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百色の竜の今、あと感想

とある洞窟の奥底。

そこはモンスター一匹寄り付かない最悪の戦地跡。

と言っても、瘴気だの殺気だの残留思念だの放射能があるわけではありません。

単純にドデカイクレーターのど真ん中で、クレーターの内側も日光浴バンザイな砂漠に、強い砂嵐が絶えず吹き荒れ、それによって生物は痛めつけられ、砂漠に強い鉱物系の魔物さえ急速に風化する、つまり生物が住めなくなってるのです。

おまけに洞窟内部は溶岩、マグマがポコポコ流動してる危険区域でしかないわけです。


『…………死ぬわ、いや、死ねないわ』


そんな洞窟の最奥部に一本の白骨化した腕の骨が付いた剣により壁面に張り付けられてるのは、銀の鎧のような、やけにトゲトゲしい鱗と甲殻を纏った竜でした、

力に満ち溢れた翼と腕、肉食獣のような無駄の無い筋肉がついた脚、鋼鉄すら一振りで歪める強固な尾、鋭く獰猛な眼光、天に剃りたった数多の角。

かつて百色の竜と呼ばれたドラゴンでした。

かの破神姫に永遠に封印されたドラゴンでした。


『……はぁ、もう限界、無理、もう無理、飽きた、つまんね、いや、あの、マジでつまんねぇ…』


百色の竜は、カリカリ、と壁面に爪で絵を描いていました。


『……萌えたい…グスッ…萌えたいのに萌え絵が一向に上手くならない!ち、ちっくしょーーーー!!!』


そして、ガクッ、っと一気に脱力したあと、突然後頭部、そそり立った角を壁面に何度も叩きつけだしました。


ガッ!ガッ!ガッ!…


『ガァ、ガァ!ガァガァガァ!!ガァー!!!出せやぁァァァァー!!俺をこっから出しやがれぇァァァァァァァァーーーーー!!!』


それはもはや咆哮と言うより地震でした。

もし、この場にまどもな生物が存在したら精神を壊されるやもしれない咆哮、それをたっぷり3時間ほど続けた後、百色の竜はまた、ガクッ、っと脱力しました。


『もうヤダ、飽きた』

「…何が?」

『…全部、創作絵描きも創作歌をうたうのも、妄想も、張り付けダンスも全部だよ…』

「…大丈夫、まだコントの練習があるよ?」

『ツッコミはわかるけど、ボケがわかんないんだよ、俺は…ボケってなんだ?いや、そもそもボケって単語自体痴呆症の人に失礼じゃない?』

「………ヘイ!パピー!マミー!ボクネ!?シャイニー、フラーッシュ!!…って人が多いとこで唐突に叫んでみたら?ツッコミ絶対にくると思う」

『……いや、ひくんじゃない?あとそんな人が多いとこ行けないし、行きたく無い、それに意味わかんないし……あ、そうか、ここでツッコマなきゃダメなのか?』

「うーん、どうだろうね?ツッコミは難しいねぇ…」

『………わかんねぇなぁ…』

「………ねぇ?」

『……ん?』

「…私とのトークおもしろい?」

『久しぶりだから嬉しくはあるが、おもしろさは…おう、あえて点数化はしないぜ?』

「…ありがと」

『で、だ、お前誰?』

「………」

『………』

「………あっ、そうか、千年くらい経過した知人の会話かと思ってた!!」

『今ので!!?』


いつの間にか、百色の竜の目の前の断崖のような大岩の上にはローブを着た女の子が立っていました。

ふわっとしたセピア色の長い髪に、眠そうなラピス色の瞳、右目が包帯で覆われ、左手が無く、右手には長い樫の木の杖を持ち、右脚が無く、左脚と杖を使ってここまで来たようです。

少女は四肢を片方づつ欠損してるようです。

少女はドラゴンの声に気を良くしたのか、カッ、カッ、っと杖を使い、さらにドラゴンに近づき、遂にはドラゴンの鼻先まで近づいて笑顔で言いました。


「はじめまして、百色の竜さん、私はピアノ、ピアノ・リトルフーガ、永久魔女見習いです」

『…楽器みたいな名前だなぁ、おまけにフーガって…そりゃオルガンじゃなかったか?』

「オルガン?…よくわかんないけど、ピアノは楽器じゃなくて強弱記号から取ったらしいよ?」

『…弱く、ね、名は体を表す、だったか?……わかった、ピアノ、それでなんの要件でこの俺様のとこに来た?まさか観光じゃねーよな?竜言語も習得済みみたいだしな…観光、物見遊山で俺様を見に来た奴らがどうなったか、知らねぇなら

