03 おつかい
〈水晶の欠片亭〉の女将リッタの計らいによって、ルーフェリアでの活動を行うようになったタルト。親方の傷もすっかり癒えてきたようで、装備を再び揃えるための資金を調達するために、タルトと行動を共にし始める。
親方曰く、昔にこの辺りで活動をしたことがあるので、変わっていなければ分かる部分も多いとのこと。実際、久しぶりと声を掛けてくる者が少なくはなかった。
真語魔法と操霊魔法を微弱ながらも扱う後衛職のタルトと、ヘビーアックスを振り回す前衛職の親方。人数が少ない部分とタルトの未熟な部分は、親方の豊富な経験によるフォローによって、それなりのバランスを保っていた。
それでも、二人で請けられる依頼は限られている。ましてや、タルトはようやく十四歳になったばかりである。仲間の預かり子でもあるタルトに、親方はあまり無理は言えなかった。
金銭的に、生活が苦しくなっていくのは必然だったと言えよう。
「嬢ちゃん大変だ。明日から俺たち、宿無しになっちまう」
突然の親方の言葉に、タルトは不思議そうに首を傾げた。
「親方に貸したお金、返してくれたら、大変じゃない」
「俺の商売道具を売れるわけがないだろうが。ほら、オトーサンも言っていただろーが。冒険者たるもの」
「……装備だけは怠るな?」
「0に近い金額になってもいいから、それなりの装備にするのは大事だ。命大事に、ってな」
「でも、寝る場所ないのは、困る」
じっと見つめられた親方はたじろいだ。ここで親方がとれる選択肢は三つである。
一つ目。己の装備品を一つ売って、即席資金を作ること。正直フル装備ではなくても、なんとかできるだろう自信はある。
二つ目。多少無茶すればこなせるであろう依頼を請ける。日数もリスクも大きいが、できなくはない。四人でタルトに気を配っていたのを一人で全部やるだけのこと。多少の負担はタルトにも背負わせることになるが、それも冒険者として活動をしていくのだから、その時期が少し早まっただけ。そう考えられれば可能ではある。
三つ目。リッタに土下座して頼み込む。傷だらけの自分を受け入れてくれた心の広い女主人である。タルトのことを特に気にかけていることもあり、恥を忍んで頼めばおそらくは……。
「お世話になりました」
「えっ、どうしたの急に。何かあったの?」
「単純な話。お金、ない」
「やだそんなこと? 言ってくれたらなんとかしたのに……」
「ちょっと待て嬢ちゃん!」
親方が考え込んでいる間に、タルトはリッタへと別れの挨拶を始めていた。慌てて引き留めるも、タルトは何が悪いの? とでも言いたそうな顔で親方を見上げている。
「何?」
「金がないのは事実だ。だが、今日中に何とか出来れば、その問題も何とかなる」
「でも、朝見た限り、手頃な依頼、ない」
「そりゃまあそうだが、手頃なってところを求めなければそれなりにある。それに、ここが待ち合わせ場所だとしたら、そんなに長い間開けられないだろう?」
そう諭すように告げれば、タルトは神妙な顔で小さく頷いた。
やはり取るべき手段は二つ目だろう。そう思いながら再度依頼票を見直そうとしたそんな時、くすくすと笑うリッタがそっとそれを押しとどめた。
「〈水晶の欠片亭〉の冒険者の証を持って頼って来られたあんたたちを追い出すつもりは、そんなにはないわ」
「多少はあるのか」
「こっちだって商売だもの。そりゃ、多少はね」
お道化るようにしてひょいと肩をすくめたリッタは、綴ってある依頼票をパラパラとめくっては二人を見て、請けられそうな依頼かどうかを確認している。やがて少し困ったように眉をひそめながら、最後のページをめくり終えた。
「貴方たちに手頃な依頼は……残念ながら今はないみたい」
「まあ、そうだろうな。手頃なもんがあったらとっくに請けていただろうしな……」
「でも、お金がないのは……今後も困るものね」
「そうなんだよな……。贅沢は言わないから、せめて今夜一泊だけでもしのげるような依頼があれば、とは思うんだが」
誰のせい、とタルトがジト目で見上げているのに気付くと、親方は気まずいのかあからさまに視線を逸らした。
そんな二人のやりとりを面白そうに見守っていたリッタは、ふと何かを思いついたようで、手近にあったメモにペンを走らせた。
「それじゃあ、お使いに行ってきてくれないかしら? 新神殿地区にある馴染みの店から、食材や日用品を買ってきて欲しいの。それなりに量があるから大変なのよね」
私からの依頼よ、と買い物リストを一覧にして書いたリッタは、親方へと手渡す。ふむ、と豊かな髭をしごきながらメモに目を通す親方の下から、背伸びしてタルトも覗き込む。
果物、野菜、肉と言った調理用食材から、修繕用木材といった大きな物まで、店の名前と品物の名前、個数がずらりと書かれている。
肉体労働……。とさも嫌そうな顔をしたタルトの肩を、親方は苦笑しながら宥めるようにして叩いた。
「ちゃんと買ってきてくれたら今夜の食事と宿泊代を無料にするわ」
「むう……」
リッタに報酬内容を告げられても、タルトは不服そうだ。その様子に親方は困ったように僅かに首を傾げ、ゆっくりと視線をタルトへと合わせた。真っすぐに目を見つめる。
「なあ、嬢ちゃん、背に腹は代えられないだろう?」
「誰のせい」
「俺のせいでもあるな」
「分かってるなら、偉そうに言わない」
「すまん、すまん。でも、まあ。とりあえず、今日はしのげる。明日またいい依頼が来るかもしれない。時間を置いた方が依頼が来るかもしれない。そう考えるのは駄目か?」
なにより、これは特別依頼としてわざわざ用意してもらったのだ。これに文句をつけたのなら、依頼を選り好みしすぎている。
親方が言いたいことは、タルトには理解できている。分かってはいるけれども、体力も筋力もないタルトはあんまり好んで行いたいと思えないのだ。それが、子供じみた我儘だと言う事も、分かってはいるのだけれども。
むくれるタルトを微笑ましそうに眺めるリッタが、それから、と言葉を続ける。
「タルトちゃんの為に、もし良さそうな依頼があれば残しておいてあげるわ」
「本当?」
「ええ」
「なら、頑張る。……親方が」
「おい、何しれっと俺に押し付けようとしてやがる。嬢ちゃんも行くんだ」
「ううう……」
本当にしぶしぶ歩き出したタルトを、ゆっくりと待ちながら歩き出す親方。凸凹なコンビをリッタは笑って見送った。
導入は別々で行いました。
予定が合わなかったってのがあって、先に親方とタルトだけで行って、残りの二人はちょっと後日合流と言う形で。




