ピアノとフォルテの日々 始まりは猫探し
愛情を注がれない子供は成長が止まると言う。
軽度のもので子供の精神のまま大人になるアダルトチルドレン、酷いものだと三十代で十代の肉体のままだったとか、まぁ、大人の定義なんて不確定な話でしかないけど、言えることは一つだけ。
これはホルモンバランスやら色んな要素ひっくるめて愛情が生命に必要であるという、一つの証明だ、照明だ?蛍光灯は必須だしね。
さて、思考から映像、イメージにピントを合わせる。
顔のない両親がいた。
二人の顔を私は知らない、一緒の住居に十年住んでいたはずなのに、おかしいなぁ。
声も知らない、というより、私に向けられた言葉が記憶に存在しない。
孤児院にいた、いつのまにか。
一人で遊ぶ、積み木、折り紙、ヒーローごっこ(悪役)、職員さんのうさばらし。
何年かしてお隣さんでよく一緒に遊んでたシャーリーちゃんが迎えに来た。
孤児院のみんなが私を見下ろしていた、寝転んでいたのは私だけ、シャーリーちゃんは私を見た瞬間泣きながら抱きしめた。
シャーリーちゃんがシャーリーお姉ちゃんになっていた。
そしてここ、科学と秋の街、絆を司る女神の街、私の新たな家のある街アーカムに来た。
そして、転移登校できる魔法学校に入学、不登校。
引きこもりナウ。
夢終了。
ガチャ、ぽっ、ぽっ、ぽー、はとぽっぽー
からくり時計のギミックが動いて煩い音が聞こえる。
左目を開ける。
ぽろっ、と涙が流れていた。放置。
現状、どうやら昨日は深夜までフーガを弄り回していたら作業台の上で寝ていたようだ。顔から細かい油の付いた歯車がポロポロ落ちる。
「銃杖フーガ・・・・・問題なし、私・・・・シャワー浴びなきゃ」
作業台から体を起こすと近くにあった樫の木の杖を持ち上げ、それを右足の代わりにして立ち上がる。
ピアノ・リトルフーガには右目が無い、次に左腕が無い、次に右足が無い。
一応包帯で隠してはいるが本人が見てもなかなかにアレだ、うん。
コンコンと木製ドアのノック音。
『おいピアノ?もう昼だぞ?十二時だ、いいかげん起きねーと、今日は少ししか活動できなかったって後悔する羽目になるぞー?』
むっ、それは困る、あの感覚は結構嫌なものだ。
ドアを少し開ける。チビ竜がかわいらしくも床にチョコンと座って見上げてくる。
「わかった、ごめんちょっと汚れてるから、着替えを浴室に持ってっいってて、あっ、おはよフォルテ」
『おはよ、っておーい、なんじゃその顔は!?包帯まで油まみれだぞ!!?』
「あー・・・・包帯の換えもお願いね」
『あいよ、シェリーにパンプキンパイ、女神に焼き芋貰ったから、上がったら食え、テーブルの上だ』
「あいさ」
そのままフォルテはドアの隙間からするりと入り、私のタンスから下着と上下上着を適当に見繕って、そのまま部屋から出て行ってしまう。
途中、ペロッ、っと私の涙後をなめていった。
「フォルテがイケメンすぎてこわいわー」
チビ竜なのに。
そのまま私もゆっくりと部屋をでて浴室にいき、さっさと脱衣、シャワーで流して体を洗う用のスポンジに姉のボディーソープを勝手に使う。
ゴシゴシとさっさと済ませ、さらに姉のシャンプーを勝手に使用。
シャコシャコシャコ・・・・・。
「・・・・髪切ろうかな・・・」
・・・・お姉ちゃんに怒られるな、前におかっぱにしたらお姉ちゃんが街中を爆走しながらあらゆる育毛剤を買ってきたくらいだし。
やめとこう。
さっさと流して、苦労しながら下着を着て、タオルを首にかけて浴室から出る。
そのまま着替えて、居間にいこうとしてると。
「今日から、ピアノも魔導審問官だ・・・・シャーリーが骨を折ってまで引き下げた君への罰だ、心してかかるように・・・・」
ダンディな声が中空から聞こえてきた。
そちらに目を向けると、カボチャ頭にマントとシルクハットを被った人形がふよふよ浮いている。
カボチャに掘られた目と口の口の方に煙草をくわえている。
ジャック・オー・ランタン・アルゲヘナ、縮めてジャコ。
私の使い魔その一。
「わかってる、ジャコ」
「ふむ、わかっているならこれ以上は何も言わんよ、マスター」
「うん、ごめんね、それと、この前は、その・・・・」
「構わん、あいつの封印場所まで一人で行くなんて無茶を今後しなければ、な。それよりそれを言うのは一か月遅い」
「ごめんなさい」
「ああ、わかったから、はやく行こう、君の姉も新入りも待ちくたびれている」
そういうとマントの内側から手品師のような手袋が浮かび上がると私の首にかけたタオルを持ち上げガシガシと頭を拭いた。
