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Shining Heart  作者: 201Z
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11−2


方舟フォリラテア〜立方白亜〜


方舟に複数ある白亜の部屋にソフェルの住民達がいた。


「どうなっているんだ」


「早く説明しなさいよ」


「賢者はどうした!」


ソフェルの住民達が説明不足のまま避難させられたことで騒いでいる。


「皆さん、落ち着いて下さい」


避難している人達が、収容されている全部の部屋にクロノスの映像が映し出された。


「落ち着いて下さい」


住民達の騒ぎが止まった。


「皆さん、お話しなければならないことがあります…私は賢者ラファエロの弟子、クロノス・レイファです」


クロノスは躊躇いながらも重い口を開いた。


「賢者の方々が侵入者に襲われ、昏睡状態になり…」


住民達にざわめきが広がった。


「…さらに私達の世界、ソフェルが消滅し、この方舟を地上へと移動させました…」


住民達に更なる動揺が走った。


「そんな…」


「嘘だろ…ソフェルが消えたなんて…」


「これは大変悲しい出来事です…しかし、ソフェルはどんな時にも私達の心の中にあり、私達のいる場所が新たな世界[ソフェル]になると私は思います」


住民達はクロノスの言葉に動揺が少し和らいだ。


そして、クロノスの映された映像が消えた。


「はぁ…」


クロノスは賢者達が眠る、癒雨還で小窓の付いた一つの箱の前にいた。


「じじぃ、これからどうすればいい?……」


ラファエロが眠る箱に問い掛けたが、返事は返ってくることはなかった。

クロノスはまた深いため息をつき、癒雨還から出ようとすると…


「レイファ、お前が良いと思う行動をすればよい」


ラファエロの声が聞こえた気がしてクロノスは振り返った。


「…今、じじぃの声が…」


ラファエロの方を見たが変わりなく眠っている。


『気のせい…?でも、あれは確かに……自分が良いと思う行動をしろ…か…』


クロノスは癒雨還から出た。




方舟フォリラテア〜出入角〜


出入角の開閉式の扉が開き、グルタの特殊機械が入ってきた。そして、サウザンド号が運び出す準備をする。


「こりゃ、驚いたなぁこないデカイ船があるなんてな」


寝癖の付いた頭にゴーグルを掛け、つなぎを着た男が言った。


「マルク」


「おぅ、グラハム、凄いもん連れて来たもんやな」


「まぁな、これが新船のデザインとシステムだ」


グラハムはマルクに製図を渡した。


「なるほどな……」


マルクは製図をじっくり見て言った。


「この動力を造るには二、三必要な物がある」


「分かっている、翡翠の瞳、ファングルの骨、極色鳥の羽根だろう?」


「なら、動力以外は取って戻ってくるまでに仕上げといてやる、後半の二つはラウナ火山に行けば手に入るやろう」


「エアプレスが必要だな」


「グラハム、ちょっといいかな?」


ラスティンがやって来て聞いた。


「統括、久しぶりやな」


「その呼び方は止めてくれないか、マルク。私はほとんどグルタを留守にしていて、代行に任せっきりなんですから」


「それでラスティン、なにか用か?」


「ちょっとターミナルタワーまで行ってくるよ、ここの住民の件があるからね」


「分かった、私も行こう」


「一緒に来るのか?」


ラスティンは驚いたという顔で言った。


「私が行っちゃ何かまずいのか?」


「いや、そうじゃないが…」


「案ずるな、私も用事があって行くだけだ、用が済んだらすぐにでも去る」


「分かったよ」


「マルク、後は頼む」


「おぅ、まかせい」


皆を乗せたままのサウザンド号は特殊機械で方舟から運び出される。




