10−1
冥界〜閃光の痕跡〜
「うまくいったが…(やはりまだ厳しいな)」
ルナはよろめき倒れそうになった所をレルクが支える。
「ここは…」
クレイル、ルナ、レルク、ワグの四人の目の前には大きく抉られた大地が広がっていた。
「これをあの光が…何て力…」
クレイルは気付く自分の立っている場所が全く別の場所であることを。
「…どうして?」
「戻った力を使って町の外までお前達を飛ばした、住人もとはまでいかなかったがな」
「そうですか…今、戻った力と言いましたが、コア・フラグメントが?」
「あぁ、何故かはわからんがな」
『…創者が易々と返すとは思えませんが…』
クレイルは疑問に思い、少し考え込んだ。
「これからどうしますか?」
レルクはルナに聞いた。
「愚者の森へ向かう」
「ではあそこに向かうのですか?」
「そうなるな…」
「千年前のノーム戦役以来ですね…」
『ノーム戦役といえば、確か反政府組織(宗教論者)が町民(ノーム神信者)を先導して、王宮軍との間に起きた戦争でしたか』
クレイルはルナとレルクの会話が耳に入り、自らの知識を引き出す。
「もう千年か…」
ルナは愁色な雰囲気を漂わせる。
『確か先導した宗教論者は…』
クレイルはルナの表情から察する。
「では、レノーブルに向かうか」
ルナは気を取り直してからその場にいるもの全員に向けて言った。
〜北方司令部〜執務室〜
「なに!?メルテクスが…」
兵士から報告を受けたグレン大佐は勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに倒れる。
「はい、消滅したとゼンゲル砦から通信がありました」
「さっきのあの光が原因か…生存者は!?」
「未確認ですが、おそらく…」
兵士は言葉を渋る。
「…直ちに兵を派遣しろ、私も出る」
「分かりました」
兵士は出て行った。
『ネフィル、無事でいてくれ…』
グレンは壁に掛けてある自らのコートを手に取ると袖を通す。
〜レノーブル〜地の神を崇める町〜
「何処まで続いているのでしょうか?」
「わからんが何処かには出るだろう」
ラズゥールはネフィルを背負いながらリベルと洞窟を歩いて行く。
半時ほど歩くと洞窟の先に光が見えた。
「やっと出口みたいですよ」
「ん?」
ラズゥールは何かに気付く。
「どうしたんですか?」
「何か音がしないか?」
聞き耳を立てると何か崩れるような音が歩いて来た方からする。
ラズゥールは振り返り、暫く目を凝らすと突然、叫んだ。
「まずい!走れ!」
「どうしたんですか?」
「いいから走れ!」
二人は駆け出した。
走る二人の背後から崩れるような音は段々と近付いて来る。
「もうそこまで来てますよ」
リベルは後ろを横目で見ると落盤していく様子が見えた。
「出るぞ」
二人は出口の光に飛び込むとそこは…円筒型の壁に囲まれた場所だった。
「そんな…これじゃ…」
リベルは壁に手をついて嘆いた。
「枯渇した井戸か」
ラズゥールは差し込む光を見上げていると人影が現れてロープが投げ下ろされた。
「早く登って」
二人は言葉通り、ロープに掴まり登って行くと縦穴の中腹で洞窟が完全に崩れて砂埃が舞い上がった。
「ゴホッ…ゴホッ…」
二人は咳き込みながらも上まで登りきった。
「大丈夫ですか?」
臙脂色のローブを纏い、そのローブのフードを被った女性が聞いた。
「はい…」
「その方、どうなさったんですか?」
女性はラズゥールが背負っているネフィルを見て言った。
「銃で撃たれて…」
「それは大変…どうぞ、私の家にいらして下さい」
ラズゥールとリベルは言われるがままに家へと案内された。
「あの貴女は?」
女性はフードを取るとフードの下から天使のようにたおやかな顔が現れる。
「すいません、まだ名乗っていませんでしたね、私はアンジェラと申します」
アンジェラが家の扉を開けると少女が抱き着いてきた。
「どうしたの?マリー」
「ミュートが…」
「ミュート!」
アンジェラが名前を呼ぶと少年が出て来た。
「マリーをイジメちゃダメって言ったでしょ、男の子なんだから優しくしてあげなきゃ」
