02 失った温もり
店仕舞いを終え、店の電気も消した。戸締りの確認だけもう一度、と暗い店内を燭台に灯した蝋燭を持ってリッタはゆっくりと回った。
窓、よし。火の後始末、よし。裏口、よし。正面の扉……おや?
正面の扉へ回った時に、微かに誰かの泣き声が聞こえた気がした。扉に耳を当ててみるも、辺りが騒がしい様子でもない。
空耳かしら? と施錠してあるのを確認したリッタだが、なんとなく気になって窓から外を覗く。
「あら、やだ。女の子じゃない」
閉めた扉を再び開いて、慌ただしくリッタは飛び出した。
月明かりに照らされて、キラキラと輝く銀色のふわふわの髪。蒼色の瞳からぽろぽろと零れ落ちる涙を拭くこともしないで泣きじゃくる、小さな女の子。
彼女の傍には折れた杖。強い魔法の残滓。うず巻く、呪いの気配。そして、倒れ伏せた傷だらけのドワーフ。
「泣いている場合じゃないでしょっ!」
リッタが鋭く叱咤すると、少女は大袈裟なほどにびくりと肩を揺らして後ずさった。瞳に浮かぶ怯えの色を無視して、リッタは慌ててドワーフの傍に膝をつく。
浅い息。尋常ではないほどの出血量。鋭い一撃を腹にくらったのか、だくだくと流れ出る血が止まる気配がない。
応急措置を施しがてら、リッタは声を張った。
「誰か、神官様を呼んできて! 重症の怪我人よ! 大至急!」
深夜という時間帯。静寂が落ちていた辺りに、リッタの鋭い声が響く。やがて時を置いて、一人、また一人と声を聴いて外に姿を現す人たちが現れ始める。
ガヤガヤと人が集まり始める中、少女はしゃくりあげたままふるりと身を震わせていた。
「神官様をお連れしたぞ!」
「道をあけろ!」
わけがわからないまま連れてこられたであろう神官様は、倒れているドワーフの姿を目にすると、険しい顔つきで傍に膝をついた。聖印に魔力を込め、祈りをささげる。
「【キュア・ウーンズ】!」
祈りが力に変わり、ドワーフの男に吸い込まれていく。これでひとまずは安心か、と周りが息をつくも、神官様の顔はすぐれない。
「すぐに彼を安静にできる場所に運んでください」
「それなら、うちが近いわ! 悪いけど、そこまで運ぶのを手伝ってちょうだい!」
リッタの一声で、ドワーフの男がゆっくりと運ばれる。神官様は移動させる間もずっと祈りを捧げており、その回復に努めている。
ぽろぽろと涙をこぼし続けている少女に、リッタはそっと声を掛けた。
「彼、お仲間かしら?」
少女はこくりと頷いた。
「勝手にうちに運んだけど、今回は緊急だってことで。なんなら、元いた場所に連絡くらいはとれるけど?」
現在の滞在地はどこ? と聞いても少女は首を振るばかり。何か話してくれないかしら、とリッタは眉間にしわを寄せるも、しゃくりあげる少女は何も言わない。
周りの人間が怖いのかしら、と礼を告げて人を散らすも、少女は落ち着く気配を見せない。
無理やりにでも立ち上がらせて連れていくべき? なんてことを思い出した頃、ゆるゆると少女が何かを首から外した。
「……これ」
そっと掲げられた、滴型の青水晶のペンダント。
「これ、うちの……」
「おかあさんが、……ルーフェリアの、〈水晶の欠片亭〉なら、力になってくれる、って」
「おかあさん……?」
リッタが辺りを見渡しても、それらしき女性は見当たらない。
薄々訳ありなことは予想していたが、そんなことが些細なことに思えるくらいには、この少女に憐みを感じていた。リッタはそっと少女に手を差し伸べた。
「じゃあ、おかあさんが来るまで、あのドワーフさんの容態が落ち着くまで、とりあえずうちにおいで」
少女は、戸惑うようにリッタとその手とを交互に見つめている。リッタは辛抱強く手を差し伸べ続けた。
