14 ヒント2
満場一致で、病気を持っていそうなフィルシ―ラットからは剥ぎ取りをしないことにして、水路の脇に避け進む一行。タルトは再び親方の肩の上に戻り、その安定感にご満悦のようだ。
「凄い……あっという間だったね!」
「まあ、戦いに時間なんか掛けたくないし、掛けてらんないもん。ロランくん、そんなもんよ」
「そういうもの、なの? それでも凄いよ!」
「ふふん、この天才女子高生ユズちゃんをもっと褒めて褒めて!」
「ジョシコーセー? って?」
「遠い国の職業だよ。もう万能天才、怖いものなんか何もないくらい最強の職業!」
「おお、ユズ姉さん益々凄いね!」
「でしょー!」
もっと言ってと鼻を膨らませているユズの言葉に、どうせ法螺だろうと呆れながらも聞き流すグレン。静かに己の魔力の流れを感じ取っていた。
「微量の消費。私の方はまだ大丈夫ですが、タルトさんは、MP大丈夫ですか?」
「……もう一戦くらいは、たぶん大丈夫」
「まさか、本当に真語魔法と操霊魔法を使えるとは思わなかったのですが……。使える魔法が多くても、MPは限られていますからね。人のことは言えませんが、本当にMP管理が心配になってきました」
「ん。魔法使えない後衛職、無能職」
「……耳が痛い限りです」
タルトのポツリポツリと零す言葉に、グレンは丁寧に返していく。そのやりとりに、親方はほっとしたように薄らと笑っていた。
奥へ進んでいくと、やがて水路は壁に突き当たる。壁の高いところにいくつかの穴があり、そこから水が水路へと注いでいるのが分かる。水が絶え間なく落ちる音が響き、水路内を反響している。
「おっと、行き止まりみたいだぞ、っと?」
光が届かない薄暗い水路の先、親方は暗視でなんとなく見える視界を、更によく見ようとして目を細める。ぼんやりとした白いものが見えた。ゆっくり近づいていくと、その正体が分かる。
壁にもたれかかるようにして、骸骨が一体、横たわっていた。
「えっ」
「おや、あれは……」
後ろに続くグレンたちにも見えたのだろう。背後で息をのむ音が聞こえた。親方が少し距離を置いて止まると、タルトがぺしぺしと頭を叩く。
「親方、近付いて?」
「ええっ!? 死者の冒涜だよやめようよ!」
ひい、と声が裏返ったように叫んだユズに、タルトは冷静に言葉を返す。
「もし、本当に死んだ人なら、遺品を持って帰るべき。<水晶の欠片亭>で預かってもらうのもあり。……遺族が、探しているかもしれない」
ふう、と大きく息をつくタルトの言葉に、親方はうんうん、と同意するかのように小さく頷いていた。どれも冒険者の心得として、親方たちが伝えたかったものがしっかりと伝わっていることに満足しているようだ。
グレンが開いた口がふさがらないロランの手を引いて一歩下がって、小さく祈りを捧げていた。
「死者に弔いの心を向けるのも、大切だとは思います。ですが、スケルトンではないことを祈りますよ……」
「じゃ、俺と嬢ちゃんとで見てくる。二人は坊ちゃんと後方待機だ」
「このユズ! 全力で後方任務にあたります!」
「すみません。では、万が一のことがあったらお呼びください。準備だけはしておきましょう」
タルトの【ライト】が届く場所で立ち止まった三人を置いて、親方はゆっくりと骸骨へと近付いた。
半身を水路に浸かる形で座り込んでいる格好の骸骨は、【ライト】の照らす角度が濃い陰影をつけている。じっと見つめる親方とタルトは、やがて一つの結論に至った。
「偽もんだな、これ」
「だね。ツルツル」
一番照らされる頭蓋骨部分が、やすりで削ったかのようにつるりとしているのだ。魔物の骨を見慣れている二人は、今まで見てきたものと明らかに異なるこの骸骨は、あまりにも綺麗すぎることに気付く。
作り物だと分かったからこそ、親方は中腰になってまじまじと見つめた。
「新しそう。足元の沈殿物は?」
「あ? ああ、特に溜まっている感じはないぞ?」
「じゃ、最近置かれた物、これ」
あっさりと断定したタルトに、これもきっと早足が教えた知識なんだろうなあと、親方は小さく苦笑した。
後方で様子を見ている三人に、体を起こして手招きをした。
「偽もんだぞ、これ」
「なーんだ! 怖がって損した!」
「罠もない、大丈夫」
