ピアノとフォルテ 開幕、圧倒、ブチ切れる
ちょうど日が暮れ、周囲は夜になりました。
街は暗く染まり、街の街灯がポツポツと発光を始めました。
フォルテの巨体が地面に倒れ伏し、ピアノと二人も道端に転がり落ちます。
『あ、がっ・・・り、竜殺しの武装っ・・・・かよっ!!』
「フォルテ!!?」
ピアノが気づいた時にはフォルテは地面から現れたプレイヤー達によって串刺しにされていました。
ボタボタとフォルテの臓物と血液が地面に落ち、一部のプレイヤーはこぞって回収しています。
「なぁ、俺らがレベルカンストでバフ乗せまくって、竜殺し武器も最大まで強化して、不意打ちクリティカルでダメどんだけよ?」「あ?・・・俺らの基本攻撃力がだいたい数億くらいで、洗礼とか、倍率強化かけて、最大強化竜殺しが10倍ダメだから・・・」「バーカ、ざっとレベル999の狂戦士職の100倍だ、いくらSS級竜種の百獣竜とは言え確殺だっつの!」「SSSとかEXクラスならちょびっとは、残るかもだけどなぁ」
彼らはニヤニヤしながら、ゆっくりとピアノ達に近づいてきます。
ピアノは銃杖フーガをコートの内側から抜き、プレイヤー達に向けました。
『ピアノ・・・』
「フォルテ!大丈夫!?」
『・・・見りゃわかんだろ・・・はぁ、くっそ、後は、頼んだ・・・ぞ?』
「っ、り、了解!!」
「話終わったー?欠損ちゃーん?」
フォルテはそれだけ言うと霧のように消えてしまいました。
グイッとある男性プレイヤーがピアノの腕を掴み上げました。
「おほー、本当に眼も腕も脚も一本しかねーじゃん」
「さ、触らないで・・・」
「声も可愛いし、背もちっちゃいし、顔も割と好みだし、この水色の髪とかなんかラノベかなんかであったよなぁ?」
「電波系彼女?」
「あー、それそれ、似てるわー、ところで欠損ちゃーん?・・・ドラゴンどこに隠したの?」
「いっ!!」
ギリッ!!と男性プレイヤーの腕を握る力が強まりました。
「こまんだよねー、剝ぎ取りもドロップもしてないしさぁ、HP少なくなったら隠して回復させるつもり?」
「し、知らない!!」
「ザーケーンーナー、ヨッ!!!」
ゴッ!!
と男性プレイヤーの拳がピアノの腹部にめり込み、ピアノは口から血を吐き出しながら、壁に叩きつけられます。
パキパキッ、と肋骨が何本もダメになる音が聞こえました。
男性プレイヤーはゆっくり歩み寄りながら武器の斧を握りしめました。
「ケホッ、ケホッ!!」
「知らない、じゃねーだろがウジ虫がよぉ、なんだそのクソゲ?馬鹿なの?死ぬの?」
「おいおい落ち着けよ、相手はSSの百獣竜だぜ?多少運営も難易度上げてんだろ?」
「で?どうやって吐かすんだよ?まさかまたアイテム持ってこいとか貢ぎじゃねーよな?」
「あー、今イベント説明見てるけど珍しくなんも書いてないんだよなー、ここに来るまでにNPCからなんか聞いた?」
「知らねーよ、てか、イベント内容自体が『街中を爆走するドラゴンを討伐しろ』とか街中でやるゲリライベントだぜ?《ラグナロク・エッジ》でも初めてのパターンのイベントだし・・・ん?おい、これ、ちょっとお前ら確かめてくれ!!」
「あっ、何々・・ま、マジかよ!!こ、この欠損ちゃん『倫理設定に該当しない』って、つまり、アレじゃねーか!?」
「おうふ、運営さん、マニアックすぎんだろ!!・・・・まぁ、貴重な百獣竜素材だし、この欠損娘も好みだし、俺は良いけどね〜」
「おっ、ブタさんやっちゃう?」
「やっちまいまーす!!」
「おしっ、そんじゃあブタさんによるレイポゥ祭りハッジマッルヨ〜」
斧を持った男性プレイヤーはニヤニヤしながら身を引くと、奥から1人のオークのような太った男性プレイヤーが下卑た笑い顔でピアノに近づいてきて、カチャカチャ、とズボンのベルトを外し始めました。
周囲の他のプレイヤーもニヤニヤと今からピアノの身に降り注ぐ災難を心待ちにしながら耳障りな歓声を大音量で飛ばします。
その歓声の中、黒い人影がむくりと起き上がりました。
「んー、よく寝たぁ!!」
「あ?」「ファッツ?」「誰あの可愛い子?」
「あっ、起きたんだ?」
先ほどピアノが拾い、今までピアノの血をチューチュー吸っていた女性は思いっきり伸びをしました。
プレイヤー達はいきなりの乱入者、もとい死体か敵キャラのオプション程度に思っていたので、ある程度驚きましたが、彼女が伸びをする際にそらした胸に付いている大きな果実を目にし、即座にピアノを見ていた視線になりました。
黒い女性の横で一緒に座っておとなしくしていたピエロ少女は「あーあ、静かに寝てればよかったのに」とため息をつきます。
そんなことは全く気にもせず、黒い女性は「よっこらせ」と腰を上げると、黒い鞘入りの刀を拾い上げ、堂々と壁にもたれかかるピアノの前に来て、威圧的な紅い眼で見つめながら、凄まじく明るい感じに、気さくに、話しかけてきました。
「さっき私をぶっ飛ばして、輸血してくれたのはアンタ?」
「はい、ごめんなさい、それと、はい私です」
「おい」「黒いねーちゃん」「無視すんじゃねー!!」
「ふーん、ありがと、輸血分でチャラに・・・・いや、若干アンタへの恩のが大きいかな?・・・・ねぇ今のこの状況もしかして困ってる?それともそういうプレイ?」
