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イフェリア〜深き霧眠れる森〜
辺りは湿った腐葉土が蓄積した地面と枯れた木々、そして霧…その中をフェイ達四人とガルムは森の外へ向かって歩いている。
「あっ霧が晴れてきたよ〜」
「どうやら森の外へ着いたようですね」
視界を遮っていた霧は消え、日の光が広がる森の外へ出た。
「ありがとね」
フィーはガルムにお礼をいい背中を撫でるとガルムは森の中へと帰って行った。
「あれは!」
クドルは驚いたような声で言った。そこには空を切り裂くように黒い煙が立ち上っていた。
「カシュアの方向だ!」
クドルは慌てて走りだした。
「レイナ!」
リーシュもクドルの後を追い走りだし、フェイを担いだクレイルとフィーも急いだ。
カシュア村
フェイ達がまだイフェリアの森にいる頃。
村の外でピエロのような仮面をした盗賊団達が集まっており、そこから少し離れた場所で三人組が話をしていた。
「あねさん、いつまであんな野郎の言いなりになってるんですか?」
「今回が最後よ、充分稼がせてもらったわ。それにこんなやり方は私には合わないわ」
「そうだる、盗賊団のフリをして盗みをして最後に本物に襲わせるってのは」
「さぁ 始めますわよ!」
三人組は盗賊団の集まるところへ向かった。
「ラスティス様、この村の奥に村人達が隠し持っている宝があるそうです」
「そうか」
『アジトではクドルの奴にやられたが確かこの村は奴の…』
「お前達、金目の物は全て頂いて後は焼き払え!」
「おぉ〜!!」
ラスティスと盗賊団は武器を手に村へとなだれ込み三人組はその場に留まった。
「ようやくこの仮面ともお別れだる」
三人はピエロのような仮面を外した。
「そうね、でもまだもう一つ仕事が残ってるわ。クックあの男に知らせてきなさい」
クックはイフェリアの森の方へ向かった。
「あとは、待ちましょ スリック」
「へい、ロゼの姉さん」
スリックとロゼは、村の外で時が来るのを待った。
クドル、リーシュの二人はカシュア村に先に着き、村へと入った。
「なんてことだ」
そこには逃げ惑う人々、燃え盛る家や焼け落ちた家があった。
「一体何が起きてるっすか!レイナは!?」
「これこれはクドル」
「ラスティス!」
「アジトではよくも」
ラスティスは仲間を呼び命令した。
「今度こそ奴らを消せ!」
盗賊達は武器を構え、ラスティスは村の奥へと消えた。
「ラスティス待ちやがれ」
クドルは目の前いた盗賊を払い除け、ラスティスの後を追い村の奥へと消え、リーシュも追おうとしたが武器を持った盗賊達が前に立ちはだかった。
「くっこれじゃ奥へ進めないっす」
そこへ遅れてフェイを担いだクレイル、フィーの三人が着いた。
「これは!?フィーちゃんは何処か物影に隠れてください」
「うん」
フィーは近くにあった草むらに隠れた。
「んっんん…」
フェイが目を覚ました。
「どうやら気が付いたみたいだね」
「クレイルさん…ここは?」
「カシュアですよ」
「カシュア…」
フェイは村の様子を見て驚いた。
「これは!」
フェイは武器を構えた盗賊達とリーシュが視界に入る。
「リーシュ!レイナは?」
「分からないっす、こいつらを何とかしないと奥へ行けないっすから」
「そうか」
フェイは剣を抜き、リーシュはボーガンを構える。その時、クレイルは何かに気がついた。
「そこの岩陰に隠れてる二人 出て来たらどうですか?」
そう言うとお爺さんとお婆さんが出てきた。
「あなた達は?」
「わしらはこの村の者で急に盗賊が来ただる あっ!」
「だる?」
そこへ話を遮るようにお婆さんが話始めた。
「あぁ〜そんでわたしたちは怖くてねこの岩陰に隠れていたんですよ」
「そうなのですか、ではまた岩陰にでも隠れていて下さい。盗賊達は私達が排除しますから」
お爺さんとお婆さんは再び岩陰へと隠れ、クレイルも剣を抜いてフェイとリーシュの元へ加わった。
三人は村人を逃がしながら盗賊達を次々と倒し村の奥へと進んで行く。
その村の奥では ラスティスに追いついたクドルがいた。
「やっと追いついた」
「追いついた?追いつくようにしたんだ。私の手で消すためにね」
「これ以上 わしの故郷を村の人々を傷つけさせはしない!」
そういうとクドルは獣の姿へと変貌した。
「!!!…まさか獣人だったとはね」
「お前だけは許さん」
「なにを許さないって盗賊が村を襲うのは当たり前だろ」
ラスティスは剣を抜いて切り掛かるがクドルはそれを躱してラスティスを突き飛ばした。
「なんて力だ…」
胸を突かれたラスティスは血を吐きながら剣を支えに立ち上がった。
『くっあの商人にもらった指輪を使ってみるか』
