31 ヒント7
広場の中でも特に人が少ない石柱の下は、他の場所と比べて少し小高くなっている。平面ではない故に露店を出しにくいからか、この付近に店はない。
人気がないことをこれ幸いに、一行は堂々と石柱を調べ出した。石柱はかなり古いもののようだが、幾度か補修された痕跡があり、しっかりしている。石柱の高さは五メートルほどで、その天辺には獅子の像が地面を見下ろしている。
「うーん、二階建ての家くらい?」
「高さはそれくらいかな? 梯子とかはなさそうだけど」
石柱を見上げて首を傾げるユズとロラン。足元では、根元の方を確認している親方が、大きな体を小さく丸めていた。
その反対側で、そっと石柱自体を調べていたグレンとタルトは、何かが刻まれていることに気付く。少し劣化していて判別しにくいため、解読に苦労しているようだ。
「魔動機文明語、ではなさそうですね」
「大丈夫、大体わかった」
「おや? タルトさんは読める言語でしたか」
「ん。魔法文明語」
真面目な顔で文字を見つめるタルトの言葉に、グレンは三人を呼び集める。
「ここ、こう書いてある。『ここに、猛き金色の王者の魂を封ず。願わくば、五人の勇士たちの魂が、その眠りを守らんことを』……伝説の、だと思う」
「神官さんが教えてくれた、黄金獅子の伝説のね。てことは、やっぱりこの下に埋まってる、とか?」
「いいや、下にはなさそうだ。地盤がしっかりしてる上に、この石畳をほじくり返すのは難しいぜ」
ユズの言葉を、根元を調べていた親方がきっぱりと否定した。それを証明するために、どん、と力強く塔へとぶつかり押しても、ビクともしない。
「本当だ、しっかりしてる。ちょっとやそっとじゃ倒れなさそう」
「と言う事で、俺から提案だ」
親方は真面目な顔でそれぞれの顔を見て、問い掛けた。
「登ってもいいか?」
「え?」
「えっ」
「は?」
「親方、どうして?」
親方の言葉に、四人の目は丸くなった。立ち直りが早かったのは、付き合いが長かったタルトであり、やや半目になりながらも質問を返す。
「空を恋しがる……ってことは、もしかしたら、あの高い獅子の像のところにあるかもしれない。この辺りでは、一番高いだろう?」
「た、確かにそうでしょうが……」
「でも、だめ。親方登るの、反対」
「なんでだよ」
「その、体型で、登れると、思うの?」
ご丁寧に、単語単語ではっきりと区切って言われると、親方の表情が抜け落ちる。
「それは全ドワーフに対する侮辱と見た」
「親方は、筋肉ぷらす、ぽっちゃり。前に見たドワーフ、筋肉質だった。つまり、エール飲みすぎ」
「ああ、それ聞いたことあるよ、エール腹って奴だよね?」
「エール腹って言うな!」
「うわ、親方さん。それ、すごいおっさんくさいよ」
「おっさん言うな!」
年下の三人にいいように言われ、親方は次第に眉が下がっていった。年甲斐もなく泣きそうだ、なんて思っていると、苦笑したグレンが助け舟を出すかのようにして申し出る。
「では、私が登りましょう。これでもスカウト技能は学んでいますし、もしヒントが魔動機文明語でも読めますから」
「ええっ!? グレンさんがっ!?」
「ん。じゃ、親方受け止め役」
「じゃ、じゃあアタシ薬草準備してる!」
「おい、落ちる事前提にするなって。でも大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
少なくとも、貴方が登るよりは。そんな言葉を飲み込み、グレンはゆったりとしたローブを脱ぎ捨て、身軽な服装になる。
細身ながらも多少の筋肉がついた肢体に、親方はそれ以上の言葉を飲み込んだ。スカウト技能を持っているくらいなのだから大丈夫だろう、と己を納得させ、万が一のために両手をあけておく。
ハラハラと見守るユズとロラン気持ちとは裏腹に、するすると身軽にグレンは塔を登って行った。
「問題なさそうだな」
「一番の適任、分かってた」
「まあ、この中じゃな」
「自分から言い出してくれて、良かった」
「おい、確信犯かよ」
タルトの頭を小突くと、肉体労働嫌い、と小さく呟かれて返される。親方としても、グレンが登ってくれたことで、こうして安心しながら眺められるのだから、本人にはあまり強くは言えないのだが。
「やだ、獅子の像にしがみつくグレンさん、めっちゃ美人。さすがエルフ」
「うん。不思議と絵になるね」
「でしょ? あれ、うちのグレンさんなんだよ。う、ち、の! グレンさん!」
「親馬鹿か」
地上でそんなくだらないやりとりをしているとは、微塵にも気付いていない様子のグレンは、足場がない頂上で、獅子の像にしなだれかかるようにしがみつきながら、きょろきょろとあちらこちらを見渡していた。
最初は像自体を調べ、遠くを見つめ、地上を見下ろして大きく手を振るユズとロランに小さく手を振り返し、やがてある一点を見つめる。手帳に何やら書き記してから、大きく手をあげ、降りる体勢へと動き始める。
「何かあったかな?」
「どうだろう? とにかく怪我無く無事に降りられたらそれでいいんだけど……」
そわそわしながらゆっくりと降り始めるグレンを見上げた、そんな時だった。
ずるり、と。グレンが足を滑らせたのは。
「グレンさんっ!」
「親方!」
「おうっ!」
四メートル以上もある高さから落ちたグレンを、親方はしっかりと受け止めた。ぽかんとした表情のグレンは何が起こったかわかっていないようで、不思議そうに親方に抱えられている。
「親方、ぐっじょぶ」
