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ピアノとフォルテ 紅い眼のヒト、ピエロなヒト、ネトゲチュウ?

ダゴン湖。

アーカムの南側にあり、まぁまぁ広い湖です。

できた理由は二千年前、つまりフォルテと破神姫の戦いで起こった大厄災、それに便乗したとある邪神を女神キズナがボコり倒したおりにできたようです。

湖のほとりには邪神の怨念と瘴気が、なんてことは無く、今日も秋晴れ、屋台の乱立と恋人達のイチャつき場として大人気です。


そんな非リア充ブッコロ空間に、空気も読まず、気にせずピアノとフォルテは屋台を食べ歩きます。

二人は舗装されてない道、色鮮やかな落ち葉が舞い散る中を食べ歩きます。


「…焼きとうもろこしウマっ」

『イカ焼きもなかなか、おっ、綿菓子屋だな、初めて見た!』

「そうなの?食べる?」

『おう』


はい、完全に忘却の彼方です。

猫?焼いて食えんの?とか素で言っちゃう勢いです。

二人はパタパタ、ピョンピョントビ回りながらパクパク食べ歩きまくります。


「…綿菓子どない?」

『口に入れたらすぐ溶ける、儚いわ…』

「…夏休みの恋愛みたいな?」

『どちらかっつーと、クリスマスに恋人がエヌティーアールされた気分に近い』

「…ごめん、わかんないんだけど、それって悲しいの?」

『悲しさ4、快感6、かな…経験ないし俺の初恋はあの腐れ破神姫だがな、あ、ハズッ』

「…告っちゃえよー、タイムスリップして告ってきてくれたらピアノ監督は時を超えるドラゴンとか、そんかタイトルのアニメ映画作るかも」

『振られちゃうかも』

「だったら私がもらってやんよ」

『…ポッ、ドキドキ!!……ところで映画って今もあんのか?』

「あるよー、封印前の8000年代だと立体ホログラムかな?」

『…あー、そうだな、あれだ、客席から映画の世界に入り込めるやつ』

「ドラゴンなのに詳しいなぁ、今はフルダイブかな?客席のヘッドギアから意識だけを映画世界にダウンロード、たまに帰ってこれず死ぬから映画業界はガタガタだけどね」

『…ふーん、ちなみに今湖の上に移してるアレはなんだ?なんか実体あるけど、ありゃニュース番組だよな?』


二人はダゴン湖を見つめます。

湖面では、映し出された立体をもつニュースキャスターと司会者が台の上の台本を読みながら、解説をしている姿が映し出されていました。


『従って、現在1番の駆除対象とされているプレイヤーや転生者の狙いは、魔王や吸血鬼を最終目的に…』

『…ですが、二千年代の資料を読み取るに彼らは皆現実世界への鬱憤を別世界で…』

『…なるほど、つまりプレイヤーや転生者は過去の時代からの侵略者なわけですな』


どうやらニュースではプレイヤーや転生者の話題のようですが、ピアノからしてみれば当たり前、フォルテからしてみればうん千年前からいる人達でしたので、まったく興味がわきませんでした。