「すっごく困ってまーす、ヘルプミーギブミー」
「ギブミー?」「あの子英語をノリで使ってるな」「クソ、パコッタ後に俺の単語帳丸暗記させてやる!!」
「・・・・ふふっ、OKわかった!!こいつら全部始末すればいいの?それがアンタの目的?」
「あ、いえ、チェシャ猫を捕まえるのが目的です、どっかから違法に持ってこられたのを捕まえて送還するのが目的です」
「チェシャ猫?」「それってあのレアアイテム落とす奴?」「マジか、百獣竜に加えてチェシャ猫とかバラマキじゃねーか?運営もしかして経営やばい?」「俺らが廃課金しまくってるのにやばいわけねーだろ」
なんだかよくわからない空気の中、適当に立ち去ろうとしていたけど、その話を聞いてしまったピエロ少女はとても驚いた顔で振り向き、黒い少女と同じくピアノのとこに駆け寄りました。
「えーーーー!!!??き、君は『あの子を密猟してきたけど、この街で逃がしたから追い回してるハンター系』じゃなかったのかい!!?」
「誰アンタ?ピエロ?」
「あ、いえ、すでに密猟されてるのを逃がした富豪夫婦の猫ちゃんを捜す系の魔導審問官です」
「なんか俺ら急に無視されてね?」「てか何がどうなってんだ?」「イベントストーリーかな?その割には俺ら無視されすぎ・・・」「勇者さまー、って助け求めに来るパターンじゃないっぽいしなぁ」
「そ、そんな、ぼ、僕の計算式が今日に限って、こう何度も外されるなんて・・・・」
ピエロ少女は一人ガクッと肩を落とし、地面に座り込むと、「フフフ」と「ぶつぶつ・・・」を交互に繰り返しています。
ピアノは、なんとか銃杖を頼りに立ち上がると、名前も知らない二人を見つめました。
「コホッ、ゲホッ!!・・・うん、だから、さっきから追ってたんだけど、今日はイベントか何かでアーカムに来ている大量のプレイヤーに追われてるの、あとチェシャ猫はさっきそこの通りを曲がるとこを見かけたんだけど、私には次元封印の魔法は組めないし、道具もない、というわけで、取引しよう?」
「ん?取引?いいよ?」
「ぶつぶつ・・・・え、取引?契約!!?」
「なんか変な流れになって来たな」「俺ら空気・・・」「このイベントのシナリオライター特定して炎上させたる・・・」
「私に・・・・次元封印の道具or方法を貸してください!!あと後ろのプレイヤーをどうにかしてください!!以上!」
「「報酬は?」」
「はもった」「ハモッタな」「ギャル系美少女とピエロ少女のハモリ、股間に来た!!」
黒い少女とピエロ少女の他なぜかギャラリーのプレイヤー達も微妙に緊張する中、ピアノは、すっ、と銃杖をとある店舗に向けました。
そこにあったのは≪和洋菓子喫茶カーネル≫と書かれた看板を吊り下げた、ウサギのデコレーションがウザったい店があり・・・・。
「あのカーネルのスイーツ全種類おごります!!」
「・・・・」「・・え?」「・・・なんだろう、今シリアスに犯される直前の女子の会話じゃねーよ」「いや、女子だけだと基本こんなだぜ?」「ふぇぇ、おっさんアバターの中身が女子だったよぉ・・・」
さて、それを聞いた黒い少女とピエロ少女は・・・・。
「・・・え!?マジ!!?カーネルスイーツ全種!?」
「僕以上にこんな正気じゃない奴初めて見た!!」
「カーネルのお菓子ってあの一見様お断りのアレでしょ!?大丈夫なの!?」
「しかも超お高いんだよ!!?僕でも年に一種類手に入れるのが限界の・・・」
「この手にありますのは~、ジャカジャカジャン!!ふり~ぱす~!!・・・・しかも死ぬまで有効な」
「「乗った!!」」
即決でした。
そそくさとピエロ少女は手を隠している袖から「これ次元封印込めた非殺傷弾ね」とピアノのコートの中にジャラジャラとフーガにあった弾丸を大量に入れ、黒い少女は爪を鋭く伸ばすとピアノの頬に、ぷす、と刺すと、ピアノの身体から一瞬でダメージが無くなりました。
「はい、麻酔で肋骨折れてる分の痛みは止めてあげたよ、猫追うんでしょ?」
「あ、ありがと、あれ?医療行為なんて条件に・・・」
「ん?ああ、いいよ!!サービスサービス!!私医者だし」
「あ、それで白衣・・・黒衣なんだぁ・・・ありがと、じゃ、行ってきます!!」
「あぁ!!?」「いやいやイベントとはいえ黙って逃がさねーよ?」「もうイベント会話だりぃから三人ともレイポゥしてテイムしようぜ!!」「テイム、テイム、倫理コード無し最高!!」
「がんばってねー、その弾は当てたら捕縛効果もあるからねー?」
「一時間したら麻酔切れるから、それまでにね~?頑張ってね~!!」
「「「「「聞けよ!!」」」」」
ピアノは銃杖を地面に付きながらピョンピョンと跳びながら猫を追いかけます。
二人の少女はそれに声援をかけつつ見送り、プレイヤー達はあまりのわけわからない展開になんとなくピアノを追いかけることはしませんでした。
「やっさしいねぇ~、君みたいな奴は人間は家畜としか思ってないかと思ったよ~」
「か、家畜!?なんで同じような見た目の生き物を家畜にするの!?キモイじゃん!?・・・・命の恩人だからね、それに報酬も良いし、何より気に入ったからさ」
「あの死んだ魚のような目が?僕はそこが気に入ったんだけど」