教えようか?』


そういうと百色の竜の口腔に周囲のマグマが比較にならないほどの熱量が徐々に収束し始めました。

ブレス、一撃で山を穿ち、海を蒸発させるドラゴンが誇る最強の武器にして、世界最悪の兵器の一つです。


…ちなみに竜言語とは竜族が話す言語で、一般的に人間が習得するのは三ヶ国の言語を同時習得するのと似てるそうです。

そのような大変な努力をしてまで、このドラゴンに何かさせよう、あるいは騙し取ろうとしてるのでは無いかと、百色の竜は警戒しました。


「君に会って話がしたかった、それだけ」


だけど、ピアノと名乗った少女はあっけらかんと言いました。

恐怖も無く、感動も無く、嘘も無く、笑顔で、目の前のドラゴンが一瞬後に、数万度の爆炎の吐息を吐きかけ殺そうとしているのを知った上でキッパリと。


ドラゴンもキョトンとしました。

なぜかと言えば、このタイプの人間は過去0人だったからです。

それくらい目の前の少女に驚愕を感じていました。

収束した爆炎の吐息を間違えて飲み込み舌と胃を火傷してアホみたいな奇声を張り上げるほどに…。


…………奇声、もとい悲鳴は1時間続きました。


「…ま、まだ、痛い?」

『い、いや、な、なぼっだ』

「…じゃ、そろそろ質問入るね?」

『あ、ごべん、やっぱまだいだい』

「…はぁ…舌出して?」

『?』


ピアノは懐から液体の入った瓶を出すと、それを右手と口で器用に開けると、ピチャピチャ、っとドラゴンの舌にかけました。


「治癒の魔法薬、どう?スーッ、って気持ちよければ効いてるんだけど…」

『がっ、ぼっ?…ガッ!?かっ?あ、結構好きな味かも…?』

「…材料は魔物の汗やら尿やら使ってるからあんまり使いたく無いんだけどね」

『!?ちょ、おまっ!?なんてモン飲ませて、おいコラ止めろ!!』

「うん、治ったみたい、じゃあ質問タイム、百色の竜さんは今も人間に怒ってる?」

『……会話のテンポが速い奴だなぁ、てか怒る?は?え?何の話だ?』

「…もしかして、頭悪い?それとも記憶力無い?」

『ああんっ!?んだと糞ガキ!?記憶力に自信はねーが、人間ごときよりかは、記憶力あるよ!!で?何の話だ!?』

「…えっと?あなた、百色の竜?あの、破神姫と一騎討ちの末に封印された、あの百色の竜?」

『他にどいつか名乗ってやがるのか?』

「ううん、名乗ってない」

『じゃあ、俺だろ』

「うん、だからね…あなたを何度も殺そうとした王様やその手先の人間、や破神姫、ひいては人間全てを恨んでるかって話」

『は?なんだ?もしかして、俺様に喧嘩売ってきた馬鹿がまだ生き残ってんのか?てか、今西暦何年だよ、俺様が封印されて何年経った!?』

「今は西暦10099年、あなたが封印されたのが西暦8099年、二千年前、生き残りは勿論いないよ?」

『二千年ぽっちか、あ?恨み?ねーよ、ハナっから俺は俺以外が嫌いだからな』

「…そっか、ならよし」


そう言うとピアノという少女はまた笑いました。


『……なぁ?お前結局なにが目的』

「じゃあ次の質問ね?」

『いや、聞けよ』

「百色の竜さんは、なんで二千年前にあんな風に殺したの?あの破神姫とど突き合えるなら、騎士や異能者やぷれいやーや転生者くらい撤退に追い込めたんじゃ無いの?」

『……あ?あー、あれか、そらお前、自分ちにゴキブリならまだしも強盗がやってきたらどーするよ?』

「外に逃げて通報?」

『……俺にとっちゃあの草原が家だからなぁ、外に逃げれなかったし、おまけに他の竜とは仲が悪すぎて誰も助けちゃくれなかったからなぁ…』

