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Shining Heart  作者: 201Z
69/71

15ー2


冥界〜白い闇〜


突然、空間を劈く獣の声…。


それは白い龍だった。


「…これからが本番か」


ルナは白銀の剣、スターゲイザーを構える。

白い龍は鼻から大きく空気を吸い込み、自らの胸を膨らませると口を開けて、勢い良く吐き出す。


白い龍の口から吐き出されたのは吸い込んだ空気でなく白い炎だった。


ルナはその白い炎に包まれ、姿が見えなくなった。そして、白い炎は次第に白い霧へと変わり、辺りは白い闇に閉ざされる。


「まぼろしか?」


ルナの前には左腕のない青年が一人、立っていた。


「何故?」


「どうした、幽霊でも見たような顔をして」


「だが、お主は…」


「死んだはずと?まあ、その通りなのだが…今は白き龍の放った幻霧の炎によって此方と彼方が繋がっているからな」


「まったく感慨に浸る暇もなかったよ」


朱い髪、朱い瞳の青年が現れた。


「うむ、確かにな…ロウ」


ルナは朱い髪、朱い瞳の青年に同意する。


「この顔触れだとあと一人か」


そこへ…


「俺を呼んだか?」


艶やかな髪の整った顔立ちの女が現れた。


「ギルガメス…」


左腕のない青年は気まずそうに現れた艶やかな髪の整った顔立ちの女の名前を言う。


「ヴェルフ、気にするなお前を恨んでいない」


「だが…」


「一歩間違えば俺もお前を…だから、終わったことは忘れろ」


『終ワリデワ無イ、終ッテナドイナイ』


その場にいる全ての者の頭の中に声が聞こえた。


「この声は…確かに終わっておらぬようだな、あの時の妄執は」


白い闇を断つように一筋の黄金の光が現れ、空間を割くように左右に開き、辺りを黄金の空間に染めていく。


そして、四人の前には和装のような装いの長い黒髪の少女が立っており、その少女の身体の左にある少女のものとは異なる存在、ヴェルフの左腕。


「欲深き者グレド」


ルナは左腕の真の名を口にする。


「軽々しく主様の名前を口にするとは…」


少女の左腕が禍々しい力を放ち、左手の黄金の剣は神々しく輝く。


「我々は旧知の仲だ、よいではないか」


『今度コソオマエタチモロトモ世界ヲコノテニ』


「叶わぬ、妄念」


「死人が亡霊退治なんて何の冗談だろうね」


「唯一の心残りを此処で果たすとしようか」

「あぁ、過去にけりをつける」


ルナ、ロウ、ギルガメス、ヴェルフの四人は順繰りに言うと其々の手元に武器が現れた。


「まだ取ってあったのか」


ギルガメスは手元に現れた黒光りする銃、その銃と鎖で繋がる片刃の剣を示してルナに言った。


「大切な品だからな」


「それより来るぞ」


ヴェルフは右手の褐色の鎗を片手で巧みに振り回して構える。


少女は軽い身の熟しで鎗の間合いに入り込み、黄金の剣を振るい、鎗の柄を切り上げる。

切り上げられた鎗の穂先は上方へと向けられるのに比例して返すように石突きが少女の腹部に向けて突かれる。


だが、それを少女は石突きを掴み、地面を蹴り上げて倒立するような体勢になって躱すとその体勢から手で身体を跳ね上げて柄の上に着地する。そして、そのまま柄を駆けて黄金の剣をヴェルフに向けて振り下ろす。