「…実体ホログラム投射機、一定のナノマシンが映像から情報を読み取り、計算し、立体化して映す、コストがバカすぎて廃れた技術だね」

『…つまりエロ動画は?』

「…そこの部分から購買層からクレーム乱立して製作者が鬱病になったんだよ?このアイドルやキャラのオッパイはもっと気持ちいいはずだ!!とか」

『せつないわ〜』


二人は歩き出します、道はやがて古めかしいレンガで舗装された道に変わってきました、そろそろピアノ達の居住街区とは反対側の街区に出るようです。

その途中、鯛焼きの屋台のおじさんの口より


「あっ、こらドロボウ猫!!」

『・・・・おいおい、どう考えても、屋台の暑苦しい親父が吐く言葉じゃねーよな?』

「そんなこと言わない、根っこが乙女なオジサンなのかも・・・」

『おえっ』


二人はなんとなくその乙女ハートなオジサンを心に刻もうとゆっくり振り向きます。


猫と目が合いました。


体型はペルシャ猫、身体中に紫と白の猫がちょうどたい焼き屋さんの屋台からたい焼きを袋ごと拝借する場面でした。

ギュルッ…、という音と共に、猫の身体は瞳に吸い込まれるように消えました。

鯛焼き屋さんは突如消えた猫にパニック。

そして二人はというと、


「・・・・見つかった」

『見つけちゃいましたわなぁ』

「・・・フォルテ、匂い覚えた?」

『覚えたが?・・・・いやいや、まさかな、ピアノさん、あっちはノーリスクテレポの達人ですぜ?』

「それ以外ないし」

『・・・・はぁ、だよな、走って追いかけるでOK?』

「お願い!!」


二人は一瞬で再燃します。

フォルテは地面に着地すると全身に魔力を拭き上げさせます。


転星テスラ百獣疾走竜王ウェアビーストドライク・セヌマ!!』


フォルテが変形します、人形のような体格は4メートル大の大きさに、翼は退化し、四足歩行に、全身至る所を白く長い体毛が覆い、前脚、後脚が筋骨隆々に、かつ機能美を極限まで突き詰めた形に、尾は毛に覆われず、鱗のままで3本に増え、2メートル大の長さに、そして牙は両端にサーベルタイガーのような強固で巨大なモノが一本ずつ、前後脚の先にはナイフのような鋭い爪が先端に5本ずつ付いてました。


「百獣竜セヌマ…会ったことあるの?」

『あるが、今はそんな暇ないよな?どうする?乗るかいお嬢さん?』

「そうだね、ハートが震えるドライブにしてね?」

『はいよ、全身ガクガクにしたらぁ!!』


ピアノがフォルテの尾に巻きつかれ、そのままフォルテの背中に乗せられます。

そのまま、ズドンッ!!という血を蹴る音と共にフォルテは爆走を始めました。

二人はそのまま湖沿いを、人を避けながら走り、そのままピアノ達の居住区とは反対の街に飛び込みました。

二人が去ったあと、その二人をじっと見つめる長いフードを被った女性がいました。


「うふふ、百獣竜セヌマ・・・・大物じゃない、レロッ・・・」


ゆっくり舌なめずりをすると、女性も二人を追って、ものすごい速さで追いかけるのでした。


フォルテはスモッグと霧の中を爆走します、時折鼻をスンスン鳴らし、進路を慎重に見定めています。

その速度実に時速500km、もはや機械改造や魔術強化した脳と瞳でもない限り二人を視認することは不可能です。

風景はスモッグに覆われた、古めかしい建物と大きな工場群が立ち並ぶ錆色と茶褐色の街並みに変わりました。

匂いも若干工場特有の身体に優しくない匂いに変わってきました。

そんなことは特に気にせず二人は爆走を続けます。


『しっかり捕まってろ!!右に参りまぁあああす!!!』

「うぷっ、やばいホントにガクガクしてきた・・・」

『おい今度からエチケット袋は持参してくれよ?』


二人はそのまま工場が隣接している地帯の間を潜りぬけます、すると。


「いた!!」

『ちっ、匂いがわかっても周囲に体色が溶け込みすぎてわかんねーな、これ』

「・・・・いたには、いたけど・・・次元封印どうしよ・・・」

『・・・だよなぁ』

「・・・とりあえずゴー」

『イエッサー』


チェシャ猫は戦利品を地面に置いて、頭からガシガシかじっていました。

そして次の瞬間、ピンッ、と尾が逆立ち、バッと左方向に顔を向けます。

そこには今現在、獣型のドラゴンが、大口を開け、チェシャ猫を食い殺さん勢いで飛びかかってきているのでした。


「にゃ、にゃあぁぁぁぁあああああ!!?」


当然驚くと、そのままギュル、とまた瞳に渦を巻くように吸い込まれて消えてしまいました。

ズッパァアアアアアアン、とフォルテの前足が地面に激突し、周囲に衝撃波が撒き散らされる音が響き渡ります。

ゆっくりと前足を退けると、そこには猫の死体すらなかったのでした。


「・・・フォルテ?手加減しようね?」

『あっ、わり、もう殺しちまったほうがはえーんじゃねーのかって思ってな』

「捕獲だよー?討伐じゃないですよー?生け捕りですよー?」

『わーってるよ、どうせチェシャ猫なら気づいて逃げるしな・・・・・ところでピアノ友達いるか?』

「いない!!使い魔なら二体、自慢のがいます!!」

『おう、一か月でそこまで言われると照れるな、エヘヘ・・・・んで、後ろの奴だ』

「・・・・フォルテよりフーガへ、トリガー、セット・・・」


ピアノがローブの内側に右手を入れると、それは一瞬で組みあがり、一丁の長いショットガンのような黒い杖を取り出しました。

そしてその銃杖フーガに幾つかの文字が浮かび上がると、金属が割れる音と共に、大型のリボルバー式の拳銃に形を変えました。

そのまま流れるように後方に銃口を向けると。


今まさにピアノとフォルテに剣を突き刺そうとしていたフードを被った女性に撃ち放ちました。


百竜火砲(カノン・ワイバーンズ)


