27 シーン神殿
水路に囲まれた小さな島に、高い鐘楼を持つシーン神殿はある。神殿の中央には高い塔が建っており、その塔の頂上が鐘楼になっているのが、入り口からぼんやりと確認できた。
「よし、行くか」
「待って」
意気揚々と神殿の中心部に進み、塔へと続く階段を登ろうとすると、タルトの小さな手がそれを阻むように親方を引っ張った。とんとん、と数段登ったところで、ユズとロランが不思議そうに振り返って止まっていた。
「タルトちゃん、どうかした?」
「失礼しますの、お参り」
びっと礼拝堂に続く道を指さして、親方が先に進もうとするのを阻む。
仕方ねぇな、と苦笑いをしながら肩をすくめた親方は、タルトの思うようにさせてやろうと、階段へと掛けていた足を下ろした。最後尾にいたグレンが柔らかく微笑みながら頷いている。
「祭壇祈祷は、どんな信仰をしていても大切なことです。良い心がけですね」
「……お母さんが言ってた。神様は、祈りの力が原動力だって。だからどんな形でもいいから、神殿に行ったらお参りしてね、って」
「もしや、タルトさんのお母さまも神官でしょうか?」
「ん」
タルト自身は特定の神様を信仰しているわけではないが、お母さんに連れられて教会へと足を運ぶことは多々あった。祈祷に対しての忌避感はなく、神殿に来たら行うべきこととして認識されているらしい。
先ほどのキルヒア神殿では、ユズも親方もお参りをしたのに、このシーン神殿では行わないで進もうとしたことが、タルトには不思議で仕方がなかった。
グレンとタルトのやりとりに、何か思うところがあったのか、ロランは軽快に階段を降り、二人の後に続いた。
取り残されたユズは戸惑ったものの、くつくつと笑いながら祭壇の方へ歩いて行った親方の背中を見送ると、ぷう、と頬を膨らませて礼拝堂の入口で皆を待つことにした。
そっと中を覗くと、四人はそれぞれの形で祈りを捧げていた。グレンは見慣れたキルヒア神官式。ロランはルーフェリア神官見習いと言っていたから、ルーフェリア式なのだろう。親方とタルトは僅かに頭を垂れて祈りを捧げている。
(正直、神様がいるって言われても、ピンと来ないって言うか)
いる、と言われているのは分かる。でも、見たことはない。いる、らしいというだけで、祈ることを強要されるのは、ユズにはどうも好きにはなれなかった。キルヒア神殿では、グレンの付き添いで行くことが多いから、グレンの魔法にはお世話になってます、と言う気持ちがあるからこそ祈れる。
(ま、それは人それぞれってことで)
まだ時間が掛かりそうなことを予測して、ユズは辺りをきょろきょろと見渡した。
キルヒア神殿と同じように、穏やかな顔をした神官が壁際で礼拝者たちを見守っているのが見える。通路には観光客がまばらにおり、彼らを案内するためなのか、見える範囲に一人は必ずシーン神官がいた。
ユズは人の流れを見守っている様子の、比較的暇そうな神官を見つけて、そっと近づいた。
「ねえ神官さん。月の階段ってここであってるかな?」
少し驚いた顔をした後に、神官は答える。
「それはもちろん、この鐘楼に登るための階段のことでしょう」
「やっぱりそうだよね! ありがとう、神官さん」
念のため、と確認をすると、月への階段が示唆しているのはやはりこのシーン神殿で間違いないことが分かった。この調子ならば、朝昼夕の決まり事、も鐘楼のことに違いない、とユズは一人頷いた。
「それじゃ、行こうか!」
お参りを済ませた四人と合流し、今度こそ階段を上り始めた。
二階へと続く階段を上り、塔の入口まで進むと、そこで布施を求められる。気まずい思いで顔を見合わせ、深々と頭を下げながらペンダントを提示した。