「あなたにとっては人間なんてゴキブリと変わらないでしょう?殺す意味あった?」

『ばーろー、人間なんて格上殺しが定番化してる星のバグキャラじゃねーか…仮に俺が生かして追っ払ったらどうなるよ?』

「…持ち帰った情報を元に戦術や武器を作る?」

『正解、おまけに目的も《馬鹿王が気に入ったから俺の皮剥ぎたい》、だからなぁ、さすがに効率的にも倫理的にも気のクソ長い、ふところが大海の如しなドラゴンでもキレると思わねーか?』

「…キレるね」


ピアノがそう言うとドラゴンは腕組みしながら言いました。


『だろ?…っとまぁ、こっちは二回も質問に答えてやったんだ、そろそろテメェの目的を説明しな、俺と話をして何がしたい?』

「ん?気になる?」

『気になるなぁ…』

「うん、あなたと取引して使い魔にできないかなぁってのが第二目的、第一目的はあなたとお話して、昔から気になってた絵本のドラゴンの気持ちを知りたかっただけ」

『……そーかよ、第一目的はまぁ、これで達成できたろ?第二目的は不可能だ、まず俺様を封印してる剣はあの破神姫にしか抜けない、あの姫、半神半人のくせに親の世界創造の女神を超える魔力と神力を持ってやがったからな、テメェみたいな魔女見習いだか、なんだかじゃ不可能、そして、俺は交換条件に『この封印の解除』以外求めてない、つまりは……』

「破神姫以外には契約したく無いと?惚れてるの?」

『ハッ、バーカ、ドラゴンが殺しに来た勇者に恋っぽい気持ちを抱くのはデフォらしいぜ?』

「…うーーん、真っ向から肯定しやがったよこのドラゴン……じゃあさ、こっちから質問良い?」

『あ、なんだ?まだあんのかよ?』


ドラゴンは疑問に思います。

だってその絵本のお話はドラゴンもかつて観光に来た人間たちが話をしてるのを聞いて知ってるからです。

だからこそ、この絵本に欠けた部分、今さっきピアノが話したように、すなわち《百色の竜の目的や気持ち》が書いてないのは充分承知だったのです。

ですから、このお話にこれ以上に疑問に思う部分なんて、それこそ王様の経緯だとか、挑戦者たちの戦闘能力的な詳細とか、まぁ、少なくともドラゴンに聴いて覚えてるか、知ってるか疑問な部分しか無いはずです。

…でした。

ピアノはラピスラズリのような瞳で見つめながら問いました。


「百色の竜さんはなんで、空を見てたの?」

『……は?』

「いや、だからね?冒頭の最初の方であなたが一日中雲や風を感じて過ごしてたって書いてあって、だから、どうしてかなーって」

『……好きに解釈すりゃ良かったじゃねーか、雲や風を喰らう竜種だから腹を空かしてるのかも知らねーし、空を飛べない竜種だから憧れてたとかよ?』

「…それも考えたけど、違うかなって思って」

『……なんで?』

「…うーん、なんとなく?」

『……………………』

「……………………」

『……はぁ………………好きなんだよ』


百色の竜がそう言った瞬間ピアノが赤面しました。


「ぅえ!?い、いきなり告白されても、あの、わ、私、ちょ、ちょっと待ってもらっても!!」

『ちげぇよ、空がだ』

「あ、そ、空ね、うん」

『……竜は、いや、俺は変わりモンでよ?』

「うん」

『一匹が好きなんだよ、周りの奴らは寂しいのが嫌で、群れたがるがな、俺は寂しい気持ちが割と好きなんだ、それより俺は一匹で今日の天気を見たり、ノンビリ空を飛んで一匹でイロイロ考えたいんだよ』

「うん」

『…別に群れるのが嫌いなわけじゃない、ただ上下関係だとか、仲間だからだとか、そーいうので非効率な行動強いられたり、俺が気分悪くなったり、何より、俺の守りたいもんや、俺が決めた正義や悪を曲げたくないんだ』