長い竜の形をした炎が女性のお腹に当たると凄まじい勢いで爆発しました。

女性はそのままゴロゴロと後方に転がりながら、上着についた炎を鎮火します。


「・・・やってくれるわね、たかがレアモンスターのくせに」

『は?』

「レアモンスター?・・・・・ああ、なるほど」

『・・・OK理解した』

「今の使役魔銃魔法(サーヴァント・カノンマジック)?・・・なぁんだ、百獣竜のおまけだっていうから、どんなレアモンスターがおまけで付いてくるか期待してたのに・・・・がっかり、ドロップもクソねこれじゃ・・・・」


燃えた上着の下からは見るからに大事な部分が露出していて、ゴテゴテっとしたわけのわからないがなんとなくカッコいい鎧を着た女性が出てきました。

ちなみに使役魔銃魔法(サーヴァント・カノンマジック)とは使い魔の力を利用して、その属性の魔弾を生成して使う、地力が弱い魔法使いや召喚士の魔法です。

低級魔法に分類されます。

女性はニヤッ、と笑うと先ほどの剣をこちらに向けて、言います。


「ふふっ、独占してこんな大物狩れるなんて、最高ね、今日はついてる!!」

『プレイヤーだな・・・・しかもいきなり背後から剣ぶっ刺そうとしてくる頭のねじ飛んでるタイプの』

「おねーさんは頭のネジ飛んだプレイヤーさんですか?・・・ってフォルテが聞いてます」

「失礼なNPCね!!バックアタックは基本でしょ!?・・・ふふ、私は≪ラグナロクエッジ≫最強のソロプレイヤー!!あんたを仕とめる、その名も・・・・」

『うらぁ!!』


ズドンッ、とフォルテの右前足からの横なぎが突如プレイヤーに炸裂しました。外道です。

余裕をこいて名乗りをあげようとしていた相手プレイヤーは空中で横回転で十回ほどスピンすると頭から地面に落ちて気絶しました。ミニスカみたいな鎧がめくれて下着が丸出しになっていました。赤でした。


ちなみにプレイヤーとは、この世界、西暦一万年代の地球にどこか別世界や並行世界の西暦2000年代からVRMMO、つまりダイブ型のゲームを通して来た人々です、このタイプの人はこの世界を≪仮想世界≫と勘違いして暴行殺人、家宅侵入、窃盗、自然破壊、など数々の犯罪行為を行い、挙句にあちらからすればゲームですので、対話しようにも「NPCのセリフはスキップ」で完全無視、何度殺しても死なずリトライで復活してくるので、この世界の大半の人々からは害獣認定を受けているのでした。

つまりどちらにせよ会話は成立しないのです。


「フォルテー?」

『ん?』

「せめて名前聞いていこーよー?」

『ダルッ、メンドクサッ、いきなり喧嘩売ってきた有象無象の名前とか覚えるほど優しくねーよ』

「はぁ、わかった・・・・フォルテ、その人のパンツ回収していこう」

『・・・・へ?な、なんで?ま、まさかピアノ、お前そんな趣味が!!?』

「ある!!」

『あるんだー!!?ひくわー!!・・・・まぁ、了解、ホレ』


フォルテは尾で器用にプレイヤーの赤下着を脱がすと、ピアノに渡しました。

ピアノはそれをしばらく見つめて、スンスンと嗅ぐとローブのポケットにしまいました。


『そんじゃ、追いますか』

「うん、お願い!!」


そのまま二人は爆走追跡を再開しました。


・・・・・・二人が姿を消して数分後、気絶から目覚めたプレイヤーは怒りに満ちた瞳で空中に指をしきりに動かしています。


「つ、強いじゃない、≪ラグナロクエッジ≫最強の防御性能を持つ私を一撃なんて・・・・仕方ない、頼りたくないけど救援を発信・・・・ん?なんかスカートの中、スースーするような・・・?気のせいかな?」

