11 水路移動B-6⇒D-3
「それじゃ、長靴島へ行くってことでいいか?」
「はい! このルートでお願いします!」
「ああ、分かった。じゃあ、出発するぞ。あんまり水際に身を乗り出しすぎないようにな」
櫂を操り、ゆっくりと<水鳥>を動き出させる。水面を滑り出した<水鳥>は、水しぶきを上げることなく、波紋を描きながら水路を進んだ。
<水鳥>は、二人がやっと横に座れるくらいの幅で、縦長の細長いゴンドラである。水上商店よりは尺は小さいものの、大人十人くらいならば乗れるであろう大きさである。先頭船尾が高く婉曲している以外は、縁はそこまで高くない。手を伸ばせば簡単に水面に手が届く距離にある。
先頭に地図を持ったグレンと、縁に項垂れているユズ。半ばに両手でがっつりと縁を掴んだタルト。船尾に移動記録を帳面に記入しているロランと、櫂を操る親方が立っていた。
本来ならば船頭が着くのだが、親方なら大丈夫だろう、と<水鳥>と移動記録超だけ渡されて、快く貸し出された。釈然としないものを感じながらも、親方はこうして船頭の真似事をしている。
水面を眺めながら、ユズは大きくため息をついた。
「異世界の謎……。グレンさんの実年齢でも驚いたけど、親方さんなんか存在自体が詐欺だよ。ふふふ、これでタルトちゃんがロリババアだったら、泣くわ……」
「……今、十四。ババアじゃない」
「心のオアシス! ていうか、その外見で十四ってちょっと信じられない! ごめん実は十歳くらいかと思ってた!」
心底嫌がっているタルトの様子を見て、グレンは慌ててユズを引き離した。ついでに、心の中でグレン自身も十歳くらいかと思っていたので、顔には出さないように謝罪の意を示しておいた。
誤魔化すように咳払いを一つして、グレンは地図へと指を滑らせた。
「現在地が、ここ、でしたね」
「うん。南下してから西へ進んで、大きな川沿いに進む、だったっけ?」
「えっと、ポケット解説書によるとー。あ、この隣の水路は、セリーヌ水路って言うんだって」
「隣の水路よりは、この今通っている水路の方が知りたいのですが」
「えー? えっとー、この先は煙突通りって言うみたい。あ、確かに煙突がたくさん見えてきた!」
軽やかに進む<水鳥>は、やがて石造りの頑強そうな建物が建ち並ぶ通りへとたどり着いた。上空を見上げると、無数の煙突が突き出しており、いくつかの煙突からはモウモウと煙が出ています。
「水路から見上げているので、普段より視線が低いからでしょうか……。普段よりも煙突群が高くて、殊更に圧巻されますね」
「ねえグレンさん。煙突から出る煙が、いろんな色してるよ! それもなんかすごくない!?」
「煙の色は、何を燃やしているかで異なる、と書物で読んだことがありますよ」
「へえー! さっすがグレンさん。困ったときはグレンさんの知恵袋だね!」
ユズの言葉に苦笑したグレン。そんなやりとりを聞いていたのか、後方からロランが会話に混ざってくる。
「この煙突通りは、鍛冶屋さんがたくさん住んでいる街だよ。昔は、主に蛮族と戦っているアドエン向けに武器や防具をつくっていたらしいんだけど、今では皆さんのような冒険者がお得意様なんだって」
「それでは、煙の色が違うのは、使っている金属の種類の違いからでしょうかね」
「ごめん、その、あどえんって…?」
「王都アドエン。ここの次に大きなルーフェリアの都市のことだよ」
ちなみに、ここは首都カナリスだよ。
地理に疎そうなユズのために付け加えられた言葉に、ユズはポケット解説書のルーフェリアの地図を見て照らし合わせた。湖の対岸にある、と言うことだけは分かったようで、へえー、と気の抜けた声が零れた。
「んじゃ、今度はそっちに行ってみたいなぁ」
「ですが今の話を聞く限り、この場所が供給源なのでしょう? それならば、こちらの方が原価入手且つよさそうな武器が手に入るのでは?」
「え? 違うよグレンさん。武器の話じゃないって! 観光の話!」
「……あの、私一応巡礼神官で、貴女はその付き添い。冒険者に似たような立場なのですよ? 観光者とは違うのですよ?」
呆れたように大きく息をついたグレンに、分かっているとでも言いたそうに唇を尖らせたユズ。変わらぬやり取りを続けている二人をよそに、<水鳥>は順調に進んでいた。
やがて水路を抜け、旧水路地区を二分している大きな川へとたどり着いた。ゆっくりと西側へ<水鳥>を寄せながら南下して行く。
時折、気のいい水上売りが威勢よく声を掛けてくるが、懐具合が寂しい各々は、適当な返事をして曖昧な笑顔と共にその脇をすり抜けて行った。
「おや、この辺りには神殿が多いようですね」
「え? あ、本当だ。この辺りはル=ロウド神殿で、その先はティダン神殿だって。……ねえグレンさん」
「大神ル=ロウド様は自由を愛する風来神。古代神ティダン様は太陽神であり、主に天を司ります。ちなみに私が信仰している大神キルヒア様は、賢神として知識を司る神様です」
「詳しい解説をありがとう知恵袋グレンさん!」
「それを枕詞として扱うのはやめて頂けませんか」
ユズの疑問に先回りして答えたグレンは、心底嫌そうに顔をしかめた。
ル=ロウド神殿の辺り……それもその近くにある酒場街を名残惜しそうに眺めていた親方は、ふと前方を見て、ぐっと櫂を操る手に力を込めた。
「さあ、もうすぐ着くぞ」
「え? あ、どれ? どこが長靴島?」
「お姉さん、アレだよ!」
細く入り組んだ路地の先に、その区画はあった。
水路に区切られた目的地が見えてくると、かたくなに口を閉ざしていたタルトは、ほう、と大きく息をついた。
宝探しのタイムリミットは21時。ロラン少年の門限は本日中、24時までである。尚、現在は朝食を終えたばかりの時間なので8時としよう。ここからは移動時間や判定時間等も計算していくことになるので、気を付けるようにしてください。
ユズ:今は……<水晶の欠片亭>だから、B-6になるのかな
そうですね。そして、縦横一マスずつの移動となります。斜めの移動はできません。
グレン:一マスの移動時間は?
10分です。
親方:ゴンドラも使えるって話だったよな?水鳥だったっけか
そうですね、水鳥は、隣り合っている水路三マス先まで10分で移動できます。尚、料金は一人辺り一マスに付き1ガメルです。
タルト:やす……い?
親方:多用するのなら微妙なラインだよなぁ
尚、戦闘はどれだけ時間が掛かろうとかからまいと、10分経過とみなします。また、剥ぎ取りは一人一回までその10分以内に計算します。二回目以降は更に10分経過しますのでお気を付けください。
親方:一人が何匹もやって時間食うわけにはいかないってか
タルト:ロランは、戦闘参加?
武器も防具も持っていませんが、参加になります。攻撃等もし行う場合は平目扱いになりますが、基本的に彼は後ろで見ています。今回は簡易戦闘で処理するので、そんなに関わってはきません。
タルト:基本的には、護衛対象
親方:まあ、こんなもんか。じゃ、謎解きするかね
って、簡単に説明はしました。
お手元にルーフェリアツアーシナリオ本お持ちの方は、地図と照らし合わせながら読むと場所がなんとなく分かるかも。




