10 長靴島
「おいちゃんありがとー!」
「おう、毎度ありー!」
〈水鳥〉で移動するお店から何かを購入した様子のユズ。大き目の紙を握りしめて、ベンチで待つメンバーの元へと走り寄る。
「じゃーん! 買ってきたよ、カナリス旧水路地区の地図!」
「おお、良く見つけたな」
「アタシの交渉スキルはピカイチだからね! しかもお得な三ガメル! やったね!」
褒めて褒めてー! と鼻を膨らませて胸を張るユズにおざなりに褒めたグレン。棒読みの言葉でも褒められた、と言う事実だけで喜ぶユズは、案外単純なのかもしれない、と親方は内心苦笑しながら眺めていた。
「しかもなーんと! ポケット解説書まで付けてもらっちゃったー! もうこれはアタシが美少女たる罪だね、罪!」
「よくもまあ自分でそこまで言えますね……。それ、タルトさんを見てもう一度言い切れますか?」
「?」
不思議そうに首を傾げるタルトをじっと見つめるユズ。
やがて、自慢顔が真顔に変わり、綺麗に九十度腰を曲げて頭を下げた。
「言えません。本物の美少女の前では、冗談でも言えません。アタシが悪かったです」
ほら見たことか、と呆れたようにため息をついたグレンの様子を見て、親方はフォローを出すことにした。ぽかんと口を開いてユズを見ているタルトとロランが、戸惑っているのがよくわかる。
「そんじゃ、その地図を見せてくれるか? 地形が手掛かりになるかもしれない」
「おっと、そうだったね」
ユズはベンチの真ん中に地図を広げた。周りからぐるりと皆が見下ろすと、親方が右上の方を指し示す。
「今、俺たちがいるのが、ここだな」
「<水晶の欠片亭>って、書いてある」
「あ、本当だ! んっと、グレンさん確か書くもの持ってましたよね? ここちょっと印付けてもらえません?」
「構いませんよ」
小さなインク瓶を取り出して、細い羽ペンでちょんと<水晶の欠片亭>の文字を丸で囲う。スタート地点にしてゴール地点、とユズが上機嫌に示し笑うと、グレンは少し考えるように、リミット二十四と小さく付け足した。
分かりやすいように、忘れないようにと言う配慮だろう。親方は助かると小さく黙礼すると、グレンに苦笑で返された。
そんな二人のやり取りなど気付いた様子もなく、ユズはロランと共にメモと地図をと交互に見つめていた。
「大きな長靴、大きな長靴……。うーん、破けた長くつは、不良品よねぇ」
「そりゃそうだよ。でも、長靴って何かを表しているんじゃないかな? 大きな長靴なんて、聞いたことないからさ」
「まあ、物理的に大きな長靴とか、一回見たら頭から離れなくなるよねー。案外巨人の長靴とかだったり?」
「ヤリッツベックみたいな? 白竜山辺りに実際にいるらしいけど、長靴なんて履くのかな?」
「ヤリッツ……なんとかって、何?」
教えてグレンさん、とユズが見上げると、グレンは少し考えるように視線を落としてから、ゆっくりと口を開いた、
「……イエティの一種ですよ。白竜山に生息していると言われている幻の魔物で、その姿を見た者がいるかは分かりませんが、時折その咆哮がふもとの村まで響いてくる、と言われています」
「さっすが知恵袋のグレンさんだね! なんとなくわかった気がする!」
「これでなんとなく、ですか」
呆れたように深く息をついたグレンだが、ユズは乾いた笑い声を零すだけで何も言わなかった。
地図を眺めるロランの対面側で、タルトもそっと視線を地図上へと向ける。
「地図で、長靴っぽいもの……」
「長靴履いて破けるくらいだから、水路に面していると思うんだけど」
ロランの言葉に、タルトの視線は水辺を辿る。ふと、北部にある島に目が留まった。
「この、ミルダオ島。倒れた長靴っぽい?」