そして彼女はそのボタンを押してしまうのでした。


チェシャ猫は工場内に入り、階段の裏や、あるいは入り組んだパイプがびっしり敷き詰められた通路の中を走り抜けます。

時に次元を抜け、全く別の場所に、さらに別の場所に、そうしていればとりあえず逃げられたのでした・・・・。

今までであれば。


『ガオアー(待ちやがれぇぇーーーーー!!)』

「待ってー、止まってー、ピアノちゃんが腸を口から吐きそうだから止まってくださいお願いじま、オプッ!!」

『キュウィ!!ガウァアウ!!(キャー、止まって止まって、マジで止まって!!この子がやばいからマジ止まれ!!)』


あの二人はどこに転移してもすぐさま追いついてくるのでした。

片方は左目と右手、左足しかないオバケの女の子、片方は怖そうなドラゴン。

ドラゴンの方の言葉はわかりませんが、どうにも聞いてて疲れそうな内容のようです。

チェシャ猫は若干、うざったらしくなってきたようです。

ですので、ギュルッ、とまた瞳に吸い込まれるように消えました。

その消える瞬間チェシャ猫は一瞬だけニヤッと笑いました。


『ちっ、また、ってヤベ、ピアノ捕まれ、防御結界張れ!!』

「おぶっ!??ゲロ吐け?いいの!!?」

『いやチゲェってうぉおおおおおおおおお!!?????』


そのまま二人は勢いを殺しきれず、工場の壁にぶち当たるのでした。


工場と工場の間の道に、黒い少女が一人いました。


明るい金髪の長い髪は腰あたりまであり、顔はツリ目と白い肌が印象的で黒い白衣の下のニーソックスから短いスカート、ブラウスに至るまで真っ黒、身長も160代後半で、言ってしまえば『不良系女子高生が白衣を着て、服に墨汁をぶちまけた』ような印象を与えます。

その少女は身体の震えを両手で抑え込もうとしていました。

壁にズルズルと背中をくっつけ、そのままペタンとお尻を地面に着けます。

カランッと彼女が持っていた、やたらとキーホルダーがついている鞘に収まった黒い刀が倒れます。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・血、血が・・・・」


