23 揶揄い
<水鳥>を一旦返し、細い水路に掛かった橋を渡って西へと進む一行。
ある区画に入ると、様子が少し変わってきた。石畳の街路には、等間隔に動物や島、魚などのモザイク画が描かれている。街路樹も植えられていて、長靴島付近から比べると、とても華やかな印象を受ける。街路の左右に、宝飾品やガラス製品を扱う店が軒を連ねているからだろうか。
一行は知らず、感嘆のため息をついていた。
「こりゃすげえな」
「場違い、はなはだ」
「高価そうなお店ばっかだね……東京のおしゃれなお店通りっぽい」
「ユズ、間違っても触れないでくださいね。壊しても弁償はできません」
「ちょっとグレンさん、アタシだってさすがにそんなことしない……と思うもん! 不慮の事故さえなければ!」
「断言できないんですね……」
言葉に詰まるユズをみて、ロランは可笑しそうに笑い声をあげた。ぷんすか怒るユズがぶんぶんつないだ腕を振り回すも、それですら笑いが止まらない要因となっているようだ。
後ろからゆっくり追いかけて行く親方は、きょろきょろと物珍しそうに辺りを見渡しているタルトに、笑みを隠せないまま口を開いた。
「宝石、貴金属、硝子を加工する工房兼店が集まっている場所だな」
「きらびやかなお店ばっかり」
「それなぁ。俺が知ってる場所とは、ちょっと様子が違うんだ。二、三十年前はガラス職人たちが細々と工房を営んでいるだけのところだったんだが……」
己の記憶と照らし合わせるようにして、懐かしそうに通りを眺める親方。面影を探している瞳が、いつもより一層優しく見えた。
会話が聞こえたのか、ロランが小さく振り返る。
「最近は、裕福な商人や職人が増えたおかげで、高い宝飾品が触れるようになって、あっと言う間に様変わりしたんだって、シムニスさんが言ってたよ」
「なるほどな。いいねえ、衰退していく様子を見るよりも断然いいな」
「おっさんくさい発言」
「おっさん言うなって」
「今のは確かにおっさんくさいわー」
「だからやめろって! もう何も言えなくなるだろ!」
ユズとタルトにおっさんくさいと言われると、親方は目に見えて肩を落とした。フォローの言葉を掛けるのは逆効果だと思い、グレンは前をちゃんと見て下さい、と先を促した。
物珍しさから観光するように歩いていると、不意に、小さな宝飾店の店主らしい男が、ロランへと声を掛けてきた。
「お、ロランじゃないか!」
「あ、おじさん」
ちょうどお客を見送りに出ていたのだろう。扉の前で穏やかに微笑む店主に、ロランの足がゆっくりと止まった。ユズが掴んでいた腕が、するりと抜ける。
「知り合い?」
「まあ、ちょっと、ね」
歯切れの悪い言い方に、ユズは不思議そうに首を傾げた。
「もう彼女への贈り物は決めたのかい? もしまだなら、いいペンダントが手に入ったんだが」
「わあああああ! おじさん、ごめんその話はまた今度!」
「えっ、ちょ、ロランっ!?」
ロランは顔を真っ赤にしながら、その場を走って逃げ出した。呆気にとられたユを置き去りにして。
タルトが駆け出したのを見て、ゆっくりと追いついた様子の親方とグレンが、店主と同じように暖かな眼差しで見つめていた。
「えっ、ちょっとー!」
「まあ、少し時間を置いてあげましょう?」
「坊ちゃんもやるなぁ」
「なんでっ? なんでなんでっ? 護衛対象でしょ!? 離れたらまずいんじゃないのっ?」
「まあ、そりゃそうだが、なあ?」
意味深に投げかけられた言葉に、店主も苦笑しながら頷いた。
「ユズだって、分かっているのでしょう? 彼の反応で」
「だからだし! 女の子は恋バナ大好きな生き物だよ!」
「……剣士の嬢ちゃんは、もうちょっと男心を知っててもいい年頃だと思うんだがなぁ」
「親方さん、それどういう意味かなッ!?」
わはは、と笑って誤魔化されたことにぷんすか怒った様子のユズの背をぽんと叩く。グレンは穏やかな笑みを浮かべながら店主へ黙礼をし、ゆっくりと歩き出した。
