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Shining Heart  作者: 201Z
68/71

15ー1


アナザーピース〜逸れた欠片〜


「世界を導くという役目は果たしましたが本当にこれで良かったのかしら…」


消え去ったはずの黄昏の方舟の中にクレアがいた。


クレアの前には床に交わるように突き刺さるエレメンタルブレードとヘテロジニアスがある。


「では、タユタナ(時空)の巫女としての力を使っては?」


クレアの傍でミストの声が聞こえた。


「それを使えばもう…」


「…此処が方舟、切り取られた世界ですか」

茶髪で短髪の学者風の青年が火の点いてない煙草を啣えながら現れた。


「貴方は誰です?」


クレアは怪訝な顔で訪ねる。


「ルカリド・ウィッチと申します、タユタナの巫女……」


ルカリドは視線をずらし、クレアの後ろの方を見る。


「…と精霊ミスト、いや、精霊王ミストルテイン」


「私が見えている?それに私の正体までも」

「見ての通り考古学者なので…(そろそろですか)」


ルカリドは瞼を閉じる。




時は遡り、場所は冥界ブロード。


フェイ達がノア・クロニクルと決戦の時を迎えていた頃、冥界のとある場所でバルディと王宮騎士団は元老院の三名と対峙していた。


「お前達の悪行はもう終わりだ」


バルディは告げる。


「悪行?悪や正義に捕らわれているとは未熟だな」


「やはり、我等がこの世界を導かねば」


アンセムの背後の地面にある渦を描く傷痕、翼龍ノ祠が淡い白い光を放つ。


「リミウム、他の者達は?」


「予定通り、私達以外の元老院は祠の糧になったわ」


「べグラム」


「例のイルフェは接続済みです」


「お前達、さっきから何を言っている」


ラズゥールは勝手に話を進めている元老院の三名に向かって言う。


「騎士団長、お前がいるということは…」


アンセムは騎士団の中にいる一人の人物に目を止める。


『…やはり…』


アンセムの視線の先にいる人物、それは副団長ラトだった。


『だが、役目は果たしたか』


騎士団達が突然、剣を抜いて互いに斬り合いを始めた。


「何をした!」


バルディは元老院に向かって言ったが元老院は何も答えなかった。


ラズゥールはバルディを守るように背を向けると剣を抜くと副団長ラトがラズゥールに斬りかかってきた。


「身体が勝手に」


ラズゥールは振り下ろされた剣を剣で受け止める。


「団長…私を斬って下さい」


「何を言う」


ラズゥールはラトと刃を交えながら、互いに刃を交える他の団員達に視線を向ける。


団員達の身体からは糸のようなものが何本も上に向かって伸びているのが一瞬、見えた。


『操り糸か?ならば』


ラズゥールは剣に力を込めて押し退けるとラトの上方に向けて剣を振り抜いた。するとラトが動きを止める。


「どうやらこれで…」


ラズゥールの腹部に痛みが走る。


「君の血は何色?」


その声はラズゥールのすぐ近くから歌うような声が聞こえた。


それは目の前にいるラトからだった。


「大地は何色に染まる?」


騎士団員達は血を流し、倒れているのがラト越し見える。


ラトはラズゥールの鎧を貫いて腹部に刺さる剣を引き抜いた。


「ラズゥール!」


ラズゥールの後方にいたバルディには死角となり何が起こったのか分からず、倒れるラズゥールの名前を叫び、駆け寄ろうとするのを横にいたメリルが制止する。


「いけません、今行けばバルディ様も」


メリルの言葉にバルディは気持ちを抑えて踏み止まる。


「それにまだ終わりではありません」


ラズゥールは地面に剣を突き立て、倒れかけた身体を支える。


「…お前は誰だ…」


ラズゥールはラトに向かって声を絞り出す。


「…私の…身体をこれ以上…」


ラトは何かに抗うようにぎこちなく動く。


『私の?これは僕の玩具だよ』