「いや、手足欠損しながらもなんか前向きそうなとこ!!」
「え~、君ずっと寝てたじゃん?」
「いいじゃん、四肢欠損してる子が輸血だよ!?状況証拠だけでいいの!!」
「・・・・あー、まぁそうかもねぇ」
「あんたは?ピエロが誰かの味方するなんて、キャラ的に無くない?キャラ崩壊?」
「んー?なんかあの子、僕の計算狂わしまくりでさぁ、ほら、興味が沸いたっての?いや、パンツグショグショにした責任取れ、みたいな?」
「パンツ・・・・グショグショ・・・?」
「んで?自由が無くなる間際のおしゃべりすみましたかぁ?お二人さん?」
黒い少女とピエロ少女はめんどくさそうにプレイヤー達の方向に向き直りました。
プレイヤー達は再び下卑た目つきで二人を捉えます。
後方支援のプレイヤー達が連続して最上級ランクの強化や守護、洗礼を前衛職のプレイヤー達にかけなおしました。
「あたしはあと5時間くらい話してたかったんだけど、女子の話を邪魔すると影でグチョグチョ言われちゃうよ?」
「え、なにそれ、こわい」「ガタガタ・・・」「・・・すまん、なんかトラウマ思い出した」
「いやいや、君ら現実で女子に虐められすぎでしょ、ていうか、うっわー、結構バフかけまくったねー、元のステータスの100倍って・・・どんだけぶっ壊れたバランスしてるゲームなのさ?」
「なーに、俺ら自分で言うのもなんだけど、金余りに余ってる層でよぉ?」
「重課金どころか廃課金で8000万は軽く課金してんだわ、つまり俺らが異常なだけだよ」
「こうチート感覚で敵を捻り潰すとラノベ主人公になったみたいで、辞めらんないんだよなぁ」
「それわかるぅー、すっげぇ気持ちわかるー」
「黒の剣士って呼ばれてぇwwww」
プレイヤー達はあまりに余裕だと考えたのか、課金雑談を始めてしまいました。
それを見ていた黒い少女は黒い鞘刀の口をさらにキツく結びなおし始め、ピエロ少女はあくびをしながら、プレイヤー達をあざけり始めました。
「ふぁぁ・・・あはは、ほんっとプレイヤーって意味わかんない奴らばっかだよねぇ?僕的にはチートなんてクソくらえだよ、弱い奴を叩き潰すほど無駄な労力も時間もないのに無駄に強くてもめんどいし、ウザイやつらに狙われるシィ、第一さぁ・・・」
「雰囲気、空気、殺気、オーラで一目で敵と自分の強弱がわからない、わからせられないなら・・・結局強くないのと同じってことでしょ?」
「は?」「なんて?」「盛大なブーメラン?」「うぜぇ」
「おーわかってんじゃん、やっぱ気が合うねぇ僕らぁ!!」
「まぁ、そういったらあたしらのこの状況もアレだけどね?」
「あー、それは仕方ないよ、だってさぁ?」
「こいつら見た目に反して弱すぎるんだもん、仕方ないよ~」
「あー、ほら、そういうこと言ったら・・・ってもう遅いかぁ・・・」
トンッ・・・・。
ゴッ、ガガガッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・・・!!!!!
少女たちが言い終わった一瞬、たった一瞬、後でした、二人が居た地点に凶悪すぎる武器の乱撃と大魔法に値する攻撃が機関銃の弾の豪雨のような勢いで集中して降り注ぎ、街の遠方からでもわかるような土煙が発生、土煙が消えた後には。
「バーカ、俺らがよえーとか、せめて数万円課金してから言えってのwww」
そこには底の抜けたような巨大な穴が地面に穿たれていました。
もちろん二人の姿はありません。
「あーべっ、どうすっよ?百獣竜の手がかりだったべ?あいつら?」
「しゃーねーだろ、うざいセリフ書いたシナリオ担当が悪い」
「待ってろ、今から特定してやるよ」
「エンブ、ダイエンジョー!!!」
プレイヤー達は自分たちが粉砕した少女たちになんの罪悪感も抱かず、大爆笑をしはじめました。
先に行ったピアノを追おうと幾人か動き始め、そこにいた怪物に自然と気づきました。
「血化粧・スカルペル・・・」
とても涼やかな、気品を感じずにはいられない声、漆黒の少女の声があたり一帯に響き渡ります。
プレイヤー達は一瞬で会話をやめて、その声の先、ある民家の屋根、そこに取り付けられた十字架の上に足をかけてこちらを、プレイヤー達を、見下ろしています。
「・・・・・・あ」
生きていたのか、などとは誰も言いませんでした。
その姿は三日月を背に、金糸の長髪は風に揺れ、紅の瞳は静かに燃え盛り、微笑は嘲り、纏う黒い白衣に右手の指の間に挟んだ三本の手術用のメスが、左手には納刀された黒い刀が、それらが、なぜか、死神の鎌を連想させました。
その姿にプレイヤー達は、一瞬で心が奪われ、または凍結しました。
「メルブラネタなんて、意外と気が合いそうな奴がいるんだね?」
「・・あっ、あの女を捕まえるぞぉ!!」
プレイヤー達は、無言で意見を一致させました。
彼らの中身はこうでした。
(あの女が欲しい!!)(犯したい、汚したい!!)(あの表情が歪むさまが見たい!!)
性欲と支配欲に支配された行動原理。
全会一致の跳躍、突進、または捕縛魔法の一斉乱射、魔手は漆黒の少女にせまりました。
「あー、無理無理、僕から見てもさ、君らバラバラ死体じゃん?」
対照的に、どこまでもふざけきった声がどこからか、聞こえました。
ピッ・・・・・!