彼女の瞳、いえ、眼全てが赤々とした紅色に染まっていました。

息は荒く、今にも吐血せん勢いです。


「ははっ、あー、笑えるわ、よりによってこの私が血液不足で死ぬって・・・笑えるわ・・・」


少女はガタガタと震える手で刀を拾い上げるとギュ、と抱きしめました。

彼女はとある理由からこのアーカムに追放になったのですが、彼女の生存に不可欠な血液がこの街では手に入らないのでした。


「こんな、改造した人間しかいない街なんて、あんまり、でしょ・・・血、血、血、血、血が欲しい、まだ、ハァ、ハァ、まだ死ぬわけには・・・・」


ゲホ、ゲホ、と彼女は咳をします。

アーカムでは人口の大半が身体を機械で何かしら補填している人間ばかりだったのです。

ですがそれだと、彼女が必要としている血液にオイルやら色んな成分が混じり、結果として飲めなくなっているのです。

簡単に例えると、飲み水にオイルや油が混じった状態です。

そして運悪く、彼女は未改造の人間に出会えず餓死しかけていたのでした。


「くそ、クソクソクソクソクソゥ、こんな惨めな死に方い、イヤだぁ、まだやらなきゃならないことあんのにぃ!!」


などと言っても、頭がクラクラして手足が痙攣し、餓死寸前の彼女にはもはやどうもなりません、死を待つだけでした。

カチャ、と刀を見つめながら彼女は言いました。まるで無念を叫ぶように。


「ゴメン、あんたを使ってあげられなくて・・・」


そのまま彼女は眼を閉じました、紅い眼はだんだんと消え、瞳だけが紅色に染まり始めた頃。


ドーンッ!!と彼女が背中を預けていた壁が爆散しました。

その衝撃で彼女は反対の壁に顔から叩き付けられました。


「あべしっ!!」

「あたた・・・・あれ?フォルテ?なんか吹っ飛ばしたかも・・・・?」

『あ、やべ、死んだか?』

「いや、生きてる・・・・けど、あれ?この人・・・」


ピアノが気絶した彼女に駆け寄り少し揺すると、すぐに気づきました。


「心臓は動いてるのに、身体がもの凄く冷たい・・・・」

『・・・病気か?いや貧血で冷え性とか・・・・ってかその女どっかで・・・』

「貧血?じゃあ、ちょうど指先が切れてるし・・・えい」


ピアノは気絶した彼女の口に無理やり、傷口のある指先を突っ込みました。

すると、その少女は気絶したまま、ピアノの血をコクコク、と喉を鳴らしながら吸い始めました。


『・・・・すんごい勢いでお前の血飲んでるが、大丈夫なんかいな』

「うん、最近食っちゃ寝ばっかだったから血は有り余ってるべ?」

『だべか?』

「だべさ、ところでこの人連れてこう、ぶっ飛ばしたこと謝んなきゃだし、なにより病院に連れてった方が良さそう」

『いや、病院は必要なかろうが・・・まぁ・・・・なら謝っといたほうが無難だよな、禍根は残しちゃ面倒だし』

「だべ?」

『OK、猫を追おうぜピアノ!!あ、匂い的にそこの黒い刀も多分そいつのだ』

「うん、拾っておくね、さて乗車人数増えたけど大丈夫?」

『モーマンタイ!!』


フォルテは少女を尾で背中に乗せ、ピアノも乗ると再び走り出します。

フォルテが匂いを追っていると工場地帯を抜け、やがてスモッグばかりの古めかしい街並みにに出ました。

ピアノは不安を感じ、フォルテが敏感に感じて、言います。


『臭いの先はこちらだが・・・妙だな?』

「うん、おかしい、チェシャ猫ならもっと広い範囲に転移できるのに・・・・・この奥の街の先なの?フォルテ?」

『そうだ、しかももう追いつく・・・・』

「・・・わかった、全速力でお願い、フォルテ!!」


そして二人はまたチェシャ猫を見つけるのでした。


チェシャ猫は迷っていました。

彼がこのまま追われた状態で目的地に行って大丈夫なのか?

先ほど手に入れたエサも奴らに追われたせいで落としてしまったし・・。

必死に、必死に考えて、考えて、でもやはり行かなければならないと、彼は考えたのです。


「待てー!!」

『ガウガゥー!!』


後方から凄まじい速度で追いかけてくる奴らがいます。

きっとあいつらです、彼の転移は回数無制限ですが、何度も繰り返せば、やがてどういう傾向で跳ぶか掴まれてしまうことを彼はよく知っていましたので跳ばずに、全力で走る決断をしました。

そしてとある民家の屋根から地面に目がけてジャンプした時のこと。

ボフッ、と何か衣服の上に間違って落ちてしまいました。

その相手は長い袖で隠した手でヒョイと彼の尾を持ち上げると


「おやおや~、君は・・・あぁ、じゃあ、あっちの路地にお行き、こっちの道はよく車が通って危ないからね?ん?ああハイこれカマボコクッキーと魚肉ソーセージの入った袋だよ、持ってお行き」


といきなり何かわかった風にその女の人は彼にエサの入った袋を渡すとそのまま彼に逃げ道まで教えてくれたのです。

親切な人もいるのだなぁ、と猫ながらに感心するのでした。


『ぃよおし!!そっちの曲がり角超えて、次の曲がり角超えた先だな!!近いぜ!!』

「ちょっとフォルテ!?ストップ、すとーっぷ!!」

『むっ!?』


ザザザッ、とフォルテが道の出口寸前で急ブレーキをかけます。

次に、その鼻先を数台の自動車が掠めていきました。

フォルテが冷や汗を流しながら言います。


『ちっか!!?てか歩道は!!?なんなのこれ、バカじゃねーの!!?』

「都市部に行くにはこの道が最短だからって無理やり作ったんだよ、≪マッハ通り≫って言って、文字通り音速出せる自動車や半重力車やらじゃないと通行禁止なんだよ」

『高速道路くらい作れや!!』

「フォルテー、上、上・・・」

『あん?』


フォルテが上を見ると上空数百キロ圏までいくつもの高速道路がすでにありました。


「富裕層さん達専用と化してる高速道路が上にすでにあるんだよ」

『・・・・つまり?』

「引き返して別ルートでゴー!!」

『だぁああああ!!ちっくしょおおおおおお!!』


フォルテはさらに速度を上げて来た道を逆走しながら匂いの方向へ向かいます。

その途中。


「見つけた、百獣竜だ!!」「おほっ、来ました来ましたっと」「バフ積んだかー!?んじゃデバフと罠の準備よろー」


数十人のプレイヤーの群れがフォルテの進路の先に立ちふさがりました。


「・・・フォルテ!!」

『あいあいさー!!』


ピアノは右手で右耳を左耳を肩で塞ぎます。

フォルテが息を思いっきり吸い込み、その場で咆哮として解き放ちました。

プレイヤーのうち何人かの後方プレイヤーはそれで身体が麻痺しました、ですが。


「耳栓スキル発動!!」「おっほ、音の加護来た来た!!」「なめんなよー毛トカゲちゃん!?」


前衛の大半は、フォルテのブレスなど意にも介さず、そのままフォルテの身体にそれぞれの武器で攻撃してきました。

ザクッ、ブシュ、などの音が聞こえてきます。

フォルテはそれでも無視してまっすぐ突き進みますが、それでもプレイヤー達は追いすがって追撃を加えてきます。


『ちぃ・・・やべぇぞ、こいつらの臭いで猫の臭いが途切れて、散っちまってる・・・』

「え、途切れた?さっきまで転移後まで追えてたよね?」

『この区域全体に臭いがあるからな、今さっきまでの臭いならわかったんだが、こうも散らされちゃどれがどれか判別できねぇ!!』

「おわ、かたっ、こいつ放出魔力してやがるぞ!?」「マジか!!?超高レベ個体やないですか!!?」「いや、こんな雑魚竜が高レベルなわけないだろ、ただの運営様からのお恵みだよ」

