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終わりがよくわからない絵本

******

むかしむかし、ある国の王様が言いました。


「あの大草原に住まう百色の竜を殺し、その皮と、眼と、爪と、翼を剥ぎ、私に献上せよ」


王様がとあるドラゴンが欲しくて、欲しくてたまりませんでした。


そのドラゴンは大草原に住んでいて、とてもおかしなドラゴンだったそうです。

体を覆う鱗や眼、翼は七色、いや十、いや百色に輝き、見るたびに色だけでなく、角や翼、尾や手足を変え、大きさすら変える。

常に一頭で行動し、人間を見かけても上の空、まるで興味が無いと言わんばかりに雲を見て、風を浴びているだけで一日を終えると言われていました。


つまり、百色の竜はナマケモノだが、とても美しく珍しい、珍妙な変わり者のドラゴンだったのです。


「王様のおっしゃる通りに!!」


すぐに大臣が手配した騎士達はドラゴンを殺す準備をして遠征に向かいました。


…それから七日後。


あまりに帰りが遅かったので大臣は急いで大草原に兵隊を向かわせました。


…そこには騎士達の無残な、無惨な、それこそ残忍、残酷なまでに大草原にぶちまけられた死体の海が広がってました。


兵隊は急いで帰ると、王様にこう言います。


「百色のドラゴンは悪い奴です、騎士達の死体を、ほら、こんなにグチャグチャになるまで殺したんです、百色のドラゴンは悪い奴です!!」


王様は言います。


「ぬう、ゆ、許せん、誰か!誰かおらぬか!!」


「はい、ここに!!」


手を挙げたのは一人一人が別々の能力を持った『異能者』と言われた人々でした。


「私ならばドラゴン程度数秒でひき肉に変えてみましょう、なに、奴は私に傷一つ付けられません、私は全ての方向を操れるのです!私の仲間は雷や未知の力すら操ります、倒せないわけがありません!」


「おお、ならば行け!倒せたら山のような金を、地位を与えよう!!」


王様が叫ぶと『異能者』たちの長はニヤッと笑うと一瞬で消えてしまいました。

ドラゴンを倒しに向かったのです。


…死体の群れは三日後に見つかりました。

全て炭になって、死体は全て土の肥やしになりました。


「ぬう、だ、誰かおらぬか!?」


王様はまた叫びます。


「それなら俺たちがやってやるよ」


見ると色んな鎧をつけた者たちがゾロゾロと王様に失礼な態度で言ってきました。

彼らは自分たちを『ぷれいやー』と言っている騎士達や魔術師団とは比較にならない凄腕の戦士達でした。


「俺たちならいくら死んでも無限にリトライできる、てか、たかが羽根つきトカゲなんざ星の数ほど狩ってるしな、ましてや俺らはランキング上位プレイヤーだ、勝って当たり前なんだよ」


「いつも何を言っているかわからんが、た、頼んだぞ!!」


『ぷれいやー』達の魔法使いが羽根のような物を投げると一瞬で消えてしまいました。

ドラゴンと戦いに行ったのです。


…死体は見つかりませんでしたが、宮廷占い師が言うには魂ごと殺されたそうです。


「だ、だ、誰か、誰か!!おらんのか!?」


「では私たちが!!」


自信満々に現れたのは、『転生者』と呼ばれる美男美女、はたまた屈強な怪物達の群れです。


「私たちならばあのドラゴンを倒せます!いや、倒せないわけがない!!なぜなら…ここまで俺たちに都合が良い世界で、こんなチートに転生して、いまさらドラゴンごときに負けるわけが無い!!」


「う、うむ、頼む、そなたらが最後の希望だ!!」


王様が泣いて懇願します。

『転生者』達はニヤニヤと何か、コソコソ会話するとそのまま話しながら謁見の間を出て行きました。


死体は見つかりませんでしたが、女の子の生存者は一人帰ってきました。


「な、なんだよ、あのバケモノは!!俺らが全力で殺しにかかっても死なない奴に勝てるわけないじゃねーか!!お、俺はゴメンだ!せっかく美少女に転生してもこんなん… 」


ザシュ…!


謁見の間に女性の悲鳴があがります。


王様は我慢できず女の子を兵士達に命じて八つ裂きにさせました。


「…誰かおらぬか?余は百色の竜が欲しいのだ…」


「父上、では私が行ってまいりましょう」


凛とした声で一人の姫が言いました。

剣のような意思でたった一人の姫が言いました。

その姫は、神から遣わされた世界を滅亡させるほどの災厄を五度に及び討ち倒した英雄でした。

故に皆からはこう言われていました。


五つの神の試練を破った姫 破神姫。


すなわち、最強の英雄と。


「…私ならば、五つの試練、五体の神の使いを倒した我が剣ならば、必ずや彼の竜を仕留めてご覧にいれましょう」


「…いけ、行くのだ、行って百色の竜を殺し、余に捧げよ!!我が娘よ!!」


姫は笑いました、最強の破神姫は生涯最高の笑顔と勇気を狂った王様からもらい、百色の竜と戦いにいきました。


戦いは何日も続きました。


その間、国民達は一瞬も安堵できませんでした。

一人と一頭の戦いの欠片で世界中にあらゆる災厄を巻き起こしました。


分厚い雲が空を覆い、常嵐と竜巻と台風と街を覆う暴風の柱がいくつも吹き荒れ。


海は荒れ狂い、雹と雨と霰と雪と雷と山を越える大波が地に絶えず降り注ぎ。


地は干からび、砂漠と化し、地震と地割れと噴火がまるで世界の悲鳴のように巻き起こってました。


何日も、何日も、何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も。


破壊を超えた破壊の地獄に世界が染まりかけた時。


突如全ての災厄がピタッ、と止まりました。


やがて雲から光が一筋漏れました。


戦いが終わったのです。


王様は急いで兵を引き連れ、光が注ぐ場所、大草原だった場所に向かいました。


そこには溶岩の川の中の巨大な岩の柱に一本の剣で縫い止められ苦しみ叫ぶ、百色の竜がいました。


だけど姫の姿はどこにもありません。


よく見ると竜を縫い止めた剣には姫の美しく、傷だらけの腕だけがぶら下がっていました。


だけど、王様は歓喜しました。


そして、絶望しました。


王様には溶岩の川を越える手段がなかったからです。


悲嘆した王様はその後………


******


「…ページはここでおしまいか…」


パタンッ、と本を閉じる。

彼女は片目を瞑る。

そして思う。


(こんなのを一般的な絵本にして売ってる、うちの国って…)


ガチャ!!ポー!ポー!ハトポッポー!!


思考の海に乗り出そうとした瞬間、備え付けのカラクリ時計からヘンテコな鳥が奇声をあげながら時刻を報せる。

彼女は片目を開ける。


「……あ、時間か、いけないな、考えるべきは教育問題じゃない、ドラゴンのことだ…」


そしてまた片目を閉じる。

そうして5秒ほど、考える、考える。

すっ、っと片目を開けると肩に立てかけた杖を右手に持ち、左足に力を入れて立ち上がる。


「…わかんないや、全然わからない、だから会いに行ってみよう」


そのまま右手だけを上に伸ばして、ンーッ、っと伸びをすると彼女は扉に向かって歩き出した。


ガチャ!


「百色の竜に、ね」


ギィ、バタン!


こうして彼女はおとぎ話の扉の鍵を探しに行った。

これは終わった話。

これは進まない話。

これはつまらないおとぎ話。


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