それは跳躍していた最前列の三十人の身体からした異音でした。
その〝異音〟は三十人の身体の腕、足、肩、腹、腰、胸あらゆる部分から次々と鳴りだし、その部位から血が滲み出します。
「クスッ・・・・・・」
彼女の笑い声。
その声は小さな振動となり、それにより、接続面がズレた三十人は、一瞬でバラバラに解体されました。
その断片はボタボタッ、と地面に惨めに落下し、データ化が始まりました。
「・・・・・なっ、なぁ!!?」
「うぇ、い、今・・・え!?」
「止まれお前ら、なんかおかしい!!」
一瞬でパニックになるプレイヤー達、そんな中に漆黒の少女はフワッ、と跳躍、軽やかに着地します。
さすがに、彼らもその異常さ、いえ、ありえない事態に、ブレーキをかけたようです。
漆黒の少女が降り立つと、データ化されてる途中の肉片から血液がスルスル、と彼女の影に〝落ちて〟いきました。
「っ、こ、こいつ!!?神官職、いや聖騎士職ども!!熾天使装備で切り殺せぇ!!」
彼女の正体にいち早く気づいたプレイヤーが、指示を出します。
その指示内容が示す意味に一瞬で彼らは気づき、十人ほどが天使の装飾がついた武装で漆黒の少女に切りかかりました。
ですが、
「遅すぎる」
ヒュパッ!!
たった一度、空気を撫でる音がしました。
漆黒の少女は冷めた声で吐き捨てました。
聖騎士たちが同時に振り下ろす直前まで其処にいた漆黒の女は、すでに聖騎士たちの後ろは軽やかに歩いていました。
何が起こっているか全く理解できないプレイヤー達の中、突撃した聖騎士達は、それを強制的に理解させられました。
「嘘、だろ・・・・?」
まず、そのセリフを述べた彼は一緒に突撃した他の聖騎士たちを見渡します。
「う、腕が・・・」
ある者は腕が、綺麗に皮を剥がされ、腕のパーツを細かくバラバラに、やがて全身も。
「あ、転移じゃないのに・・・み、見えない・・・?レベル999の俺らが!!?」
ある者は顔の半分から、ポロポロ、ズルズルと顔のパーツが地面に落下していきます。
「あ、ありえねぇ、だ、だって、み、見えな・・・・・・まさか!!?」
まさか、の後も言えず、そのプレイヤーは背中が開かれ、解剖されていました。
プレイヤー達が漆黒の女を見つめます、漆黒の女は黒い白衣をなびかせ、右手のメスを煌めかせながら、さらに一歩、歩き出します。
カツッ、ブシャァ!!
彼女の一歩の音の振動で聖騎士のプレイヤー達は、部品を空中にクルクルと回転させながら、バラバラのミンチに解体されました。
「う、うぁー!!?」「な、なんだ、なんだよこれ!!?」「し、知るか馬鹿!!」
「あー、やっぱプレイヤーの血って味が偽物っぽいし、お腹にたまるけど、不味いんだよねぇ・・・・マズイし、弱いし・・・よし、今度は見えるくらいの速さで、殺ってあげる」
トンッ!
と軽快な靴音と共に漆黒の少女はそこから消えます。
プレイヤー達は極限の混乱状態に陥る中、彼女は別のプレイヤーのグループのど真ん中で、右手に持った一本のメスを振りかざし、凄まじい、それこそ、プレイヤー達が見えても反応できない速度で彼らをバラバラに解体しはじめました。
「そらそらぁ!!避けるなり防御なりしないとぉ!!死んじゃうよぉ!!」
ザシュ、バビンッ、ズパッ!!
右手にメスを、左手に納刀を携え、戦士達を切り捨てるその舞は、まさしく死神です。
それはまさに〝血祭り〟と呼ぶにふさわしく、5秒後にはそのグループは彼女の下で肉塊になっていました。
「はい、解体終了っと」
手に握られていたメスについた血を、舌で美味そうに血を啜るその姿に、やがて、あるプレイヤーが記憶の底からようやく情報を引きずり出しました。
「黒い白衣、メスで解体・・・紅い眼・・・・・ま、まさか・・・」
「な、なんだよ、あの〝吸血鬼〟知ってんのかよ!!」
「ば、馬鹿か!?・・・・ラ、≪ラグナロクエッジ≫開始初期の・・・・く、黒歴史のイベント、っていやぁわかんだろ!!」
「へっ・・・・・ま、まさか!!」
「そう、アルトセリカ・・・・・黒殺のアルトセリカ・ネヴァーグッドエンド!!開始初期、誰も討伐できなかった、最悪の吸血姫!!」
そう、それはまさにこのゲームにおいて、黒歴史扱いされたイベントでした。
サービス開始から一か月、そのイベントは突如開始されました、内容はヴァンパイア狩り。
吸血鬼が襲ってハザード状態になった街に乗り込み吸血鬼王を倒すというものでした。
雑魚エネミーは吸血鬼になりそこないのグールから、成りたてヴァンパイア、上級は吸血鬼王の側近だとか、強いモンスターを吸血鬼化したもので、ラスボスが吸血鬼王。
単純でどこにでも溢れるパターンのイベントでしたがプレイヤーの間では中々に歯ごたえがあって好評でした。
そんな中、最速で吸血鬼王を倒した重課金プレイヤーが命からがら、スタート地点の街に戻り、いきなり、バラバラに五体を飛散させ消滅しました。
そのプレイヤーは以後ログインせず、やがて次々とバラバラになりながらゲームオーバーになるプレイヤーが続出。
とあるプレイヤーギルドが調査に乗り出し、吸血鬼の城に乗り出し、生放送で動画サイトに流しました。
そこに映っていたのは、
「金髪紅眼、黒い白衣を纏ったJK風の頭おかしい女が殺しては啜り、殺しては啜り、殺しては啜り、してるシーン、だったんだぁ?」