『・・・・雑魚?』


プチッ、と小さな音がピアノの耳に聞こえました。

ですが、そのくらいでフォルテが衝動的にならないことはこの一か月で重々承知だったのでピアノも無視してフォルテに防御結界を張ろうとした時です。


「おわ、上に乗ってる魔法使い、腕と足がねーじゃん、きも!!」


フォルテが走ることをやめました。

そして、フォルテは、プレイヤー達の方にゆっくりと、顔を向けました。


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今、なんて?』


その竜言語が伝わったものはその場には一部を除きほとんどいなかったでしょう。

ですが現実の殺し殺されあいとは無縁のプレイヤー達をあまりの殺気に一瞬で警戒レベルを最大まで引き上げる体勢にするには十分すぎたのでした。

ですが、彼らが警戒したからといって、どうすることもできませんでした。

フォルテに乗ってるもう一人の少女が指をかすかに動かします。


「・・・あべ?」「・・・a?」「・・・・・・なべっ!?」


フォルテが爪に力を込め、周囲一帯をその爪で八つ裂きにするより速く、かつ、周囲一帯の建物には無害にプレイヤー達は縦と横、十文字に綺麗に切断されて消滅しました。

彼らはプレイヤーなので、消滅の際データが分解されるような奇妙な消え方をして消えました。


「・・・・フォルテ、こんな器用な技使えたんだね?」

『・・・・いや俺じゃない・・・』

「つまり?」

『・・・はぁ、お前がまた変な奴を落としたってこったよ』

「ほえ?」


フォルテは自身の背に乗せてるもう一人の金髪と漆黒の少女をチラッと見ました。

少女はピアノよりも大きな体でピアノの指を必死にチューチュー吸っていました。

ちなみに傷口は固まってるようでした。

はぁ、と少しため息を吐くと、フォルテはチェシャ猫の臭いを鼻を鳴らして探します。

その時、フォルテたちの位置より高い場所から、パチパチと拍手をする音が聞こえました。


「いやー、すっごいねー!!君ら!!」

『っ!?なに、まだいやがったのか!?』

「おわーフォルテどころか私も気づかなかったー、ビックリ」

『いや、お前の感知能力って俺よりすごいの!?』

「あの日の女の子の臭いは一瞬でわかる!!」

『いや、やめたれよ、嫌われんぞ?』

「そうかな?」

「そうだねー、嫌われるねー、そっちのドラゴン君の言う通り、あと僕の無視はダメじゃないかなー?」

「うん、ごめんなさい、ピエロさん」


なぜかピアノは丁寧に頭を下げて謝ります。

四角い建物の屋上から足を投げ出してこちらを笑っているピエロがいました。

そのピエロは女の人でした.

背丈は150cmあるかないか、ピアノのほうが若干大きいくらいです、猫みたいな人を食ったような表情と大きな眼と眼の下の涙と星のメイク、紫の髪、頭には四股に分かれた尖った真黒なピエロの帽子、上は赤を基調としたカラフルなシャツの上にお腹周りがバッサリカットされ、袖が完全に手を隠し、後ろに垂れる布は残した燕尾服、下は短いスカートですが、片脚を立てて座ってるので隠す気はないみたいです。


「ピエロさん、猫を見ませんでしたか?紫と白の猫でーす」

「ん?じゃあ、君らが彼を追ってる犯人かな?」

『彼ってーと、あの猫か?・・・・雄だったんだな・・・』

「そうさ、雄だよ?君と一緒でね、百色の竜くん?」

『!!?』

「わー、フォルテが変形してる状態で、しかも竜言語わかるんだー、ピエロさんすごいね?」

「わかるわかる!!なにせ僕はピエロだからね、馬鹿をするには傷つかない、死なないくらい賢くなきゃダメなんだよ?」

「コントのボケ担当の人もそんな感じなのかな?」

「そりゃあもう!!頭悪い奴のボケはつまんないよ、まぁつまり僕もつまらないピエロってわけさ?」

『俺らは?おもしろいか?』

「自分のトークが少しでもおもしろいって考えてるうちは少なからず不快感を相手に与えるし、決まってつまらないもんだろ?ちなみに僕はおもしろいって思ってるよ、自己トーク」