神鋼都市グルタ〜商業区〜


「貴方達も街に降りるの?」


クロノスはフェイとレイナに聞いた。


「はい、取り合えず地上に降りてこれからのことを考えようかなって」


「貴方達の行く末を見届けたかったけど(じじぃの言葉でもあったし)…この状況じゃ」


「今は天上の人々は々なものを突然、失ったからな、お前も無理はするなよ」


グレネリスはクロノスを労る。


「…ありがとう」


クロノスは背を向けてお礼を言った。そのクロノスの瞳にはうっすら光るものがあった。


「…地上に行く方法は決まっていますか?」


クロノスは背後にいるフェイ達に分からないように涙を拭って振り返る。


「いえ、決まってません」


「なら街の入口まで送ってあげる」


「いいんですか?」


「短い間だったけど一緒に旅をした仲間なんだから遠慮しないで」


フェイとレイナはクロノスの瞳を見て頷くと二人はお礼を言う。


「ありがとう」


クロノスは方舟の機能を使い、神鋼都市グルタの入口の商業区に座標を指定した。


「これで準備はできたわ」


フェイとレイナの足元に二人を囲むように円形の輪が現れる。


「これでお別れね」


「でも、また何処で会えますよ」


「うん、世界は繋がってるんですから」


フェイとレイナはクロノスに言った。


「そうね」


クロノスは笑顔を見せると円形の輪は収縮してフェイとレイナの姿が消える。




フェイとレイナの二人の前には出店が建ち並び、賑わうグルタの商業区の大通りがあった。


「これからどうしようか?三つ目のオーブはヴァルキリアの手に渡っちゃったし、リーシュも…」


「ん〜そうじゃの、奴らの居場所さえ分からないからな」


「クレイルさんなら、何か分かるんじゃ」


「そうやも知れんな、ではあいつの元へ行ってみるか」


「冥界に?でも、何処から行けば」


「ここからだと南西にあるラウナ火山から行けるはずじゃ」


「じゃあ、そのラウナ火山に向かおう」


「まぁ、待て、ラウナ火山は生きとし生けるもの全てに死を与える場所じゃ」


「そんなに危険な所なの?」


「人にとってはな…」


「ラウナ火山は常に有毒ガスが発生している所なのよ」


「じゃあ、どうすれば…」


フェイ達が困っている所へ何者かが声を掛ける。


「こんな所で何をしているんだ?」


それはグラハムでラスティンと共にいた。


「僕たちはこれからラウナ火山に向かおうって話をしてて…」


「あんな危険なところに子供だけで!?例え大人でもエアプレスが無ければ一秒も持たない危険な場所なんですよ」


ラスティンが語気を強めて言う。


「でも、行かなければいけないんです」


「ならば私が同行しよう、それなら問題ないだろう?」


グラハムはラスティンに確認を取る。


「……仕方ないですね。でしたらエアプレスが必要です」


「エアプレス?」


フェイは聞きなれない用語を復唱する。


「エアプレスってのは空気を容れたカプセルだ」


「正確にいうと風の魔法を応用した酸素マスクみたいなものですよ」


「私は今からそれを取りに行く所だ」


「用事ってのはそれだったんですね、でしたら私が取ってきても」


「他にも用はあるんだ、さぁ行くぞ」


グラハムはグルタの中央区の中心に聳え立つ鋼鉄と硝子の塔に向けて歩く。


『やれやれ、少し頭が痛いですね』


ラスティンは塔を見上げる。




神鋼都市グルタ〜ターミナルタワー〜


四人がターミナルタワーに入ると少女が長い髪を靡かせて勢いよく駆け寄ってきた。


「兄様ぁ〜」


少女はそのままラスティンに抱きついた。


「お帰りなさい、兄様」


「元気だったかい、サリュ」


ラスティンの妹である少女、サリュはフェイやレイナよりも幼く、ラスティンに抱きつき見せる少女の笑顔にはあどけなさがある。


「うん、兄様が帰ってきたって聞いて急いできたの」


