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訳あり少女のルーフェリア冒険譚  作者: 葉山
シナリオ1 探索編
10/44

10 長靴島


「おいちゃんありがとー!」

「おう、毎度ありー!」


 〈水鳥〉で移動するお店から何かを購入した様子のユズ。大き目の紙を握りしめて、ベンチで待つメンバーの元へと走り寄る。


「じゃーん! 買ってきたよ、カナリス旧水路地区の地図!」

「おお、良く見つけたな」

「アタシの交渉スキルはピカイチだからね! しかもお得な三ガメル! やったね!」


 褒めて褒めてー! と鼻を膨らませて胸を張るユズにおざなりに褒めたグレン。棒読みの言葉でも褒められた、と言う事実だけで喜ぶユズは、案外単純なのかもしれない、と親方は内心苦笑しながら眺めていた。


「しかもなーんと! ポケット解説書まで付けてもらっちゃったー! もうこれはアタシが美少女たる罪だね、罪!」

「よくもまあ自分でそこまで言えますね……。それ、タルトさんを見てもう一度言い切れますか?」

「?」


 不思議そうに首を傾げるタルトをじっと見つめるユズ。

 やがて、自慢顔が真顔に変わり、綺麗に九十度腰を曲げて頭を下げた。


「言えません。本物の美少女の前では、冗談でも言えません。アタシが悪かったです」


 ほら見たことか、と呆れたようにため息をついたグレンの様子を見て、親方はフォローを出すことにした。ぽかんと口を開いてユズを見ているタルトとロランが、戸惑っているのがよくわかる。


「そんじゃ、その地図を見せてくれるか? 地形が手掛かりになるかもしれない」

「おっと、そうだったね」


 ユズはベンチの真ん中に地図を広げた。周りからぐるりと皆が見下ろすと、親方が右上の方を指し示す。


「今、俺たちがいるのが、ここだな」

「<水晶の欠片亭>って、書いてある」

「あ、本当だ! んっと、グレンさん確か書くもの持ってましたよね? ここちょっと印付けてもらえません?」

「構いませんよ」


 小さなインク瓶を取り出して、細い羽ペンでちょんと<水晶の欠片亭>の文字を丸で囲う。スタート地点にしてゴール地点、とユズが上機嫌に示し笑うと、グレンは少し考えるように、リミット二十四と小さく付け足した。

 分かりやすいように、忘れないようにと言う配慮だろう。親方は助かると小さく黙礼すると、グレンに苦笑で返された。

 そんな二人のやり取りなど気付いた様子もなく、ユズはロランと共にメモと地図をと交互に見つめていた。


「大きな長靴、大きな長靴……。うーん、破けた長くつは、不良品よねぇ」

「そりゃそうだよ。でも、長靴って何かを表しているんじゃないかな? 大きな長靴なんて、聞いたことないからさ」

「まあ、物理的に大きな長靴とか、一回見たら頭から離れなくなるよねー。案外巨人の長靴とかだったり?」

「ヤリッツベックみたいな? 白竜山辺りに実際にいるらしいけど、長靴なんて履くのかな?」

「ヤリッツ……なんとかって、何?」


 教えてグレンさん、とユズが見上げると、グレンは少し考えるように視線を落としてから、ゆっくりと口を開いた、


「……イエティの一種ですよ。白竜山に生息していると言われている幻の魔物で、その姿を見た者がいるかは分かりませんが、時折その咆哮がふもとの村まで響いてくる、と言われています」

「さっすが知恵袋のグレンさんだね! なんとなくわかった気がする!」

「これでなんとなく、ですか」


 呆れたように深く息をついたグレンだが、ユズは乾いた笑い声を零すだけで何も言わなかった。

 地図を眺めるロランの対面側で、タルトもそっと視線を地図上へと向ける。


「地図で、長靴っぽいもの……」

「長靴履いて破けるくらいだから、水路に面していると思うんだけど」


 ロランの言葉に、タルトの視線は水辺を辿る。ふと、北部にある島に目が留まった。


「この、ミルダオ島。倒れた長靴っぽい?」

「その踵が破れてジャブジャブ? てことは、薔薇園跡から海にでも潜れってこと?」


 東西に延びる形であるミルダオ島は、エルリュート湖に浮かんでおり、南東部分が旧水路地区に向かって特出している。見方によっては、確かに長靴に見えなくもない形をしている。

