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訳あり少女のルーフェリア冒険譚  作者: 葉山
シナリオ1 導入編
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04 失くしたものと少年


「……重い」

「なあ嬢ちゃん。ビネガー二本とトマトの籠だけだぞ? 比較的柔らかくて壊れやすいそれだけだぞ?」

「それでも、重い」


 夕日が石畳を照らし出す中、巨大なシルエットが一つ。その小脇によろよろとよろめいている小さな影が一つ。

 東部に広がる新神殿地区にある商店から買い込んできたあれやこれ。重い荷物は主に親方が、肩に背中に腰にお腹にと、あちらこちらに括り付けて、えっちらおっちらと歩いている。

 海岸沿いに旧水路地区へと入ると、どこか見知った景色が広がっているように思えて、なんだかほっとした。


「親方、まだつかない?」

「行きも通った同じ道だぞ? 分からないか?」

「似たような水路ばっかり。自信、ない」

「ま、迷子にならなければいいさ。もうすぐだ。あと二区画くらい」

「うー…」


 不服そうなタルトに、ほら見て見ろ、と海と見間違うばかりの大きな湖へと視線を向けさせる。

 ルーフェリア王国の中心にあるエルリュート湖。岸壁から広がるその湖は、橙色の夕日が水面を反射して、まるでシャンデリアの煌く明かりのようにキラキラと輝いている。その湖に面して造られた、白と青と緑の調和が溶け込んだルーフェリア神殿の様など言葉にできないほどである。

 不満そうな顔つきだったタルトも、ほうと感嘆の息をつくくらいには、美しい光景だった。

 見惚れているタルトが水路に落ちないように、気を配りながら歩いていた親方だが、ふと前方に見過ごせない存在がいることに気付く。

 水路の柵に寄りかかって、身を乗り出すようにして水路を覗き込もうとしている少年。それは一歩間違えたら転落してしまうかのようにも見える。

 親方は己の両腕をちらりと見て、それから仕方がなさそうに深く息をつく。そして、のんびりとした声を意識して呼びかけた。


「おーい。あんまり身を乗り出すと、落ちるぞー」


 タルトがきょとんとして親方を見つめたが、その視線の先を辿ると納得したようで、そっとその後ろに隠れるように位置を移動した。

 少年は一拍置いて、自分に声を掛けられたのか、と柵から身を離して辺りをキョロキョロと見渡していた。その様子に苦笑を浮かべながら、親方はゆっくりと近付いていく。


「坊主どうした、魚でもいたか?」

「どうしたって……おじさんこそどうしたって状況じゃないか。大丈夫? その荷物重くないの?」

「鍛えているからな。それに荷運びも依頼だと思えば、大したことねぇよ」


 それでもすごいよ、と繰り返す少年にまんざらでもなさそうに笑う親方。後ろから軽く脛を蹴られた気がしたが、あえて気にはしないように努めた。


「それで、そんなに身を乗り出してどうしたんだ? 何か落としたのか?」

「あー、うん。実はね。人にぶつかった拍子に、コロコロぽちゃんって落としちゃって……。ずっと探しているんだけど、見つからなくてさ」

「コロコロぽちゃんって……なんだ、指輪か? 金貨か?」

「指輪だよ。小さな緑の宝石がはめ込まれた指輪」


 これくらいの、と大きさを示す少年。少年に指輪と言う少しアンバランスな組み合わせに、親方はそれとなく少年を見つめた。

 十歳くらいのおそらく人族で、くすんだ金髪に緑色の瞳をしている。身なりが良いので、それなりに裕福な家の子どもだろうとあたりをつける。

 あんまり権力があるのとは近付きになりたくないんだがなぁ……とは思いつつも、タルトよりも小さい子どもを放っておくのもなぁと、関わろうとしている自分に苦笑しか出なかった。

 やれやれ、と思いながらも動こうとしたその時、後ろに隠れるようにしていたタルトが、ひょいと前に出た。


「大切な、もの?」

「うん。ボクの大切なもの」


 突然姿を現したタルトに驚いた様子の少年だったが、答える言葉によどみはない。

 タルトはそっと籠と包みを地面に下ろし、少年の横に立って柵から下を見下ろした。


「なら、一緒に探す」

「いいの?」

「大事なもの、でしょ?」

「ありがとう! 助かるよ!」


 珍しい、と思いながらも己の抱える荷物の多さから何もできないことを歯がゆく思う。万が一落ちかけたら荷物放り投げて助けよう、とは密かに決めながら、親方は静かに見守っていた。


「水の中?」

「かもしれない。もう流されて、見つからないのかもって思い始めていたところだったんだ」

「それだと、難しい。光る何か、見えない」

「そっかぁ……やっぱりなさそうか……」


 少年がはあ、と大きくため息をついたその時。


 ゴーン……。ゴーン……。


 重々しい鐘の音が、町中に響き渡った。きっかり六回鳴ったそれに、少年がはっと顔を上げる。


「もう、十八時になるのか」

「……残念だけど、ボクもう帰らなきゃ」


 シーン神殿が鳴らした十八時を告げる鐘の音が消えると、少年は一緒に探してくれてありがとう、とタルトに小さく頭を下げた。


「……見つかると、いいね。大切な指輪」

「うん。……あの、キミとおじさんって、もしかして〈水晶の欠片亭〉の冒険者?」


 少年が僅かに目を見張ってタルトに向かって訪ねてきた。タルトは不思議そうに首を傾げ、たぶん、とこくりと頷いた。


「それなら、明日はキミたちにお願いしようかな……」

「何を?」

「今は秘密。って、このままだと本当にマズいや! 門限に間に合わなくなっちゃう! 今日は本当にありがとうございました!」

「おう、何もしてないがな。ま、気を付けろよー」

「……ばいばい」


 駆け出していく少年を見送ってから、タルトは一つため息をついて再び荷物を持ち上げた。


「嬢ちゃんにしては珍しいじゃねぇか。どういう風の吹き回しだ?」

「……別に」


 極度の人見知り。対人恐怖症。

 そんなタルトが自主的に他人のために頑張るのは珍しい。それを本人も自覚しているのだろう、少しバツが悪そうな顔で唇を尖らせた。


「大切なもの、失くしたら、嫌だし」


 ぽつりと呟かれた言葉に、親方はにやりと笑った。


「そうさな。……それのおかげで、<水晶の欠片亭>の冒険者ってバレたようなもんだしな」

「あっ」

「今気付いたって顔してんなぁ。ほれ、さっさと帰ろうぜ。依頼終わらせて、この重てぇ荷物下ろして、さっさと今日のベッドを確保しようや。な?」

「ん」


 胸元にゆれる青水晶の欠片のペンダントに視線を落として、ほんのわずかに頬を緩めたタルトは、ゆっくりと歩く親方の後ろを追いかけた。


GM:リッタに見送られて、君たちは買い出しに出かける

親方:さて、どんなリストなんだ?

タルト:特殊材料、ある?

GM:……君たち、これは導入だ

GM:残念ながら普通の品物だし、分かりやすい通りに面した店がほとんどだったから、何事もなく買い物は終わる

タルト:そう

タルト:……でも、私、荷物は一個しか持たない

親方:おい

タルト:魔法職、筋力少ない

親方:14もあって何言ってやがる!

タルト:女の子に荷物、持たせない

タルト:これ、紳士

親方:どんだけの量かわからねぇけど、えげつねぇな、お前

GM:まあ、親方の両手と背中とお腹に括り付ければ持てる量だから大丈夫だろう(適当)

親方:おい

親方:それ相当じゃねぇか

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