37 薔薇園跡地
「んじゃ、そいうことでおいちゃんよろしくー」
「あいよ」
船頭には三十分だけ待っててもらい、それ以上時間が掛かるようなら改めて伝言に来ると舟上で取り決めた。多少渋い顔をされたものの、機会がある時に酒盛りをすることを約束したことで了承を得れたらしい。
嘆きの桟橋からミルダオ島へと移動し、さらに東の道を進むこと十分。無秩序に茨が繁茂する、荒れ果てた庭園が姿を現した。赤、白、黄色、桃色、黒……様々な色の薔薇がちらほらと花開き、人の気配がない庭園跡を彩っている。
庭園の中に足を踏み入れると、中心部にあたる場所に、色とりどりの薔薇の花に囲まれて、美しい乙女の像と青年の像が向かい合うようにして立っているのを見つけた。
おそらく、セルディ王子と薔薇妖精スフェラリールの像なのであろう。愛し合う二人の像は、ひとつの台座の上に向かい合うようにして建てられていた。
「まあ、男前に彫られてなぁ……」
「王子だから美男子ってのも捻りないよねー」
「ぼん、きゅ、ぼーん……」
「こらこら」
像を見上げてそれぞれ好き勝手に言葉を紡ぐ四人に、ロランは苦笑しながらその脇を通り過ぎて台座へと近寄った。二人の像は見上げるほどに大きい。台座部分はロランの丁度肩の高さになっており、足元には文字が刻まれた金属製のプレートが散らばっている。
「なんだろう、これ?」
「何かの文字かな?」
「……交易共通語ではなく、魔動機文明語、でしょうね」
首を傾げるロランとユズに、グレンはそっと指さした。
セルディ王子の足元の台座部分には、魔動機文明語でセルディ王子と刻まれているのが、魔動機文明語を理解できる三人には分かった。
対称的に、スフェラリールの足元の台座部分には、何かをはめ込むような細長い枠が設けられているだけで、空白となっている。
「これ、どう考えてもはめ込むパターンだよな。おあつらえ向きに、答えだって分かりやすい」
「薔薇妖精?」
「スフェラリール、ですね。文字も丁度七文字分ですから、間違いないでしょう」
てきぱきと文字をはめ込み始める三人に、ロランは感心したように瞳を輝かせたが、対照的にユズは拗ねたように唇を尖らせた。己の出番がないまま、謎が解明されたのが非常に面白くないのだろう。
そんな様子に気付いていながらも、時間が惜しいと構わずに三人は文字を完成させた。
薔薇妖精の下にスフェラリールの文字。
最後の文字をはめ込んだとたん、ゴトン、となんらかの仕掛けが動いたような音が聞こえた。
「うえええ何? 何っ?」
「敵襲、じゃない」
「地面に変化なし。ま、分かってたが像、だな」
「見て! スフェラリールの像が浮いてるよ!」
「……第二の謎、と言うわけですか」
スフェラリールの像が少し浮かんでいる。そのことに気付けば、咄嗟に身構えた四人は僅かに肩の力を抜いた。
セルディ王子の像に変化はなく、僅かに浮いているのはスフェラリールの像のみ。浮力だろうか、それとも魔力だろうか。その原理を調べたい衝動に駆られるも、親方は今は時間が惜しいと自制するように一歩下がった。
驚いたのもわずかな間で、タルトは少し考え込むようにして瞼を伏せる。のちに、ユズやロランにも聞かせるようにぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「……薔薇妖精のため息。から、分かったのは、次のヒント。ヒントが示した先が、この像。仕掛けが動いたのは、正解だったから。だとしたら、浮いている理由は、ヒントが示した……」
「あ、そっか! 王子様に口付けを!」
「ヒントはそこに繋がっていたんだ!」
ぱっとユズとロランの顔が輝くと、タルトは正解とでも言うように、こくりと頷いた。年下のタルトに気を遣わせるとは情けない、と言葉にはしないがそんな気持ちを顔に思いっきり出しながらグレンは深く深く、ため息をついた。
「な、なるほどなぁ」
「親方、顔が赤い」
「うるせえ、ほっとけ」
何故か照れている親方をからかうことで、薄らと笑みを浮かべたタルト。ユズとロランも笑い声をあげている。
今朝から見れば随分と打ち解けてるように思えて、気恥ずかしさを抱きながらもほっと親方は安堵していた。良い傾向だと感じたのは間違いではなかったらしい。
「よーっし! それじゃ、景気づけにいっちょぶちゅっと!」
「ロランも彼女と?」
「う、うえぇっ!?」
「そこで振ってやるな」
本当に、他人であった彼をからかうくらいには、心を許している。
タルトの本質は、きっと冗談が好きで誰かと笑い合えるような明るいものだったのだろう。自ら他人との関りを拒否して、身内の中で完結した世界では、きっと見えなかったもの。
元パーティメンバーの三人の安否を心配してはいるものの、この一時の離別はタルトにとって必然であったのかもしれないと、そんなことまで思うようになり始めている。