 ユズの潜ると言う言葉に、タルトは嫌そうに顔をしかめたが、それ以上はあえて何も言わなかった。


「ミルダオ島には、嘆きの桟橋から渡れるはずだよ」


 ロランは沿岸部西側にある桟橋を指し示し、とん、とん、とんとミルダオ島に続く線を描く。


「うーん、とりあえず、ここで唸ってても仕方ないし、行っちゃう?」

「そのミルダオ島に、ですか?」

「そうだけど、グレンさん。他に何か思い当たることとかあります?」


 やんわりとグレンが問いかけると、ユズは不思議そうに首を傾げた。グレンは少し考えるように視線をずらすと、静かに様子を伺っていた親方へと向ける。

 グレンは静かに考察をするタイプだ。思考をまとめるのなら、己の中で完結させることが一番効率的であるとも思っている。

 だがしかし、親方はそうではないように見えた。ユズとのやり取りの中、自分が疑問に思ったことはするりと口に出していたように思えた。故に、今のこの現状は酷く不自然に見えたのだ。

 そう、まるで答えを知っているかのように、謎解きをする姿を見守っているような姿勢。


「親方さんは、何かご存じでは?」


 だからこそ、あえて問う。分かっているのなら、意地悪しないで教えてくださいと言外に込めながら。

 親方はひょいと肩をすくめながらその太い指を地図上へと置いた。


「長靴、で思い浮かぶのはこの二つだな。……靴屋通りと、長靴島」

「長靴島……」

「あからさまに怪しいって言うか、そこじゃないの?」


 北北西に位置する靴屋通りと、中央からやや南西に位置する長靴島。長靴島の方は、ほとんど縦長の長方形に見えるのだが、僅かに南東部分が特出しているようにも見える。


「靴屋通りは靴屋職人が工房を持っている区画のことでな、昔は丈夫な靴を買うならここ、って言われた。長靴島は、上から見ると水路で区切られた地形が、大きな長靴に見えるって話だったか」

「随分、詳しいのですね」

「まあ、昔この辺りで活動していたからな。あれから何百年も経っているから、変わっているところもあるだろうが、多少は分かるさ」

「待って。何百年って何? 何十年の間違いじゃなくて?」


 実際今いくつなの? と戸惑ったように聞かれるものだから、親方は少し考えた後困ったように眉を下げた。


「今、いくつだろうなぁ? 二百を超えた辺りで数えるのやめたから、覚えてねぇな」

「実は大年寄りじゃん! おじいちゃんじゃん!」

「せめておじさんにしてくれ。ドワーフは長寿な種族なんだ……。おじいちゃんは、ちょっと、心にクる……」

「うちのお馬鹿が本当にすみません」


 ぎょっと目を見開いているユズを、グレンが遠慮なく叩いた。タルトはぼんやりと、ここまでがお約束のやりとりなんだな、とそんなことを思った。


GM:ということで、あれです。探索パートへ突入です

ユズ:いえーどんどんぱふー

親方:GM、始める前にちょっといいか

GM:はい?

親方:もしかして=戦闘ラスボス以外にもある?

GM:そりゃあ、公式シナリオだからめっさあるでよ

タルト:……困った

親方:だな

GM:うん?

親方:回復アイテムが、何一つとしてない

GM:途中で買ってください

タルト:お金……

GM:ツケで

親方:いや、まあできるっちゃできるんだが…なるだけ、なあ

GM:ちなみに、今の所持品は?(装備品除く)

親方:ない

タルト:一日分の、保存食…

    だけ

GM:OH…

  ガンバッテクダサーイ

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