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訳あり少女のルーフェリア冒険譚  作者: 葉山
シナリオ1 解明編
36/44

36 薔薇妖精の恋物語

……とても、難産でした。


「イズマル王国の王子セルディと、恋に落ちた薔薇の妖精スフェラリールの物語でね。ボクもおおよそのあらすじしか覚えていないんだけど……」


 確か、こんなお話だよ、とロランは一拍置いてから語り始めた。




 イズマル王国の王子セルディは、狩りを得意とし、政務の息抜きと称してたびたび森へと狩りに出かけていた。

 いつものように狩りに出かけていたある日。森の中で弓を引き、狩りを行っている最中に、セルディは魔物に襲われてしまう。


「っ、獣ではなく、魔物だとっ!?」


 人の気配が多くなれば獲物が逃げると、一人で狩りに出ていたのが裏目に出てしまったのだろう。接近を許してしまったセルディは、牙をむきだして襲ってくる魔物に何もすることができなかった。

 よもやこれまでか、と強く目を瞑ったセルディだったが、一向に痛みや衝撃がおとずれない。不思議に思いおそるおそる目を開くと、目の前には薔薇の香りを身にまとう美しい女性の姿が。


「……お怪我はありませんか?」


 そっと手を差し出されて問い掛けられたその時、セルディは己の胸がとくんと跳ねるのを感じたと言う。

 それからと言うもの、セルディは彼女に会うために何度も森へと足蹴く通った。


「貴女のお名前は?」

「貴方に名乗る名はありません。どうか、人の世にお戻りになって」

「あまりの美しさに、女神が舞い降りたのかと思ったんだ。今ですらいなくなってしまいそうで怖くて……どうか、お願いだ。繋ぎ止めるための名を、教えてくれないか?」


 セルディの必死のアプローチに、彼女は徐々にほだされて行き、ようやく己について口にした。

 曰く、己の名はスフェラリール。人ではなく、薔薇の妖精だと言うこと。人とは相容れない存在であること。気まぐれに助けただけなのだから、これ以上干渉しないで欲しいこと。

 明確な拒絶をされても、セルディは挫けなかった。生まれて初めて抱いた気持ちを否定される苦しみ以上に、愛しさが溢れて止まらないのだ。


「それでも、私は貴女を愛しているよ、スフェラリール」

「……嘘ばっかり」

「嘘ではないよ。どうすれば、私の気持ちを信じてくれる?」

「人と薔薇妖精は相容れないのです。それが、理なのですから」

「それは、貴方の気持ちではないだろう?」


 どうか信じて、と熱心に口説くセルディ。スフェラリールの心も次第に揺れ動き始めたが、セルディを取り巻く環境に暗雲がたちこめることにより、状況が一変した。


「最近、我が息子は熱心に森へと向かっているようだが? 誰ぞ、後をつけ様子を伺って来い」


 セルディの父……イズマル王国の父王が、セルディの行動を不審に思い、部下に森へ向かう息子の後を付けさせたのだ。

 部下に尾行されていることに気付かず、セルディは普段と同じようにスフェラリールとの逢瀬へ向かった。その様子を見た部下は、ありのままに父王へと報告したのだった。


「ご報告いたします。王子は森で女性……妖精と逢引きしている様子。王子の方が懸想をしているようですが、妖精の方もまんざらではない様子です」

「……これはいかんな」

「如何致しますか?」

「……討伐隊を組め。息子はどうやら邪な妖精に魅了されているらしい」


 父王は厳しい顔をしてセルディに謹慎を申しつけ、森へと討伐隊を派遣した。

 唐突に謹慎を突き付けられたセルディは、信頼する乳兄弟から森へ討伐隊が派遣されたことを聞き、顔色を変えた。


「彼女が危ない……!」


 窓から大慌てで抜け出したセルディは、一目散にスフェラリールの元へと駆け付けた。セルディが駆け付けたその時には、既にスフェラリールはあちこちに傷を負いながらも、討伐隊に応戦をしていたのだった。