ラスティスは手に着けている指輪を前にかざすとクドルは呪縛をかけられたように全く動けなくなる。
ラスティスはその隙をつき剣でクドルの腹部を突き刺し、クドルから距離を取ると地面に手を突いた。
「うっ!なにが…」
急に呪縛が溶けたように動けるようになり倒れる。 そこへフェイ、リーシュ、クレイルの三人が辿り着いた。
「これはなにが!?」
「あの獣の着ている服ってクドルさんの服に似てないっすか?」
「どうやらクドルさんは獣人だったようですね」
「これがクドルさんっすか!?」
「獣人?」
「獣人ってのは、獣の面と人の面を合わせ持つものですよ」
「また貴様らか…」
血の付いた口元を拭きながら言った。
フェイ達はクドルに近付くとクドルは獣の姿から人の姿へと戻った。フェイは腹部に刺さった剣を抜き鞄の中にあった布を取り出し布で傷口を押さえた。
「すまねぇが…」
「喋らないで下さい」
「頼みがある…娘を…フィーのこと…を頼む…」
「クドルさん、弱気にならないで下さいよ」
「あと…おめぇ達に頼みがある…ストレイヤの山の中に…フィーの母親がいる…そこへ娘を連れていってくれないか……」
「そうゆうことは生きて自分で連れていってあげるっす」
「そうかもな、ガハハハ……ハハ……」
いつもの豪快さはなく笑う。
「そうですよ」
「…………」
「お父さん!!」
そこへフィーが現れ、倒れているクドルに駆け寄ったがクドルの息はもうなく最期に笑った笑顔だけが残されていた。
それを見たフィーの目からは涙が溢れ、声を上げて泣き始めた。
「ふっ死んだか後はアジトでの借りを返させてもらおうか」
そう言いラスティスは立ち上がりまた指輪を前にかざした。
「なにをする気なんだ!?」
『何も起きない!?』
「うっなんだこれは?どうなって…」
突然、ラスティスの身体は指輪の嵌めている指の先から水分が奪われ細く痩せていき、木のようにカラカラになって脆くも崩れ落ち、地面には朽ちた木屑と指輪が残った。
「いったいなにが起きたんだ」
「まぁなんであれいいじゃないですか?悪は潰えたということで」
クレイルはラスティスだった物に近づき、指輪を拾った。
『この指輪は…』
「そうだ!レイナ!クレイルさんフィーちゃんをお願いします」
リーシュとフェイは急いで焼け焦げた今にも崩れそうな地下牢のある建物へと駆け込み、地下牢に着いたが何処にもレイナの姿はない。
「レイナはいったい何処に」
「フェイ早くここを出よう崩れると出られなくなるっす」
フェイはリーシュの言うとおりその建物の外へ出たとたん建物は潰れるように倒壊した。
「危なかったっす」
「うん、でもレイナは何処に…」
「きっと村の人に聞いてみれば何かわかるっすよ」
リーシュとフェイはクレイル達の元へ戻った。
「あれ?レイナちゃんは?」
「それが…」
「地下牢を見てきたっすけど何処にもいなかったんすよ」
「そうなのですか…」
フェイ達が話していると村長と村人達が現れた。
「この度のこと礼を言う、ありがとう。そしてすまなかったなお前達は盗賊の仲間じゃなかった」
「レイナはどこに!?」
「レイナ?あぁあの牢にいた娘なら昨晩、村の者が食事を届けに行った時には姿は忽然と消えたと聞いているが誰も牢のある建物から出るところを見てないそうじゃ」
「そうですか…」
そして、村長と村人達は去っていった。
その村人達が去っていく中、一人のお婆さんが話しかけてきた。
「あのその娘さんのことでお話が…」
「レイナのことを!?」
「あなたは先程の」
「知ってるんっすか?」
「ええ、それよりレイナちゃん行方です」
「何か知ってるんですか?」
「えぇ昨晩のことです。その娘さんが男の人の後をついて村を出てイフェリアの森の方へ行くのを見ました」
そういうとお婆さんは立ち去って行った。
「イフェリアの森にレイナが」
「その男って何者っすかね」
「いい人間ではないのは確かでしょうね」
「急いでイフェリアの森に行きたいけどフィーが…」
「フィーちゃん…だいじょぶっすかね」
「うん…あの歳で親の死は辛いよな… 今はそっとしておこう」
そこへ涙を拭きながらフィーがやって来た。
「お兄ちゃん達、暗い顔してどうしたの?」
フィーはいつものように明るく聞いた。
「それは…」
「フィーちゃん無理しなくてもいいんですよ」
「そうっすよ」
「無理してないよぉ〜だ」
「フィーちゃん…」
「早く行かなくていいの?イフェリアの森に」
「聞いてたんだね」
「さぁさぁ〜行こう!」
フィーは一人、先に村の外へと向かった。
「なんだか逆に気を使われましたね」
「フィーちゃんが笑顔でいるのに僕らが暗い顔しちゃいけないよね」
「そうっす」
三人も村の外へと向かいフィーと合流しイフェリアの森へ向かった。




