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Shining Heart  作者: 201Z
44/71

10−3


レノーブル〜地の神を崇める町〜


グレン達の通った道の先はレノーブルの外周にある石でできた無数の十字架(クロス)が乱立する場所だった。


『ここの何処にネフィルが』


「まずはレノーブルに潜入している部隊に合流しましょう、大佐」


「場所は?」


「聖錬墓地」


「墓地に拠点が?」


「潜入している部隊の隊長、ラズーリは変わり者ですから」


「へぇやっぱり余所者が紛れ込んでるのね、良い話を聞いたわ」


グレン達の五人の前に臙脂色のローブを纏い、フードで顔を隠した女性が現れた。


「こんなに早く見つかるとは…」


「ここは俺が」


コルカスは腰に携えた刀を抜いて前へ進み出る。


「任せる、メイテはコルカスの補佐を」


メイテは包帯を解く。


「ゴーギャン、0地点のマークは?」


「出来てるある」


「逃げる気?そうはさせないわ」


臙脂色のローブを纏うフードで顔を隠した女性は両方の掌に袖口から銀の棒状の(シルバースティック)を出し、右手のシルバースティックでアーニャ達の方へ振り掛かった。だが、それをコルカスが刀で受け止めた。


「貴様の相手は俺だ」


コルカスが臙脂色のローブの女性を抑えている間にアーニャとメイテ、ゴーギャンの姿が霞のように消える。


「はぁ〜逃げられちゃった…せっかく多い方を選んだのにな!」


臙脂色のローブの女性は左手のシルバースティックでコルカスに突きを放った。


コルカスは刀で受け止めていたシルバースティックを受け流し、そのまま刀の鋒を地面に突き刺すと相手の左手が放ったシルバースティックの突きを刀を支えに横方向へと回転して躱した。そして、その勢いのまま地面から刀を引き抜き、突き出された相手の左腕に向けて切り上げる。