居間に入ると、お姉ちゃんが椅子に座り、テーブルの上からコーヒーを一口飲みながら、新聞を見ている。
シャーリー・リトルフーガ。
うすい茶の髪と、優しそうな目元を無理にキツくしてる私の姉。
フォルテはトーストに焼いたベーコンとスクランブルエッグを器用に乗せ、その上にたっぷりマヨネーズをかけて食べていた。
「おい、フォルテ、マヨネーズかけすぎだ!!今週何本目だ!!?」
『うっせーよジャコのとっつぁん!!一週間ジャストで使い切るように調節してるよ!!』
「・・・ねぇいまだ竜言語になれないのだけど、今なんて?マヨネーズ何本も使い切って、さらに来週また買うつもり!?」
「シャーリー、お前からも一言・・・」
「こんのクソトカゲ!!あんたがマヨネーズ使い切ったおかげで昨日のミートソーススパゲッティにマヨネーズかけられなかったじゃない!!」
「・・・・君もか・・」
『てかパスタにマヨって・・・・・』
「みんなおはよー」
「おはよ、ピアノ」
「もう、昼だぞ、ピアノ、こんにちは、だよ」
『昼だから、さっきシャーリーが作ったチャーハンだが食うか?』
私が挨拶するとみんなが応えてくれる、ありがたい。
私は食事をしてるフォルテの頭を軽く撫でると、右腕で胸に抱えて数度頬擦りすると、フォルテはイヤイヤとして逃げてしまった。
椅子に座って、皿に盛られたチャーハンをレンゲで掬って食べる。マズイ。
お姉ちゃんは新聞読みながらソワソワ。
「おいしーよ?」
「ほ、ホント!?」
砂糖入れすぎなければ。
フォルテがウゲェと顔を歪め、ジャコはそっぽを向く。
評判悪いのかな?
モソモソと継続して食す、にしても、なぜ砂糖………ああ、なるほど、チャーハンに卵焼き混ぜたら美味いと考えたのかな?
まぁ、いいか。
「お姉ちゃん?私の魔導審問官、今日からだよね?」
ビクッと姉の肩が震える。
魔導審問官、この街、アーカムでは科学がメインの技術として据えてある。
蒸気、電力、どちらも科学であるが、逆にその対極、オカルティックな要素、魔法、あるいは錬金術はダメらしい。
答えは簡単で、この世界では魔法を使える人は魔法回路を体内に有していて、それで物理法則の一時局地変更ができる。
所有者は全人類の数パーセント。
意図的に世界の数値を好き勝手に改竄されると、科学の数式で運行している街にトラブルが発生しかねない。
だから、誰かにそれを一度徹底して調べさせ、街の計算式に組み込む必要がある。
最初に聞いた時は、管理社会っぽくて嫌だったが、よくよく考えれば優しい政策だ。
異物を排斥せず、組み込んでくれるのだから、だから私がここに入れた。
「………うん、すぅ、よし!!」
姉は一度頷き、息を吸い、新聞を閉じた。
「ピアノ・リトルフーガ、先月の《ビル大量倒壊事件》の主犯として、貴女を女神キズナ、街長、委員会の承認を持って、今日からこの街アーカムの魔導審問官とします……はいこれ、証明カード」
「ありがと」
「うん、その、ゴメンね?」
「いーよ、骨折ってくれたんでしょ?」
「うん…」
姉は少し泣きそうな顔をする。
当たり前か、障害者の家族に重荷を背負わせようとしてるのだから。
姉は私が嫌がってると思ってるのだろう。
残念ながら違うのだ、正直今渡されたカードを持つ指が震えてるのは恐怖ではなく感動。
実は私は魔導審問官に憧れていた。
だが、高い給与に加え、高い戦闘センス、知識も求められる上、学歴も必要だ。
つまり私では務まらない役職だ。
だが、あまりに採用基準が高すぎる上魔法嫌いの街に好んで勤めにくる魔法使いはまずいない。万年人手不足。
街の住民は魔導審問官の顔も名前も覚え全員知ってる程度には少ない。
そこで障害者といえ、魔法素養がある私がこの罰になったのだろう。
狙ってないとはいえ、願ったり叶ったり。
それに、
「やっと、必要としてくれた」
ボソッ、っと呟く。
「?何か言った、ピアノ?」
『ハッ』
「ふふっ」
お姉ちゃんには聞こえなかったかな。
だが使い魔二人には聞こえたみたい。
私は少し笑って食事を再開する。
「なんでもなーいよ」
「そ、そう?ならいいけど…」
『それより初任務はなんだよ、シャーリー?』
「…初仕事は何?キレイなお姉さま、だって」
「ふん、そいつがそんな可愛げのあること言うもんですか」
『んだとぉ〜!?』
「あ?何このチビトカゲ、マヨネーズ禁止にするわよ?」
『あ、すんません、それは勘弁』
私の通訳いらないよね?