応対してくれたシーン神官は苦笑を隠せない表情をしていたが、それでも塔の中へと進むことを許可してくれた。<水晶の欠片亭>への信頼様々である。
塔の中は、内部の沿って螺旋式階段が作られていた。元気よく駆けあがるユズに、遅れて息が上がりながらも続くロラン。荒い息でゆっくりと登っていくグレンに合わせて親方も短い脚でゆっくりと進む。タルトは早々に親方の背にしがみついている。
階段を上って行くと、やがて観音扉へと突き当たる。ここでもシーン神官が控えており、ゆっくりと扉を開こうとした。それを、皆が追いつくまで律儀に待つ。
息も絶え絶えなグレンが最後に追いつくと、ユズはワクワクを隠せない気持ちのまま、シーン神官へお願いしますと声を掛けた。
ゆっくりと開かれる観音扉。その先に広がっていたのは、まさに絶景だった。
「おお、こりゃすごい景色だな」
「すごい……」
「ほあー! まさに、くちぽかーんだね! すごーい! たかーい!」
「確かに、これはすごいですね。……ふう、これだけの階段を、頑張って、登ったかいがあります」
鐘楼の下にある展望台に出た一行は、目の前に広がる光景に感嘆の息を漏らした。
北に広がる真っ青なエルリュート湖。南西方向に白龍山の純白の高峰。南東方向にはキプクロスが生息する濃い緑の森。その中に造られた人工的な建物が、静かに鎮座している。エルリュート湖に浮かぶ美しく草原なルーフェリア神殿や、湖の対岸にあるアドエンの街を見つけると、ユズは楽しそうにあれは? これは? と地図を広げて照らし合わせていた。
目の前の光景に感動しているロランが、ぽつりとこぼす。
「今度は、アンヌと一緒に来よう……。あそこが僕の生まれた街だって教えたいな……」
グレンと親方はその言葉に何かを察したのか、どこか優しい目でロランを見つめる。本人も意識しないでこぼれ出た言葉なのだろうと、余計な詮索をしないことを思っていたのだが、タルトは違った。
「アンヌって、彼女?」
「か、彼女っ!? ち、ちがっ、まだそんな……!」
「手紙の主? って、意味」
「もーっ! お姉さん本当に、もーっ! やめてよそういうのーっ!!」
顔を真っ赤にして、ロランはタルトの背中を照れ隠しに叩いた。
「痛い」
「まあ、それは嬢ちゃんが悪い」
「少年の純情を揶揄ってはいけませんよ」
むう、と頬を大きく膨らませたタルトは、いじけたようにして親方の背中から滑り降りた。対照的に顔を真っ赤にしているロランは、親方とグレンの分かってる、とでも言いたそうな雰囲気に耐えられず、ぷるぷると小さく震えていた。
「ねーねー! こっちが鐘楼だってー!」
「ほ、本当!? ユズ姉さん待ってよ!」
救いの船だ、とでも言うかのように、ユズの言葉に飛びつくようにしてロランは駆け出した。
多少歳が離れていようと、親方から見ればまだまだ子どもの二人に、親方は苦笑しながらタルトの背をぽんと叩いた。
「もうちょっと言葉、しっかり伝えような」
「ん」
「あと情緒も知ろうな」
「親方は乙女心を知った方がいい」
「俺には縁遠すぎて関係ないな」
「じゃ、グレンが」
「すみません、飛び火するのやめてもらえませんか」
至極複雑そうに顔をゆがめたグレンに、親方は口を大きく開いてがははと笑った。それに混ざって、小さく笑うタルトの声に気付いたグレンは、不本意ではあるものの、それもまあ笑っていればいいかと、苦笑に近い笑い方で、グレンも小さく笑った。
ここ後で書き足しておいてね!
追加エピソードをそれっぽくよろしく!
たぶんいい感じにこう、心理描写いれてくれると信じてる。
みたいなやりとりがセッション中にあって、派っしょってある部分が多くある部分。
書き足し部分が多くなりますので、少々お待ちください。
(オンセだと、打つの面倒くさくなる時ってあるよね…)




