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Shining Heart  作者: 201Z
48/71

11−1


地上界〜コレドル樹海〜


樹海は常に霧が掛かり、湿気に満ちている。

霧が渦を巻き始め、その中心部で次々と稲妻が走る。

稲妻は次第に激しくなり、突然止んだ。

その瞬間、渦の中心にあった木々は大地ごと消え、方舟フォリラテアが現れた。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


クロノスは大質量の方舟を転移させたことで大半の天力を消費して息が乱れている。


「無事に着いたようですね」


フェイクは無事に事が済んだことを王核六花の中に表示されている外部の映像で確認した。


「…はい、でもこれからどうすれば?」


暫く息を整えてからフェイクに訊ねた。


「街に移動した方がいい、ここは樹海ですから」


「街にってどうやって何処にいけば…」


「移動は方舟の飛行機関を使えば造作もない、町については心当たりがある、南東方向へ進路を」


フェイクはクロノスに飛行機関の動かし方を教え、方舟を南東方向に向けて動かさせた。


方舟フォリラテア〜出入核〜


「なんだ?」


グラハムは出入核の壁に映し出された外の映像に目を遣る。


「あれは地上か?いつの間に地上に」


「さっきのあの現象が関係あるんだろう」


ラスティンは転移の時に発生した違和感を示す。


「あぁ、さっきの目の前が眩むような感覚か」


「皆を集めてこれからどうするつもりです?」


甲板には船長の指示により、船員達が集まっていた。


「まずは船の改造をな、動力が使えないんじゃ新たな動力が必要だろう?ちょうどいいことにこのデカブツは神鋼都市グルタに向かっているようだしな」


「そうか、私は部屋に戻って薬品の整理でもするよ」


「そうだ、ラスティン、ついでにトム爺さんに改造の指揮を取るよう伝えてくれ」


「どこかへ行くのか?」


「ちょっとな、あと通信機付けとけよ」


そう言ってグラハムは船員達が告げる。


「お前達!私が戻るまでに船の調整を終えておけよ」


船員達は威勢良く返事をすると各員、駆け出して自分の持ち場に向かう。


グラハムはその様子を確認した後、サウザンド号から降りた。




方舟フォリラテア〜霊廟殿〜


「無事に着いたみたいだね」


フェイは部屋の中に現れた、映像を見て言った。


「どこかしら、ここ?」


「コレドル樹海じゃな、聖域の中とは、また妙な所に出たな」


レイナの疑問にグレネリスが答えた。


「聖域ってあの未開の地、そんな所に!?」


「聖域の中心に降りたようだけどグングニルはどこへ」


ミリアリスは周囲の光景が表示される映像を知覚しながら疑問を呟く。


「あれは常にこちら側にあるとは、限らんよ」


「そうでしたわね」


「グングニルって何なの?」


フェイは精霊同士の会話に出てきた用語について訊ねた。


「グングニルはこの世界そのものであり、世界の一部であるものじゃ」


「どういう意味?」


グレネリスの説明にフェイの頭に疑問符が浮かぶ。


「全ては一つで、その一つが全てっていうことでしょ?」


レイナは自分なりの答えを言った。


「まぁ、そういうことじゃな」


「ん〜よくわからない」


「そのうち分かるじゃろう」


「ん〜」


外を映し出している映像とは別に映像が現れれ、クロノスの姿が映っている。


「フェイ君、レイナちゃん、聞こえる?」


クロノスの呼び掛けに二人は返事をする。


「私のいる所まで来てもらえる?場所はここ」


クロノスの映像が消え、現在位置から王核六花まで道筋に印がついてる地図が表示された。

フェイとレイナは霊廟殿から回廊に出た。

回廊には避難してきた者達はもうおらず、フェイとレイナが霊廟殿から出てきた所をグラハムが声を掛ける。


「こんな所にいたのか」


「無事だったんですね」


「どこへ行く所だったんだ?」


「クロノスさんの所へ」


「私も一緒に行っていいか?」


「構わないと思いますけど」


三人は王核六花へ向かった。




方舟フォリラテア〜王核六花〜


三人はクロノスに指示された場所に着いた。


「船長も一緒のようですね」


「来る途中で会って、駄目でしたか?」


「いえ、構いません」


「それで何の用なんですか?」


「この方舟フォリラテアは今、南東方向にある…」


「神鋼都市グルタだな」


「正解です」


「確かにあそこならこのデカブツに乗っている奴らを受け入れてくれるだろうな、あんたの考えで?」


「いえ、そこにいるフェイクさんが……」


さっきまでいたはずのフェイクが居なくなっている。


「あれ?」


「何を考えているだ、あいつ」


フェイは自分でもわからない苛立ち見せる。


「あの人は悪い人じゃないありませんよ」


「でも、追放されたってことは何かしたんでしょ?」


「…たぶん理由があったんだと思うわ、当時の記述は全て残されていないから分からないけど」


「そんなもの、詮索してもなんの意味はない、知ったところでそれは過去のことじゃ」


一同は沈黙する。


レイナは雰囲気を変えるためグラハムに訊ねる。


「グラハム船長、グルタってどんな街なんですか?」


「グルタは神鋼都市と名の通り、鋼業中心とした街だ、これで船の改装ができる」


