18 ヒント3
ユズ、タルト、親方の三人は賢神キルヒアを祭っている祭壇の前にいた。タルトと親方は慣れた様子で両側に設けられている信者席の長いベンチへと移動し、黙とうをささげるようにして静かに祈りを捧げていた。
ユズも少し悩むようにしてから、静かに親方の後を追いかけた。ただ黙って下を向いていたが、自分の行為に違和感を覚えたのか、やがて両手を合わせて拝み始めた。
「グレンさんの知識に深い感謝をしています。お金なくて寄進ができなくてごめんなさい。あ、あといつもお世話になってまーす」
(本当に言った……)
「剣士の嬢ちゃん、声抑えような」
「あ、ごめんなさい」
しかも軽い、とタルトが呆れた視線でユズを見ていると、それに気づいたユズはてへっと軽く舌を出した。益々呆れられていてもユズはめげなかった。
ユズのことなど放っておこうと、タルトは再びキルヒア神への祈りを続けた。
お母さんとは別の神様だけれど、神様仲間ならどうか伝えて下さい。お母さんは毎日神様にお祈りをしていた真面目な信徒だったから、同じお祈りなら届いていると思うから。だから、どうかまた無事に出会えますように。ここで出会えるまで待っているから。出会えるように、頑張るから、すれ違いそうになったら、見落としそうになったら、どうか神様その知識で救ってください。
熱心に祈っているタルトの様子を見て、とっくに祈り終えた親方とユズは手持無沙汰になりながらも大人しく待っていた。
「もう、大丈夫か?」
「うん」
「よし、行くか」
「だね、グレンさん終わったかなー?」
タルトの祈りが終わったのを見計らって親方が声を掛けると、タルトは小さく頷いた。大きく伸びをしながらユズが立ち上がると、壁際で見守っていたらしい神官がお静かに、と唇に人差し指を当てるジェスチャーをして見せた。
すみませーんと軽く頭を下げてへらりと笑って見せたユズは、気まずそうに二人の背中を押して、逃げるように祭壇がある礼拝堂を後にした。
「あのなあ」
「あははっ、ごめんごめんってー! でもね、アタシちょっと凄いこと思いついたんだけど!」
「声、大きいぞ」
「あっ」
しまった、と口元に手を当てるも、ユズはやはり懲りない様子でぺろっと舌を一つ出してぱっと手を離した。自分でもまた声が大きくなってしまうと分かっているようで、照れ笑いを浮かべながら、気持ちだけ声を小さくした。
「神官さんに聞いちゃえばいんじゃないかなーって。知識の箱庭、本好き小鳥の読書会について何か心当たりはありませんか? って」
「おいおい、ど直球だな……だが、悪くねぇな」
親方は一つ頷いて、近くを歩くキルヒア神官を呼び止めた。
「なあ、ちょっと聞いてもいいか?」
「はい、何か?」
「俺の仲間が、【知識の箱庭、本好き小鳥の読書会】って謎掛けをしてきてな。知識はこのキルヒア神殿のことだと思うんだが、この辺りにそれっぽい場所はないもんかね?」
親方さんナイス! と後ろで小さくガッツポーズをするユズ。問い掛けられた神官は、少し悩んだようなそぶりを見せた後に、ふと顔を挙げて答えた。
「箱庭と言えば、神殿の裏に小さな庭がありますよ」
「ほう? それじゃ、本好き小鳥の読書会ってのは」
「それはたぶん、賢人の像がいくつかあって、そこに小鳥が集まっていること、ではないかと」
心を落ち着かせて、思索を楽しむには良い場所なのですけどね、と言外にあまり荒らさないでくれと伝えてくるキルヒア神官に感謝を告げ、目を輝かせているであろうユズたちの方へと向き直った。
「と、いうことだが?」
「図書館じゃ、なかったね」
「それじゃ、グレンさんと合流次第裏庭に、だね!」
気持ちはすぐにでも行きたい気持ちが大きく占めているようだが、合流することを忘れてはいないらしい。それでも、まだかまだかと図書館の入口まで迎えに行こうとする辺り、落ち着きがないのだが。
やがて、申し訳なさそうに眉を下げたグレンとロランが合流すると、ユズはぱっと顔を輝かせた。
「すみません、こちらの成果はあまり芳しくなく」
「ところがどっこい! 分かったよグレンさん!裏庭だよ裏庭!」
「え?」
親方のファインプレーでヒントが示す先が分かったことを伝えると、ロランの顔がぱっと輝いた。うずうずと直ぐにでも裏庭へ移動したいのが目に見えてわかる。
ユズが大きく頷いて、行こうと声を掛けると二人は先になって駆け出した。そうなるだろうことを予測していた三人は、一つ息をついてから、ゆっくりと後を追いかけるのだった。
神殿の脇の小道を通り抜けると、小さな四角い庭に出た。銀杏の木立が並ぶ中に、10体ほどの賢人たちの像が建っており、試案にふけったり本を読んだりしているその肩に、小鳥が留まり、羽を休めているのが見えた。
こんなところがあったのか、と感心する親方とグレンを置いていくように、先になってロランとユズが走り寄って行く。
「ねえ、見て。ああやってみると、小鳥が本を読んでいるみたいにも見えるよ」
「肩に乗って覗き込んでいるって風にってことか! てことは、ここが読書会場所ってことでいいのかな!?」
「いいんじゃないかなっ?」
「きっと、あれね!」
「あ、待ってよユズ姉さん!」
気付けばユズに懐いていたロランは、楽しそうに後を追いかけていた。ふと、親方はタルトに混ざらないのか? と視線で問い掛けたら、真顔でなんでと言葉にして返された。あえて言葉にして返してくるくらいには、混ざりたくはないのだろう。
見た目的にも年齢的にも混ざってもおかしくないと言うのに、内情面が大人び過ぎているのだからだろうか。分かっていたとは言え、親方は少し複雑な気持ちになった。
「もー! まただよー!」
本を持っている賢者の像によじ登り、開かれたページを覗いていた二人が頬を膨らませながら戻ってきた。
「どうしました?」
「読めない字だった! グレンさんの出番です!」
「また、魔動機文明語でしょうか?」
「……一緒に見る」
ぷんすかと怒りながらも見守るユズの視線を背中に受けながら、場所を交代する。
グレンに抱っこを要求して一緒に本を覗き込むと、たった一行だけ。やはり魔動機文明語で記されていた。
【水面に映る光の標 隊長イルカの宝物】
「あれ?」
「ねえ、これって!」
「どう考えても、さっきのだよな?」
「水中灯、ですよね」
互いに頷きあうと、ロランが元気よく宣言した。
「水路へ戻ろう!」
GM:では、祭壇組
親方:おう
タルト:ん
ユズ:はい
GM:君たちはキルヒア様を祭っている祭壇の前にいる
でもって、グレンのまもちき知識に深い感謝をしていますと
寄進ができなくてごめんなさいと、祭壇の前で祈っている
親方:間違っちゃいないけど、うん
タルト:なんか、うん
ユズ:いつもお世話になってまーす
親方:軽い…
タルト:軽い…




