出会い
赤く燃え上がる炎に包まれている城。
もはや逃げ道のない城の中にいる人々は助からないであろう。
その城の門の前に黒いマントを着てフードを深く被った一人の男が立っていた。
その男の手には血で赤く染まった剣が握られていた。
男は炎に包まれている城を眺め、ニヤリと笑うと足速にその城から去っていった。
城が崩れるのと共に旧帝国は滅びていった。
旧帝国を滅ぼしたのは新帝国のオーランド帝国と言われているが実際の所、旧帝国を滅ぼしたのはとある騎士団であった。しかし、その真実を知っているものは少ない。
この時代、騎士団と呼ばれる剣士達が集まる集団が多数あった。騎士団同士で戦い、相手の金や剣、領地を奪い合う事も多く、剣士同士の戦闘が絶えなかった。
より優秀な剣士が多く所属している騎士団の中には、国から支援を受けているものもある。
騎士団によって、国の権威が保たれていると言っても過言では無い。
また、全ての領地を国が管理していることはなく、国の支配下ではない一部の領地では有力な騎士団が支配している場所もある。
旧帝国が滅亡してから3年が過ぎた。
現在でも騎士団が存在し、たびたび争いを起こしている。
そんな問題を解決するため国は多くの優秀な騎士団と協力し、争いが起こらないようにしている。
また、優秀な剣士を育てるべく剣士の育成学校にも力を入れている。
そんな今、国を襲う脅威が迫りつつあった。
ーー『おーい、遅いぞリン』
『ごめ〜ん、寝坊しちゃって〜』
リンと呼ばれた金髪の少女が申し訳なさそうに言う。
『リンが遅刻するのはいつもの事です』
リンの言葉を聞いた青髪の少女ミーシャが無表情で言う。
『そうだな、リンの遅刻は日常茶飯事だったな』
赤髪の凛々しい少女シャリスがミーシャに同意した。
『あはは…』
リンは二人の言葉に何も言い返せない。
『よし、三人揃った事だしそろそろ行くか』
そんなリンを横目に見ながらシャリスが言った。
三人はオーランド帝国が直接管理している学校に通っている生徒である。
そのオーランド帝国学校には、毎年たくさんの入学希望者がいて、リン達三人は見事試験に受かって入学したのである。
それ以来、三人はこうして仲良く一緒に学校へ通っているのである。
ーー『おい、てめぇふざけてるのか?俺にぶつかっといてなんだその態度は』
町の中心で一人の男が少年に向かって怒鳴っていた。
『だから、すいませんって謝ったじゃないですか?』
少年はいかにもめんどくさそうな表情で呟く。
『そんなんで済むと思ってんのかこのガキ、土下座して謝れ』
(はぁ、面倒なことになっちゃったなぁ)
怒鳴りつけられている少年レイクはため息をついた。
『俺の話を聞いてんのか?聞いてるならさっさと土下座して謝れ。殺すぞ?おい』
『なんで土下座までしなくちゃいけないんですか〜?』
レイクが土下座を拒否する。
すると、キレた男は剣を抜いて振りかぶってきた。
『うるせ〜このガキ〜、死ねぇ!!!』
(なんでこうなるの〜〜?)
レイクはとっさに剣から頭を守るように腕で覆った。
『何をしている!?』
突如横から声が上がった。
『なんだオメェは?』
男は剣を振るのをやめ、そちらへ振り向く。
そこには金髪の少女がいた。
『今すぐ剣を収めなさい!』
少女は威勢良く言う。
『うるせーなぁ。邪魔だ、どけっ!』
男は少女に向かって突進する。
すると、その少女は腰から剣を抜き男の突進を横にかわし、足を掛ける。
突進してきた男は足を掛けられ体勢を崩し、そのまま転がっていった。
仰向けになった男が起き上がろうと少女を見上げると、そこには瞬時に男の顔に向けられた剣があった。
『降参しなさい』
『…ちっ、覚えてろよ』
剣を向けられた男は素早く起き上がり、逃げていった。
『あ、あのっ、ありがとうございます』
レイクは自分を助けてくれた少女に礼を言った。
『いいよ、これくらい。ん?その制服うちの学校の生徒さん?』
少女が問いかける。
『あ、はい。今日から通うことになったレイクといいます』
少女の問いに真面目に答える。
『そうかそうか、私の名前はリンよ。よろしくねレイク君』
リンは笑顔で言った。
『あ〜いたいた』
『あ、ごめんシャリス、ミーシャ』
声のした方へ向くとこちらへ急いでやってくる二人の少女の姿が目に入った。
『急に走って行っちゃうから驚いたよ』
息を切らしたシャリス言った。
『ん?その子誰?』
シャリスが興味ありげにリンへ問いかける。
『うちの学校の転校生のレイク君。さっきそこで会ったんだ〜』
『そうなんだ〜、私はシャリス。よろしくね!
そうだ!どうせなら一緒に学校まで行こうよ!』
『え?あ、はい…よろしくお願いします…』
いきなりの展開に戸惑うレイクは流れに身を委ねる事にした。
『そういえばレイク君は剣を持っていないね。どうしたの?』
今の時代、常に剣を装備している事が常識化されているため、リンは剣を持っていないレイクを疑問に思った。
『実はそれには訳があって… 学校で管理されているんです』
レイクは何かを隠すようにしてリンの問いに答える。
『それっていわゆる聖剣っていう奴?』
リンとレイクの会話に興味を持ったシャリスが問い詰める。
聖剣とは神々の力が込められている剣の事でその剣一つで一つの騎士団と同等の戦力になる為厳重に管理されており、そもそも聖剣を扱える者も少なく、貴重な存在だ。
『えぇ…まぁ、そういったところです…』
レイクが渋々頷く。
どうやら彼はあまり目立ちたくはないようだ。
この件については内緒にしてくれとその場にいた三人に言った。
ーー『本日からこの学校で皆んなと学ぶ事になったレイク君です。皆んな仲良くしてあげてね!』
レイクの担任のエイリス先生がクラスに向かって言う。
『レイクと言います。これからよろしくお願いします…』
自己紹介も済み、空いている席に座れと言われたのでその席を探していると今朝会ったリンという少女と目があった。
『レイク君と同じクラスだ〜、隣空いてるよ!』
こちらの姿を見たリンは隣の席に置いてある荷物をどけて席を空けてくれた。
『ありがとう…』
レイクはリンの隣へ座った。
なんやかんやとその日の授業が終わり、放課後レイクは家に帰る途中クラスメイトの少年に声を掛けられた。
『お前、まさかあの時の…』
白髪のその少年はレイクを一目見るとそんな事を言い出した。
『えっ?どっかで会った事あったっけ?』
突然話しかけられ動揺しているレイクはその白髪の少年に問いかける。
するとその少年は
『俺の名はギャベル。俺の記憶が正しければ3年前に一度お前と顔を合わせているはずだが…まぁいい。俺の勘違いかもしれねぇからな。んじゃ、あばよ』
白髪の少年ギャベルはそんな事を言うとすぐに去って行った。
(なんだったたんだろう?気になるなぁ)
レイクはさっきの話を気にしながら家に帰った。