タルトの隠していることを知っても、同じように接してもらえればいいのだが。そこまで考えてから、自分も大概親馬鹿だなと親方は苦笑した。
「そーれいっ」
ユズの掛け声に合わせて、ロランと二人でスフェラリールの石像をセルディ王子の方へと押し出す。
ゆっくりゆっくりと動いた石像がかちりと音を立てて軽くぶつかると、それを合図に台座全体が動き始める。慌てた二人はスフェラリール像にしがみつくことで落ちることはなかったが、目だけはせわしなく動いて状況把握に努めようとしている。
やがて台座は完全に一つ分横へと動く。元あった場所には、ぽっかりと穴が開き、地下への階段が姿を現したのだった。
「わぁお」
「ヒントが出なかったってことは、これ行けってことだよな?」
「たぶん、そういうことなんだ、と思うけど……」
しっかりとスフェラリール像にしがみつきながら、恐々と階段を見下ろすユズとロラン。親方も階段下を覗き込むが、暗闇が広がっている中に階段が続いている様子しか分からない。
グレンが懐中時計を取り出した。
「このまま進むのなら、船頭さんにお伝えした方がいいでしょうね」
「二時間後か、一時間後?」
「余裕をもって二時間後の方がいいかもしれません」
長靴島のように、短い道のりで終わる予感がしないので。
グレンが階段の先に続く暗闇を見つめながら、そんなことを呟いた。
『いいかぁ、勘ってのはなかなか馬鹿にできねぇんだ。これはマズいっ気がすると思ったら、その感覚に従え。ハズレることの方が多いかもしれねぇが、それでも最悪を逃れられるのなら予感だとか、勘だとか。感覚ってのは馬鹿にできねぇんだぜ。……いや、本当に。なぁんでちょいとのお楽しみを勘付くモンなんだよ。この世で一番の精度の高さじゃねぇか。怖ぇなぁ、女の勘ってのはよ……』
段々と言いたいことからズレてるよ早足、と当時は呆れたものだったが、ふと、そんな言葉を思い出した。
なるほど、グレンの勘がそう告げているのなら、それに従った方がいい。短くないのなら、それなりの準備が必要だ。
タルトは階段下を覗き込んでから己を見直す。ゴソゴソと荷物をあさり、魔香草を取り出してユズに突き付けた。
「回復してくれたら、【ライト】する」
「え? あ、いいの? じゃあ、めっちゃ薬草焚きするよー!」
「ユズのレンジャー技能に頼って、いいのですか?」
「自分でやるより、適材適所」
「彼女、わりと不器用ですが」
「……やっぱりかえ」
「それじゃ、そこ座って座って! ユズちゃんの力、見せたげるわー!」
調子に乗っているユズの姿に呆れながらも、タルトは大人しく魔力回復のために魔香草の不思議な香りに包まれながら精神を統一するように努めた。
気を利かせて親方とロランが船頭に話をつけに走って行った。
ゆっくり十分。少しでも長く効果が出るようにと真剣に燻していたユズが、大きく息をついた。
「はー、もう無理。限界。テスト前の一夜漬けレベルで集中した」
「ん。それなりに回復……感謝」
「ふ、ふふふっ! ユズちゃんにお任せってね! あ、グレンさんもどうです?」
「……調子に乗った貴女ほど、信用ならないものはないですから」
「ひっどーい! グレンさんだって残り魔力少ない癖にー! いいもんいいもん、勝手にやっちゃうもん!」
「あ、こら」
ユズが勝手に魔香草を取り出して再び燻し始めるが、一度集中力が切れたこともあり、うっかり火の量を間違えてしまった。
ぼっと勢いよく炎をあげて燃える魔香草。不思議な心地よさを感じる香りは微塵にもなく、辺りには焦げ臭さだけが漂っている。
「て、てへっ」
「……ユズ?」
「うわーん、ごめんなさいグレンさん怒らないでー!」
「誰が、怒らせているのです? 誰がっ」
「ごめんなひゃいごめんなひゃい」
「……自業自得」
呆れた様子のタルトのため息をついた音が、喚くユズとグレンの喧騒の中に静かに消えていた。
親 方:ヒントが出なかったってことは、これ行けってことだよな?
グレン:そうでしょうね
タルト:二時間後か、一時間後に来てもらう?
グレン:余裕をもって二時間後の方がいいかもしれませんね
ユ ズ:うう、暗いよう
タルト:回復してくれたら、ライトする
親 方:んじゃ、俺が走ってくるか。
往復20分。その間に回復しておきな
グレン:すみません、魔力が厳しいので
お願いします
G M:じゃ、親方が船頭に伝えに行って、その間にユズが草焚きね。
名前明記して二回分どうぞ
ユ ズ:k0@13+2+1 魔香草タルト → 2D:[5,6]=11 → 4+3 → 7
ユ ズ:k0@13+2+1 魔香草グレン → 2D:[1,1]=2 → ** → 自動的失敗
タルト:あ
グレン:あ
G M:ごじゅってーんww
親 方:おめっとさんw
コペル:嘘でしょ…!
ごめんグレンさん…!
普段人間種族使わないマンであるゆえに、運命転換の存在を忘れていたGMとユズのPCであった。




