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〜冥界〜愚者の森〜
「はじめまして、そして…(さようなら)」
フェイとレイナの前に左目に眼帯をした隻眼、黒髪の男が現れ、いきなり刀を抜き襲って来た。
フェイは素早く剣を抜き受け止めた。
「何者だ」
「フェイ!」
レイナはフェイを助ける為に力を使おうとしたが、突然、首筋に強い衝撃が受け、気絶した。
「レイナ!」
男は片手で刀を持ちつつ、もう一方の手をフェイに向けて伸ばすと手首から先が消えた。
「どうして手がこんな所に…」
消えた手がフェイの首を掴む。
フェイの意識は徐々に遠退いていき、剣を握っていた手の力は抜け、剣は地面に突き刺さり、フェイが完全に気を失うのを確認すると男は手を元に戻した。
男は刀を鞘に仕舞うと二人を両腕に抱え、そのまま森の闇に消えていった。
「ここがアーデルリンガーの住み処のようですが、何の気配も感じられませんね」
「待っていたよ」
「待ってた待ってたぁ」
ディオスとクロイがルナ達を待ち構えていた。
「お前等はあの時の」
「何の用だ」
「まずはこれを」
ディオスはコア・フラグメントを出した。
するとコア・フラグメントはディオスの元から消え、ルナに取り込まれた。
「…何が目的だ」
「俺達はただあの方、グルベリ様に仕えるだけ、グルベリ様の命令が全て」
「グルベリとは館に居た創者の事ですか?」
「グルベリ様をあんなものと一緒にするなんて…」
「ひどいよぉ〜死にたいの?」
「そうか、お前達はグルベリのホムンクルスだったか。通りで納得がいった」
ルナはグルベリという人物が何者かを思い出し得心がいく。
「じゃあ、ついて来てよ」
「わかった、いいだろう」
「ルナ様、危険ではないでしょうか?」
「心配はない、奴が私に危害を加えることはない(というか無理なのだからな)」
「では、」
「行こうぉ〜」
ディオス・クロイが互いの片手を合わせると地面に魔法陣が広がった。
『個体では使えないはずの魔法を相互換で術式を紡ぎ、循環させる事により使えるようにしたか』
ディオス・クロイはルナ、レルク、クレイル、ワグと共に消えた。
ラズーリが木の陰からひそかにその光景の様子を伺っていた。
「向こうたようやな、んじゃわいも」
ラズーリも魔法陣を開き、姿を消した。
亜空間ソレイド〜神々の家〜
シュビッツの前にグルベリとスーリセが現れた。
「時間通りだな」
そこは神殿の一画の様で白を基調とした石造りの荘厳とした場所だった。
「どうだ自らの仲間を手に掛けた気分は?」
グルベリは表情を変えず、冷淡に答える。
「全ては時の均衡の為」
「何が時の均衡だ、それでどれだけの命を絶った?」
「時の均衡が崩れれば、より多くの命が消えることは分かっているはず」
「試してもいないのに何故分かる」
「試さなくても見えるものが全て」
「それが事実とは限らない」
「話してもキリがないことは分かっているはず」
グルベリは手に剣を出した。
「マスター」
「お前はあの場所に行き、事を進めろ」
「はい、マスター…気をつけて」
スーリセは神殿の奥へと向かった。
シュビッツはそれを一瞥しただけで何もせず、グルベリを見据える。
「さぁ、始めよう」
レノーブル〜神殿地下墓地〜
地下墓地の棺に座るミュートは何かに気付き立ち上がる。
「そろそろ行くか」
ミュートの姿が消え、一瞬で神殿の外に出ると黒い翼を広げ、西に向かって飛んでいった。
その様子を無人になった町の一角から見ていた。
「動いたわね」
「砦に戻らず、待っていたかいがあったあるね」
「行くわよ」
行動しようとするアーニャに声が掛けられる。
「待って貰えますか、隊長」
アーニャの部下である下級兵士が現れた。
「セント、何でお前が此処にいる」
「隊長が余計な事をしなければ、僕が此処へ来る事なんてありませんでしたよ」
「何を言っている?セント」
「貴方方にこれ以上付き合う理由が無くなったということですよ」
セントは手を合わせて引くと槍が現れ、アーニャ達に向けて構えた。
「汝は敵ということか」
コルカスは携えた刀を抜き、アーニャもサーベルを構えた。
「ゴーギャン、メイテ」
ゴーギャンはすぐに自らの力を使い、メイテと一緒にミュートを追い掛けた。
「逃がしたか…ほんと、イルフィは厄介ですね」
セントは言い終わるとすぐにアーニャに切り掛かったが、それをコルカスが刀で受け止めた。
「さすがですね、先輩」
セントは受け止められていた剣を振り切り、アーニャ達を吹き飛ばした。
「…どうしてこんな事を?」
「分かっているはずですよ、隊長」
セントはアーニャに剣先を向けた。
「では、その前にこちらから聞かせて頂こうか?」