「へっ!?」「うぉ!!?」
その人を食ったような声はあろうことかプレイヤーが集まってる中心から聞こえました。
プレイヤー達が一斉に中央に視線を集中させると、そのピエロ少女が「やっほー」と長すぎる袖で隠された両腕をあげて、可愛く言い放ちます。
そうこうしてる内にアルトセリカはプレイヤー達のおよそ半数を解体してバラバラにしてしまいました。
「ちょっとJK風って何?あたしまだ肉体年齢は現役のJKだっつの!!」
「アルトセリカくん?嘘はいかんよ?嘘は?君の肉体年齢は僕が計算するに、ざっとJD卒業間近だ、間違いなーい!!」
「あ、あんたねぇ!!」
「むふっ・・・・・ってうぉお!!?」
ガキンッ!!とピエロ少女のいたところに槍使い達が同時に突き出したので、ピエロ少女は驚いて上空に高く跳躍してしまいました。
「こ、怖いなぁ、僕はアルトセリカちゃんみたいに速くないんだって!!」
「聞いたか!!?」「よし、まずはピエロから犯すぞ!!」「囲えー!!」
「うわぁ、し、しまった~!!」
ビュンビュン、と矢や、火の玉やナイフが同時にピエロ少女に飛来してくると、ピエロ少女は袖から巨大な玉乗りの玉を出すと、それに乗り、民家の壁を下に、玉乗りしながら、「ほっ」とか「よっ」とか「よいさー」とか言いながら器用に回避します。
しかし、相手もレベル999、回避が上手いと判断するや否や、即座に≪貫通特化≫の攻撃を中断、≪必中≫や≪追尾≫の攻撃に変更してきました。
「う、うぁあああ、やばいやばいやばぁい~!!」
「げひゃひゃひゃひゃ!!」「そらそら、走れ走れ!!」「そのケツ穴に俺のエクスカリバー、飲み込んでくれぃ!!」
「ぜ、絶対やだよぉ~!!」
ピエロ少女があるゆる方向からくる、あらゆる種類の攻撃を狭い街路上でアクロバティックにクルクルと回避し、プレイヤー集団は、先ほどまでアルトセリカに怯えていたのが嘘のように、ピエロ少女を追い回し、ゲラゲラと笑っていました。
空気を読んだのか、アルトセリカもプレイヤー達に攻撃することなく、この現状をただ無言で、神妙な顔つきでピエロ少女を見つめていました。
「おう、ところで、ピエロちゃんよぉ!!?」
「な、なんだよ~!!今君らに追い回されてボクすんごい疲れてんだよね?はひー!!はひー!!」
「いやね、お前見たところAGI(回避)とLUK(幸運)に極振り、時点でMND(魔力)あたりか?」
「そ、そーだよぉぉおぉぉおぉ!!ってうわぎゃああ!!今かすった!!?」
「なるほどなぁ、よーくわかったぜ?つまりとこテメェはアレだろ?」
「へ??」
「さっき俺らにあんな啖呵切ったはいいが、見たところ俺らに有効そうな攻撃手段が無いから、吸血鬼に俺らの殲滅任して、俺らの戦力をちょっとでも分割、あの欠損ちゃんの逃げる時間稼ぎをする役割なわけだ」
「う、うわ~、し、しかもなんかバレちゃってるしぃ~!!」
「当たり前だ、≪ラグナロク・エッジ≫にゃ、魔法無効化装備は定石、むしろなきゃ上位ダンジョンに入ってすぐ遠距離からハチの巣になるからなぁwwwステータスを最初の段階でわかっちまうテメェならそうプログラミングされてっと思ったよ、だが・・・・・・・残念だったなぁ!!」
「はい!?・・・・・・ってうわぎゃぁああああ!!!」
ピエロ少女は先ほどまで喋っていた男の投げた巨大なブーメランの風圧で浮かされたところを追ってきていた大量の追尾魔法で攻撃され、煙をあげながら
ドシャ!!
と地面に倒れました。
なお
それでもピエロの矜持か、プルプル、と震えながらも笑いながら、首と腕を持ち上げます。
「・・・・・・・」
「あー、わりぃなぁ、アルトセリカちゃんよ、引き付け役潰しちまってよぉ?」
「あだだ・・・・ボ、ボクを勝手に死んだことにする、なぁ・・・・あべっ!!」
「あっやべ、今なんか踏んだ?ってかごちゃごちゃウゼェ、あと一撃入れりゃ死ぬHPのくせにピーピー騒ぐなや、捕獲しないで潰すぞカスピエロ」
「いたたっ・・・わ、わかった、しゃ、喋らない、喋らないから、ひ、一つ答えてほしい!!何が〝残念〟なんだい?」
「ぷっ・・・あ、ああ、それね?簡単だよ、お前ら俺らを引き付けてっと思ってるがよ?・・・・・・俺らの部隊が前線職と後衛職、だけだと思ったか?」
「・・・・・え?」
ピエロ少女は倒れた体勢から、震えながら顔をあげます。
「いるんだよ、俺らの中にも、≪忍者≫や≪スパイ≫なんてジョブがよぉ?わかる?お前らが必死こいて守ろうとしてる、あの欠損ちゃん、今頃そいつらが追いついてパコってんぜ?」
そういうと男たちはゲラゲラと笑いだしました。
その間ピエロ少女は固まってピクリとも動きませんでした。
しばらく笑うとその男はピエロ少女の首を片手で掴みあげ、首に刃を突き立てます。
「あー、あー、このイベント組んだ奴ぜってぇ新入社員だぜ?しかもスッゲェ底辺の?」「あー、ありそう」「発想は悪くないんじゃね?百獣竜装備あれば、あの≪ディープホール≫の魔王にも」
「・・・・・キミたちさぁ?」
「あ?どした?イベントNPCが命乞いとかすんなよ?キモイから」「いや、ちょひどww」「でもあるよね、そういうキモイのww」
「・・・・知ってる?」