「ガーン、この一か月磨きに磨き上げた強弱音程コンビの魂の日常コントが・・・・・・・ところで猫どこ?」

「ん?知りたい?聞きたい?パンツ見たい?残念だけど彼を追うならこの僕を倒していきなさーい!!」

『・・・いや、なんで?てか、やんのか、よっしゃやんぞピアノ!!』

「パンツは見えてるから、黙って脱いで私にください!!」

『よし、切り替えような?』


そのままフォルテは三本の尾を建物の屋上に振りかぶり、同時にピエロの少女はピョンと跳躍します。

ズパン!!

と四角い建物の角が綺麗な断面を見せながら地面に滑り落ちていきます。


「あはは、ひっどいなー、僕を殺す気かな?かな?くくく、あーはははは!!!」


クルクルと跳躍の勢いのまま空中で回転しながら、長い袖の中から数枚のトランプをフォルテに向かって投げつけます。

トランプは回転せず、そのままフォルテの下の地面に突き刺さると、それぞらがボシュッ!!という音と共に総数500の巨大な火柱を召喚しました。

周囲の建物は余波による爆風で軽々と倒壊してしまいます。

岩石すら一瞬で溶解する、その火柱の発生と同時にフォルテはともかく、乗っている二人は滅焦するはずでした。


『カカカッ!!ぬりぃよ!!』


直後その火柱を掻き消すように一瞬だけ火柱を凌駕する爆風の竜巻が生まれました。

フォルテは地面に右前脚を這わせるように、左前脚を軸にして猛烈なスピードで回転したのです。

火柱が発生し、乗っていた二人に熱が到達する間の時間でフォルテが取った行動なのでした。

ピエロはフヨフヨ空中を浮遊しながらニコニコ笑っています。


「ふーん、やるねぇ、さすがこのアーカムにやってきている≪ラグナロクエッジ≫上位ランカーを軽く葬れるわけだ・・・・ふふ、久しぶりに本気で潰しあえるかな??」

『テメェ、プレイヤーじゃねぇな・・・・魔神(デビル)それも純正の堕天使あがりじゃねーよな?』

「へぇ、やるねぇ、今の僕の魔力をあの一回で感じ取ったの?」

『バーカ、プレイヤー特有の嘘っぽい魔力じゃねーし、低次元の魔法でもそれなりに強大になるのがお前ら魔族の特徴だろうが・・・・』

「ふふっ、百戦錬磨ってやつだね・・・おもしろくなってきた・・・さぁやりあおうじゃないか、このアーカムには悪いが、本日壊滅してもらぅうぅぅうぅぅぅぅぅうぅぅううううう!!??」