「やめろっ! その人は、私の大切な人なんだ!」

「王子、何故ここに……! っ、耳を貸すな! 王子は今、惑わされていて正気ではない!」

「私は正気だ! 私は、私の意思で、彼女を愛しているんだ!」


 セルディはスフェラリールを守るために、討伐隊へと剣を向けた。叩きつけるようにして叫ばれた言葉に、動揺を隠せない討伐隊だったが、森の中ではセルディやスフェラリールの方が一枚も二枚も上手で、やがて満身創痍となりながら撤退をして行った。


「……私のせいで、すまない」

「だから、人と妖精は相容れないと申し上げたのです」

「本当に、すま」

「でも、謝らないで下さい」


 傷だらけのスフェラリールは、泣きそうに顔をゆがめているセルディの頬にそっと触れた。


「貴方の気持ちが本物だと、伝わりましたから」

「スフェラリール……」

「……同じ気持ちを、抱いてもいいのだと、分かりましたから」


 セルディ、と彼女の口からこぼれた言葉は、柔らかくセルディの身体に染み込んでいく。思わず涙がこぼれてしまったほどに、幸福感が胸いっぱいに広がる。

 互いの愛情を受け入れた二人は、ゆっくりと抱きしめ合い、そして森の中へと消えて行った。

 父王が二人の仲を認めないことが分かったのだろう。王子と言う身分を捨て、スフェラリールと共に生きることを決めたセルディ。

 その後、二人がどうなったかを知る者は、いない。




「これって、イズマル王国では最も有名な物語で、演劇や歌劇、小説の題材としてよく使われているものなんだって」

「はー、ロマンチックだわ」


 ロランが語り終えると、ユズはほう、と感嘆のため息をついた。少し気恥ずかしそうな様子のグレンが同意すると、ユズはますます嬉しそうに頬を緩ませた。


「ふふっ、素敵な恋の物語でしょう?」


 先ほどの女性の店員が、話が終わったのを見計らって薔薇妖精のため息と渋茶を運んできた。ごゆっくりどうぞ、と並べられたソレに、ユズの感嘆のため息が止まらない。


「超、可愛い。写メ撮りたいレベルでめっちゃ可愛い」

「食べるのがちょっと勿体ないね」


 薄桃色のスポンジに、薔薇が咲いているかのようにピンクのクリームで花弁を表している小ぶりなケーキ。緑の葉っぱのチョコが小さく縁取りに刺さっており、真珠のような白いラムネ玉が花弁の間に散らばっている。

 渋茶を淹れたソーサーとカップも薔薇の縁取りがされており、薔薇妖精にちなんで店名を付けたと言うのが納得できる拘りようだった。


「もう、ぶっちゃけ謎解きとかどうでもいいレベル。はー、崩すのやだなー」

「気持ちは分からなくもないけど。でも、それはそれ、これはこれだからね、ユズ姉さん」

「分かってるけどさー」


 一口食べるごとに美味しい、とやばい、を繰り返して口にするユズの語彙力のなさに失笑を禁じえないグレンだったが、見た目には特にヒントになるようなものが見当たらないように思える。焦っても仕方ない、とグレンはゆっくりと渋茶に口を付け、二人が食べ終わるのを待っていた。

 ふと、懐中時計を開く。親方たちと別れてから、既に二十分が経過していた。


「ちょっと、やーだー! グレンさん見てこれ、超情熱的ー!」

「ユズ、あなたもう少し声の大きさをですね……」


 頭痛を堪えるようにこめかみに指を当てながら、グレンは興奮しながら袖を引っ張ってくるユズが示したものへと視線を動かす。綺麗に食べ終わった野薔薇の蔦で縁どられた皿は、クリームを残さず掬い取った跡が残っている。