「・・・・は?」「なにを?」「・・・・・・もしかしてあの百獣竜のじょうh」
「・・・・・キミらの最終的に倒さなきゃいけない≪ヤツラ≫についてさ?」
「・・・・おいバグだぜ?」「プログラマーも底辺かよぉおおお!!」「死ね・・・・・って倒さなきゃいけねぇって?アレか?≪五大魔王≫?」「バーカおめぇ、ありゃどうにもできねぇよ、レベル999でも門番すら誰も倒せないんだから」「運営が情報くれるか、改善するまで待ちだな」
「・・・・・ぷっ、あはははははは!!」
「おいイカレタ」「やべぇ」「あーもー、誰だよ≪忍者≫先に行かそうって言ったやつ!!?不測の事態でバグでたじゃんかぁ!!」
「あははは、ち、違うよ、違う違う、バグなんかじゃない・・・・・・・・いやね?」
「まさか、だぁれも≪五大魔王≫を・・・・ボクを知らない分際で、調子乗ってるなぁ、って思ってさ?」
一瞬の空白。
全てのプレイヤーがその言葉で文字通り脳内が真っ白になりました。
アルトセリカは「ああ、道理で」と一人納得して、片目を瞑り、ため息ひとつ。
ピエロ少女のダボダボの右腕の袖がひとりでに首を掴む男の腕に巻き付くと、途端男がガクガクと激しい痙攣を始めました。
「あ?あぐっ?えぎっぃい!??」
「え?ど、どうした!!?」「な、なんだよ、きめぇよ!!」
ピエロ少女は男が首から自然に手を離すと、そのまま大股で苦しむ男と他のプレイヤーの間に入り込むと、大勢のプレイヤーに向けて四股のピエロ帽子を取り、恭しく一礼します。
その時、彼女の頭部から生える二本は下に曲がり、二本は上に伸びた山羊のような角が見えます。
「あ・・・あぁ!!」「・・四・・・・四本角!??」「・・・う、嘘だ、こんなとこに!!?」
大きく息を吸い、全員に響き渡るように言いました。
「さぁて!!お客様!!酔ってらっしゃい!!満てらっしゃい!!今宵お客様方が御覧になりますわぁ〜!!?」
道化は夜風に乗せるように、《公演》を開始します。
「まるで無垢な、有罪で有罪無垢な欠損少女に牙を剥く変態集団!!」
その声に宿ったのは月がもたらした狂気か、あるいは本能か、異常なな早口でありながら、それは聞くもの全ての脳髄の奥まで響き渡るような声で、その意思が無くとも、皆、動きを自然と止めてしまいます。
「そして、この変態集団は、なんと欠損の少女だけではなく、あろうことかっ!!?この私≪魔王 ハルペタ=スコルダトゥーラ≫様に偉そうに、喧嘩を売ってきたのです!!?」
そのあまりにもダサい名前を聞いて、蔑む者はいませんでした、むしろ、その顔色を極寒の中のように青ざめていきます。
魔王ハルペタは《公演》を続けます。
「ではでは〜!?彼等にはどんな罰がくだっちゃうのでしょうか〜!!?」
「「「「死を!!苦しみを!!痛みを!!」」」」
それは痙攣する男の身体の〝内側〟から響き渡り、プレイヤー達を、アーカムを揺らします。
その強大な激震にプレイヤー達は怯えますが、それでもハルペタの《公演》からは逃げられませんでした。
彼等が怯え、騒ぐ中、ピエロの魔王は右人差し指を立て、ウインクしながら、口から地獄の扉を開く言葉が放たれます。
「無在公式・バクバクちゃん大行進の式ぃ〜!!!」
「あっ・・・ぐぴっ、あっ!?・・・・やべっ・・・って!!」
ボンッ!!!
男はプレイヤー達から見て、ハルペタの後ろで内側から爆散しました、周囲一帯に彼の赤い肉塊が飛び散る中、ピエロは血一つ浴びず笑います。
・・・・・・・ですが、そこはレベル999たかがそれだけでは驚きもしません。
「・・・な、なんだよ」「馬鹿が爆発しただけで、なんも起きねぇのかよ!!?」「バクバクちゃんってどこだよバァカ!!」「や、やっぱハッタリだよなぁ?」「魔王とか嘘つくなや!!」
彼等は安堵したのか、一気に元の調子を取り戻し、ハルペタに罵詈雑言を投げつけます。
ただ、一人だけは、その肉片を一瞥すると、カツカツ、とブーツを鳴らしながらハルペタの横に進みます。
「どしたのかな〜アルトセリカちゃん?寂しくなっちゃった〜?」
「うーん、まぁ、肉体的には寂しいよ?男いるなら紹介してほしいくらい・・・てか、まぁ、この場合はさぁ?」
ミキ、ポコッ、グチョ・・・・。
「避難しかないと思うけど?」
「んふ、せーかいだよ!」
「何言って」パキュ・・・。
一瞬でプレイヤー達は静かになりました。
一瞬でプレイヤー達の一角は巨大な口で捕食されました。
それは〝爆散した男の肉片〟から生じた気味の悪い黒い口だけの化け物でした。
「・・・・・なんだ、あれ?」
グチョ、グチュ、メキッ!!
肉片は加速度的に膨れ上がり、それら一つ一つが大きな人間のような歯並びの黒い巨大な、それこそそこらの民家に匹敵する蛭のような無貌、口だけの肉塊になり、プレイヤー達に襲い掛かります。
「へ、へ?・・・あ、あんだよ、キモイんだよ≪秘奥義 月光斬・慙愧≫!!」
あるプレイヤーが一瞬の間に千度もの斬撃を叩き込む技を発動しました、ですが。
『きゅい?あは、あははっははっははははっはははははあああああ!!!!!』
「な、なんだよ、なんで死なねぇんだよ!!HPゲージも耐久ゲージも見えねぇじゃねぇ・・・あがっ!?」
ガプッ・・・・・・ゴキパキポキポキッ!!
