39 待ち受けていたもの
BGMはお好きなFFの『ビッグブリッジの死闘』でどうぞ
尚、私は9が大好きです()
「お疲れ様。皆、大丈夫?」
「満身創痍」
「これがラスボスだと信じたい……」
「まあ、確かにそろそろ魔力が底を尽きそうですからね。これ以上戦闘がないことを祈るのみです」
オブディシアンドッグが完全に動かず、復活する様子も見せないことを確認した一行は、大きく肩の力を抜いた。思い思いに階段に腰かけ、軽く脱力して僅かな休憩時間を噛みしめている。
本当ならばすぐにでも先に進みたいところだが、タルトの言う通り満身創痍な前衛二人と、魔力が尽きかけている後衛二人。更に心理的圧迫感から精神疲れを隠せなくなっていたロランのために、グレンが小休憩を提案したのだった。
現在の時刻は十六時四十分。シムニスと約束した時間まで、まだ余裕はある。
「お、さすが魔法生物だな」
「ん? 何か見つかった?」
「小ぶりの宝石と、魔力を帯びた宝石。それぞれ一つずつありましたよ」
「ははっ、収支マイナスは避けられそうだ」
グレンと親方が笑みを浮かべながら石像の残骸から探し出した戦利品を見せてくる。赤字にならないことに思わず万歳をしたユズの気持ちがよく分かると言わんばかりに、親方の武骨な手がわしゃわしゃと頭を掻き撫でた。
「ちょ、ちょっとちょっとー! 頭揺れるー!」
「おっと、すまんな」
「そろそろ、進みましょうか。大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫。行こう、階段の先へ!」
重い腰をあげて、一行は階段を上り始める。
ぽて、ぽて、と歩みが遅くなり始めたタルトが最後尾へと下がる。ユズに手を引っ張ってもらいながらも重い脚を持ち上げる。
いつもなら、お父さんが背負ってくれるのに。
体力不足のタルトは、普段なら探索の後半になると、仕方ないなぁと後衛のお父さんが背負って動くのが慣例化していた。今は、そのお父さんがいないため、頼れる相手がいない。あちこちに怪我をして前衛として警戒している今の親方には、さすがにおんぶをせがめない。ユズとグレンは、僅かに息が上がり始めている。ロランに至っては論外である。
周りを見て、タルトは瞳を伏せた。
頼れないのだ、今は。頼れる両親がいないのだ。
見様見真似で早足の探索に近いことをやった。すごいすごいと褒められた。
お母さんがやっているように、戦況に応じて魔法を使い分けて相手を見極めた。ありがとうと礼を言われた。
親方はいつも通り、誰よりも前に出て、誰よりもいっぱい怪我をしている。
グレンがお父さんの代わりに色々考えてくれてはいるけれど、周りに気を使っているのか、十全の推理ではない。もしかしたら、タルトの抱えているもやもやを晴らしてくれるだろうか。この不思議な宝探しの謎の答えを、教えてくれるのだろうか。
『考えて考えて、やっぱり俺が思った通りだったってのが一番スカッとするね! それが十考えたうちの一つだったってことでもいい。一つでも当たれば俺の勝ち。皆、さすがだなって思ってもらえるぜ?』
なあ、タルトも考えてみろよ。
お父さんはいつもそう言っていた。なら、もやもやが晴れるまで、考えてみようかな。何でがたくさんあるこの宝探しを、よく、考えてみようかな。
タルトは手を引かれながら、そんなことをぼんやりと思っていた。
「……扉だ」
先頭を進む親方が静かに告げる。足音を消すようにしてそっと扉へと近寄ると、扉の向こうの様子を伺う。グレンも近寄り同じようにして扉を調べ始める。
「静かだな。だが、僅かに人の気配がする」
「扉は、特に罠はなさそうです。鍵もないようですね」
一歩下がっていたユズとロランが頷き、突入に備える。タルトの手は既に離されていた。石の扉に手を掛けた親方は、ゆっくりと押し開ける。
開き始めた隙間から見えたのは、石造りの広い部屋。壁にはくぼみがあり、その中に第一の剣に属する神々の像が安置されているのが徐々にわかる。
ユズがレイピアに手を掛けながら先頭となって部屋へと飛び出す。油断なく辺りを見渡すと、ゆらりと燭台に灯された炎が揺れた。
「ついに、ここまで来てしまったか……」
