10−2
レノーブル〜地の神を崇める町〜
「驚いたな、千年も経つというのに昔と変わりないとは」
レノーブルは神殿を中心として町で外周をぐるりと無数の石でできた十字架が町を囲んでいる。
「止まれ!」
町の門の前で臙脂色のローブを来た二人の男に止められた。
「お前達、旅人か?」
「そうです」
門番の問いにクレイルが答えた。
「地神眠るレノーブルに何用です」
「奥にあるもり…」
クレイルが答えようとした所、ルナが腕を掴む
「もり?」
臙脂色のローブの男はクレイルの言葉尻を取り、疑問符を浮かべる。
『此処で本当の事を述べても通れないだろう』
クレイルの中にルナの声が聞こえた。
「いえ、地神様の加護を受けたくレノーブルに来ました」
クレイルはルナの言葉に合わせる。
「えぇ、旅の途中でこの子が不治の病を患いまして、どうか、地神様の加護を」
それを聞き、門番の口調が変わった。
「それは大変でしたね、どうぞお通り下さい」
「地神様の加護があらんことを」
二人の門番は共に口にする。
クレイル達は門を通過して曲がろうとした所で…
「待て」
門番がクレイル達を呼び止める。
「なんでしょうか?」
「神殿はそこを真っすぐ町の中心にある」
「ありがとうございます」
クレイル達は言われた通り町の中心に向かった。
「何とか通過出来ましたか…」
「隠れろ!」
ワグは路地に隠れると他の三人も路地に隠れた。
そこへ臙脂色のローブを纏い、フードを被った者達が遽しく現れた。
「何処へ行った!?」
「確かに奴らだったんだろうな」
「あぁ、服に冥王のレリーフがあった」
「まだ見つからないの?」
一人、雰囲気の違う臙脂色のローブの人物が訊ねた。
「はい、もしかしたら誰かが匿っているのではないかと…我々ノーム教のローブを着た者がその者達と一緒にいたという報告もありますから」
「そっじゃあ、早く捜しなさい」
「はい」
臙脂色のローブの者達は情報を元に急いで捜しに向かった。
「こんな所で邪魔が入っちゃ困るわ」
一人、残る臙脂色のローブの人物が呟くと頭の中に声が聞こえる。
『確保した…』
「先越されちゃったわね」
臙脂色のローブの人物は何処かに向かって歩いて行った。
メルテクス〜痕跡〜
「これは町が完全に消滅している」
メルテクスに到着したグレンと兵士達は前には大きく抉られた大地があった。
「グレン大佐、ゼンゲル砦からポイント72に不穏な動きありとの情報が入りました」
「ポイント72…あの町か」
グレンと兵士達はゼンゲル砦に向かった。
ゼンゲル砦〜隠微な拠点〜
メルテクスから半時程の距離にある渓谷に隠されるようにある砦。
その廊下で細身の男性が敬礼でグレンを出迎える。
「大佐、お待ちしておりました」
二人は傍の一室へと入る。
「グラス大尉、状況は?」
「はい、ポイント72、レノーブルに潜入している者から信者達が何やら不穏な動きがあると通信があったのですが途切れてしまって」
「そうか」
「あと通信の途切れる前に、ネフィル少佐と冥王のレリーフを付けた二人の者を見たという情報も」
「なに!?(そうか、少佐が生きて…)」
「いかがなさいますか?」
「大尉、アーニャの部隊を借りれるか?」
「構いませんが、何をなさるおつもりですか?」
「私が指揮を取り、町に潜行する」
「大佐、自らですか!?危険です、向こうの出方もわからないんですよ」
「だが誰かが行かねばな、それに自分の大切な部下だ、自ら赴かねばどうする」
「…分かりました、少尉はB−5会議室にいます」
「分かった」
「お気をつけて」
グレンは少尉のいるB−5会議室に向かった。
B−5会議室では兵士が数人集まっており、上官が一人の下級兵士に説教をしていた。
「セント、戦場における大事な事はなんだ?」
「えぇ〜それは〜その…」
「はぁ…何度言えばわかる、それはな…」
説教をする上官に声が掛かる。
「相変わらずだな、アーニャ」
アーニャは突然の声にそのままの調子で視線を向けた。
「た、大佐ぁ〜!?お久しぶりです」
大佐と聞いた瞬間、その場にいた者は敬礼した。
その様子にグレンは言う。
「楽にして構わない」
「少尉、誰なんですか?」