ピエロはいきなり浮いていた地点からもの凄い勢いで地面方向に引き寄せられると、ビタンッ!!と凄まじい威力で地面に叩き付けられました。

フォルテも唖然として、彼女が叩き付けられた地点を無言で見ています。


「≪重力加算(ペザンテ)≫」


ピアノが銃杖をいつの間にか取り出して、ドヤ顔をしていました。


『ピ、ピアノさん?さすがに今のは酷すぎやしませんか・・・?』

「テンション上がってきた瞬間こそ狙い目だなぁ、って大昔の漫画読んでて常日頃から考えてました」

『いや、変身シーンじゃないんだから・・・』

「そんなことより、魔神(デビル)なんだよね?」


ピアノはフォルテから降りると、ピョンピョンと魔神の少女に近づきました。


「・・・・・・・契約しよう、魔神なんだから好きでしょ?悪徳商法?」

「ぐ、ぼ、僕に、一瞬とはいえ魔法をかけるなんて・・・・やるなぁ君、なんだい契約?」

「うん、≪あなたの命を今助ける≫、代わりに≪猫の居場所≫を教えて?」

「・・・・・・・・・はい?」


ピエロの少女は首をかしげます、丸っきり意味が分からないからです。

たしかに悪魔、魔神、魔族は契約を交わし、力を貸す代わりに、人間の大事なモノを奪うのが大好きです、てより、三大欲求に加わるくらいには大好きです。


「あの、僕は別に死にかけてないけど・・・・・」

「え?死にかけてるよ?」

「だから何を言って・・」

「フォルテー」


ズドンッ、とピエロの少女の真横にフォルテの前足が振り下ろされました。

目線だけで少女はその鋭すぎる爪が付いている前足を見つめます。


「・・・・あ、じゃあ、もう一個条件追加」

「へ、い、いやいや応じますよ?契約?OK、OK、むしろお願いします!!」

「えっ、いいの、まだ言ってないけど?」

「うん、いやいやなんでも、はい!!契約成立!!」

「わかった・・・・じゃな舐めるね・・・・」

「・・・はいはい!!・・・・え、ちょい待って!!?な、なにして!!?」


ピアノは若干上気した顔でレロッ、と舌を出しました。


「追加した条件はあなたの≪履いているパンツをグショグショになるまで舐める≫・・・だから・・・・頑張るね?」


ピエロの魔神はいつの間にか理解不能と恐怖で半泣き状態になっていましたが、構わず、ピアノは彼女のミニスカを捲り上げると顔を接近させます。


「え、あ、あのちょ、意味が分からない、あ、あれ身体が動かなっ、ちょ、落ち着いて、あ、お、お尻弱いからやめっ、ちょ、いや・・・・・・」

『・・・・なんだこの展開・・・?』

「いただきます」


「ちょ、ま、い、いやぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


その日、一人の魔神少女の悲鳴がアーカム中に響き渡ったが、特にみんな気にしなかったようです。


・・・・・・・・・・一時間ほど経過して。

フォルテは背中にピアノと気絶した黒い少女とさらにもう一人、しゃくりあげながら泣いているピエロの少女を乗せて、街中を走り回っていました。


『あの・・・・ピアノ先生?』

「なんでしょうフォルテ君?」

『なして、その、こいつのパンツが、その、グショグショになるまで・・・舐めたんですか?』

「・・・・なんかの本にね、可愛い悪魔っ娘は尻尾を撫でられると喜ぶって書いてあったから」

『・・・・いや、あの先生が舐めたのは尻尾じゃなくて、尻と股間なんすけど、てかそれ多分掴まれると弱るじゃなかったかなぁ・・・?』

「だって・・・・尻尾無いじゃん、この子」

「うぅ、い、言えば出したよぉ、ぐす、し、しかも尻尾やお尻舐められて弱体化するけど、喜ぶなんてトッポシークレット、どっから入手したのさぁ!!うぇ~ん!!」

『・・・・・・・トップシークレットだったんだぁ、ピアノ、謝っとけよ?』

「うん、ごめんね・・・でもパンツ舐めてる間、ビクッ、ビクッって何度か震えるくらい喜んで・・・・」

『ピアノ、それ以上いけない!!』

「それは君がテクニシャンすぎるだけだよぉ~!!どうすんのさぁ!!こんなにお気に入りのパンツグショグショにされて、何度も、その、アレなとこを往来の真ん中で見せちゃって!!僕の名誉とかプライドとかブランドとか女としての価格大暴落だよぉ!!責任とれー!!」


そういうと、あまりの興奮のためか、ピエロ少女の背に蝙蝠のような小さな羽根と先端が三角形の黒い尻尾が出てきました。

その瞬間ピアノの眼が一瞬、キランッ、と輝き、ピエロ少女が瞬きした瞬間に、蛇のように彼女の尻尾を咥えてしまいました。


「ふぁ!!?」

「ちゅぱ、ちゅぱ・・・美少女の悪魔尻尾美味いぜフォルテ!」

『ピアノー、そろそろお兄さん怒りますよー、てか君そんなキャラじゃ無かったよねー?』

「ちゅぱ、ちゅぱぁ!!こんな可愛い恰好してる娘にイジワルしないのは失礼だ!!存在の否定だよフォルテ!!」

「ふぁん!!そ、そ、そこまで僕のことを考えて・・・・・」

『おーい、テキトー言ってるだけだからその子・・・・あ、いや、わりとマジで言ってるのか??』


なんだか、自分の背中の上がインモラルな雰囲気になって来た時、


ピアノがチェシャ猫を左目の端に捉えました、フォルテは地面から現れた数名のプレイヤーに足元からあらゆる武器によって串刺しにされました。


『ガハッ・・!!??』

「ほい、終了」「おつかれさまっした!!」「解体、剥ぎ取り、剥ぎ剥ぎしますかぁ!!」


さらにフォルテとピアノの周囲の建物の中や屋上から百を超すプレイヤー達がまるで待ち伏せしていたようにゆっくり現れました。

彼らはとある女性プレイヤーの救援要請でやってきた≪ラグナロクエッジ≫のレベル999オーバー限定の重課金ギルド≪♰禁書の黒騎士団♰≫と呼ばれるギルドだとは、この時誰も知らず、またこの後も知ることはありませんでした。




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