「ちょっと離れたところにいてあげましょうか。大勢があからさまに聞いているとわかると、恥ずかしいでしょう?」
「そうだな、だから大人良く待ってような?」
「ちぇー」
ロランが駆け出した直後に追いかけたタルトは、体力がない自負しているだけあり、すぐに息が上がり始めた。それでも冒険者と一介の神官見習いとでは、まだ冒険者として活動をしているタルトの方が体力はある。
へばり始めたロランが足を止めるまで、そう時間は掛からなかった。
さりげなく辺りの様子を伺う。特に誰かが注目している様子はないようだ。己の息とロランの息が整うまで少し待ってから、タルトはゆっくりと口を開いた。
「彼女って?」
余計な言葉を継げないで、簡潔にタルトが訪ねると、ロランはしばらく口をパクパクと開閉していたが、やがて顔を赤らめたまま、小さくぽつりと呟いた。
「……ルーフェリア神殿の奥で出会った女の子」
少し恥ずかしそうにして、ロランは語る。
「とっても可愛いんだけど、神殿からはなかなか出してもらえないんだって。だから、時々、話し相手になっているんだ。でも、大人の人たちにバレると会えなくなっちゃうかもしれないから」
シムニスさんにも秘密なんだけどね。
ぽそぽそと呟いたロランをじっと見つめて、タルトは静かに頷いた。
「そう。……可愛い女の子、なんだ」
「うん、とっても可愛いんだ」
「好き?」
「すっ、あの今は、秘密じゃないといけないから」
「今は?」
「言わない!」
どうして顔を真っ赤にする必要があるんだろう? とこてんと首を傾げる。言わないなら言わないでいいけれど、と思いながらもこれだけは確認しなければ、とタルトはぷるぷるしているロランに追い打ちをかける。
「最後にもう一つ」
「もー、言わないってば」
「その彼女が、宝探しの紙を渡したの?」
「!?」
真っ赤な顔でそっぽを向いていたロランだが、タルトの続けられた言葉に、はっと息をのんだ。答えて、とじっと見つめられる視線に、やがて耐えられなくなったのか、苦虫をかむような表情で、言葉を漏らした。
「……うん。でも、もうこれ以上詳しいことは、もう言えない」
「そう」
静かに頷いたタルトだが、続く言葉に思わず目を見開いた。
「でも、この試練を乗り越えられたら……」
宝探しじゃなくて、試練。
ロランは確かにそう言った。宝探しと最初は言っていたが、これは試練。彼女が与えた試練だとすれば、薄々と感じていた違和感が、なんとなくわかった気がする。
(でも、どうしてこんなに面倒なことを?)
一つ分かった気がするも、全体像は全く見えてない。もやもやが一つ消えた気はするが、分からないはまだまだ多くある。
眉間にしわを寄せたタルトだったが、話が終わったと判断された親方に、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられた。
「揶揄うのは終わったか?」
「うん」
「否定はしないんだな」
いずれ分かるようになるかな、と思う事にして、タルト口を閉ざした。
苦笑しているグレンと、満面の笑みのユズに挟まれる形で、ロランを囲む。
「さあ、先へ進みましょう」
「そーそー! まだ謎も解けてないしね!」
GM:ロラン少年は顔を真っ赤にしながら、その場を走って逃げました。
ユズ:えっ、ちょっとー!
親方:ほほー、坊ちゃんもやるなぁ
タルト:彼女って?
GM:店主は教えてくれないから、ロランに直接聞くといいよ
グレン:いや、それって野暮ってものじゃないんですか?
タルト:でも
でも、あえて聞く
ユズ:タルトつよいw
GM:じゃ、ロラン少年はちょっと先で君たちが追いつくのを待っている
タルト:追いついて聞く
彼女って?
親方:ストレートに聞くなぁ
ユズ:ねえマヂタルトっょぃんだけどwww