タルトの断言する言葉に安心したのか、ユズに至っては元気よく駆けよって来た。盛大に上がる水しぶきに、グレンの小言がその背中を追っていたのは気にしないふりをしていたが。
「もー! でも、ここにわざわざ作りものっておかしくない?」
「もしかしたら、魔物に出会わずに奥まで来てしまった子供を追い返すために、置いているのかもしれませんね」
「ああ、そうかもな。てことは、親……地域ぐるみのことか?」
「ふーん?でも悪趣味ー。こんなの見たら、泣き叫んで、返って魔物引き寄せちゃうのに」
「先ほどの貴女みたいにですか?」
「アタシは別にそんなんじゃなかったし!」
必死に誤魔化そうとしているユズ等のやりとりに加わることなく、タルトは静かにロランを見つめた。
「ロラン、騙された?」
「そんなはずは……! もしかしたら、別の……」
別の場所かもしれない、と続けようとした言葉は、音にならずに消えた。ヒントをくれた人が騙そうとした、とは考えられないらしい。だが、辺りを見渡しても行き止まりで、作り物の骸骨以外に何か目立つものがあるわけでもない。
もどかしさに口をつぐむロランの様子を見て、ドンはもう一度骸骨をよく調べようと屈む。
よく見ると、肋骨の間から何かが見える。ゆっくりと肩にあたる部分を掴み骸骨を持ち上げると、空洞になっているのみで、構造に変わっている様子は見られない。ユズが小さく息をのんだのが聞こえた。
「親方、見て」
タルトが明かりを向ける。
丁度肋骨があった高さに、文字が刻み込まれていた。ペロリと唇を舐めて、親方はビンゴだ、と薄らと笑った。
骸骨をずらしたからか、ユズやロランらも近付いてくる。刻みつけられた文字を見て、こてんと首を傾げた。
「交易共通語じゃないみたいだね」
「そりゃそうだ、こいつは魔動機文明語だからな」
「え? 親方さん読めるの?」
「まあ、一応な。俺だけじゃなく、嬢ちゃんも読めるぞ」
「おや、奇遇ですね」
「てことはー、グレンさんも読めるのっ!? 何それ必修言語なのー!? やだ、アタシだけ仲間はずれじゃんっ!」
喚くユズを放っておき、三人は文字の方へと顔を寄せた。グレンの細い指が、そっと文字をなぞる。触れた先から、小さく砂が零れ落ちた。
「……刻まれたのは、百年前くらい?」
「おおよそそれくらいでしょうね。ですが、まるでそれを隠すようにして置かれているなんて……」
「宝探しだから、か? それにしても、分かりやすいとは思うがなあ」
グレンや親方の言葉に、タルトは何故だろう、と小さく首を傾げた。今まで親方やお母さんたちと冒険した時のダンジョンでは、もっとこう分かりにくくて、手間がかかった仕掛けが多かった。だからこそ、街の中の宝探しなんてただの悪戯かと思ったのだが、どうやら少し様子がおかしい。
魔物が出てくるような場所に、わざわざ目印のように骸骨を置いて。これがヒントだとわざわざ手渡して。扉を開くための指輪を預けたりして。
(……ロランに、合わせて?)
たどり着いた思考の先に、まさかとゆるゆると首を振って否定した。考えすぎだろうと、今は目の前の文字について考えようと、しっかりと見据える。
「まあ、いいじゃねえか。坊ちゃんと憤慨している嬢ちゃんの為に、俺が代表して読んでやろう」
親方の低い声が、文字を読み上げた。
【知識の箱庭 本好き小鳥の読書会】
多少欠けてはいるものの、文字として読むのに支障がない程度。念のために二三度目を通すも、刻まれる文字は変わらない。
ユズが持つ地図に、グレンは文字を小さくメモした。
「……ねえ、これって」
「つまり、アレよね」
「次の、ヒント、みたい」
ロランとユズが恐々と確認してくると、タルトは大きく頷いた。おおー! と目を輝かせる二人を苦笑しながら見つめていた親方は、やがて力強く言った。
「よし、ちょっと考えるためにも元の場所に戻るぞ」
GM:宝物判定か見識判定、8以上
親方:げ、俺平目なんだが
親方:2D6 平目 → 5[3,2] → 5
タルト:2D6+4+1 見識 → 6[1,5]+4+1 → 11
タルト:大丈夫
GM:なら、タルトは分かる
この骸骨は作り物で、
見識判定だからこれも分かるな。最近置かれたもののようだ
タルト:にせものだった
タルトの出目が冴えわたってて安心のGM