ヴェルフは褐色の鎗から手を離し、振り下ろされた黄金の剣を躱すと柄の上にいた少女は地面に前傾姿勢で落ちるがすぐに体勢を立て直し着地する。


「朽ちよ、ラスト」


褐色の鎗がバラバラに崩れ落ち、黄金の剣に纏わり付いた。


褐色の欠片が纏わり付いた黄金の剣は重く剣先を地面につけると少女は剣から手を離し、左手で何かを掴み取る。


そして、手を開くと弾丸が地面に落ちる。


それはギルガメスの黒光りする無音の銃によって放たれた弾丸だった。


「ちっ!」


少女は舌打ちをすると腕が何かに引っ張られるかのように動く。


ロウが鐵のガントレットを着けた指先を動かしている。


ルナは少女に対してスターゲイザーを構えて一気に振り抜く。すると振るわれた刃は少女の左腕を空気を斬るごとく何の抵抗もなく切り落とす。


少女は濁った声で悲鳴を上げ、少女の悲鳴を聞いたルナは呟く。


「素体となった者との侵蝕は末期だな」


切り落とされた左腕は触手を伸ばし、再び少女の左腕に戻る。


「やはり容易くはないか…」


ギルガメスは無音の銃の弾丸を放ちながら少女に近付き、片刃の剣を振るう。


だが、左腕の境目から現れた触手によって銃弾は全て受け止められ、片刃の剣は左手によって受け止められた。


『弱イ弱スギル、コレガ嘗テワタシヲ封ジタ者達ナノカ?』


「主様」


『死者モ生者モ私ノ内ニ』


「承知しました…」


少女は右手を前に差し出した。すると黄金の世界に白き闇が何処からか吹き込み、少女の掌の上に白き闇が集まり、白き本の形を為す。


『クロニクル・アーク?何故?…まさかあの少女はあの少年と相対の心を?』


ルナはフェイの姿を思い浮かべる。


『ならば、手を打つ必要があるな』


ルナの輪郭がぶれて二重になり、一つの像が何処かへ消えた。


「どうする?世界相手では…」


ヴェルフは弱音を口にする。


「何を言っている世界?誰の世界か知らないが怖れることはない、そんな状況今まで幾つもあっただろう」


ギルガメスは片刃の剣と銃を構える。


「そうだよ、それに嘆いたところで状況は変わるわけでもないし」


ロウは鐵のガントレットの指先を動かして空間に操り糸を配する。


「ロウ、動きを見せたらあの剣の腐蝕を解け」


ルナは褐色の欠片が纏わり付いた黄金の剣を示して言うと少女が動きを見せる。


少女の持つ白き本がゆっくりと開く。


「今じゃ!」


ルナの声に全員が動き出す。


ロウはルナの声と共に勢い良く手を振るうと完全に開きかけていた白き本に糸が巻き付いて閉じられる。


「今度こそ、その左腕を切り落とす」


ギルガメスは片刃の剣を振り下ろしながら再び受け止めようと動く触手に銃弾を放ち、触手を撃ち滅ぼす。そして、左腕を断ち斬る。


「ファースンダウン」


地面に落ちた左腕に対して銃弾を数発、速射する。すると少女の左腕に伸びようとしていた触手が動きを止める。


そこへ黄金の剣を纏っていた褐色の鎗を手に左腕に突き刺した。


「朽ちよ、ラスト」


褐色の鎗がバラバラに崩れ落ち、左腕に纏わり付いた。


少女は左腕を押さえ、悪態をつきながら悶え苦しむ。


「…くそっ…ごろしてやる…」


「残念だが、消えるのはおぬしじゃ」


ルナの言葉と共に輝きを増した黄金の剣の刃が少女の胸を貫く。


少女の身体から黒い靄が吹き出して霧散し、少女の身体は消失する。それと同時に褐色の欠片を纏っていた左腕は体積を無くし、褐色の欠片だけが地面に残され、褐色の欠片は鎗の姿に変わる。


残された宙に浮かぶ白き本、クロニクル・アークは何処かへ転送されるように消える。


「これで役目は終わりか」


ギルガメス、ロウ、ヴェルフの身体から光の粒が浮かび上がり、質量が減少して姿が透けていく。


「今度こそ、別れだね」


ロウは自分の身体を見回し、ルナに向かって言った。


「そうなるな…」


「まあ、しんみりするのもなんだから僕は早々に行くよ。三度目だし…」


ロウはそう言い残すと姿が完全に消えた。


「俺も行く、思い残すこともなくなったからな」


ヴェルフは虚空の左腕の口を擦る動作を見せて消える。


「ルナ、頼みがある」


「後裔のことだろう?お前は男勝りだが、意外と気遣いが女性らしいからな」


「余計なことはいいから」


「相変わらず、茶目っけがないの」


「ルナはもっと控えるべきだ。それで返事はどうなんだ!?」


「わかっている」


「ならいい…じゃあな」


そして、最後の死者であるギルガメスは後ろ髪を引くことなくあっさりと姿が消す。


ルナは暫し、無言で目蓋を閉じる。そして、再び目蓋を開けた時にはグラハムの船、サウザンド・エンプレスの船内にいた。


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