「え?」
タルトがじっとロランを見つめて、はっきりと口にした。唐突な言葉に親方とユズがタルトを見るも、その視線は真っすぐにロランへと向けられている。
じいっと見通されるような視線を向けられ、ロランの覚悟を決めた表情は徐々に崩れて行く。
「えっと、どうしてそう思ったの?」
「イズマル王国に関係する宝物って、最初言ってた」
『……三百年前に滅んだイズマル王国に関係のある宝物で、この街のどこかに隠されているはずなんだ』
依頼を請けると決めて、ロランに色々と尋ねた時に確かにそう言っていた。
「でも、ヒントは、最近のと、昔の入り混じり」
隠喩されるようなヒントの文面は、交易共通語と魔動機文明語の両方が使われていた。その上、示されたものは古くからあった建物や場所ばかり。
「最初の紙渡したのはたぶん、彼女。でもロランは彼女について、濁した言葉ばかりだった。あと、まだ、発言。でも、らぶ」
ロランがあちらこちらで零した【彼女】の存在。まだ、彼女ではないが両思いなのが文面からもロランの態度からも伺えたように思える。
確かにそれはそうだ。ユズでもそれは分かった。
だが、それと宝探しと、タルトの発言に何の関係があったのか、とユズは不思議そうに首を傾げて続く言葉を待った。
「不可解な時間制限」
『その宝物は、今日の二十一時までしか手に入らないんだ』
『それはまた限定的だな』
『それは、その。宝物の隠し場所の扉が、その時間までしか空いてないから、かな。だ、だから! とにかく、今日までにどうしても探し出さなければいけないんだ』
「一般の十才に与えるには厳しい条件」
『地下水路には魔物が住み着いてて危険だから、入っちゃダメって父ちゃん言ってたぞ』
『どう? 驚きました? でも、この先に待っているものは、こんなものではありませんわ。引き返すのなら、いまのうちですわよ!』
「宝はイズマル王国に関係するもの。厳しい条件を与えないと得られない宝。条件付きで手に入れられる宝。それは、ロランが本当に欲しい物。その条件と、今の状況を合わせたら、彼女……アンヌがイズマル王国の縁者……それも尊い人物。つまり、お姫様」
証明終わり。疲れた、とぽてんと親方の肩に顎を乗せて深く息をついたタルトの推理に、一行は面食らっていた。ユズの口はぽかんと開かれたままである。
タルトの言葉をゆっくりと咀嚼して理解するように飲み込んだロランは、面食らった表情のまま、大きく頷いた。
「うん、大体、合ってる……」
「よく、それを繋ぎ合わせられましたね」
思わずぽろりと零れたのであろうグレンの賛辞を聞くと、タルトは満足そうに口元に笑みを浮かべていた。
「待って待って! アタシいまいちよくわかんないんだけど!」
「ええと、つまり、この宝探しは恋人になるための試験、と言う事だったのでしょう」
「ま、坊ちゃんの口から改めて教えてもらおうか。話している間に、そいつらも起きるだろうよ」
「……うん、分かったよ」
そしてロランはゆっくりと語りだす。この、宝探しの真相を。
G M:よし、じゃなんか予想と違った…根本のシナリオをぶっ潰すような展開だけど、頑張るよ私
ユ ズ:出目が冴えわたりすぎたのよw
タルト:神がかってた
グレン:本当に恐ろしいくらいに
親 方:俺の運確実に吸われてたな、あれ