どうもフォルテは身体に感情がよく出るタイプだ。
姉は鞄から一枚の資料を取り出す。
そういえば。
「お姉ちゃん仕事は休み?」
「いいえ?民間警察は二日働いて、三日目は午前か午後まで、四日目は休み、次からまた勤務、って前に言ったじゃない」
「そだっけ?」
この街には警察が二種ある。
一つは公式警察。
いわゆる都心部の犯罪メインでやる公務員さん。
武装は電脳だったり、近代兵器。
一つは民間警察。
こっちは下町や、都心部外の警察。こちらは普通の会社。姉の勤め先?
武装は蒸気機関やら錬金術メイン。
両者仲わるい。
犯罪者の処遇で喧嘩上等。
説明終わり。
「そうよ、はいこれが今回の仕事」
ピラッ、と資料が渡される。
中身をサラッと見て、私は半眼。
「…やだ」
『あん、どした?』
「…だーめ、やりなさい」
「…ぅえ〜?」
『ん、どれどれ?』
「…はぁ、これも立派な仕事よ?」
フォルテが私の肩にちょこんと乗り資料を見る。
『………ぷはっ』
「はい、チビトカゲも笑うな」
「…立派な仕事って……猫探しが?」
「そーよ」
資料に書いてあったことは、長ったらしいから要約。
《とある大富豪邸で飼ってた猫が脱走、使用人が大量に街中ウロウロして住人通報、猫の脱走でどの施設にも連絡がなかったので怪しく思い、締め上げたら、実は猫が違法で蜜入手した猫〝チェシャ猫〟だった》
つまり猫探しだ。
お姉ちゃんが言った。
「…チェシャ猫、ただの猫じゃないわよ?」
「知ってる、いくつもの次元を移動する魔猫でしょ?」
「うん、そう、戦闘能力はあるけど、そこまで凶暴じゃないし、あなたの最初の仕事にぴったりでしょ?」
「…でも、猫探しでしょ?」
「文句言わない!!」
ピシャ、っと姉がキレた。
「お仕事はお仕事!!小さな事件が大災害にならぬよう未然封殺、それが私たち審問官の義務です!!OK!?」
「お、おっけぇ」
『………ピアノ?発音キモい』
チャーハン最後のひと掬いをフォルテの口に突っ込む。
フォルテが苦しみ出したが、あえて無視。
プンスカした姉は下を一度見たあと、少しだけ苦しげな声を出した。
「…その、ね?だ、だから…頑張って、ピアノ?」
不器用だ、姉シャーリーは不器用なのだ。
この仕事でも私に務まるか、かつ、ただの雑用にならないか、何度も思案したのだろう。
だから、
「頑張ります、おねーちゃん」
素直に答えてあげるないと泣き出すから、この姉は。
心から感謝。
それと可愛いなぁ、と常々(つねづね)思う。
食事を終え、ローブを羽織る、スカートはミニ、どうせ何着ても足が無いのは変わらない。
ローブの内側に銃杖フーガを分解して収納。
今回の事件では、使い魔ジャコの使用は禁止。
なんでもフォルテのデータ採取も兼ねたいらしい。
チェシャ猫捕獲後は資産家に返さず、そのまま原産地のドリームって場所に返すらしい。
お姉ちゃんは別件の仕事に出かけた。
樫の木の杖をついて食堂から店内に出る。
チリンチリン…。
店内の天井に吊るして飾ってある、色とりどりな魔鉱石の欠片が鈴みたいな音を立て、来店者を知らせる、そろそろ家人と客の区別設定弄らねば。
言い忘れてた。
リトルフーガの家はアクセサリー屋だ、錬金術、占星術、風水、魔法アクセサリーに関しては百指に入るらしい。うん絶対自慢じゃ無い。
おまけで楽器屋もやってる。名前的に普通そっちがメインじゃないかなぁ。
だが、玄関は店内の先にしかない、私が奥から出てくると店内のお客さんがみんな親指をグッと天に掲げる。グッドラック。