「思ったより出来そうね、でもね…」


左手のシルバースティックが先端から八つに裂け、切り上げられた刀の刃を掴み止めると右手のシルバースティックをコルカスの脇腹に突き刺した。


「ぐぁっ…」


コルカスの手から刀が離れる。


「ふふふっ…苦しみなさい」


コルカスの脇腹に突き刺さるシルバースティックの中程から八つに裂けて傷口を開いていく。


「ぐわぁぁぁ…」


コルカスの悲痛の叫び声が空を切る。


「いい声、ゾクゾクしちゃう…うふふ…」


臙脂色のローブの女性は歓喜の笑い声をあげた。


「了いだな」


臙脂色のローブの女性はコルカスの前で俯いたままボーッと立ち尽くしており、コルカスの背後にメイテがいた。


「そのまま寝ていろ」


コルカスとメイテはアーニャとゴーギャンのいる聖錬墓地へと向かう。


「ほんと、楽しませてくれるわ」


臙脂色のローブの女性は二人が去った後に俯いたまま笑みを浮かべて呟いた。




臙脂色のローブを纏い、フードで顔を隠した少年は神殿の後方に建ち並ぶ町、通称裏町、その西側のある路地を歩いていた。


「いた」


少年は目的の人物を見つけて近付いていく。


「おじさん、此処で何してるの?僕と遊ぼうよ」


「いまは用があるからまた今度な」


「遊んでくれないんだ…じゃあ、仲間がどうなってもいいの?」


「お前、ただの子供ではない」


「正解、僕と遊んでくれたら仲間を助けてあげてもいいよ」


少年は満面の笑みで言った。


「分かった…(真偽は不明だが今は相手の話に乗るのが無難か)」


「やったぁ、何して遊ぼうかなぁ〜?」


嬉しそうに考えている。


「そうだ、あれにしよう」


少年は透明な球を出し、二人の間の地面に投げた。すると透明な球は砕け散り、周囲がブラックアウトする。


暗闇の中でも二人の姿ははっきりと見てとれる。


「何を始める気だ」


「見てれば解るよ」


離れた二人の間に格子状の線が現れた。


少年は左手を胸の前から左に振り払うように動かすと駒が現れた。


「チャトランガか」


「ただのチャトランガじゃないよ」


そう言い、盤上に何かを投げた。


盤上を賽子(ダイス)が転がる。


少年は「赤の三」と言い、手も触れずに盤上の駒を三つ動かすとダイスはラズゥールの手に移動した。


「…」


ラズゥールは手にあるダイスを見る。


ダイスには一から三の数字が二組づつ刻まれていて、それぞれ赤と青に分かれている。


「赤色の数字が攻撃可能で青色の数字が移動のみ可能だよ」


ラズゥールはダイスを盤上に投げた。


『赤の二』


「駒は頭の中で念うだけで動くよ」


ラズゥールは二つの駒を動かした。


ダイスを投げるとまた赤の三を出した。


「やったね、行くよ」


少年は駒を動かし、ラズゥールの駒に攻撃した。


少年の駒から雷撃が出て、ラズゥールの駒を破壊してラズゥールの駒がいた升目の上に移動した。


駒が壊れたのと同時に何処からともなく、鎖が現れてラズゥールの右手首に巻き付いた。


「なんだ、これは!」


「それはね、ジャッチメントチェーン。自分の駒が破壊される事に増えていき、最後には敗者の命を奪う」


少年は愉しそうに言うとラズゥールに行動を促す。


「さぁ、そっちの番だよ」


ラズゥールはダイスを振り、駒を進めた…。




臙脂色のローブの大男が裏町中央にある、一軒の家の前にいた。


「失礼承知」


大男は家の扉を見えない力で粉砕して中に入った。中に入ると破壊音を聴いて奥からアンジェラとネフィルが出て来た。


「使徒キャトルニカ…」


アンジェラが大男の名を口にする。


「其方引致」


キャトルニカはネフィルを指差し言った。


「アンジェラ、下がってろ」


ネフィルは手でアンジェラを後ろに退かせると同時にもう一方の手で拳銃を引き抜いた。


「抵抗無駄」


ネフィルは突然、強い目眩に襲われて倒れた。


「ネフィル!ネフィル…」


アンジェラが何度も呼ぶ声がどんどん遠退きネフィルは意識を失った。


「もっと穏便にできないのですか?」


「加減無理」


そこへ臙脂色のローブの者達が入って来て、ネフィルを運び出そうとしている。


「手荒な真似はしないで下さいね」


「承知しました、聖母様」


キャトルニカと臙脂色のローブの者達はネフィルを連れて出ていった。


「お姉ちゃん、あの人を何処へ連れていくの?」


マリーが奥から出て来て聞いた。


「心配しなくて大丈夫よ。地神ノーム様の加護を賜る為に神殿へ連れていくだけよ、この町に入った人は必ずしなければならないの」


アンジェラはマリーにそう言い聞かせた。


「マリー、一人でお留守番できるわね。ミュートを見つけたらすぐに帰るよう言っておくから」


マリーが頷くのを見て、アンジェラは出て行った。