「誰っ!?」
神々の像の間から、ゆっくりと人影が現れる。一つ、二つ、三つ。頭からすっぽりとローブを被っており、その顔は見えない。
ユズの誰何には含み笑いで応え、一行を見渡す。
「途中であきらめてくれることを祈ったが、どうやら神々はわたしに試練を与えたいらしい」
語る男の声に従うように、二人のローブ姿の男が前に出る。獲物に手を掛け、構える。
そんな中、構えもせずにじっとタルトは男を見つめた。
男の視線がロランで止まった。にやりと口元に笑みを浮かべる。そして杖を振りかざし、尊大に言い放った。
「よかろう! 神々がわたしを試すのなら、わたしは神々とも戦おう! 我が全霊を込めて、おまえたちを倒し、我が宝を守り抜くと誓おう!」
「でも僕は! この試練を乗り越えて、絶対、宝を手にしたいから!」
(やっぱり、試練って言った……)
ロランの言葉に、何度目かの引っかかりを覚えたタルトは、知らず杖先を下げた。
「負けない!」
ロランは力強く言い放ったものの、成り行きを眺めていたユズが耐え切れずに叫んだ。
「いや、ていうか! 盛り上がってるところ悪いんだけど! アタシ、全然意味わかんないんだけどっ!」
「まあ、たぶんだが。坊ちゃんが探している宝の最後の番人ってとこだろうなぁ」
「てことは、あの人たちがラスボスッ!?」
「そうでしょうね……。きますよ!」
「ああもう、やだあ! フラグ回収しちゃったよもううううう!」
喚きながらも拳を構えて向かってくる前衛フードの二人を迎え撃つ構えをとる。鋭く息を吐き、意識を切り替える。
先ほど残り魔力が少ないとグレンが言っていた。そのため援護は期待できないと思って間違いない。実質、ユズと親方の二人で頑張るしかないのだ。
「魔術師一、拳闘士二!」
「【フィールド・プロテクション】」
タルトの判別した声と、グレンのなけなしの援助が飛んでくる。ふわりと、慣れた感覚が体を包むと同時に、ユズと親方は前へと踏み出した。
魔術師を庇うように拳闘士の二人が立ちはだかる。親方にとって聞き覚えのある呪文が耳をかすめた。
「っ、気を付けろ!」
「真、第二階位の幻。囁き、誘い――眠り」
「スリー…プ……」
「予測出来て寝ちゃうってどゆこと!?」
かくん、と力が抜けて倒れかけた親方に動揺してユズはたたらを踏んだ。無理やり眠気を払うかのように大きく頭を振って、親方は力強く地面に足を踏み下ろす。
「ヌゥンッ!」
ヘビーアックスを薙ぎ払う親方の攻撃は、より距離を詰めていた一人のローブを巻き込み剥がす。舌打ちをしたのは、剥がされた拳闘士か、親方か。
一歩で遅れた形のユズは僅かに生まれた隙に付け入ることが出来ず、きゅっと唇を噛みしめた。
「操、第一階位の攻。閃光、雷雲――雷光」
魔術師と拳闘士の間で、閃光が弾ける。バチッと大きな音を立てた雷光は、僅かに三人を怯ませた。
ちらりとタルトらの方を見れば、グレンもそろって首を横に振られる。これが、最後の支援だと言う事らしい。ロラン共々、こちらに真っすぐな視線を向けている。
魔術師は小さくやれ、と拳闘士たちに命令し、【スパーク】を放ったタルトを一瞥する。じいっと真っすぐに見つめていたタルトと、視線がぶつかる。それも数秒のことで、僅かに渋い表情に変化したのちに逸らされた。
ヘビーアックスを構え直そうとする親方に、ローブが脱げた身軽な拳闘士がジャブのラッシュを繰り出す。しゅ、しゅ、と空気を切る音がはっきりと聞こえる早さの拳を避けることは難しく、親方は金属鎧やヘビーアックスの柄の部分を使って上手く衝撃を和らげ逃がしていた。
ユズの前をするりと抜けたもう一人の拳闘士は、目の前の相手に集中している親方の腕を掴む。掴まれたと知覚した時には、だんっ! と大きな音を立てて床に叩きつけられていた。
「ぐぅっ」
「真、第二階位の幻。囁き、誘い――眠り」
「はっ……」
背中の衝撃を堪えるために息をつめたその隙を狙って、再び【スリープ】の真語魔法が発動する。眠気を無理やり誘発させるそれに抗う事も出来ず、親方の瞼は静かにおりた。
「ちょ、やだ! 親方さんっ!?」
ユズの焦った声が、遠くで聞こえた気がした。