「そうか」


ラスティンはサリュの頭を撫でた。


その光景を見ながらグラハムは言う。


「相変わらずだな」


「あんたも居たの、胸だけ女」


兄に対する甘い声色とは別に棘のある声色でグラハムに言った。


「まな板に言われたくないものだな」


「サリュはこれから成長するからいいもん、あんたはこれから落ちていくんだから」


「全く可愛げのない…」


『全く二人が会うといつもこうですね…』


ラスティンは溜め息混じりに思った。


「まぁ二人共、サリュ行こう」


ラスティンはサリュをグラハムから引き離すように立ち去った。


「さて、私達も行くぞ」


グラハム達、残された三人はエアプレスを受け取りに向かう。


「グラハム船長、さっきの子って?」


「あれはラスティンの妹でここグルタの統括代行をやっている」


「あんなにちっちゃな子がこの大きな街を取り仕切っているの?」


「あぁ見えて兄に劣らず、頭が切れるからな…だが、見た目通りまだまだ子供だ」


グラハムはそう言って笑った。


「さて、此処だ」


保管庫と表示された重厚な扉の前に着いた。

グラハムは扉に付いたダイヤル式の三つの錠を操作する。そして、解錠した扉が開く。


「中は少し複雑だ、迷うなよ」


「あの、私達も入って大丈夫なんですか?」

外から見える中の立派な作りにレイナはグラハムに確認を取る。


「心配ない、私が許す…」


「でも(閉じられた立派な扉、厳重な鍵)」


フェイは閉じていた重厚な扉を思い出し、一歩を躊躇う。


「…私の金庫だからな」


グラハムはそう言うと中に歩みを進める。


フェイとレイナもグラハムの後に続き中に入ると扉が閉じる。


「グラハム船長は何者は何ですか?」


奥へと進む道すがらフェイは訊ねた。


「サウザンド号の船長だが」


「そういうことじゃなくて」


「分かってるって」


グラハムは悪戯っぽく笑う。


「此処なら大丈夫か…」


グラハムは立ち止まり、二人の方を振り返る。


「私のフルネームはグラハム・レイ・ギルガメスという…」


「ほう、あの蒐集王ギルガメスの末裔か」


グレネリスはグラハムの名に懐かしさを感じる。


「しゅうしゅうおう?」


「世界のあらゆる珍品や名品を集めた人物、精霊グレネリス氏は知っていたんだな」


「もしかしてオーブもその中にあったの?」

フェイはグレネリスに聞いた。


「いや、その頃はまだ我もオーブの中に封じられておらんかったからな」


『グレネリスがまだオーブでなかった時の』


「だからギルガメスは共に世界を旅した友人だった」


『縁とは奇なものだな』


感慨深く思うとフェイ、レイナ、グレネリス、ミリアリスを順に見た後、背を向けて再び歩き出した。


暫くして三人は行き止まりに辿り着く。


そこは円筒形の場所で壁と床中に大小様々な引き出しがある。


グラハムはすぐに目的の引き出しを開けてエアプレスを取り出すと引き出しを閉めて部屋の中心に向かう。


部屋の中心には引き出しが一つあり、それだけが鍵が取り付けられている。


グラハムは襟口から指を入れて何かを引き出した。それは首に掛かる紐で全てが内から出ると紐には鍵が繋がっていた。


その鍵を引き出しの鍵穴に差し込んで解錠する。


床の引き出しはゆっくりと迫り上がり、円柱状の硝子が現れる。


硝子の中には黄金の剣とその柄を掴む左腕があった。


「大丈夫、そうだな」


グラハムは硝子の中のものを確認する。


「これは何なんですか?」


「慾深き者の左腕、ギルガメスの名を継ぐ者に受け継がれているものでよくは分からない。ただ『目覚めの兆しがあれば破壊しろ』という言葉も受け継いでいる」


グラハムはそう言い終えるとグレネリスとミリアリスに訊ねる。


「因みにこれに関して精霊の方々は何か知っていますか?」


