16 キルヒア神殿
幅の広い石畳の街路の両脇に、街路樹が植えられており、ひしめくように立ち並ぶ建物の間からキルヒア神殿が見えてきた。<水鳥>を水路端に寄せ、船留にしっかりとつけておく。
軽やかな足取りで石畳を進むユズたちとは対照的に、タルトはぐったりとした様子で親方におぶさっていた。
「お姉さん大丈夫?」
「……すぐ、復活、する」
「本人がそう言ってんだ、大丈夫だろう」
苦笑する親方に、ロランは困ったように一つ笑みを浮かべてからグレンたちの後を追った。
「こちらです」
「あ、そいや昨日来たもんね! アタシ道覚えてなかったけど、さっすがグレンさん!」
「……少しは道覚える努力をして下さいと何度も」
「だって、迷ってもグレンさんが絶対に見つけてくれるし!」
ね? と笑顔でグレンに問えば、グレンは諦めたように深々とため息をついた。言われなくても見つけるようにするが、それとこれとは別問題だ、と言っても無駄だと諦めの域に近いのだろう。
「じゃ、お兄さんの方が詳しいかもしれないけど、一応案内するね」
グレンらに追いついたロランは、ゆっくりと傍を歩きながらキルヒア神殿を見上げた。
「このキルヒア神殿には図書館があって、イズマル王国時代からの貴重な文献から最近の書物まで、たくさんの本が保管されているんだって。ただ、三百年前の<カリナスの消散>のせいで、貴重な古い本の大半が破損してしまっているのが残念だって、シムニスさんが言ってたよ」
ふーん、と軽く流すようにして聞き流していたユズだが、ふと、地図を覗き込む。グレンの手書きの文字が書き込まれた地下水路の部分に目を走らせる。少し悩むようにしてから、こてんと首を傾げた。
「知識の箱庭、がキルヒア神殿。読書会、は図書館?」
「図書館なら……もう空いていますよ。一時間に付き、五ガメルの寄進をしないといけませんが」
「ここでも、お金か……!」
泣きたい、世知辛い世の中! と財布の中身を覗きながら呟くユズ。財布をひっくり返しても、何も落ちてこない様子を見ると、見ている方が切なくなってきたのか、ロランはそっと視線を逸らせた。
「こればっかりはツケになりませんからねぇ」
「ちなみに、グレンさんも寄進いるの?」
「いえ、一応はキルヒア神官ですから。別のところで寄進しているので、図書館での寄進はしたことがありません」
「関係者特約う……!」
ずるい、と駄々をこねるユズらに、ゆっくりと追いついた親方とタルト。タルトの顔色も元の色に戻ったのか、親方の背から降りている。
「それっぽいの、調べてきて?」
「悪いな、信仰心はないわけじゃないんだが。あいにくと、俺らも金がない」
「きっぱり言う事、違う」
「まあ、気まずいから祭壇に祈ってくるがな」
「あ、それならアタシも行く!」
勢いよく手を挙げて主張するユズに、グレンはやれやれとでも言うかのように肩を落とした。
「あの、神官のお兄さん」
「はい?」
「ボクも一緒に行ってもいいかな? もちろん、寄進はちゃんとさせてもらうから」
ロランの言葉に、グレンは一瞬きょとんと眼を丸くした。それからふと、最初にルーフェリアの神官学校で学んでいると言う事を言われたことを思い出して、もちろんです、と微笑んだ。
ではまた後程、と神殿内を迷いのない足取りで進み、図書館へ進んで行くグレンとロラン。
一番年下の彼が堂々と寄付金をして図書館へ入っていく様子を見て、金欠三人組は気まずそうに視線をさ迷わせたのち、祭壇へと続いているであろう方向へそっと顔を向けた。
「キルヒアさんいつもお世話になってまーす、って祈ってくる!」
「信心も、大事」
「そうだな、大事だな。金がなくても心が大事だな」
「だよねー。そうじゃなくても、グレンさんの博識っぷりにはめっちゃ助けられてるからね! あ、グレンさんにもお世話になってますって祈っとこ!」
静かに騒がしく、ユズらは祭壇の方へとゆっくりと進んで行った。
補足で書くの忘れていましたが、
タルトはナイトメアのエルフ生まれなので、弱点は水氷です。
それにあやかって水が苦手、超苦手、と言う設定が生えています。