「私は〈水晶の欠片亭〉のリッタ。貴女は?」
しばらくの沈黙ののち、赤く目をはらした少女は、ぽつりと呟いた。
「……タルト。タルト・タタン」
「……ああ、あの子の」
記憶に残る若かりし頃の自分と、優しく微笑む冒険者の彼女。どことなく彼女の面影を持っている少女……タルトに、リッタはおかあさんと呼ばれた彼女のことを思い出した。時が流れるのは早いな、なんてことも思いつつ。
決して手を取ることをしないタルトは、ゆっくりと自分の足で地面を踏みしめ、リッタの傍に立ち上がる。強引に手を取ろうとすると怯えるので、リッタは諦めてともに歩くことで妥協した。
「あのドワーフさんは神官様がなんとかしてくれる。だから安心して大丈夫よ」
「……ん」
「ゆっくり体を休めて、と言っても眠れそうにないかしら? ホットミルクを淹れてあげるわ」
「ん」
「もしよかったら、だけど。何があったのか、教えてくれるかしら?」
「……わ、かった」
ドワーフの彼を寝かせている隣の部屋で、ホットミルクのカップを抱えながら、ポツリポツリとタルトは語り始めた。
曰く。
神紀文明期に造られたであろう遺跡を探索中に、パーティ分断させられ、ドワーフの彼……親方と二人きりにされてしまったこと。
タルトの未熟な罠探査能力では回避しきれなかった悪質トラップによって、死にかけたこと。それを親方に救われたこと。
悪意ある声に、遺跡内から飛ばされたこと。
一度だけ使える、帰還アイテムを使ったこと。
気が付いたら、先ほどの状況だったこと。
……聞けば聞くほど、まだ幼さが残る少女には過酷な状況だったのが分かる。冒険者として未熟な様子の少女が、神紀文明なんて難易度が高い遺跡に何故行動を共にしていたのか、と言う事。
一度の失敗が命に係わる、を身に持って体験させるにしても、致命的状況に転がり落ちている。これでは、タルトの心が折れてしまう。
リッタは、それは大変だったわね、と頭を撫でようとしたものの、その手は怯えたタルトによって叩き落とされてしまった。
疑心暗鬼になってしまった冒険者によく陥る症状だと判断し、リッタはごめんなさいね、とさらりと手をひっこめた。
「いやはや。命と引き換えに、経験値と道具を全部失っちまったとは……。こりゃ参ったな」
数日後に目を覚ましたドワーフ……親方は、不思議そうに己の手を握っては開き、己の身体にある違和感をそう口にした。
馴染みの武器がない。
武器を買う資金もない。
感覚が鈍って、元通りに動ける気もしない。
困った、と口にする親方だったが、黙って縋りつくように抱き着いてきたタルトの様子に、苦笑に変わっていた。戸惑っていたのは最初だけで、やがて慣れた様子で背中をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だ、嬢ちゃん。アイツらはここに来る。ここが俺たちのスタート地点だからな、ここで待っていれば案外攻略してきたぜーなんて言って、ひょっこり顔出すさ」
だから、大丈夫だ。繰り返される親方の言葉に、タルトはこくりと、小さく頷いた。
PC2:親方
種族:ドワーフ 生まれ:戦士
冒険者レベル2
技能:ファイター2
マギテック1
特技:かばう
言語:共通交易語 ドワーフ語 魔動機文明語
メモ:お酒好き。金遣いが荒い。わりと博識。
髪の色:赤銅色 / 瞳の色:黄土色 / 肌の色:小麦色
経歴1:大きな遺跡を発見したことがある
経歴2:5つ以上の地方に行ったことがある
経歴3:特定の色に強い思い入れがある(あった)
穢れ度:0
親方:おっさん幼女って最強じゃね?
GM:せやな!
で、組み合わせが決まりました