「聖母はまた隠し事をしているようだぐぅ」


何処からともなく声が聞こえた。


「そんなことないよ」


聞こえた声に対してマリーは怒った口調で言うと服のポケットから何かを出して壁に投げ付けた。


「ひどいだぐなぁ〜」


クマのヌイグルミがフラフラと浮き上がり言った。


「ミラがお姉ちゃんのこと、悪く言うからでしょ」


「僕が言ったんじゃないだぐ。僕は魔女マリアンヌ、君の心を代弁しただけだぐ」


「誠名を口にしちゃダメって言ったでしょ!?今度、言うと消しちゃうよ」


「ごめんだぐ…やっぱり聖母が何か隠していると思うから、神殿に行くだぐ」


ミラはフワフワと移動してマリーの肩に乗る。


「わかった、そんなに言うなら行って何も隠してない事を確認しよ」


マリーとミラは家を出て、神殿に向かった。



神殿〜地の神の聖域〜


「来たな」


臙脂色のローブを纏った老公の男性が教会で一番高い大地の塔の上から眼下を眺めていた。


「…」


ルナは教会から微かに不思議な力を感じた。


「誰かの視線を感じる」


「何処からか判りませんが確かに見られてますね」


クレイルもルナと同様な気配を感じ取る。


「入るのか?」


ワグも何かを感じ取ったのかレルクに聞いた。


「はい、この中に愚者の森へと続く道があったはずです」


「はず?」


「昔のことなので、いまはどうか判りませんから」


ルナ達は神殿の入口へと足を踏み出した。


神殿の入口には二人の臙脂色のローブを着た者が立っており、ルナ達の方を見ている。


「お前達、町の者ではないな」


「はい、地神様の加護を賜りたくやって参りました」


「残念だが今は中に入ることはできない」


「どうしてです?」


「地神様に反する者が侵入したとの報告が入っているからだ。まさか、お前達ではあるまいな?」


臙脂色のローブの者達が四人に疑いの目を向けると突然、神殿の入口の扉が開いた。


「アンテラ様」


「門前で何をしているんです?」


臙脂色のローブを纏った老公の男性が姿を現す。


「いえ、この者達が地神様の加護を賜りたいと言っており、今は入れることはできないと断っていた所で」


アンテラはルナの瞳を見てから答えた。


「この方々は心配ない、通しなさい」


臙脂色のローブの二人はアンテラに指示に従い、ルナ達を神殿の中へと通した。


中は色鮮やかなアフレスコが天井に描かれており、精緻な細工が施された床や壁、柱が配置されている。


「わざわざ此処まで来られたというのに申し訳ありません、聖堂の一番奥が礼拝堂となっていますので私がそこまで案内します」


アンテラはルナ達を連れて礼拝堂へと神殿内を進んでいく。




レノーブル〜聖錬墓地〜


「本当に此処が潜入部隊の潜伏場所なのか?」


グレンは懐疑的な言葉をアーニャに向けて言った。


「そのはずなんですが…メイテ」


「はい」


メイテの包帯がスルスルと解けて、メイテの周囲を浮遊する。


暫くしてメイテは何か感じ取り、前方に包帯を移動させる。


「きます!」


前方から光の弾が複数飛んできた。


メイテの法印が淡く光り、包帯が各光の弾に対して輪を作るとその輪に光の弾が飛び込んだ。そして、光の弾は全て輪の中心で動きが止まる。


「敵か!?」


「いえ、潜入部隊の部隊長です」


包帯の輪に留まっていた光の弾が包帯の中に消える。


「いやいや、反応が早いでんなぁ」


声が聞こえ、臙脂色のローブを纏う、目が隠れるほどの長さの前髪の男が前から歩いてきた。


「アーニャの部隊は精鋭揃いでええな」


「一人なの?」


「他の奴らはやられてもうてこの墓地に眠っとるわ」


ラズーリはアーニャの質問に答えるとグレンに視線を移す。


「そっちのあんたは見ん顔やな」


「こちらはグレン大佐」


「これはこれは大佐さんとはつい知らず、こんな言葉使いでえらいすんまへんな、でも大佐自ら最前線に出て来るとはそないえらい事になってたんやな」


「いや、そういうわけではないが大切な部下の為に」


「大佐さんは部下想いの方でんなぁ」


「それよりラズーリ、ネフィル少佐をレノーブルで見たという通信が貴方の隊の部下からあったそうなんだけど聞いてる?」


「それなら聞いてる、確か聖母って呼ばれる女の家にいるゆうてたな」


「場所は?」


「裏町や、案内したる」


「お願いするわ」


アーニャ達は行こうと向きを変えたがラズーリに止められた。


「ちょい待ち、その格好じゃあかん」


ラズーリは埋葬の為に掘られた穴の横にある棺桶の蓋を開け、ゴソゴソと探すと臙脂色のローブを人数分取り出した。


「これ着いや」


アーニャ達はローブを着た。そして、聖母の家へと向かう為、聖錬墓地を出た。


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