私が魔導審問官を今日から開始するとみなさんに知られてますね、頼むからそんな子供の初めてのお使いを見守る親の眼差しやめて、引きこもりたくなるから。
まぁ、そんなことは言わず、こちらも杖を掲げて無言の応援に応える。
この街の人たち優しすぎるんだよね。
玄関から出る。良く晴れた秋空でした。
ちりんちりん。あー、帰ったら弄ろうアレ。
『…よかったな、みんなお前に頑張れってさ』
「言われなくてもピアノは頑張りますよーだ」
『ふっ、そうかい、そいじゃ探そうか、ピアノ?』
「うん!!」
そして私たちはアーカムの街に、チェシャ猫を探しに行くのだった。
完。
………さて、それでは3時間後のピアノとフォルテはどうしているのでしょうか?
「…はぁ、はぁ、はぁ…」
『ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ』
二人はアーカム中央公園のベンチで疲れ切っていました。
ベンチの近くの紅葉が頭に何枚も乗っかっています。
「…し、シマシマの猫って、アーカム内に何匹いるの!?」
『し、知るかぁ!!てか無理だって最初から言ったじゃん俺!?』
そう何を隠そうこのお馬鹿二人は、過去日本の関東と九州を足した面積の大都市アーカムからシマシマの猫と言う情報だけで聞き込みを行う暴挙に出たのです。アホとしか言えないのでした。
「…うん、でもさ、チェシャ猫ってアレでしょ?目撃されたら次元間を行き来してノーリスクで転移する極めて珍しい魔猫じゃない?」
『そうだが…』
「…見たらわかるじゃん?」
『…あのさ、見た時点でアウトじゃねーの、それ?てか今シマシマしか情報知らないお前が言っていいのかそれ?』
「…あっ」
『どぅーあから言ってますやん!?聞き込み意味ねーって!?だいたい、シマシマの色は!?あとその資産家一家どうやって飼ってたんだよ!?…封印される前からチェシャ猫は知ってたが、捕まえただの、飼っただの、普通はありえねーだろ!?』
「えっとね………」
ピアノはピラッ、と資料をめくります。
実は彼女、資料を流し読みしかしてませんでした。
数ページめくってすぐにわかりました。
「…色は紫と白、外見はペルシャ猫、捕獲、飼育には、次元封じの魔石を使ってたみたい、今回それが外れて脱走だって」
『……全く読んでなかったな?』
「さーせん」
『おう、ところで次元封じか、できるか?ピアノ?もしくは店から持ってくるか?』
「うーん、ちょいキツイ、次元封じの刻んだアクセサリーとか凄い高いよ、てか今回は、まず捜索手段と捕獲手段から考えないと」
『だなぁ…』
その後二人は空を見上げます。
ボーッとします。
チュンチュン、とよくわからない小鳥が鳴きます。
そのままさらに1時間後…。
「…ねぇ、フォルテ?」
『ん?』
「なんの話だっけ?」
『猫探し』
「…散歩しながら探そうか?」
『せやな』
二人は諦めました。
二人はベンチから立ち上がると、フォルテはパタパタ飛び、ピアノはカツッ、ピョンと跳びます。
「…ふっ、ドラゴン発見」
そしてそれを見つめる怪しい女性が一人いました。
その視線を向けられた二人はつゆ知らず、こんな事を言い合います。
「…じゃあ、ダゴン湖あたりをプラプラしてれば見つかるよきっと〜」
『見つかったら転移して逃げるけどな?』
「…じゃあ見つけない方向で」
結局二人はやる気をなくして散歩を始めました。