満足そうにタルトが頷くと同時に、固まっていた時が動きだしたようで、ユズが大声で泣き出しながらグレンにしがみついた。
「うわあああああんよかったよおおおおおおお!!」
「神官のお兄さん無事っ!? 怪我してないっ!?」
「おや、すみません。助かりました」
「グレンさあああああああんっ!!」
喧しいですよ、と優しい声で窘めるグレンは、親方に礼を言って地面へと降り立った。ロランとユズを宥めつつも、再びローブをまとって親方とタルトの方へと意味ありげな視線を向ける。
親方はにやりと笑った。
「さて、具合はどうだったんだ、神官さんよ」
「貴方のキャッチと同じくらい上出来ですよ」
「そりゃ上等」
「なんて書いてあった?」
「ヒントはありませんでしたが……ただ、上から緑色に輝く石板は見つけましたよ」
こちらです、と二人を引っ付けたまま進み出すグレンに、手慣れてるなぁと僅かに笑みを零しながら、親方とタルトも後を追った。
グレンの案内で進んだ先は、露店が立ち並ぶ少し先。市場の入口に近いものの、少し外れた位置にあるなんの変哲もない場所で、ただ石畳が続いているのみであった。
「確かこの辺りです。あそこから見て、光を反射しているのが分かったのですが……」
「よし、調べてみるか。おら、坊ちゃんも剣士の嬢ちゃんも動いた、動いた」
「ふぁい」
「うん」
グレンに引っ付いていた二人を動かし、五人は手分けをして石畳を調べ始める。
やがてタルトは一枚の石畳をじっと見つめ、グレンを呼んだ。
「たぶん、これ?」
「……おそらくそうでしょう。よく見れば分かるように、これだけ材質が違いますね」
手触りと地面に顔をつけての目視による確認で、表面が高いところから見ないと反射しないつくりになっている石畳が一枚あることに気付く。その周りに、薄らと土がついているのを見ると、剥ぐことができるのが分かる。
ロランとユズが二人掛かりで剥がそうとしたが、息が合わず上手く出来ず、結局親方が力づくで石畳を剥いだ。
「あ、紙だ!」
「ヒントだね、ヒント! アタシ読む!」
親方が剥がした石畳の下には小さなくぼみがあり、一枚の紙きれが置いてあった。紙ならば交易共通語だ、とユズがうきうきしながら紙を開き、その文字を読み上げる。
【真っ白な卵 金色の太陽が輝く世界】
「なんだか、今まで以上に詩的な表現だな」
「待って、続きがある! 臨場感たっぷりに読むから! ロラン心して聞いてね!」
「えっ?」
楽しそうに告げるユズの態度に、またか、とグレンらは苦笑した。前にやった時に引かれたと言うのに、懲りないな、とタルトの視線があからさまに呆れている。
そんな視線を跳ねのけて、ユズはノリノリで読み上げた。
「どう? もう音をあげているのではありませんか? やめるのなら、それでももう構いませんわよ? あなたになんか、全然期待してないんですからね!」
数秒の沈黙。親方、グレン、タルトの三人は顔を見合わせて頷いた。
「ツンデレ?」
「ツンデレだな」
「ツンデレでしょうね」
「ちなみに、文面そのまま読んでるからね! 文面からもうツンデレがにじみ出てるからね! 意訳いる? 超アタシ的訳いる?」
「もー! ツンデレツンデレうるさいなー! いらないってば!」
四人からの生暖かい視線に耐えられないロランは、真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。ユズとタルトの追撃を防ぐべく、親方は短い腕を伸ばして、わしわしとロランの頭を掻き撫でる。
「ま、頑張るってだけだろ、坊ちゃん」
「そりゃあね、もちろんだよ! それに、ボク次のヒントは分かるかもしれないし」
「ほう? そりゃ本当か」
真っ赤な顔をしているため、真面目な顔をしても微笑ましさが抜けないのだが、あえてそこには触れず、親方はロランを持ち上げるようにして聞いた。
ロランは咳ばらいを一つしてから、ユズに地図を広げるように伝える。
「真っ白な卵と言えば、卵みたいに真っ白な建物を知ってるよ」
「それって、どこのこと!?」
「劇場跡地。カルガモ水路にある、劇場だよ!」
ここ、と指さした先は、最初に訪れた長靴島に近い場所にある。この獅子の市場からは大きな水路を隔てた先にある。
「よし、んじゃ駆け足で行くとするか!」
「おー!」
駆け足、と言っても<水鳥>使うから、実際には走らないけれど、と後ろの方でタルトが覚めたように告げた言葉は、聞かなかったことにして。一行は劇場跡地へと進むことにした。
G M:うーん、それじゃ、登…これなんて読むんだ? 冒険者ボーナス起用度で、10以上で
グレン:2D6+3+2 冒険者:器用 → 9[4,5]+3+2 → 14
グレン:問題ないでしょう?
G M:それじゃ、グレンは問題なく登っていくぞ
頂上に着くと、下を見下ろす獅子が建っている。
その獅子にしがみつく形でいないと足の踏み場がないからな
グレン:それで、他に何かありますか?
G M:いや、頂上には獅子の像しかないよ
親 方:他に、何もないのか?
G M:ない
ユ ズ:獅子の像を調べても?
G M:石柱と同じころに作られた像としか分からないな
タルト:文字も何も、ない…?
G M:ない
グレン:嘘でしょう
親 方:すかった、だと?
ユ ズ:嘘でしょ
登って知る権利あるのはグレンだけでしょうに、とは思ったけどテンポが良かったから何も言わなかった系GMとは私のことです()
あとツンデレ口調は大好評でした。
尚、文面は公式です。