「我は知らんな」


「私も同じく知らないわ」


「話を聞く限り、危険そうなものみたいですけど目覚める前に壊してしまえばいいんじゃないですか?」


フェイは硝子に顔を近付けて中のものをまじまじと見る。


「壊せたならそうしてる、どうやってこの中に入れたか分からないがこれはどんなものを使っても壊せない」


フェイは手の甲で軽くコンコンっと叩いてみた。


「確かに固そう…」


フェイの耳に何か聞こえた。


「誰だ!」


フェイは睨むように周囲を見回すが部屋の中にはレイナとグラハムの姿だけだった。


「どうしたの?フェイ」


「今、誰の声が」


「私には何も聞こえなかったけど」


「私もだ」


「確かに聞こえたんだ」


「だが、私達以外に此処へは入れない入口には鍵が閉まっているからな、それに私が中にいる内は外から開けることはできん」


「また聞こえた」


またフェイにだけ声が聞こえた。


「何処だ!」


フェイは語気を強めて言うと突然、罅割れる音が響いた。


「なっ!?」


グラハムは驚きの声を上げる。


視線の先には内側から亀裂が入る円柱状の硝子がある。


「何故、突然」


更に亀裂が広がり、外側まで達し、三人は円柱状の硝子から後ずさる。すると円柱状の硝子は砕けて崩れる。


そして、中にあった慾深き者の左腕が禍禍しい気を放ちながら宙に浮かんでいる。


『寄越セ力』


今度はレイナとグラハムにも声が聞こえた。


「この声はあの左腕か?」


グラハムは警戒しながらしゃがみ、足元の小さな引き出しの取っ手に手を掛ける。


「レイナ、そのままゆっくり下がって出口へ」


フェイはエレメンタルブレードを構えて、庇うようにしてレイナの前に立つ。


「うん」


レイナは胸の前にある蒼穹のオーブを左手で掴みながら後ずさる。


慾深き者の左腕は何の前触れもなく黄金の剣でフェイに向けて斬りかかってきた。


フェイは僅かな所作で黄金の刃を受け止める。


『寄越セソノ力』


慾深き者の左腕が胎動し、左腕の断面から触手が暁のオーブに向かって伸びる。


「こいつ、オーブを狙って」


フェイはすぐ様、受け止めていた黄金の刃を払い除けて距離を取ると意識を背後に向ける。


『レイナは部屋の入口まで下がったみたいだな』


そう思っていると慾深き者の左腕は再び斬りかかってきた。だが、今度は銃声と共に左手が撃ち抜かれ、黄金の剣が床に投げ出された。


フェイは視線を少しずらすと長剣と一体となった銃を構えるグラハムがいた。


「今のうちに」


グラハムの言葉にフェイはエレメンタルブレードを逆に持ち、両手で慾深き者の左腕に降り下ろす。


だが、慾深き者の左腕は先程伸ばしていた触手で床の引き出しの取っ手を掴むと触手を収縮させてフェイの降り下ろした刃を躱す。


慾深き者の左腕は触手を増やして、床の引き出しの取っ手を手当たり次第、掴んで引き抜いた。


引き抜かれた引き出しは中身を撒き散らしながらフェイやグラハムに向かって投げ飛ばされる。


「あいつよくも」


グラハムは飛んできた引き出しを躱して、慾深き者の左腕へと三発、銃弾を放つ。


放たれた銃弾は引き出しを引き上げた触手を撃ち抜く。引き出しはその場で落ちて、床に中身が転がり出る。


「あれは」


フェイは床に転がり出た見覚えのある石に目が止まる。


『あれを取り込めば一気に片が付くかも』


その思惑に反応するかのように慾深き者の左腕は触手を使い、床に転がっている石を掴み取ると腕の中に取り込んだ。


「どうして!?」


自分の思いを読んだかのような行動に声をあげる。


突然、保管庫の壁の一部が爆発する。


『主様、なんとおいたわしや』


悲しむ少女の声がその場にいた全員に聞こえた。




ターミナルタワー〜最上階・総統括室〜


最上階の一室、サリュはソファーに座り、膨れっ面で呟く。