コルカスはいつの間にかセントの背後におり、セントの喉元に刃を突き付けた。
「先輩は忍耐という言葉は知らないのですか?」
喉元に突き付けられた刀の刀身がパキンと折れ、その直後に響く銃声。
コルカスは脇腹を手で押さえながら後退る。
脇腹を押さえた手の指の隙間からは大量の血が流れ出ている。
「コルカス!」
アーニャは心配してコルカスを叫んだ後、セントを睨むとセントの剣を握っている腕の下の方から硝煙が立ち上る銃口が見えていた。
「貴方は優秀では無かったけど気概があると見込んでいたのだけど…」
アーニャはサーベルを地面に突き立て、そのまま手を放した。するとサーベルは地面に溶け込み、周囲に無数のサーベルが現れた。
「それが隊長の剣技の一つ千鋭ですか、初めて見ましたよ。噂では隣国の一個大隊を一人で殲滅したとか」
セントがそう言い終えた時にはサーベルを持つアーニャがセントのすぐ傍まで来ていた。
「何時まで無駄口を叩いているつもり?」
アーニャはセントに突きを放つ。
セントはそれを剣で弾き上げるとすぐにアーニャに向けて銃弾を放ったが躱された。
アーニャは距離を取るともう片方の手にもサーベルを掴み取り、移動しながらいくつもセントに向かって投げていく。
セントは剣で飛んでくるサーベルを弾き落としていき、その合間にアーニャに向かって銃弾を放っていく。
「隊長、いつまで単調な攻撃をしてくるつもりですか?」
セントは飛んで来るサーベルを剣で弾き落とすと剣を回転させるように振るい、手を離すと目の前の空中で剣は回転する。
回転する剣は次々と飛んで来るサーベルを弾いていく。
その間にセントは銃に違う銃弾を装填すると剣を掴み取り、飛んで来たサーベルを躱して銃弾を放つ。
放たれた銃弾は赤い閃光を発しながらアーニャに向かって飛んでいく。
アーニャはそれをサーベルを振り抜いて弾き上げた。
「そんなも…」
アーニャがそう言いかけた途端、サーベルの銃弾が触れた部分が発火し溶け落ちた。
「どうですか、精霊銃の力は?」
「精霊銃」
「隊長なら知っているでしょ?これがどういう代物か」
「そう、彼等が…」
アーニャは何かを悟った口ぶりで言った。
「コルカス!いつまでへばっている」
アーニャは声を荒げて喝を入れた。
「御意」
コルカスは傷口を押さえ、素早く二人から距離をおいた。
「終わりにしましょうか」
「本当に残念ですよ、貴方のような人材を失うのは」
「本当に残念ね…」
アーニャはそう呟くと一本のサーベルを放り投げた。サーベルは地面に刺さり、魔法陣が現れた。
「何をしようというのですか?」
周囲にあったサーベルが浮き上がり、地面に突き刺さるサーベルに向かって一斉に鋒を向ける。
そして、鋒を中心に向けるサーベルが時計回りに消えていき、最後に中心に突き刺さるサーベルが消える。
「これで終わりよ」
アーニャは片手を高く上げる。
セントは真上に気配を感じて上を見上げると大きなサーベルが鋒を向けて浮遊していた。
すぐにその場から動こうとするが足が縫い付けられたかのように動かすことが出来ない。
そんなセントにアーニャは手を振り下ろす動作をすると大きなサーベルが落下した。
その衝撃によって辺りに砂埃が立ち込める。
砂埃の中、コルカスがアーニャの近くに現れた。
「傷は大丈夫?」
「止血はしたので少々の間であれば…」
突然、二人の目の前の砂埃が晴れて剣が現れてアーニャの頬を掠めた。
「さすがですね、あそこから躱すとは」
「突鋭を受けても無事でいられるなんてね」
「破られたのは初めてですか?」
砂埃が晴れると煮えたぎる熔岩のような橙色の液体がセントの周囲に浮いている。
「予想外だったわ…精霊の力がここまでとはね」
「あるお方のお陰で召霊時間が延びましたから」
「それが私達を足止めしている理由のもう一つのようね」
「さすがに勘がいいようですが、もうこちらも終わりにしましょうか?隊長、先に行った二人はもう生き絶えているでしょうから」
「話が長いわ」
セントの上にあった液体が弾け、セントに降り注いだ。
「なんだ!?これ、どうなって…」
セントは動揺して咄嗟に手で振り払う動作をする。
「いくら時間が延びたからといって力量が無ければ差ほど効果はないわ」
「腕が…腕がぁ…」
セントは降り注いだ液体によって右腕が溶け切れ、地面に落ちた。セントは苦悶の表情をしながら左手で魔法印を結び、地面にその手をつけるとセントの身体は地面に飲み込まれるように消えた。
「コルカス」
「後から追うので先に向かって下され」
「傷が癒えたらちゃんと来なさい」
コルカスをそう言葉を残し、アーニャの姿が虚空に消えるメイテとゴーギャンの元に向かった。