攻撃は一切聞かず、すぐにあっけなく口に挟まれると咀嚼されました。
他のプレイヤー達も同じように逃げまどい、悲鳴をあげながら、この化け物に捕食されていきます。
「あ、ああああ!!!な、なんでなんだよ!!なんで魔王がこんな街に!!?」
「んー、そんな鼻水垂らしながら、言われちゃ教えないわけにはいかないなぁ、それはね?」
「お、思い出したぁ!!魔王ハルペタ!!五大魔王中もっとも正体不明の魔王で、ぐぎゃぁああ!!」パクッ。
「そうそう、正体不明でぇ、それから」
「ピエロみたいな曲芸みたいな正体不明のオリジナル魔法の使い手で、今まで討伐に向かった上位プレイヤー達も、そいつの召喚した化け物だけで全滅させられ・・く、くるなぁあああ!!」パクッ。
「う、うんうん、そうそう、それでぇ」
「最近その魔王の居城が突如消失したから、運営に消されたって聞かされてたが、まさか、イベントボスに格落ちして・・・・うぎゃああああ!!!」パクッ
「・・・・だ、誰がイベントボスに格落ちだよ!!?ボクは現役の魔王だよおバカぁ!!てか、君ら説明するか食われるかどっちかにしろぉおおおお!!!」
「「「「じゃあ、この化け物けせよおおおおおおおおおおお、ぎゃあああああああああ!!!!」」」」
そうして命がけでツッコミを入れた最後のプレイヤー達はまとめて捕食されました。
それを見ていた吸血鬼の少女は、「芸人魂ありすぎでしょ、おもしろくはないけど」と残念な評価を下します、ですがすぐに気を取り直しました。
「・・・・魔界の化け物でもないよね・・・・・ピエロ、アンタの能力?」
「そうだよ~ん!!」
「どうでもいいけど、アタシまだ吸血したりないんだけど、三分の二くらい戻してよ」
「無理かなーボクにも制御できないし、素直にピアノちゃんの方角に逃げた奴らをメスで切り刻んだら?」
「制御できないって・・・・じゃあ、こいつらどうやって消すのよ?」
『あ~ん!!』
口だけの化け物はアルトセリカとハルペタの頭上から口を大きく開き、食べようと口を開きました。
「そりゃあ、こうやって」
ピッ!!
ハルペタは袖からトランプを一枚取り出すと、見もせずに化け物の口に投げ込みます。
カッ!!ドゴーンッ!!
トランプはすぐさま爆発し、化け物は内側から焼き尽くされ炭になって横に倒れ込みました。
それを見ていた自称JK医師吸血鬼が飽きれた表情でピエロに尋ねます。
「え?なにこれ?つまりアタシらで始末すんの?こんな腹の足しにならない化け物を!!?」
「うん!!頑張ってくれたまえ、ボクはベンチで、あだ、いだだだだ!!!ちょ、メスで刺すなぁ!!」
「うっさい馬鹿、あんたも手伝え!!どうすんのよ、あの子の方に向かった≪忍者≫飲みに行けないじゃない!!」
「あー・・・・・・テヘ!!頑張ろう?アルトおねーちゃん!?」
「ふざっけんなぁ!!勝手にアタシの名前訳すな、笑ってごまかすな、あとウルウルした眼で見つめんなぁーーー!!弱いのよあたしぃ!!」
「あっ、ボクの名前はハルでもペタでいいよ(はーと)」
化物たちは周囲のプレイヤーを捕食し尽すと、二人の方向に一斉に向き直り、口を開けて接近してきました。
ビュ、ズバババババババババッバババババッ!!
アルトセリカは右手にメスを三本挟むと、腕の一振りで三体バラバラにします。
「きっしょ!!なにこれ!?切り心地キモ過ぎるぅ!!ペタ!!アンタ責任もってアタシより多く倒しなさいよ!!」
シュッ・・・・ドドドドドドドンン!!!
ハルペタはくるり、と回転しながら袖からトランプを射出し、それを爆発させることで五体を炭にします。
「えー、百体近くいるんだよぉ!?アルトだけで全部、って痛い痛い痛い!!メス投げつけるの痛い!!」
「うっさい!!とりあえず、これで残り片づけられなかったら≪カーネル≫無しだよ?協力しなさい!!」
「あー、まぁ、契約だしねぇ、わかったよー・・・・」
ぶつくさ言いながらも、次の瞬間、二人はさらにメスとトランプでお互いの背後にいた化け物を一瞬で殲滅します。
「・・・・わかった、アンタにやる気ないならアタシ一人だけ契約を履行したってことで、アンタの分のお菓子も全部いただく!!」
「ちょっ!?あいつら殲滅したのはボクのおかげじゃん!??」
「まだ仕留め残し、っていうかこの場合は≪どうにかして≫だから、それを仕留めた奴が今回の契約の報酬を貰えるってことでしょ、仕留めなかった方は、途中辞退と受け取ってもおかしくないわけだし」
「いやいや!?この契約はボクとキミが連帯して負ったものだよ!?結果的に成功すればそれで契約完了のはずだよ!!?山分けさ!!?」
「はぁ!!?」
さらにまた次の瞬間二人は同時に振り向き背後から接近していた化け物を殲滅しました。
「・・・・・あーめんどっ」
「こっちの台詞!!てかっ、これアンタが出した奴っ・・・・って、あーもー!!」
「あ・・・・・ボクいいこと思いついた」
「・・・・奇遇ね、多分同じこと考えたよ」
「そっか、じゃあ・・・・・・せーの!!」
シュバババババババババババババババババ・・・・・・ッカ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン!!