ラトの動きが変わり、突然、乱れるように剣を振るい、ラズゥールが地面に突き立てた剣を薙ぎ払うとラズゥールは地面に倒れ込んだ。


ラトはラズゥールが倒れるのを確認することなく、剣を薙ぎ倒した後、人形のような関節の可動制限がないような動きでバルディとメリルの方へと向かう。


バルディとメリルは奇天烈な動きで迫ってくるラトに動けずにいるとラトは突然、後ろへ飛び退いた。


「隙を見て適当に転移したが…やれやれとんでもない所に迷い込んだものだな」


ラトがさっきまでいた場所に周囲を見回すルナが立っていた。


「初代冥王ルナ、なぜここに!?」


べグラムが驚きの声をあげる。


「元老院か…なるほど」


ルナは声をあげた人物が纏う様相を見て判断した。


「あの子供があの初代冥王?」


「私を子供呼ばわりか、若き冥王」


ルナがバルディとメリルの方を横目で見るとあまりの威圧感に二人の背筋が伸びる。そして、ルナはすぐに異様な気配を放つラトに視線を移す。


「……久しいな、ノーム教の指導者の次は人形の真似事か?ロウ」


ラトは剣を鞘に戻す。


「ノーム教、ロウ…まさかあのノーム戦役の首謀者のケルビニア・ロウ?」


メリルは千年前のノーム戦役の重要人物の名が出たことに驚く。


「僕の名は記述からも削除されてたはずだけど…ルナ以外に知っている者がいたんだ」


ラトはメリルに感心する。


「次から次へと何がどうなって」


「落ち着け、べグラム」


アンセムがべグラムを宥めると続けて言う。


「そうか、お前は知らなかったのだったな」

『そう、べグラムは知らなかったのね』


リミウムはアンセムの言葉に内心で悦に浸っているとロウに操られているラトと目が合った。するとラトは笑みを浮かべるとルナに視線を戻す。


「千年振りの再会、まずは…」


ラトは指、手首をうねらせながら移動させ、剣の柄を掴むと素早く引き抜いて腕をしなるように振るう。


そして、振るわれた剣は刃が風となって辺りに吹き荒れ、刃が交わる音が数十回響く。


「…斬り結ぶか」


ルナの言葉と共に風が消し飛び、継ぎ目一つない白銀の剣を持つルナの姿が現れた。


「スターゲイザー、相変わらず綺麗な剣だね」


ラトはルナと剣を交えながらルナの白銀の剣に見蕩ていた。


「そんなにこの剣が良いというのならくれてやる」


ルナは白銀の剣から手を離した。


不意に均衡していた力が崩れたことでラトは白銀の剣を横へと押し退けて剣を前へと振り下ろす。


ルナは振り下ろされた剣を躱しつつ、押し退けられた白銀の剣の柄を逆手で掴み、ラトの胴へと振り抜いた。


するとラトはそのまま倒れて動かなくなった。


ルナとラトの戦いに決着を確認したアンセムがルナに話し掛ける。


「過去の因縁は終着したかね」


ルナはアンセムの問いに沈黙し、自らの内で答える。


『それはどうだろうな』


「まぁ、よいか…そろそろ時間だ」


アンセムがそう言うとリミウムは翼龍の祠の渦の中心に立つ。


「それはお前達がどうこうできる代物ではない」


ルナが元老院の三人に警告する。


「その為の策は講じてある」


べグラムはルナの警告など承知しているという風にルナに言うと何かに呼応するかのように翼龍の祠が胎動する。


渦の外側から中心に向かって渦をなぞるように消えていく。


そして、中心にいたリミウムの周囲の空間に白い光の傷が激しく現れてリミウムの姿を覆い隠した。


「呆けているそこの二人、そこに倒れているやつを連れて早く此処から離れろ」


ルナはバルディとメリルに倒れているラズゥールを示して言った。


「でも…」


「此処に居てもお前達に出来ることはない」


「バルディ様、今は初代様の言う通りに」


「わかった」


バルディとメリルは二人でラズゥールを担ぎ上げてその場から立ち去る。


『これからこの世界を導いていく若人には荷が重いからな、あれは…』


ルナは白き光の傷の殻に目を向ける。


すると突然、外殻を引き裂き、白い鱗を纏う尻尾が飛び出し、傍にいたアンセムとべグラムを薙ぎ払う。


