13−4
虚城〜シュトラディバイスの間〜
玉座にはフードを目深に被ったヴァルキリアがいた。
「ようやく会えたな」
ヴァルキリアの視線の先にはフェイとレイナ、クレアがいた。
「お前がヴァルキリアか」
フェイはエレメンタルブレードを抜いた。
「ヴァルキリア様」
ケイオスがヴァルキリアの前に出て、フェイ達の前に立ちはだかるとフルヴァリーナイツが武器を構え、フェイ達を囲んだ。
「ケイオス、下がれ」
「ですが…」
「大事な客人だ、お前達は此処へ向かって来るものを排除しろ」
「分かりました」
フルヴァリーナイツは武器を納め、ケイオスと共に姿を消した。
「どうして退かせた?」
「大事な客人と言っただろう」
ヴァルキリアは玉座から立ち上がった。
「自ら相手をするってことか」
フェイはエレメンタルブレードを構え、ヴァルキリアに切り掛かったが割って入るように仮面をつけた者がフェイの腕を掴み、エレメンタルブレードを受け止めた。
「お前はあの時の」
フェイはアフロネイロで会った出来事を思い出した。
仮面をつけた者はボーガンを出すとフェイは仮面をつけた者の手を振りほどき、後ろに飛び退いた。
「やっぱり…どうしてお前がリーシュのボーガンを持ってるんだ?」
仮面をつけた者は何も言わずにボーガンを放つと矢はフェイの肩に突き刺さった。
「くっ…」
フェイは肩に刺さった矢を引き抜き、傷口を押さえる。
「フェイ」
レイナはフェイに近付き、傷口に触れると出血と傷が消えた。
「女神が完全に目覚めたか」
「何?今の…」
レイナが驚いているとまた矢が放たれる。それをフェイはエレメンタルブレードで切り落とす。
「レイナ、下がって」
レイナはフェイのいう通り、下がると仮面をつけた者は腰に携えた剣を抜き、フェイに飛び掛かってきた。
フェイは仮面をつけた者が振り下ろした剣をエレメンタルブレードで受け止めた。
「何なんだ、お前は!」
フェイは受け止めた剣を押し退けるとその剣は二つに折れた。
仮面をつけた者はエレメンタルブレードを避けると折れた剣を投げ捨て、ボーガンを向ける。
「お前の正体を見せてもらう」
フェイがそう言うと仮面をつけた者の仮面に一筋の切れ目が入り、二つに割れた。
仮面の下から現れた顔は…。
「リーシュ?…どうして」
「生きていた…生きていたんだ、リーシュ」
「どうして、リーシュが俺達を殺そうとするんだ」
「その少年はもう自分の意思はない」
そこへアビスの声だけが聞こえた。
「そんな、リーシュ!リーシュ!返事しろよ、リーシュ!」
「ペルソナ」
リーシュはボーガンを構え、次々と矢を放っていく。だが、フェイはそれをエレメンタルブレードで薙ぎ払う。
「リーシュ、やめてくれ」
「無駄だ」
「そんなことない!無駄なことなんてない、リーシュは大切な友達だ!」
エレメンタルブレードは白く強い輝きを放つ。
「なんだこの輝き…」
フェイは光り輝くエレメンタルブレードに見入る。
「こちらも目覚めたか、シャイニングハート…」
ヴァルキリアは事の次第をただ傍観する。
「うぁぁぁ…」
リーシュが突然、頭を押さえ叫び出した。
「リーシュ!」
リーシュは前のめりに倒れ込み、フェイはそれを支えた。
「…フェイ…俺は何を…」
リーシュはそう言葉を発した後に気を失った。
「レイナ、リーシュを」
フェイはリーシュをレイナに預けた。
「馬鹿な…心の氷を溶すとは何をした」
アビスがフェイ達の前に現れた。
「何もしてない、ただ友達を強く思っただけだ」
「友を思う心か…」
アビスの心が揺らぐ。そんなアビスの心情を読んだかのようにヴァルキリアは言う。
「もういい」
「ドラクマ?」
「お前はもう必要ない」
ヴァルキリアは片手をアビスに向けると掌に黒い球弾が現れる。
「何を言っている、友に手を掛けるのか?」