月光の元、魔王と吸血鬼が背中合わせに構えました。
「「こいつら多く倒して、追っ手を多く倒した方が、スイーツ総取り!!」」
二人は踊るように次々と化け物を殲滅し始めました。
そんなこんなでこの二人のスイーツをかけた熱い?争奪戦が幕を開けました。
ただ、後々この話を聞かされたピアノはこう質問したそうです。
「それハルが始末してる間に、セリカが助けに来ればよかったのでは・・・?」
と。
そんなピアノは今現在どうしてるかというと・・・・・。
「・・・・・・こ、これは・・・・」
ようやくチェシャ猫の目的地に到着していました。
一本の脚と、杖だけで必死に猫を追い回し、ついにピアノはチェシャ猫の目的地。
すなわち、巣を見つけたのです。
どうやらこの近辺の野良猫と夫婦になり、現在、路地裏の奥の奥のちょうど死角になっている場所のゴミが溜まって場所の、おもちゃの人形用の家が彼の家のようで。
中には、彼が近づくと、七匹の子猫が出てきて彼に飛びかかりました。
『にゅ?』『な?』『なぅ!!』
「あ、あわわ、くぉお!!か、かわええ~!!」
ピアノは物陰から必死に彼らの様子を覗き見ます、声を死ぬ気で押し殺し、飛び出して抱き着きたい衝動も死ぬ気で抑え込みました。
チェシャ猫はしばらく子猫たちにじゃれ付かれてましたが、家の中からさらに白い毛の美しい雌猫が顔を出すと、子猫たちはそちらの方に行き、彼はようやく解放されました。
彼は少し残念そうに白い猫を見ていると、それに気づいたのか、白い猫はチェシャ猫の方に近づくと頭をなめました。
どうやら彼女が彼の奥さんのようです。
「・・・・・元飼い猫かな?・・・野良にしては毛並みきれいだし・・・・」
チェシャ猫はしばらく恥ずかしそうになめられていると、彼は思い出したように顔をあげ、長い尾を丸めて、輪っかを作り、次元の穴を開けると、そこからポテンッ、と何か入っている袋を落としました。
彼がガサガサと開けると中からカマボコクッキーと魚肉ソーセージが大量に出てきました。
『なっ!!』×7
一斉に飛び出す子猫たち、それを彼女が尾で止めました。まだ彼らには少し早いようです。
旦那さんは袋をガサガサ漁ると、一番大きな魚肉ソーセージを奥さんの近くに持っていき、横に並ぶと、一緒に食べ始めました。
それを羨ましそうに眺める七匹。見かねた彼は、長い尾をフリフリして子供たちに追いかけさせています。
もはや完全に、「ここで出て行って捕まえたら罪悪感半端ないよねー」な状況です。
ピアノは物陰で必死に考えます。
「・・・いやいや、いやいやいやいやいや!!無理だから、アレ、パパさんがエサ取りに行かないと将来私が復讐される流れですね!!?わかります!!」
ピアノは片方しかない目でもう一度猫一家を見ます。
どうやら、遊んでいた子猫のうち一匹が転んで、そのまま他の兄弟に踏みつけられたようでした。
チェシャ猫と白猫は食事を中断、すぐにその子のところに行くと二匹で優しく舐めます。
すると、その子猫もゆっくりですが起き上がり、まだ足を一つ上げてぎこちなく、兄弟たちの輪に加わろうとします、チェシャ猫は首の皮を口で持ち上げると、そのままその子猫を空中に投げ、見事に頭に乗せて、夫婦の食事に戻りました。
子猫はパパさんの頭の上が気に入ったのか、スヤスヤ寝てしまいました。
それズルいとばかりに他の子猫たちも夫婦の近くにすり寄ると、寝てしまいました。
その様子をピアノは感情のない瞳で見ていました。
「・・・・・・・・」
この世で最も欲し、手に入れること叶わない光景を、見せられていました。
今すぐ叫びだしたい気持ちを、ゆっくり抑え、彼女は目を閉じ、〝今の彼女〟を頭の中で再確認、再認識します。
「・・・だいじょうぶ、私には・・・・はいる・・・・・・だから」
再び目を開けます。もう一度同じ光景を見ます。
今度は何も感じませんでした。
ですが、次は別のことで頭を抱えることになるのでした。
「・・・魔導審問官としては情を殺して、任務達成、倫理的には見逃して彼らの未来を祈る・・・・」
彼女の独断では判断しかねる決断、ですが彼女は即座に決めました。
「よし、諦めよう・・・・・・えっと?なんだっけ?任務失敗は始末書?OKOK、うん・・・・・・・・・・さすがに外道にはなりたくないもんね?」
彼女は立ち上がると、そういえば、とロングコートの内側を漁り、お弁当に持って来ていた、朝の食べ残しのパンプキンパイを猫家族の方に投げました。
『!!?』
そのパンプキンパイは彼らのちょうど目の前に落ち、チェシャ猫はすぐに投げたピアノを見つけます。
今までだったら、ここで次元を移動して逃げるはずでしたが、今回は違いました。
『ふぅうううううううう!!!』
彼はこちらに威嚇してきたのです、それは明らかに〝父親〟の姿でした。
ピアノは、それはもう情けないほど怯みますが、どうにか声を絞り出します。
「・・・・た、たべて・・・・・い・・いいよ~・・・・」
彼はしばらく威嚇し、そのたびにピアノが怯えるさまを見て、敵意が無いことを察すると、パンプキンパイに尾の先端を当てて、別の次元にしまってしまいました。
『・・・・・・な』
チェシャ猫はピアノに背を向けながら、発した一言。
「ありがとう」なのか「これで許してやる」なのか、ピアノにはわかりませんでしたが。
それでもなんとなくうれしくなったピアノは
「うん、また、お土産もってくるよ!!」
と言って猫家族に背を向けました。
今回はこれでいい、任務は失敗したけど、アレは壊してはいけない。
それで今回の事件は終わり、でした。
「おほっ、チェシャ猫の群れとか、ついてるぅうう!!」
数人のプレイヤーが建物の上からピアノと猫一家を獲物を見る目で見ていました。