「はぁ…」
アーニャはセントの発言に呆れた。
「それぐらいの事知っておけ、こちらはな北方司令部を仕切る、グレン大佐だ」
「そうなんですかぁ〜」
「全くお前は…『そうなんですかぁ〜』じゃないだろう、基礎は駄目、鍛え方も足りない、命令もまともに出来ない、それに…」
「アーニャ、そのくらいでいいんじゃないか?」
「いえ、こいつにはしっかりと言っておかないと…そういえば大佐はどうしてここへ?」
「ポイント72に潜入してほしい、勿論、私も同行する」
「ポイント72、またどうしてですか?」
「部下があそこにいる」
「変わりませんね、そういう部下想いな所」
アーニャは微笑んだ。
「わかりました、コルカス、メイテ、ゴーギャン準備を」
刀を持った男、ほぼ全身に包帯を纏った女、尖った耳と朱い眼を持つ女が立ち上がり会議室から出た。
「隊長、僕はどうすれば?」
「お前は居残りだ」
「なんで!?」
「それも解らない奴を連れていっても死ぬだけ」
セントに言い放つと扉に向かう。
「行きましょう、大佐」
アーニャとグレンは会議室から出ていった。
「クソッ!」
セントは憤慨し室内の椅子を蹴り飛ばした。
「何が悪かったんだ…」
セントは落ち着き、椅子に座った。
「すまなかったな、突然頼んでしまって」
「いえ、かつての部下に気を遣わないで下さい」
二人は通路を会話しながら歩いていき、第三格納庫と表記された場所に着いた。
「大佐、部隊の隊員を紹介します」
コルカス、メイテ、ゴーギャンは整列した。
「右からコルカス、メイテ、ゴーギャン。コルカスは腰に携えた刀を自在に操る事のできる剣士。メイテはあの包帯の下に自ら施した法印を用いて治療、防御、補助系統の力を発動させることができます。ゴーギャンは見ての通り幻影の血を継ぐイルフェ族です」
「アーニャ、優秀な人材を集めたな」
「ありがとうございます」
アーニャはグレンの言葉にお礼を言った。
「ゴーギャン、道の準備は」
「外周にあるクロスのせいで町から離れた場所にまでしか作れないね」
「私の力を加えればクロスまで繋げる」
「その手があったね。じゃあ、始めるある」
ゴーギャンの瞳が鮮やかな紅に染まるとメイテの腕に巻き付いていた包帯が自然に解け、その下から様々な模様が入る肌が露わになる。
解けた包帯の先がゴーギャンの背中にスゥーッと擦り抜けるように突き刺されるとゴーギャンの瞳孔が開いた。
「繋がったあるよ」
メイテの包帯がゴーギャンの背中から抜け、包帯はメイテの腕に元通り巻き付いた。
「ではコルカスは先陣を」
「承知」
コルカスはそう言い、ゴーギャンの前方へ歩いていくと突然、姿が消えた。
「消えた!」
グレンは驚き思わず、声をあげた。
「驚きました?」
そう言うとアーニャはコルカスの消えた地点に歩いていった。
「イルフェ族の能力の一つで、このように…」
アーニャは腕を前に出すと腕が消えた。
「…空間に影響を与える」
「これが噂に聞くイルフェ族の力か…」
「コルカスから合図がきました」
「大佐、行きましょう」
残りの隊員とアーニャとグレンはゴーギャンの作った道に入った。
レノーブル〜地の神を崇める町〜
使徒と呼ばれる者達が意識を通じて会話をしていた。
『また増えたぁ』
愉しそうな少年の声が聞こえた。
『来客多々』
少年の言葉に片言で同感する。
『捕まえた奴は何処にやったの?』
女性の声が誰かに訊ねる。
『聖魂乃間にいる』
落ち着いた老公の男性の声が聞こえた。
『そう、生贄にするの』
そう言うと女性は意識の向こうで笑みを浮かべた。
『侵入何人?』
片言の男が少年に聞いた。
『全部で十一だよ』
『場所は?』
今度は落ち着いた老公の男性が少年に聞いた。
『神殿前に四、裏町中央に一、裏町西に一、外周東に五だよ』
『ちょうど四ヶ所か』
落ち着いた老公の男性は四人いる使徒を意識する。
『私は一番数の多い、外周東をやるわ』
女性は我先にと言わんばかりに選択する。そして、次に少年、片言の男、落ち着いた老公の男性と場所を選んでいく。
『じゃあ、僕は裏町西へ』
『裏町中央』
『では残る神殿前の四人を』
四人の使徒はそれぞれ場所に向かった。