「全くお兄様がどうしてあんな女と一緒にいるのかわかりません」


「それは分かっているはずですよ?」


「はい…でもぉ…」


ラスティンはソファーに座るサリュの後ろから頭に手をポンっと乗せた。


「大丈夫」


サリュは頷いた。


「さて、都市機能と財政状況、各部署の報告書は?」


ラスティンがそう聞くとサリュは目の前の脚の低い長机の上に置かれたファイルを取る。


「報告書はこのファイルに都市機能、財政状況は変わらず正常に動いています」


サリュはラスティンにファイルを渡した。


「今回は以外に随分と少ないね」


「いえ、お兄様…それはここ数日のもので……残りはそこに…」


サリュは壁に列んでいる棚の一つを示した。


「やはり、そうですよね…仕方ないやりますか」


ラスティンはファイルに目を通していく。


サリュはソファーから立ち上がり、窓際に近付く。


「お兄様はグルタの外にある、あれはなんですか?」


「通信で伝えたはずですが…」


「それは、あの、お兄様が帰って来たと聞いて…その…」


「あれは異次元からの移住者の舟ですよ」


「異次元?そんなものが実際にあるのですか?」


「私も詳しいことは分からないが俗に天使と呼ばれる天上人だそうですよ」


「天使、やっぱり羽根があるのですか?」


サリュは目を輝かせてラスティンに訊ねた。


「聞いた話では羽根はあるみたいですよ」


「そうなんだ」


サリュは窓に張り付くように方舟を見詰めながら漫ろに体を揺らす。


「サリュ、彼等を迎え入れる手続きをしておいて下さい」


「分かりました、お兄様」


サリュは浮かれ気分で総統括室から出て行った。


「んっこれは…」


ラスティンはファイルの一つの項目に目を止め、窓際にある執務机の端末を操作する。


「ラウナ火山の磁針振動数値が異常な数値を示している」


表示されている文字と数字が赤く明滅している。


「あの舟の影響か…?」


窓の方を向き、遠くに見える方舟を見た。すると下層から振動を感じた。


「この振動は何です」


ラスティンは下を覗き込むと煙が上がっていた。


「あの辺りは保管庫がある…」




ターミナルタワー〜保管庫〜


爆発で巻き上げれた土埃が晴れると慾深き者の左腕の前に立つ和装のような装いの長い黒髪の少女がいた。


少女の右手には慾深き者の左腕が最初に握っていた黄金の剣があった。


徐に少女は黄金の剣の刃を自らの左腕に当てると素早く右腕を引いて、左腕を切り落とした。


その場にいたフェイ、レイナ、グラハムは少女のあまりの行動に言葉無くその様子を見ていた。


少女は流れ出る血をそのままに黄金の剣を床に突き刺し、残る右手で血に染まる慾深き者の左腕を拾い上げた。


そして、拾い上げた慾深き者の左腕を空虚な左腕に当て行った。すると流れ出ていた血が止まり、色が違う肌が綺麗に繋がった。


「主様、遅れて申し訳ございません」


『彼者ノ力ヲ』


「承知しました」


和装の少女はフェイに視線を向けて、黄金の剣の鋒を向ける。


「一体、何者なんだ」


「確かなのは戦いは避けられんということじゃろう」


フェイもエレメンタルブレードを構えて対峙する。


そこへ少女に向けて一発の銃弾が放たれる。だが、少女は右手首を返し、銃弾を黄金の剣で弾く。


「ちっ、目障り」


少女は手で弾くように剣を左手に持ち変えると同時にグラハムの方に向けて足を踏み出す。


僅かな時間でグラハムとの間合いを詰めて、黄金の剣を左下方から右へと斬り上げる。


斬り上げられた刃は長剣と一体となった銃の刃部分の接合部に直撃し、刃が外れて天井に弾き飛んで突き刺さる。


少女は振り上げた左手を同じ軌跡で降り下ろす。だが、刃の軌道が途中で変わり、床に黄金の刃を突き刺し、剣に体重を掛けて床をけって体を跳ね上げる。すると少女がいた場所に朱い刃が過ぎ去る。