「いーだ」
ミュートはそう言って家を飛び出した。
「ミュート、待ちなさい」
ミュートはアンジェラの呼び止めも聞かず、行ってしまった。
「……あっ!すいません、中へどうぞ」
アンジェラは一瞬、暗い顔をして思い出したかのようにラズゥール達を家の中に招いた。
「こちらの部屋をお使い下さい」
ベットが一つある部屋に通した。
「ありがとうございます」
リベルは感謝を述べると続けて疑問を投げ掛ける。
「そういえばどうして井戸の中に私達がいることがわかったんですか?」
「それは地神ノームの御導きです」
アンジェラは祈るような仕草をする。
「では、失礼します」
アンジェラは扉を閉めて立ち去った。
ラズゥールはネフィルをベットに寝かし、近くにある椅子に座った。
「あのラズゥールさん?」
「なんだ」
「此処ってもしかして…」
「あぁあのレノーブルだ」
「ですよね、ノーム信者がいるのはレノーブルだけですよね…」
リベルは少し溜め息をつく。
『大佐、どうして!…』
ネフィルが飛び起きた。
「大丈夫か?」
「……あぁ」
ネフィルはラズゥールに生返事で答え、状況を確認する。すると部屋の扉が開き、アンジェラが入って来た。
「アンジェラ…?」
ネフィルは見覚えのある顔に思わず名前を口にする。
「えっ?」
「やっぱり、アンジェラ」
「ネフィル?」
「エッケルシュテイト以来だな」
「久し振りね、最初は顔の傷で分からなかったわ」
「ラズゥールさん、ちょっといいですか?」
リベルは気を回して小声でラズゥールに伝えると二人は部屋を出た。
「ネフィル、大丈夫なの?」
「ん?」
「撃たれたって」
「問題ない…」
ネフィルは撃たれた箇所、リベルの冥力でもう傷は塞がっているが服に残された弾痕を見つめて黙り込む。
そんなネフィルに話題を変えようとアンジェラは訊ねた。
「その服装って」
「あぁ、軍人になったんだ。あの事件の後、親戚の軍人に預けられてなその関係で」
「そうなの…」
「アンジェラは?」
「私はあの後、母の故郷だった此処に送還されて神殿の手伝いをしてるわ」
「神殿?」
「地神ノームを御祀りする神殿」
『ノーム…ではここはあのノーム戦役のあった場所か…』
ネフィルは少し眉を顰める。
部屋を出たラズゥールとリベルは居室にいた。
居室は扉一枚で外と繋がっており、中には長机と椅子が四脚置かれている。そして、その1脚にはマリーが座っており、一人遊びしていた。
「ラズゥールさん、ちょっと王宮に連絡するために出てきます」
「分かった」
リベルは外へと出て行った。
「おじさん達、王宮の人達なの?」
部屋の椅子に座っていたマリーが遊びに飽きてラズゥールに話し掛けてきた。
「あぁ、そうだ」
ラズゥールは子供にも態度を変えることなく答える。
「じゃあ、さっきの人止めた方がいいよ」
「何故だ?」
「神殿の人は王宮の人が嫌いだから」
『まだノーム戦役で生まれた感情がこの大地に染み付いているのか…』
ラズゥールはそう思いつつ、リベルを追うために外への扉へと一本を踏み出す。
だが、マリーに呼び止められた。
「待って、これを着て行った方がいいよ」
マリーは神殿の紋章を背に配する臙脂色のローブを二着渡した。
「それを着てれば怪しまれないよ」
「あぁ、ありがとう」
ラズゥールはマリーに礼を言い、ローブを着てると外へと出て行った。
「連絡は済んだけど…(町の中が静か過ぎる)」
リベルは周囲を見回していると突然、頭に強い衝撃が当たり、意識を失った。
「ふんっ王宮の犬が!」
「どうしますか、使徒様」
「連れていけ!地神の生贄として使えるだろう」
「はい」
ローブを着た者達はリベルを連れて何処かへ立ち去り、使徒と呼ばれる人物だけがその場に残る。
「信仰心とは実に利用し易いものだな、ん?」
使徒は何かに気付いた。
「見られたか、出てこい」
そう言うと物陰から目が虚ろなミュートが出てきた。
「また贄が増えたな」
使徒が歩き出すとミュートは何も言わずに使徒の少し後ろを付いていく。