「改装って、船に何かあったんですか?」


「動力源の后玉クーゲルが奪われて動かなくなったからな」


「クーゲルじゃと!?」


グレネリスはグラハムの発言に驚愕する。


「そんなに驚いてどうしたの?グレネリス」


「驚きもするわい」


「クーゲルはオーブの別名よ」


ミリアリスはグレネリスが驚いた理由を説明する。


「なんだって!?」


「歴史上、オーブには色々な呼び名があったわって聞いてないわね」


フェイは驚きの余り、ミリアリスの言葉は耳に入らなかった。


「そんな近くにあったなんて」


「あれがお前達が探していたオーブだったとはな」


「(そんな近くにあったと言うのに気付かなかったとは…)一体何処で見つけたんじゃ?」


「あのサウザンド号はある遺跡に眠っていたものだ、その遺跡の最深部に后玉クーゲルがあった」


「ある遺跡とは?」


「それは…」


「それは私から説明しましょうか?グラハム」


茶髪で短髪の学者風の青年が火の点いてない煙草を啣えながら入って来た。


「なぜ、ここにいる?ルカ」


「ここは実に興味深い場所だったんでね」


ルカはフェイ達の元へ近付いた。


「皆さん初めまして、ルカリド・ウィッチ、考古学者をしている」


ルカは啣えていた煙草を手に持ち、自己紹介をする。


「おっと遺跡の話だったな、遺跡は風の神、シルフィードを奉ったイルフェ族の遺跡でグルタの地下に存在している。イルフェ族は元々、異界からやってきたことが遺跡に記されていた風形文字を解読して解った。」


「そういえば、クーゲルについては何か分かったのか?」


「解読できたのは、クーゲルはイルフェが造ったものでないことと『空から賜りし風の子』という一文だけだ」


「イルフェか元々の祖先は冥界に住む異質な力を持つ民じゃな」


「今の声は何処から?」


ルカは何処からともなく聞こえた高年の男の声に周囲を見回す。


「ここだよ」


フェイは片腕を上げて朱い宝珠の埋め込まれた銀色の腕輪を見せた。


「こ、こ、これは!クーゲルと同質のもの、実に興味深い!これを何処で?」


ルカは興奮したように問いただした。


「もしやこれを使えば一時的にでも船を動かせるじゃ…外して調べさせてくれないか?」


「それは無理です、これは外すことができないんです」


「そうか、実に惜しい…」


ルカは酷く残念がる。


「だがあの三人組なんの目的で…」


「三人組って?」


「ロリック団とかいう奴らがクーゲルを奪いやがった」


「ロリック団…何処かで聞いたような」


「森の遺跡であった奴らが確かそんな名前だったような」


「でも、クーゲルがオーブなら奪ったのはその三人組じゃないですよ」


「なに!?じゃあ、誰が?」


「それは恐らく賢者アビスでしょうね」


クロノスはそう答えると王核六花の機能を使い、アビスの姿が写る静止画を出す。


「方舟の記録された映像の中に攻め込んできた者の中にいましたから。多分、賢者アビスはヴァルキリアの元にいるわ」


「何だって!じゃあ、疾風のオーブはヴァルキリアに」


「まずいことになったな」


「そうですわね」


「おぉ〜こんな所にもう一つ、クーゲルと同質のものが!やはりそっちも駄目か?」


ルカはレイナの首に掛かる蒼い石が埋め込まれた首飾りを見つけてレイナに詰め寄る。


「はい…」


レイナはルカの勢いに負けそうになったが断った。


「そうか…じゃあ、またな」


ルカは後ろ向きで手を振り、うなだれるように王核六花から去っていった。


「もうすぐ着くみたいだな」


映像に神鋼都市グルタが見えてきた。


「でも、いきなり行って大丈夫なんですか?」


「それはそうですね」


「それは心配はいらない」


グラハムは耳に付けていた通信機に片手を添えた。


「聞こえたな、ラスティン」


「私は構いませんよ。すぐに居住スペースの用意をします、ソフェルの方々が良ろしければの話ですが…」


ラスティンの声が通信機のスピーカーホンから聞こえた。


「ありがとうございます、ですが少し時間をいただけますか?ソフェルの住人達の混乱がおさまるまでには時間が必要ですから」


「はい、いいですよ」


そして、通信が切れた。


「何者なんですか?」


「あいつはグルタの全てを統括する管理者だからな」


「医者ってだけでも凄いのにそんなに凄い人だったんですね、ラスティンさんって」


「まぁな」


グラハムは何故か自慢気に言うとクロノスに声を掛けた。


「俺の船が入っているドックの扉を開いてくれないか?」


「分かりました」


「では、私は船に戻る」


グラハムは王核六花から出て行った。




〜暗黒闇夜〜


フェイクは回廊を何処かに向かって歩いているとフェルセルクと出会った。


「よく無事で」


「師匠が私を庇って…」


「そうですか…」


「これからどちらに?」


「暫くはまた彼処で彼方の監視になる」


その後は二人は無言で歩く。


フェイクはとある部屋の前で止まる。


『まだ使えるといいんですが…』


方舟フォリラテアの最下層、二人の前には黒い扉がある。


「ここって」


「闇の賢者の部屋です、此処からなら彼等の居場所に行けるはず」


フェイクは扉の取っ手に手を触れる。


すると二人の視界は闇に染まり、二人の姿は扉の前から消えた。


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