黄金の剣の上で逆さまの少女は飛び上がり、天井に着地する。


「身軽の域を通り越しているな」


グラハムは見上げて銃を構える。


「なんで天井に立って…」


少女は天井を駆ける。


グラハムはすぐに引き金を連続で引いていく。だが、放たれた銃弾は全て躱される。


少女の向かう先にはレイナがいた。


「来るわよ、レイナ」


「うん」


蒼穹のオーブを握る手に力が入る。


少女は駆ける勢いのまま天井を蹴り、体を捻りながら床に着地する。


すると少女は動きを止めた。


少女の足元には水が溜まっており、その水が少女の体表を網目状に覆っている。


拘束された少女の右手の袖口から丸いものが床に落ちる。そして、次の瞬間、丸いものが爆発、少女は炎に包まれる。


炎により体表を覆っていた水は蒸発し、少女は左手の黄金の剣で炎を一振りで掻き消した。


そこへ少女の背後から振り下ろされる太刀、それは少女の左腕、いや、慾深き者の左腕を切り落とした。


不意に与えられた衝撃により少女は床に膝を突き、床に倒れる体を右手を床に突いて支える。


少女は首だけを動かして後ろにいる人物を睨む。


そこに立っていたのはフェイだった。


「お前は何なんだ?」


フェイはエレメンタルブレードを構えたまま聞く。


少女は何も答えず、右手で黄金の剣を持つ慾深き者の左腕を掴み、フェイに向けて振るうと高い音が響く。


交わる刃、弾く刃、流れ出る血、舞う黄金の剣。


少女は再び左腕を繋ぐ。そして、宙を舞う黄金の剣が輝き、光が保管庫内に満ちる。


フェイ、レイナ、グラハムは光に目が眩む。光はすぐに収まったが三人の視界は暫しの暗闇の後、瞳に部屋の輪郭が映る。


だが、少女と慾深き者の左腕、黄金の剣の姿は消えていた。


「これは酷いですね」


爆発で開いた穴からラスティンが現れ、荒れた室内を見回す。


「何があったんですか?」


銃剣の替え刃を付け替えているグラハムの姿を見つけて聞いた。


「なんと言えばいいのか…」


ラスティンは再び室内を見渡し、状況を把握する。


『あの左腕が動き出したようですね…』


フェイは和装の少女がいた場所で床に転がる石を拾い上げる。


「やっぱりあの石だ」


拾い上げた石は突然、砕けて塵となる。


塵はフェイの手のひらの上を漂いながら淡い光を放ち、暫くして暁のオーブの中に吸い込まれていった。


「……そうか、あれはヴェルフの」


グレネリスは何かを思い出して呟いた。


「ヴェルフ?」


「あぁ、ただの愚か者の名じゃ」


「さっきのあれって何だったの?」


レイナがフェイに声を掛ける。


「それはグレネリスが知ってると思う」


フェイとレイナの視線は暁のオーブに集まる。


「あの小娘は何者か知らんが、左腕はヴェルフという男のものじゃ」


「何者なんだそれは?」


グラハムとラスティンが二人の元にやって来た。


「ギルガメスの友人であり、ギルガメスに死を与えた者でもある」


「でも、どうしてその人の左腕だけが」


「それはあいつの末路が左腕を残し、全て消えたからじゃよ…」


グレネリスの思考に左手を伸ばす男の姿が過る。


「それから何があって此処に保管されてたのかまでは知らんが」


「この保管庫に詳しいことが分かるものがあるかもしれないな」


「それならルカが適当でしょうね」


グラハムの言葉にラスティンが適任だと思われる人物の名をあげる。


「…確かに彼奴なら私よりこの中に納められたものに詳しいかもな…」


「では、船に連絡をしておきます」


『横道にそれて本来の目的を見失わなければいいがな』


グラハムはルカの性格を鑑みて、不安に思う。


「それで目的のものは確保しているのですか?」


「あぁ、問題なくな」


「なら、此処はまかせてラウナ火山へ」


「分かった」


グラハム、フェイ、レイナの三人は壁の穴から外へ出る。




和装のような装いの長い黒髪の少女。その左腕の接合部、肌の色の違う境から少女の喉元に触手が伸びる。


触手は首に巻き付いて締め付ける。


「あぁ、あるじさ、ま…」


少女は意識が遠退いて地面に倒れ、顔の穴から体液が漏れる。


声にもならない声をあげると少女の首から触手がするりと外れる。


少女は妨げられていた空気を急いで取り込もうとして咳き込む。


『飢餓状態カラハ脱シタ』


周囲には干からびて枯れ木のようになった人々、いや、だったものがある。


「…主様…これからどうされる」


少女は息を整えて訊ねた。


『宝物殿ノ鍵ヲ開ケル』


左腕は地面に突き刺さる黄金の剣を引き抜く。そして、剣を振り上げて虚空を縦に振り抜く。


振り抜いた剣の軌跡に黄金の線が現れ、左右に開くと黄金の空間が現れる。


現れた黄金の空間は少女の方向に伸び、少女の姿は黄金の空間に消える。


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