二人は不意に現れた尻尾になにもできず壁に強く打ち付けられて血を散らす。


そして、残った外殻が一気に消し飛び、白い龍の姿が露になる。


「黒き龍と対を為し、共に滅びを導く白き龍」


ルナは継ぎ目のない白銀の剣、スターゲイザーを構えると白い龍は威嚇するように咆哮する。


ルナは鼓膜を劈くような咆哮にも動じず、白い龍を見据える。


動じないルナに対して白い龍は力を誇示するように翼を広げると白い光の粒が翼から舞い上がる。そして、白い龍の口先に光の粒が集束して光球となり、光球は収縮した後、ルナに向かって光線が放たれる。


ルナは放たれた光線を白銀の剣、スターゲイザーで受け止めると受け止められた光線は周囲に力が拡散し壁や床を破壊する。


受け止めている光線をルナは押し斬ると光線が一瞬、途切れる。その隙に体勢をずらし、再び光線が流れると光線の真横を駆け抜けて白い龍へと近付き、地面を蹴って飛び上がり、喉元に向けて白銀の剣を斬り上げる。


白銀の剣を受けた白い龍は首を大きく仰け反らし、光線が壁から天井へと破壊しながら移動して光線が消えた。


「そろそろ、正体を明かしたらどうだ?」


ルナは白い龍の前に着地して鋒を向ける。


「ロウ」


白い龍は仰け反った首を元に戻し、ルナを見詰めて言葉を発する。


「へぇ、よく気付いたね」


「そのくらい分かる、かつての友だからな…それで白き龍の身体を乗っ取って何をする気だ」


「友ならそれも分かっていてくれると思ったけど…」


「………何故だ…」


「まだ息があったんだ、しぶとい年寄りだね」


アンセムが壁を支えに弱々しく立ち上がると血が滴り落ちて地面を染める。


「…リミウム」


「寄り代となった者ならこの内にはもういないよ」


「何者なんだ…」


「救世主かな」


「滅びの龍の身体で救世主?」


ルナは白い龍の言葉に疑問を呈する。


「時に滅びは救いを齎す、君はよく知ってるはずだけど」


ルナは白い龍の言葉に沈黙で答える。


「…そうか…」


アンセムが何かを悟ると地面を染める自らの血が文字列を作る。


「ならば自らの滅びを以て、救いを為す…」


地面の血文字が地面に吸い込まれるように消え、アンセムはその場に倒れ、赤い文字列が白い龍の体表に拘束するように現れた。


「命を対価に白き龍に血の呪印を施したか」

「でも、無駄死にだね」


文字列が崩れるように浮かび上がり消えていく。


「白き龍は何物にも染まらないからね」


「それで救世主様の望みは?」


「もちろん、滅びの救済」


「変わらぬ願いだな」


ルナの持つ白銀の剣が砂銀となって空中に散らばる。そして、継ぎ目のない白銀の双剣に再構成される。


「やっぱ綺麗だね」


白い龍は白銀の双剣に一時見蕩ると光の粒を散らしながら翼を羽撃かせて宙に浮かぶ。


光の粒は星のように部屋全体に散らばり瞬く。


「まさにスターゲイザーだな」


ルナは部屋全体に散らばった光の粒を見回した後に白銀の双剣を白い龍に向ける。


『双剣にしたのは正解か』


ルナが双剣を構えると星々が次々とルナに向かって落ちる。


ルナは剣を交互に振るい、光の粒を次々と斬り砕くと砕けた光の粒は細かな粒子になって地面に散らばる。


数十分、その状態が続き、全ての光の粒を砕き尽くすとルナの足元は光の粒子で埋め尽くされていた。


「残念、もう少し楽しめると思ってた」


光の粒子がゆっくりと舞い上がり、消えていく。


「どうして…」


「最初の一撃でもう決していた」


「何で、今になって」


「星の光は観測者の所に届くまで時間が掛かるからな」


「そうなんだね…」


「今度こそ、永久の別れだ」


「…ありがとう、これで僕の望みは果たされたよ………」


ルナの足元にあった光の粒子の最後の一粒が消えると白い龍は動きを止めた。


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