「その踵が破れてジャブジャブ? てことは、薔薇園跡から海にでも潜れってこと?」
東西に延びる形であるミルダオ島は、エルリュート湖に浮かんでおり、南東部分が旧水路地区に向かって特出している。見方によっては、確かに長靴に見えなくもない形をしている。
ユズの潜ると言う言葉に、タルトは嫌そうに顔をしかめたが、それ以上はあえて何も言わなかった。
「ミルダオ島には、嘆きの桟橋から渡れるはずだよ」
ロランは沿岸部西側にある桟橋を指し示し、とん、とん、とんとミルダオ島に続く線を描く。
「うーん、とりあえず、ここで唸ってても仕方ないし、行っちゃう?」
「そのミルダオ島に、ですか?」
「そうだけど、グレンさん。他に何か思い当たることとかあります?」
やんわりとグレンが問いかけると、ユズは不思議そうに首を傾げた。グレンは少し考えるように視線をずらすと、静かに様子を伺っていた親方へと向ける。
グレンは静かに考察をするタイプだ。思考をまとめるのなら、己の中で完結させることが一番効率的であるとも思っている。
だがしかし、親方はそうではないように見えた。ユズとのやり取りの中、自分が疑問に思ったことはするりと口に出していたように思えた。故に、今のこの現状は酷く不自然に見えたのだ。
そう、まるで答えを知っているかのように、謎解きをする姿を見守っているような姿勢。
「親方さんは、何かご存じでは?」
だからこそ、あえて問う。分かっているのなら、意地悪しないで教えてくださいと言外に込めながら。
親方はひょいと肩をすくめながらその太い指を地図上へと置いた。
「長靴、で思い浮かぶのはこの二つだな。……靴屋通りと、長靴島」
「長靴島……」
「あからさまに怪しいって言うか、そこじゃないの?」
北北西に位置する靴屋通りと、中央からやや南西に位置する長靴島。長靴島の方は、ほとんど縦長の長方形に見えるのだが、僅かに南東部分が特出しているようにも見える。
「靴屋通りは靴屋職人が工房を持っている区画のことでな、昔は丈夫な靴を買うならここ、って言われた。長靴島は、上から見ると水路で区切られた地形が、大きな長靴に見えるって話だったか」
「随分、詳しいのですね」
「まあ、昔この辺りで活動していたからな。あれから何百年も経っているから、変わっているところもあるだろうが、多少は分かるさ」
「待って。何百年って何? 何十年の間違いじゃなくて?」
実際今いくつなの? と戸惑ったように聞かれるものだから、親方は少し考えた後困ったように眉を下げた。
「今、いくつだろうなぁ? 二百を超えた辺りで数えるのやめたから、覚えてねぇな」
「実は大年寄りじゃん! おじいちゃんじゃん!」
「せめておじさんにしてくれ。ドワーフは長寿な種族なんだ……。おじいちゃんは、ちょっと、心にクる……」
「うちのお馬鹿が本当にすみません」
ぎょっと目を見開いているユズを、グレンが遠慮なく叩いた。タルトはぼんやりと、ここまでがお約束のやりとりなんだな、とそんなことを思った。
GM:ということで、あれです。探索パートへ突入です
ユズ:いえーどんどんぱふー
親方:GM、始める前にちょっといいか
GM:はい?
親方:もしかして=戦闘ラスボス以外にもある?
GM:そりゃあ、公式シナリオだからめっさあるでよ
タルト:……困った
親方:だな
GM:うん?
親方:回復アイテムが、何一つとしてない
GM:途中で買ってください
タルト:お金……
GM:ツケで
親方:いや、まあできるっちゃできるんだが…なるだけ、なあ
GM:ちなみに、今の所持品は?(装備品除く)
親方:ない
タルト:一日分の、保存食…
だけ
GM:OH…
ガンバッテクダサーイ