「友か…そんなものに何の価値がある」
ヴァルキリアは黒い球弾をアビスに放つとアビスは動揺して避けることも出来ずに黒い球弾に飲み込まれ消えた。
「仲間をどうして?」
「どうして?そんなもの利用価値が無くなったからにすぎない」
レイナとフェイは信じられないという表情をする。
「そんな…」
「そんな理由で自分の仲間を…」
フェイは白く輝くエレメンタルブレードを構えた。
「くだらない理由で怒らなくとも、君には何の関係ない赤の他人」
「赤の他人だろうが、仲間を…利用価値が無くなった?そんな理由で殺す何て俺は許せない!」
フェイはヴァルキリアに斬り掛かる。
『ふっ遊んでやるか』
ヴァルキリアはそう思い、漆黒に染まった剣を抜く。
フェイの攻撃はヴァルキリアの左肩から右脇腹にかけて切り裂かれたかに見えたがヴァルキリアの姿が消える。
「えっ!…」
フェイの首元に後ろから漆黒の刃が当てられる。だが、ヴァルキリアはすぐに剣を退いた。
フェイはすぐさま振り返り、そのままエレメンタルブレードを振り抜いたが先程と同じように残像を切り裂いた。
ヴァルキリアはまたフェイの背後から首元に漆黒の刃を当てすぐに剣を退いた。
「どうして剣を退く」
「そうでなければすぐ終わるからな」
フェイは今度はエレメンタルブレードを自らの脇腹の横を抜けるように後ろへと突き刺さした。するとガチャっという音が響いた。
フェイはエレメンタルブレードを動かそうとしたがびくともせず、エレメンタルブレードをそのままに後ろを振り返った。するとそこにはヴァルキリアの身体の手前で刀身が消えたエレメンタルブレードがあった。
「何だこれ!?」
「そう、それで同じように躱していたのね」
クレアは遠見から全てを把握した。
「君には感謝する」
「何のことだ」
ヴァルキリアの言葉の意味するところを理解できずフェイは聞くがヴァルキリアの姿が消え、クレアの近くに現れる。
そして、その傍の空間が裂け、暗闇が口を開いた。
「待て!」
クレアの腕を掴み、ヴァルキリアは暗闇の中へと消えると裂けた空間は元に戻った。
「ここまで来て逃げられた、それにまたクレアさんを…」
「場所なら分かります」
何処からともなく声が聞こえるが姿は見えなく、ただ空気が湿気に満ちている。
「私は水の精霊、ミスト」
「場所っていうのは?」
「時空の神殿という所です、入り口は全ての世界の中心に位置するグングニル」
「世界の中心のグングニルって何処なんだ?」
フェイの問いになんの反応もなく、ミストの気配は消えていた。
「レイナ、取り敢えず此処から出よう」
フェイとレイナはリーシュの腕を肩に掛け、今いる部屋から出る。
部屋から出た、その先にはフルヴァリーナイツが倒れていた。
「これは…何が?」
三人の前にクレイルが現れた。
「これは一体?」
「私の足止めですよ、ヴァルキリアは?」
「クレアさんを連れて時空の神殿というところに向かったようなんですが」
「そうですか、時空の神殿に向かいましたか…」
「知っているんですか?」
「えぇ…」
突然、死都ドラグスネイド全体に地響きが起き、建物が崩落し始めた。
「今は急いで此処から出ましょう」
フェイ達は途中、ワグとレルクを助けて虚城から脱出したが外は建物の瓦礫や地面の隆起、沈降によって進めなくなっていた。
「お前達、無事か」
空からグラハムの声が聞こえ、フェイ達は上を見上げると大きな船が宙に浮いていた。
「あれは一体、何です?」
船底の一部が外れ、四本のワイヤーに吊られたゴンドラが下りて来た。
「早く乗ってください」
地面に降りたゴンドラに乗っているラスティンはフェイ達に言った。
フェイ達はラスティンの言う通りにゴンドラに乗り込むとゴンドラは巻き上げられ元の位置に戻る。