 ケーキが置かれていた部分には、一組の男女が口付けを交わしている絵柄が描かれており、アーチ状に交易共通語で【王子様に口付けを】と文字が連なっている。


「薔薇妖精のため息を飲み込んで、王子様に口付けを、と。そうですね、情熱的ではありますが」

「うん? どうしたのグレンさん?」


 自分が思っていたリアクションとは異なっていたのか、ユズが不思議そうに首を傾げた。ロランもようやく食べ終え、同じ絵柄を見つめてくるりと目を丸くしている。

 グレンは先ほどの女性店員を呼び止めた。


「忙しいところすみません、少しお尋ねしたいのですが」

「はい? どうなさいましたか?」

「先ほど、イズマル王国時代から営んでいると仰っていましたよね? ……こちらのお皿なのですが、この絵柄ももしや、その頃からお使いのものでしたか?」

「ええ、良くお分かりになりましたね」


 突然の質問に驚きながらも、彼女は快く答えてくれた。


「昔から、このお店で使われている伝統の絵柄だそうです。文字は、最初は魔動機文明語だったみたいですけど……今の人が読めないので、交易共通語にしたそうですよ」

「あれ、魔動機文明語、ってことは……?」

「もしかして?」


 ユズとロランは聞き覚えのある単語の数々に、グレンが意図して聞いた理由がようやく分かったようで、ぱっと顔を輝かせる。

 自分で気付けてなにより、と満足そうに頷いたグレン。そんな三人の様子に、女性店員は不思議そうに首を傾げながらも皿の絵柄を指さす。


「ちなみに、こちらの絵柄の男女は、セルディ王子と薔薇の妖精スフェラリールです」

「やはり、そうでしたか」

「次のヒントだ! ……ですよね?」


 おそらくそうでしょうとグレンがしっかりと頷くと、ユズは諸手を挙げて喜んだ。店員が目を白黒させているのを見て、グレンは騒がしくてすみません、と小さく頭を下げたが、それもロランがハッとした表情で立ち上がったことで、更に深々と下げたのは言うまでもない。


「あっ! ……もしかして!」

「えっ、何か思い当たるものがあるの!?」

「確か、薔薇園跡に妖精の像があったはずだよ。もしかしたら、それが薔薇妖精なのかも!」

「それだああ! グレンさん! こうしちゃいられないですよ! すぐに行かないと!」

「落ち着きなさい」

「あたっ」


 二人の頭を叩き、居心地の悪さに耐えられなくなったグレンは席を立つ。


「ああ、ごちそうさまでした、お金はこちらに」

「あっ。素敵なお話と美味しいケーキ、ごちそうさまでした!」

「ふふっ、ありがとうございました」


 代金をテーブルに置いてグレンが立ち去ろうとすると、ロランとユズも慌てて後を追いかける。その様子を楽しそうに笑って見ていた店員が、またのご利用をお待ち居ております、と背中へと掛けてきたが、またの機会はしばらく時間を置かねば難しいだろうとグレンは苦い顔をしていた。

 噴水近くの店通りをのんびりとした歩調で歩くずんぐりとした体型の男と、ちょこんと隠れるようにして歩く少女。凸凹な二人を見つけるのは、そう難しいことではなかった。


「おーい、ヒントわかったよー!」

「そりゃ本当か」


 ユズとロランが駆け寄って簡単に説明すると、親方は大きく肩を落とした。


「またミルダオ島か……。報酬よりも出費の心配してきたぞ、そろそろ」

「赤字にはならない程度ではありますが、そうですね……」

「もー! ロマンの前に大人の事情を挟んじゃだめだってば!」


 そっと親方に同意したグレンに唇を尖らせたユズ。そんな三人のやりとりを一歩引いたところで見ていたタルトだったが、ふとこてんと首を傾げた。


「一時間で、終わる?」

「え? どうだろう?」

「……あー、嬢ちゃんが心配してるのは、船頭が一時間しか待ってくれないことだろ?」

「ん」


 確かに、最初の利用時にそのようなことを言われてはいたが、すっかり念頭から消えていた。よく覚えていたものだと感心するグレンは、そっと懐中時計を開いた。

 現在の時刻は十五時五十分。

 <水鳥>で嘆きの桟橋までの移動で十分。ミルダオ島までの移動で二十分。薔薇園まで歩くと十分。十六時半を回ることが予想でき、グレンはため息を飲み込むと同時に懐中時計を仕舞った。



うっかり、薔薇妖精の伝説部分を

「せっかく小説として投稿しているんだから、それっぽくしようぜ! あらすじそのままとか、ちょっと公式に申し訳ないし、物書きの端くれ……もどきならできるだろ!」

と頑張ろうとして壁にぶち当たってファンブルした結果、大変遅くなりました。

最終戦まで連日投稿いたします。もう少し、だ……!

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