「うん」

『……だから大草原で一匹でいた、俺が群れに混ざると、邪魔でしかないからな、それに、あそこの風は常に秋の風が吹くからな、湖もあったし、手頃な超大型の魔物も近くの山にいたからなぁ、まるで楽園だったよ』

「……ふふっ、つまり、百色の竜さんは空想癖持ちで、コミュニケーション障害で非社交的なダメドラゴンなんだ、アハハッ」


ピアノはお腹を抱えて笑い始めました。

百色の竜は眼を閉じて、思いっきり溜息を吐きました。


『…こいつもか』


これを言うと同じような言葉を言って、自分を馬鹿にする。

群れる事が絶対で、孤独者はいつも差別の対象、弱さの象徴と考え、自分に勝てる可能性があると勘違いし、喧嘩を吹っ掛けてくる。

自己の世界を尊重し、世界の歯車に噛み合わせない者を一方的に敵とみなし攻撃し追い回す。


くだらない。


『やはり、俺を理解できるのは、あの姫だけか…』

「…違うよ?」


ドラゴンは再び眼を開けました。

ピアノはいつの間にか笑うのをやめていました。


「…笑ってゴメンね?嬉しくって、小さい頃童話を読んで思った、想像通りのあなたで、こんなに私に近いあなたが生きていてくれて…」


そして泣いていました、左のラピスの瞳から涙がこぼれ落ちていました。


「…ゴメンね、私にはあなたを理解はできない、けど、あなたならきっと理解してくれる、だから…」


それから、ローブの内側からガシャンッ、と一丁の大型の銃を取り出します。

それはライフルとショットガンを足して割ったような、連射にも狙撃にも転用できそうな長く、杖のような奇妙な銃でした。


「…だから、やっぱり私は、あなたと契約したい」

『……その銃で俺を屈服させて?だろうな、剣が抜けないならそれしか…』

「うん、その剣を破壊する」

『なっ、テメェ、無理だってわかんねーのか!?』


その剣は神剣でも、聖剣でも、魔剣でもないですが、それはこの世で最強だった姫が命を懸けて込めたありったけの魔力と神力が込められているのです。

それこそ、この世の終わりまで封印する程の力を。


「うん、私じゃ、無理、けど…」


ピアノは、ガチャ、っと砲口を剣に向けました。


「…あなたが、私と契約してくれるなら確実にあなたを封印から解放する、約束する」

『……お前』

「…信じて」


百色の竜は驚愕しっぱなしでした。

なぜならこの少女の隻眼は、この少女の肉体的欠損を竜に理解させた上で、絶対にできると確信させました。


それほどのココロをドラゴンは感じました。


「…永久魔女見習い、ピアノ・リトルフーガが契約する」


だから


「百色の竜に封印を破壊することを条件に、我、ピアノ・リトルフーガの僕となる事をここに契約する、よって、契約履行のため、の力を一時我に貸し与えよ、汝、契約を受諾するや否や」


考えるより先に、口が、心が動きました。


『……承知した、百色の竜は契約に応じ、契約履行まで、ピアノ・リトルフーガを《信用》し、力を貸そう』


それをいつの間にか口にした百色の竜はずっと彼女のラピスの真っ直ぐな瞳を見つめていました。

ピアノは返答を聴くと引き金に指をかけ、魔法を紡ぎます。


「我が僕に命名する、百色の竜を持って名をフォルテとし、持って契約に縛る、フォルテよりフーガへ、僕より我が杖へ力を流し、魔なる法を施行する、トリガー、セット」


金属の割れる音と共に、その《フーガ》と呼ばれた杖は形を大型の拳銃に変えました。


「我が砲身より出ずるを竜の業火とし、持ってかの封印の剣を穿つ!!」


光と熱が、百色の竜が収束した物より遥かに強大な熱が銃口に収束しました。


百竜灼炎砲カノン・ドラグラーズ!!」


引き金を引くと、砲口から撃たれるのは竜の業火、そして周囲を膨大な光が包みました。


パキッ


そしてこの日、封印の剣は壊され。

百色の竜はフォルテと名付けられ、使い魔になりました。

この日始まる物語は

別に世界を救わないし、

英雄を生み出さないし、

ましてや、波乱万丈でもありません

これはただ、つまらないだけのドラゴンと少女のおとぎ話。



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